聖姫絶唱セイントシンフォギア   作:BREAKERZ

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和解とすれ違い

ー郊外ー

 

太陽が登り始めようとし夜の闇が薄くなった世界。響達の住む町から離れた場所、丘の上にある湖畔と崖の中間に建てられた貴族が住みそうな屋敷。だが豪勢な屋敷の半分は不釣り合いで不恰好な機械に覆われていた。この屋敷が『ネフシュタインの少女クリス』と彼女が協力している『人物』のアジトである。

 

湖畔に繋ぐ踊り場で一人の少女がいた。白髪のツインロングテールに赤いゴシック系の服を着た少女、クリスが佇んでいた。

 

「(『完全聖遺物』の起動には相応のフォニックゲインが必要だと『フィーネ』は言っていた・・・・・・あたしが『ソロモンの杖』に半年も手こずった事をアイツはあっという間に成し遂げた。そればかりか、無理矢理『力』をぶっぱなして見せやがった・・・)」

 

先日、『完全聖遺物 デュランダル』を起動させた響の事が頭に浮かんだ。

 

「くっバケモノめ!」

 

クリスは吐き捨て、自分の手に握るノイズを射出する武器『完全聖遺物 ソロモンの杖』を見て呟く。

 

「このあたしに身柄の確保なんてさせる位、『フィーネ』はアイツにご執心って訳かよ。黄金聖闘士と同じ位に」

 

クリスの脳裏に『血塗れになった男性と女性』、『破壊された町』、『泣き崩れる自分』、『銃を持って怒鳴ってくる大人達』、『骨と皮になった自分と同い歳の子供達』、『連れ去られて行く子供』と『怯える自分』、クリスにとって『忌まわしい過去』の光景が頭に浮かんだ。

 

風がそっとクリスを撫でた。

 

「(そしてまた、あたしは『一人ぼっち』になる訳だ)」

 

自嘲気味に呟くクリス。太陽が登り始め世界を光で照らそうとするが、クリスは悲しそうに眺めていた。

 

「・・・・・・!?」

 

後ろからの気配にクリスは目を鋭くして振り替える。そこには長いプラチナブロンドの髪をし黒い長袖のワンピースに黒いキャペリンハットを着けた『妙齢の女性』がいた。この『女性』こそクリスが協力している『フィーネ』と呼ばれる人物である。

 

「分かっている。自分に課せられた事くらいは。こんなもの<『ソロモンの杖』>に頼らなくともアンタの言うこと位やってやらぁ!」

 

『ソロモンの杖』を『フィーネ』に投げ渡すクリス。

 

「アイツ<響>よりも、あたしの方が優秀だってことを見せてやる!あたし以外に『力』を持つやつは、全部この手でぶちのめしてくれる!ソイツがあたしの目的!例えアンタがご執心の黄金聖闘士が相手だろうとな!!」

 

『フィーネ』はそんなクリスを冷たく笑いながら呟く。

 

 

 

 

そしてクリスがいる湖の踊り場から対岸の位置にある森から一人の男性が気配を殺し木に隠れながらその様子を伺っていた。『水瓶座の黄金聖闘士 デジェル』だ。デジェルは先日の戦いで工場の爆発に呑み込まれたクリスを救い、工場から離れた場所にクリスを置き。クリスを裏で操っている人物を探っていたのだ。デジェルは鍛え抜かれた聴覚と視覚で様子を伺っていた。

 

「(あれがクリスのパトロンか?どうやらあの『フィーネ』と呼ばれる人物は私達黄金聖闘士を狙っているようだな。『フィーネ』。イタリア語で『終わり・終焉』を意味しているが、コードネームか?なんにせもう少し見定めてみるか)」

 

デジェルはクリスが何故『フィーネ』に協力している理由に心当たりがあった。『世界の裏』で行われている『理不尽な暴力』、『無情に奪われる罪無き命』、『不条理な世界』、『人間の残酷さと醜さ』。デジェルもまたそれらを知っているからこそ見定めているのだ。クリスが協力する『フィーネ』とエルシド達が協力する二課。どちらに『義』があるかを・・・・・・。

 

 

 

そして日は登り場所は翼が入院している病院。風鳴翼は未だ点滴や松葉杖が取れず足元がおぼつかない状態で病院の通路を歩いていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 

まだ安静しなければならない状態だが翼は確固たる気持ちが自身を動かした。

 

「(奏、私も見てみたい!見なければ奏と同じ所に立てない。戦いの裏側』、向こう側に何があるのか、確かめたいんだ)」

 

再び歩き出そうとする翼に看護士が止めようとする。翼は看護士に謝罪しふと窓の外を見るとそこには、未来と一緒に走り込みをする響がいた。

 

「・・・・・・・・・」

 

翼はそんな響を眺めていた。響も響で先日の戦いで『自分の暴走』を思い出していた。

 

「(暴走する『デュランダル』の力。恐いのは『制御できない事』じゃない、躊躇いもなくあの子に向かって振り抜いた事。私がいつまでも弱いばっかりに)くっ」

 

自分の不甲斐なさに苛立ちを思い始める響。未来は途中でへばったが響はお構い無しに走り続ける。

 

「(私はゴールで終わっちゃダメだ!もっと遠くを目指さなきゃダメなんだ!もっと遠くへ!遠くへ!レグルス君達がいる遥か遠くへ!!)」

 

「・・・・・・・・・」

 

そんな響の後ろ姿を未来は悲しそうに見つめていた。更に病院の屋上から響を護衛していたレグルスも響の状態に危機感を感じていた。

 

「(響の奴、目の前の事に集中し過ぎて周りの事が見えてないな。その内足元の小石に躓いて大怪我しちゃうかも)」

 

後にレグルスは後悔する。もっと早く忠告してれば良かったと。

 

走り込みを終わらせ未来と響は汗を流すためにお風呂に入った。

 

「もう!張り切りすぎだよ!」

 

「ごめん、考え事してたらつい」

 

「やっぱり響は変わった子!」

 

「日曜の朝なのにごめんね。付き合わせちゃって」

 

「ううん、私も中学時代を思い出して気持ちよかったー」

 

両手を伸ばす未来。

 

「あれだけ走ったのに?!やっぱ流石だよ。元陸上部。こっちはへとへとのヘロヘロでトロトロだったのに」

 

なんじゃそりゃ?とツッコミがくるボケをかます響。未来は響に寄り添う。

 

「ひ~びき!」

 

「ん?」

 

「なんかリディアンに入学してから変わったよね。前は何かに頑張ったりとか好きじゃなかったでしょ?」

 

「ん?そうかな?自分じゃ変わったつもりはないんだけど・・・」

 

「あれ?少し筋肉が付いてるんじゃない?あっ!よく見たら傷たらけじゃないの!」

 

「えっ!」「あっここにも」「えっえっ!」「こんなところにも!」「アハハハ!やめて!やめて!止めて!やめて!ああーー!」と響の身体をまさぐる未来とそれに抵抗する響が姦ましく騒いでいた。

 

「ねえ、今度フラワーでお好み焼き奢ってよ。日曜に付き合ったお返しと言うことで」

 

風呂から上がり服を着ながら未来がお好み焼き店フラワーでお好み焼きを奢って欲しいと頼む。

 

「えっ?そりゃおばちゃんの『渾身の一枚』はほっぺの急降下作戦と言われるくらいだけと・・・」

 

「んじゃ契約成立ね!楽しみだなぁ、フラワーのお好み焼き」

 

「ほんとにそんなのでいいの?」

 

「うん!そんなのがいいな!」

 

微笑ましく会話する響と未来。

 

 

場所は変わり二課本部では、亡くなられた広木防衛大臣の繰り上げ法要の為、弦十朗が向かうことになった。弦十朗は喪服の上着を着ながら『デュランダル移送計画』が頓挫した為に本部の防衛システムと強度アップの進行状態を了子達から聞いていた。

 

「ここは設計段階から限定解除でグレードアップしやすいように織り込んでいたの。それにこの案は随分昔から政府に提出してあったのよ」

 

だが当たりの厳しい議員連に反対されていたが、その反対派の筆頭が亡くなられた広木防衛大臣だったのだ。非公開の存在に血税の対応と無制限の超法規措置は許されなかった。それゆえ防衛大臣は反対派に周り二課に余計な横槍が入らないように防波堤になっていた事を弦十朗は話した。防衛大臣の後任は副大臣がなり、今回の本部改造計画の立役者でもあるが、『協調路線』を強く捉える防衛大臣として日本の国防政策に対し米国政府の威光が通りやすくなった事を弦十朗は話す。あおいは広木防衛大臣暗殺も米国政府が絡んでないかと示唆するが。

 

ヴー!ヴー!ヴー!ヴー!ヴー!

 

改造中の区画でトラブルが発生した事で警報が鳴った。了子が現場に向かう。弦十朗は了子の後ろ姿を探る様に見ていた。

 

 

 

 

翌日の学校。

 

「そういえばさ、ビッキー知ってる?うちの学校に最近幽霊が出てくるって噂」

 

弓美は響と未来に学校の噂話を話す。

 

「「幽霊?」」

 

「そ!幽霊!何でも昼間や夜中にこの学校に男の子の幽霊が出るんだって!」

 

「昼間に出るのなら幽霊ではないのでは?」

 

「それがさ、その幽霊を見かけたんだけど突然姿が消えてしまうんだって!」

 

「それって幽霊じゃなくて不審者じゃ」

 

詩織と創世が弓美にツッコム。

 

「そしてなんと!その男の子の幽霊って結構イケメンで寧ろ見つけたいって女の子がかなり多いみたいだよ!」

 

「幽霊なのか不審者なのか分からないけど、見つけたいって・・・」

 

ブゥーン!ブゥーン!ブゥーン!

 

「あっ、ごめん」

 

響は端末から連絡が入り教室を出て行く。

 

「あっ緒川さんどうしたんですか?はい・・・はい、えっ?!私がですか?」

 

 

 

響と連絡を取っていた緒川は手に銃を持ち諜報部と共についさっきまで人がいた痕跡がある部屋に踏み込んでいた。

 

「ちょっと手が離せないんですよ。すみませんがお願いできませんか?こんなこと頼めるの響さんしかいなくて」

 

緒川は他の隊員が見つけた部屋の人間の持ち物を発見し追跡を始めようとする。

 

 

 

 

「・・・はい!分かりました!」

 

勢いよく返事する響だが後ろを振り向くとそこに未来がいた。

 

「あーそれじゃー失礼します!」

 

ピッと連絡を切った響は未来の方を見て。

 

「あれ、未来。どうしたの?」

 

「うん、今日これから買い物に行くんだけど、響も行かない?」

 

「・・・・・・」

 

「その後で『フラワー』に寄ってね」

 

「ごめん、たった今用事が入っちゃって・・・」

 

響の返答に未来は一瞬悲しそうになるが。

 

「そっか」

 

「折角未来が誘ってくれたのに。私呪われてるかも」

 

「ううん、分かった。じゃまた今度」

 

「・・・」

 

「気にしないで!私も図書室で借りたい本があるから今日はそっちにする」

 

「ごめんね」

 

未来に謝りその場を去る響。無言でその場を去る未来。だがその心は暗い雲が覆い始めていた。

 

 

 

 

「んで。慎司にここに行ってくれって頼まれたと?」

 

「うん・・・」

 

レグルスと合流した響は花束を買いある場所に来ていた。そう『翼が入院している部屋』に。

 

「・・・・・・」

 

響はまるで決戦に赴くような顔で翼の個室の前に佇む。翼との確執は未だ解消されていないのだから当然である。

 

「響、とりあえず一度深呼吸」

 

「うん、すぅーはぁー。失礼します」

 

「失礼しまーす」

 

暗証番号を入力して部屋に入る二人。

 

「翼さ・・・・・・」

 

「ん?」

 

部屋に入った二人。だが響は愕然となり持っていた鞄を落とし、レグルスは目を鋭くした。

 

「「・・・・・・」」

 

二人の目の前には。

 

「ま、まさか、そんな」

 

「何をしてるの?」

 

「「?!」」

 

声がした方を振り向くと風鳴翼が憮然とした顔を浮かべていた。響は慌てて声を出す。

 

「大丈夫ですか?!本当に無事なんですか?!」

 

「入院患者に無事を聞くって、どうゆう事?」

 

「いや、だってさ」

 

「これは!」

 

と部屋の中を指差す響&レグルス。部屋の中は・・・。

 

下着や服や化粧品や新聞や本や雑誌やらが錯乱しまるで強盗にでも入られたようにごちゃごちゃしていた!

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

翼は何とも言えない顔になった。

 

「私、翼さんが誘拐されちゃったんじゃないかと思って!二課の皆がどこかの国が陰謀を巡らせているかもしれないって言ってたし!」

 

「///////」

 

「「(あっもしかして)響、響」

 

「何!レグルス君!」

 

「・・・・・・」くいっくいっ

 

顎で翼をしゃくるので翼を見ると。

 

「////////////////」

 

翼がばつの悪そうに顔を赤らめてるのを見て。

 

「・・・えっ?」

 

「////////////////」

 

「えっ?」

 

「そゆことだよ」

 

「あー、えっと」

 

『日本を代表するアーティスト 風鳴翼』は実は、『片付けられない女』だったのだ!

 

 

持ってきた花束を花瓶に入れ部屋の掃除をする響とレグルス。響は衣類を畳み。レグルスは本を整理していた。

 

「もう、そんなのいいから////」

 

恥ずかしいのか少し顔を赤らめる翼。

 

「私、緒川さんからお見舞いを頼まれたんです。だからお片付けさせてくださいね♪」

 

「俺もエルシドの代わりにお見舞い♪」

 

「私はその、こうゆう所に気が回らなくて////」

 

「以外です。翼さんって何でも完璧にこなすイメージがありましたから」

 

「・・・・・・」

 

響の言葉に自嘲混じりの笑みを浮かべ。

 

「成る程・・・これが『片付けられない女』って奴か!分かった!」

 

「・・・・・・」(ズーン)

 

レグルスの悪意0のコメントに落ち込む。

 

「レグルス君!オブラートに包んで!」

 

「真実は逆ね・・・私は戦う事しか知らないのよ」

 

翼はまた自嘲気味に呟くがレグルスが明るい声をかける。

 

「俺もだよ」

 

「えっ?」

 

レグルスに目を向ける翼。

 

「俺もエルシドも幼い頃から戦う事しかしてこなかった。だからかな。こうゆう風に片付けとか学校とか新鮮で楽しいんだ♪」

 

「学校に行ってるの?」

 

「いんや、響の護衛で気配を殺しながらリディアンを詮索してんだ♪」

 

「(まさか弓美が言ってた『男の子の幽霊』って・・・)おしまいです♪」

 

「・・・すまないわね。いつもは緒川さんがやってくれてるんだけど・・・」

 

翼の言葉に響は驚き。

 

「えぇ!男の人にですか・・・/////」

 

響の言葉に翼は。

 

「・・・・・・?!//////////」

 

「(ひょっとして慎司って『男』と認識されてないのかな?ま、慎司の方も翼の事を『妹』感覚で接していると言ってたし。おあいこかな?)」

 

「た、確かに、考えてみれば色々問題ありそうだけど・・・それでも、散らかしっぱなしにしているのも良くないから・・・つい///」

 

「ハァ・・・エルシドさんは?」

 

「『自分でやれ』と」

 

「あぁ、本当に厳しいですね・・・」

 

「エルシドならそれぐらい言うぞ」

 

「・・・今はこんな状態だけど、報告書は読ませてもらっているわ」

 

「えっ?」

 

「私が抜けた穴を貴女が良く埋めていることもね」

 

「!?そんな事は全然ありません!いつもレグルス君や二課の皆に助けられっぱなしです///」

 

「・・・・・・」

 

翼は響とレグルスが今まで見たことないような優しい笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

図書館にきた未来はある本を手に取る。

 

『素直になって、自分』

 

「ハァ・・・」

 

ふと窓の外を見ると『風鳴翼と知らない男の子と談笑している響の姿』が見えていた。学校と病院は目と鼻の先にあるので窓越しでその光景が見えていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

響が『風鳴翼』と『見知らぬ男の子』と笑いあっている光景は未来に大きな衝撃を与えた。

 

そんな事露知らずの響は。

 

「嬉しいです。翼さんにそんな事言って貰えるなんて///」

 

「でも、だからこそ聞かせて欲しいの」

 

顔を引き締め響に向かい合う翼。

 

「貴女の『戦う理由』を」

 

「えっ?」

 

「・・・・・・」

 

「ノイズとの戦いは遊びではない。それは今日まで死線を越えてきた貴女なら分かる筈」

 

「良くわかりません・・・私、『人助け』が趣味みたいなものだから、それで・・・」

 

「それで?それだけで?」

 

「だって勉強とかスポーツは誰かと競いあって結果を出すしかないけど、『人助け』って誰かと競い合わなくて良いじゃないですか。私には『特技』とか人に誉められるものがないから、せめて皆の役に立てればいいかなぁって、アハハハ、ハハハ」

 

「「・・・・・・」」

 

「切っ掛けは、やっぱり『あの事件』かもしれません。私を救うために奏さんが命を燃やした2年前のライブ。奏さんだけじゃありません。あの日沢山の人がそこで亡くなりました。でも、私は生き残って今日も笑ってご飯を食べていたりしています。だからせめて誰かの役に立ちたいんです。明日もまた笑ったりご飯を食べたりしたいから」

 

「「・・・・・・」」

 

「『人助け』がしたいんです」

 

響の『答え』に翼はフッと微笑み、レグルスはニッと笑い。

 

「貴女らしい『ポジティブな理由』ね」

 

「シンプルでもあるな」

 

「だけど、その思いは『前向きな自殺衝動』かもしれない」

 

「『自殺衝動』?!」

 

「誰かのために自分を犠牲にすることで『古傷の痛み』から救われたいという。『自己断罪』の現れかも」

 

「あの~、私、変なこと言っちゃいましたか?」

 

「え?」

 

「え、えっと・・・アハハハ、ハハハ」

 

「フッ」

 

「ヘッ」

 

三人は移動し屋上に行く。

 

「変かどうかは私が決めることじゃないわ。自分で考え、自分で決めることね」

 

「考えても考えても分からないことだらけなんです。『デュランダル』に触れて『暗闇』に飲み込まれかけました。気が付いたら人に向かってあの力を・・・私がアームドギアを上手く扱えていれば、あんなことにならずに」

 

「『力の使い方』を知るということは即ち『戦士』になるということ」

 

「『戦士』・・・」

 

「それだけ、『人としての生き方』から遠ざかる事なのよ。そしてその最たる例が彼等『聖闘士』よ」

 

翼はレグルスの方に目を向け、響もレグルスを見る。レグルスは『戦士の目』で答える。初めて見るレグルスの『戦士の姿』に響に緊張が走る。

 

「響、俺達聖闘士は『戦う為』に生きてきた。『子供としての時間』も『少年としての青春』も『聖闘士』になるために捨ててきた。『力』を得る為には俺達は『人としての生き方』を犠牲にしてきた。『犠牲にしない』で『何か』を得られる程『戦士の生き方』は生易しくない」

 

翼は響を真っ直ぐに見つめて問う。

 

「貴女にその『覚悟』はあるのかしら?」

 

響は毅然と言う。

 

「『守りたいもの』があるんです。それは何でもないただの『日常』。そんな『日常』を大切にしたいと強く思うんです。だけど、思うばかりで空回りして」

 

「戦いの中、貴女が思っていることを」

 

「ノイズに襲われている人がいるなら、1秒でも早く救い出したいです!」

 

「最速で!」

 

「最短で!」

 

「真っ直ぐに!」

 

「一直線に駆けつけたい!!そして・・・」

 

響の脳裏に『ネフシュタインの少女』の姿が浮かんだ。

 

「もしも相手がノイズではなく誰かなら、どうしても戦わなくっちゃいけないのかって言う。胸の疑問を・・・私の『想い』を届けたいと考えています!」

 

「今貴女の胸にあるものをできるだけ強くはっきりと想い描きなさい。それが貴女の『戦う力』、『立花響のアームドギア』に他ならないわ」

 

「(響は『答え』を出したな・・・・・・でも『戦わなくっちゃいけないのか』か、あの『二人』が聞いたらなんて言うかな?)」

 

レグルスの脳裏に黄金聖闘士の『問題児』達の姿が浮かんだ。

 

 

 

 

 

小日向未来は顔を俯かせ商店街を歩いていた。そして『お好み焼き店フラワー』に立ち寄った。そこで店長の女性が出迎える。

 

「いらっしゃい!」

 

「こんにちわ」

 

「おや?いつも人の三倍は食べるあの子は一緒じゃないの?」

 

響の事を言う。

 

「今日は、私一人です」

 

「そうかい」

 

何かを察したおばちゃんはお好み焼きを作る。

 

「んじゃ、今日はおばちゃんがあの子の分まで食べるとしようかね」

 

「食べなくていいから焼いてください」

 

「ア、アハハハ・・・」

 

「お腹空いてるんです。今日はおばちゃんのお好み焼きを食べたくて、朝から何も食べてないから」

 

沈んだ顔の未来におばちゃんは。

 

「そうだ悪いんだけどちょっと二階にいる奴を連れてきてくれないかい?」

 

「え?二階にいる奴って?」

 

「少し前に拾った奴なんだけどね、絶食してるわ偏屈屋だわで中々おばちゃんのお好み焼きを食べてくれないんだよ」

 

「何でそんな人を・・・」

 

「ソイツね。『帰る家』も『家族』もいない。生まれてからずっと『目が見えない』奴でね、坊さんみたいなナリをしてね。何かほっとけなくてさ。少しの間居候させてたんだ。可愛い女の子と一緒ならきっと食べて「勝手に決められては困るな店主」なんだい、降りてきたのかい?」

 

「・・・?!」

 

未来はその青年に言葉を失っていた。坊さんの着る服『袈裟』を纏い、腰にまで届く金色の髪。額に赤い白毫を付け、澄んだ声をし。端麗な顔立ちをした美青年。目は閉じられているのにそんなのお構い無しに歩いてくる。

 

「あ、あの貴方は?」

 

「少女よ、人の名を訪ねるときは己からだ」

 

「あ、ごめんなさい。私は小日向未来って言います」

 

「私は『アスミタ』。ここに居候させてもらってる通りすがりだ」

 

「アスミタ、今日位はおばちゃん特性のお好み焼きを食べな。その内本当に餓死するよ。お腹空いたまま考え込むとね、嫌な答えばかり浮かんでくるもんだよ」

 

「ほう、中々面白い事を言うな店主」

 

「(そうかもしれない、何も分からないまま私が勝手に思い込んでるだけだもの。ちゃんと話せばきっと)」

 

「ならば自身の気持ちを素直に相手に伝えることだな。少女よ」

 

「えっ?(私、今声に出してた?)」

 

「そろそろ店主の食事ができるぞ」

 

「あ、そうだったありがとうおばちゃん」

 

「何かあったらまたいつでもおばちゃんの所においで。アスミタも手伝わせるからさ」

 

「フム、居候の身だが手助けぐらいはしよう」

 

「ありがとうございます。アスミタさん」

 

未来とおばちゃんは知らない。目の前にいる盲目の男が『地上で最も神に近い男』と言われていることを。

 

 

 

その頃と響は。

 

「う~ん。そう言われてもアームドギアの扱いなんてすぐには考え付きませんよ。ね!知ってますか翼さん!お腹空いたまま考えても録な答えが出せないってことを」

 

「何よそれ?」

 

「腹へったの響?」

 

「そうじゃなくて。前に私言われたんです!お好み焼きのおばちゃんに。名言ですよ!」

 

「あぁそう・・・」

 

「そうだ翼さん!私、フラワーのお好み焼きをお持ち帰りしてきます!お腹いっぱいになればギアの使い方も閃くと思いますし!翼さんもレグルス君も気に入ってくれると思います!!」

 

「おおい響待てよ!」

 

「えっ?ちょっ待ちなさい!立花!」

 

「(おっ!翼初めて響の名前呼んだかも)」

 

走り去って行く二人を翼は微笑ましく見ていた。

 

 

だが・・・二課本部では。

 

ビー!ビー!ビー!ビー!ビー!

 

「『ネフシュタンの鎧』を纏った少女が、こちらに接近してきます!」

 

「周辺地区に避難警報を発令!そして、響君とレグルス君への連絡だ!」

 

 

結局アスミタの分まで食べた未来は寮へと帰ろうとするが。その顔は決意を込めた。

 

「はい!分かりました!すぐに向かいます!」

 

「響!あれ!」

 

「!?」

 

二人の目の前に未来がいた。

 

「響!」

 

「未来・・・」

 

「ヤバイな」

 

「「!?」」

 

殺気を感じた二人はそこに目を向けると『ネフシュタインの少女』がいた。

 

「お前はーーーー!」

 

鞭で攻撃した。

 

「!?」

 

響は自分達に近づく未来に目を向け。

 

「来ちゃダメだ!ここから・・・」

 

言い終わる前に攻撃が地面を抉りその衝撃波で未来は吹き飛ぶ!

 

「アアアァァァァァァ!!」

 

「!?」

 

「しまった!アイツらの他にもいたのか?!」

 

地面に転がる未来に吹き飛ばされた車が迫る!

 

「!?」

 

響が歌う。レグルスは呼ぶ。

 

「♪~♪~♪~♪~♪」

 

「レオッ!」

 

ガングニールを纏った響は未来に迫る車を殴り飛ばす!突然の響の姿に未来は戸惑う。

 

「レグルス君、未来を・・・」

 

「分かってる」

 

獅子座の聖衣を纏ったレグルスが未来に付く。

 

「響?」

 

「ごめん・・・」

 

未来にそう呟くと響は『ネフシュタインの少女』の元へ行く。『戦いの歌』を歌いながら。

 

「ドンクせえのが一丁前に挑発するつもりかよ!」

 

未来に被害がでないように相手を誘導する響。

 

「何で?響が?」

 

「(こりゃヤバイかも)」ビッ

 

ー指令室ー

 

「響ちゃん交戦に入りました!現在市街地を避けて移動中!」

 

「そのままトレースしつつ映像記録詳解!」

 

「指令!レグルス君から通信です!」

 

「どうした!レグルス君!」

 

『弦十朗。実は・・・』

 

未来お引き離した響は『ネフシュタインの少女』と対峙する。鞭ですかさず攻撃する。

 

「あう!」

 

「ドンクせえのがやってくれる!」

 

「どんくさいって名前じゃない!」

 

「ん?」

 

「私は立花響!15才!誕生日は9月13日で血液型はO型!身長はこないだ測定では157センチ!体重は・・・もう少し仲良くなったら教えてあげる!趣味は人助けで!好きなものはご飯&ご飯!後、彼氏いない歴は年齢と同じ!」

 

何故か敵に自己紹介を始めた。

 

「な、何をとちくるってんだ?お前・・・」

 

予想できない相手の行動に戸惑う。

 

「私達はノイズと違って言葉が通じるんだから!ちゃんと話し合いたい!」

 

響の態度に相手は嘲笑する。

 

「なんて悠長!この期に及んで!」

 

鞭で攻撃するが響は攻撃をかわす!

 

「(こいつ、何か変わった?『覚悟』か!!)」

 

響の動きから『覚悟』を持った事を理解した。

 

「話し合おうよ!私達は戦っちゃいけないんだ!」

 

「チッ」

 

「だって、言葉が通じ会えば人間は「うるさい!」!?」

 

「解り合えるものかよ!人間が、そんな風にできているものか!気に入らねえ!気に入らねえ!!気に入らねえ!!!わかっちゃいねえことをペラペラと知った風に口にするお前がーーーー!!!!」

 

彼女は許せなかった。『地獄』を見てきた彼女にとって何も知らずに喋る響が。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、お前を引きずってこいと言われたがもうそんな事はどうでもいい!お前をこの手で叩き潰す!今度こそお前の全てを踏みにじってやる!」

 

「!私だってやられるわけには」

 

「アアアァァァァァァ!!ぶっ飛べ!」

 

『NIRVANA GEDON』を放つ少女。

 

「くううううぅぅぅ!」

 

腕を交差させて防ぐ響。

 

「持ってけ!!」

 

更に「NIRVANA GEDON」を放つ。

 

ドゴーーーーン!!

 

「ハァ、ハァ、ハァ、お前なんかがいるから、あたしはまた・・・はっ!」

 

「ハァァァァァァァアアアアアア!」

 

響は両の掌で『NIRVANA GEDON」のエネルギーを圧縮させ打ち消した!

 

「!」

 

「(くっ、これじゃダメだ!翼さんのようにギアのエネルギーを固定できない!)」

 

「この短期間にアームドギアまで手にしようったか?」

 

響は歌いながら右手にエネルギーを集中させる。アームドギアに形成できないなら。

 

「(そのエネルギーをぶつければいいだけ!)」

 

小さなエネルギーを右手に握る。

 

「させるかよ!」

 

攻撃しようと鞭をのばすが響はそれを掴む。

 

「(『雷を握りつぶすように!』)」

 

掴んだ鞭を引き寄せ少女を自分に引き寄せる!すると腰のパーツが火を吹き!バーニアになって少女に近づく!

 

「(最速で!最短で!真っ直ぐに!一直線に!胸の響きを!この想いを伝えるために!!」

 

響の拳が少女の腹にヒットする!その瞬間!右手のパーツがパイルバンカーのように2撃目を叩き付ける!

 

「(うおおおおおおおあああああああああああ!!!!」

 

バキバキ!

 

『ネフシュタンの鎧』に皹が走る!

 

「(バカな・・・『ネフシュタンの鎧』が・・・)」

 

チュドーーーーーーーン!!

 

響達が交戦中の場所で爆発が起きる。その光景を未来は涙を流して見ていた。

 

「・・・・・・響・・・」

 

未来の呟きが響く。

 

 

 

 

 

未来の後ろでエルシドがレグルスと合流する。

 

「彼女は?」

 

「響の親友・・・」

 

「そうか・・・・・・レグルス、彼女は俺に任せろ。お前は立花の所に」

 

「・・・分かった」

 

そう言ってレグルスは響の元へ向かう。そしてエルシドは本部に連絡を取る。内容はレグルスと同じ案件で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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