未来からの連絡を受けリディアンについた装者達と聖闘士達。既に太陽は落ち夜の闇が広がり鮮血のように紅い月が照らす世界で彼等は学園に向かう。ノイズ達に破壊され見る影も無くした学舎の姿に一同は愕然とした。
「・・・・・・」
「なんて事だ・・・」
「あんなに綺麗だった学園が・・・」
「くっ・・・」
「フィーネか・・・」
「未来・・・未来ーーーー!皆ーーーーーー!」
響の叫びが破壊された学園に響いたがその叫びに誰も何も答えず響は膝を地面につく。
「リディアンが・・・・・・!」
「「「!!」」」
翼と聖闘士達が上を向くとそこに櫻井了子が崩れかけている校舎の屋上に立っていた。
「櫻井女史?」
呟く翼の横でクリスが言う。
「フィーネ!お前の仕業か!?」
聖闘士達は目を鋭くし了子を睨むが翼と響はクリスの言葉に驚く。了子はにこやかな笑みを浮かべたまま。
「フフフハハハハハハハハハハハハ!」
高笑いを上げる了子を翼が睨む。
「そうなのか!?その笑いが“答え”なのか!?櫻井女史!」
「櫻井。やはりお前が」
「あいつこそ、あたしが決着を付けなければならないクソッタレ!」
「これまでのノイズ災害と、この学園を壊滅させた張本人!」
クリスとデジェルの声が重なる。
「「フィーネだ!!」」
了子は嘲笑を浮かべたままメガネを外し、アップされた髪をほどく。すると青い光が了子の身体を包み込みその姿を晒す。
響は立ち上がるがその顔は困惑していた。
「嘘・・・」
「こうなってほしくなかったよ了子。イヤ、フィーネ!」
光が収まるとそこには金色の“ネフシュタン”を纏い髪の色もプラチナブロンドに染まった“櫻井了子”いや“フィーネ”が立っていた。
その頃弦十郎達は停電した二課本部の通路を歩いていた。
「防衛大臣の殺害手引きと“デュランダル”の狂言強奪。そして本部にカモフラージュして建造された“カ・ディンギル”。俺達は全て櫻井了子の手のひらの上で踊らされてきた」
「“イチイバル”の紛失を始め。他にも疑わしい暗躍もありそうですね」
「それでも、同じ時間を過ごしてきたんだ。その全てが嘘だったと俺には・・・」
「・・・・・・」
無言になる緒川や未来達。だがアスミタは弦十郎の言葉を切り捨てる。
「“甘い”な」
「アスミタさん」
「風鳴弦十郎よ。組織の“長”たる者は時には“冷徹”に徹しなければならない時がある。この現状とその負傷は君の“甘さ”が招いた事だ(かつて、我等が教皇様も涙を飲んで“裏切り者”を裁いたのだ)」
アスミタの言葉に全員が何も言えなかったが。
「確かにな、俺は組織の“長”として失態を犯した。“甘い”のは分かっている。だがこれが俺の“性分”だ」
弦十郎は自嘲気味な笑みを浮かべた。アスミタはわずかに笑みを浮かべる。
「シジフォスやエルシドが“信頼”を寄せる気持ちが少し分かる(だが風鳴弦十郎以上に“甘い”あの少女はこの“現実”を受け入れられるかな?)」
通路を歩きながらアスミタは持ち前の感性で地上の様子を窺った。
響はこの“現実”を受け入れたくないように否定するように無理な笑みを浮かべ。
「嘘ですよね?そんなの嘘ですよね!だって了子さん、私やレグルス君を守ってくれました」
だがフィーネは響の言葉を否定する。
「あれは“デュランダル”と“獅子座<レオ>の聖衣”を守っただけのこと。希少な“完全状態の聖遺物”を二つも失う訳にはいかないからね」
「嘘ですよ・・・了子さんがフィーネと言うのなら、じゃ本当の了子さんは?」
響の言葉にフィーネは淡々と答える。
「櫻井了子の肉体は先だって食い付くされた。いや、意識は12年前に“死んだ”と言って良い。“超先史文明の巫女フィーネ”は遺伝子に己が意識を刻印し、自身の血を引くものがアウフバヘン波形に接触した際、その身にフィーネとしての“記憶”・“能力”が再起動する仕組みを施したいたのだ。12年前、風鳴翼が偶然引き起こした“天羽々斬”の覚醒は同時に実験に立ち合った櫻井了子の内に眠る意識を目覚めさせた。その目覚めし者の意識が“私<フィーネ>”なのだ」
フィーネが語った話に全員が驚く。
「貴女が了子さんを塗り潰して・・・」
「まるで、過去から蘇る亡霊!」
だがフィーネは続ける。
「フフフ、フィーネとして覚醒したのは私一人ではない。歴史に記される“偉人”・“英雄”、世界中に散った私達はパラダイムシフトと呼ばれる。技術の大きな“転換期”にいつも立ち合ってきた」
技術の“転換期”と言う単語に翼は一つの回答を呟く。
「っ!シンフォギアシステム・・・」
だがフィーネは否定する。
「そのような玩具、為政者からコストを捻出するための福寿品に過ぎぬ」
フィーネの言葉に翼は激昂する。
「お前の戯れに奏やシジフォスは命を散らせたのか!」
「あたしを拾ったり、米国の連中とつるんでいたのもソイツが理由かよ!?」
翼とクリスの言葉にフィーネは仰々しく手を広げ言う。
「そう!全てはカ・ディンギルの為!!そして私は手に入れる!女神アテナが生み出した唯一の傑作!神に近き者が纏う事を許された最強にして最高の鎧!黄金聖衣を!!!」
「何?!」
「フィーネの目的は」
「俺達の黄金聖衣?!」
すると突然地面が揺れた。そして避難シェルターに避難した創世・詩織・弓美もシェルターの一室で机の下に隠れていた。
「このままじゃ、あたし達死んじゃうよ!もうヤダよ!」
戦う訓練も覚悟もしていない一般市民にはこの異常事態に弱音を吐くの当然であった。
揺れが大きくなり“何か”が地面を突き破り現れる。それは二課本部のエレベーターシャフトと同じ模様の“巨大な塔”。装者達も聖闘士も呆然とする中それは天を衝かんばかりに聳えていた。
「デ、デカイ・・・」
「まさか・・・!」
「これが?」
「そう、これこそが地より屹立し天にも届く一撃を放つ“荷電粒子砲 カ・ディンギル”!」
「カ・ディンギル、コイツでバラバラになった世界が一つになると?!」
クリスの言葉にフィーネは月を眺めて答える。
「ああ、今宵の月を穿つ事によってな」
「月を?!」
「穿つと言ったのか?」
「何でさ?」
装者達の質問にフィーネは無表情に一瞥し答える。
「私はただ“あのお方”と並びたかった。その為に“あのお方”へと届く塔をシンアルの世に建てようとした。だが“あのお方”は人の身が同じ“高み”に至る事を許しはしなかった。“あのお方”の怒りを買い、雷帝に塔が砕かれたばかりか、人類は交わす言葉まで砕かれる。果てしなき“罰”。バラルの呪詛を掛けられてしまったのだ」
フィーネの言葉の意味を装者達は理解できないようであったが聖闘士達はある程度の理解をしていた。
「フィーネの言ってる事って」
「恐らく“バビロニア神話”の事だろうな」
「そして“塔”とはバビロニア神話の“バビロンの塔”の事だろう」
そしてフィーネは慟哭する。
「月が何故不和の象徴と伝えられてきたか、それは月こそがバラルの呪詛の源だからだ!人類の相互理解を妨げるこの“呪い”を月を破壊する事で解いてくれる!そして再び世界を一つに束ねる!」
フィーネが叫ぶと同時にカ・ディンギルがエネルギーをチャージする。それを見ながらクリスは口開く。
「“呪い”を解く?」
「?」
フィーネはクリスに目を向ける。
「それは、お前が世界を支配するって事なのか?!安い!安さが爆発しすぎてる!!」
クリスの嘲笑いにフィーネも嘲笑いを浮かべ。
「フッ、永遠を生きる私が余人に歩みを止められることなどあり得ない」
「残念だが櫻井いやフィーネ」
「お前の目論みは」
「ここで潰すよ!」
「!」
「「「!?」」」
いつの間にかフィーネより上に跳んでいたレグルス達。デジェルはフィーネにレグルスとエルシドはカ・ディンギルに拳を向ける!
「ライトニング・プラズマ!」
「疾っ!」
「ダイヤモンドダスト!」
レグルスの拳から放たれた閃光とエルシドの手刀から放たれた斬撃がカ・ディンギルを破壊しようとしデジェルの拳から氷が混じった凍気がフィーネを襲うが。“青い馬型のノイズ”がレグルス達の攻撃を防ぎ、フィーネは“ソロモンの杖”から何体かのノイズを射出し盾にしてダイヤモンドダストを防いだ。
「「「何?!」」」
「レグルス君とエルシドさんの攻撃を防いだ?!」
「何なのだ!あのノイズは?!」
「デジェル兄ぃ!」
フィーネは聖闘士達を見据えて呟く。
「慌てるな黄金聖闘士達よ、お前達は主菜だ。今戦うべきではない。先に」
フィーネは装者達に目を向けると。
「この者達を片付ける!」(パチンっ)
フィーネがフィンガースナップをすると響と翼とクリスの後ろから三つの“石造りの門”が現れた!その門が何であるか理解した聖闘士達は。
「響っ!」
「翼っ!」
「クリスっ!」
「「「っ?!」」」
響達を突き飛ばしたが“門”の光が強くなりレグルス達を飲み込んだ。
「うわぁぁぁぁ!?」
「バカな、これは!?」
「夢神<モルペウス>の?!」
「レグルス君っ!」
「エルシドっ!」
「お兄ちゃんっ!」
「フッ」
フィーネは予想通りと言わんばかりの笑みを浮かべる。光が収まると三つの“門”の中央部にレグルスが、エルシドが、デジェルが“眠るように”浮かんでいた。響達は“門”に駆け寄る。
「レグルス君!レグルス君!!」
「エルシド!起きろ!エルシド!」
「何だよこれ?!フィーネ!一体何しやがった!!」
クリス達はフィーネを見るとフィーネは愉快そうな笑みを浮かべる。
「やはりな。装者どもを狙えば聖闘士達を捕らえる事も造作無き事と思っていたがここまで上手くいくとはな。さて、黄金聖闘士達には一時退場してもらおうか」
フィーネの身体に纏った“ネフシュタン”と“ソロモンの杖”が“共鳴”するかのように光輝く。すると響は信じられない光景を目の当たりにする。なんとフィーネの頭上の景色が“割れた”のだ。
「何あれ、カ・ディンギルが割れた?」
「いや違う、あれはカ・ディンギルが割れたのではない!」
「“空間”が割れただと?!」
装者達は目の前の光景に唖然とした。小さいが“空間”が割れ数メートルの穴ができたのだ。その状況を感じたアスミタは。
「(小さいが間違いない。あれは双子座<ジェミニ>の『アナザーディメンション』?!何故フィーネがあの技を?)」
そしてフィーネも余裕顔を浮かべていたが内心はかなり疲弊していた。
「(これが双子座の技『アナザーディメンション』。二つの完全聖遺物を“共鳴”させても“この程度”の穴しか開けられんとは!)ノイズよ!」
内心余裕がないフィーネは“馬型”に命令する。“馬型”は一瞬で響達の後方、レグルス達が閉じ込められた“門”を穴へ蹴り飛ばした。
「レグルス君っ!」
「エルシドっ!」
「デジェル兄ぃっ!」
呆然とする響達をよそにレグルス達を閉じ込めた“門”を吸収し穴は塞がれた。
「フィーネ!デジェル兄ぃ達をどうした!」
吠えるクリスを鬱陶しそうに見るフィーネは。
「安心しろただ眠っているだけだ。私のもう一つの目的は黄金聖衣だからな。貴様らを血祭りに上げたら次は聖闘士達だ。それまで奴等に邪魔されたくないのでな」
小馬鹿にしたフィーネの態度に響と翼もクリスも怒る。
「了子さん、止めます!」
「我々は聖闘士達の前の前菜扱いとはな!」
「なめんじゃねえぞ!!」
響達はフィーネを見据えて“戦いの歌”を唄う。
「「「♪~♪~♪~♪~♪~♪」」」
響は“撃槍”のギアを。翼は“絶剣”のギアを。クリスは“魔弓”のギアを纏う。三人はフィーネに飛び掛かる!
最終決戦のゴングは今鳴り響いた!
“少年の姿”のエルシドは高原に呆然と立っていた。
「(ここはどこだ?俺は確か「エルシド」!」
後ろから聞き覚えがある声に振り向くとそこにいたのは黒い髪に朱色の瞳をした少女と大柄の男性がいた。
「フェルサー・・・峰!」
そこに立っていたのは研ぎ師であり友である少女“峰”と自分の兄貴分でもある聖闘士候補生の“フェルサー”だった。
「どうしたエルシド!まだ修行の最中に呆然とするとはお前らしくないな!」
フェルサーと呼ばれた大柄の男性は豪快に言う。そして峰は穏やかに微笑みながらエルシドに手を差し出す。
「エルシド・・・まだ修行の途中であろう?さぁ、三人で一緒にまた修行だ」
「・・・・・・」
エルシドは呆然となりながらもその手を握ろうとする。
雪が降り積もり見渡す限りの銀世界に“少年”のデジェルは歩いていた。
「(私は、何故歩いているのだ?ここはブルーグラートなのか?)」
それはデジェルがまだ修行時代に滞在した北国だった。
「デジェル・・・」
「!」
その声に、忘れるはずのない声にデジェルは前を向くとそこには。
「デジェル」
「ユニティ・・・!」
プラチナブロンドの髪を後ろに束ねたデジェルの友である少年と。
「デジェルよ。こちらに来なさい」
「クレスト師匠<せんせい>・・・!」
無造作に伸ばされた髪と髭をした骨とか皮だけの老人だがデジェルの師である前水瓶座の黄金聖闘士 クレストが。
「デジェル・・・さぁこっちに来て」
ユニティと同じプラチナブロンドの長髪をした美麗な女性がいたこの女性こそユニティの姉にしてデジェルの憧れの女性で初恋の人セラフィナである。
「セラフィナ様・・・」
友が、恩師が、大切な人がいる所にデジェルは足を動かそうとした。
“子供”のレグルスは森が良く見える丘でそよ風に煽られながらその景色を見ていた。
「懐かしい景色だな~。ここはいい風が吹く」
「レグルス」
「!!」
後ろから聞こえたその声にレグルスは反応する。聞き覚えのあるいや忘れる筈がない声にレグルスは振り向く!
「ここにいたのかレグルス?さぁ精霊との対話だ」
レグルスの獅子座の聖衣を纏い純白のマントを羽織り穏やかな笑みを浮かべる短髪の男性。レグルスがずっと、ずっと探していたその人物。
レグルスは涙を流してその人物の名を呼ぶ。
「父・・・さん?」
この男性こそレグルスの父にしてシジフォスの異母兄にして最強の獅子と謳われた聖闘士。“大地と語る者”にして聖闘士の“英雄”。
先代獅子座の黄金聖闘士。獅子座<レオ>のイリアス!
時を越えて古き獅子と若獅子が邂逅する!
今回はここまでです。シンフォギアsideは結構ハショるかもしれません。