聖姫絶唱セイントシンフォギア   作:BREAKERZ

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追憶と暗躍

ー五年前ー

 

連れてこられたその少女はまるで手負いの獣であった。身体を拘束され椅子に縛り付けられたその姿は余りにも痛々しい。

 

「放せよ!クソ!あたしを自由にしろ!」

 

「その少女が報告書にあった」

 

「『天羽奏』14才。ノイズに襲撃された長野県宮上山聖遺物発掘チーム唯一の生存者です。襲撃当日は休日だったので家族を発掘現場に連れてきていたのでしょう。そこを襲われたそうです」

 

翼は奏の姿に恐怖し弦十朗は1課からの報告を聞く。

 

「お前らノイズと戦ってんだろ!」

 

弦十朗は奏に目を向ける。

 

「だったらあたしに武器を寄越せ!『アイツら』のように奴等をぶっ殺す力をくれ!」

 

その目には自分から全てを奪ったノイズへな怒りに満ちていた。弦十朗は毅然とした態度で奏に近づく。

 

「辛いだろうがノイズに襲われた時の事を教えてくれないか?我々が君の家族の仇を取ってやる」

 

「ねむてぇ事言ってんじゃねえぞ!オッサン!あたしの家族の仇はあたししか取れないんだ!あたしにノイズをぶち殺させろ!」

 

その目には危険な業火が宿っていた。

 

「それは、君が地獄に堕ちることになってもか?」

 

弦十朗は目を鋭くして言う。

 

「奴等を皆殺せるなら、あたしは望んで地獄に落ちる!」

 

奏の迫力に翼は萎縮する。

 

「・・・・・・・・・」

 

弦十朗は無言のまま奏の頭に手を乗せ撫でた後抱き締めた。まるで父親のように。

 

奏との会合が終わるとすぐに別の部屋にいる『二人』の元へ行く。

 

「それで天羽奏君の発掘現場に現れたノイズを追い払った『鎧を纏った二人の少年』はどうした?」

 

「はい、信じられないことに我々が到着した時ノイズの残骸と天羽奏を守るようにその『少年達』はいたそうです。ただ彼等は意識が混濁してるのか妙な事を言ってました」

 

「妙な事?」

 

「?」

 

「はい、『ここはどこだ?』、『アテナを知らないか?』、『聖域は?』、『聖戦はどうなった?』、『ロスト・キャンパスは?』と訳のわからない事を喋っており拘束しようとしたのですが・・・」

 

「どうした?」

 

「その・・・全く歯が立ちませんでした。拘束しようとしたら一瞬で地面に叩きつけられておりました。何とか説得して大人しくしてくれてますが」

 

報告を聞いて弦十朗は弱冠驚いた。諜報部の人間達は対人戦闘の訓練を受けている筈なのにそれがまるで歯が立たなかったことに。そうこうしている内にその『少年達』を待たせている部屋に着いた。そして扉を開けるとそこにいたのは。

 

 

黄金の鎧を纏った奏と同い年の少年達だった。鍍金とは思えない太陽と見間違えんばかりの本物の黄金の輝き。1人は黄金の翼と黄金の弓矢を携え、もう1人は山羊の角のようなヘッドギアを装備した少年。

 

「「・・・・・・・・・」」

 

少年達の纏うそれぞれ違う形をした鎧は余りにも雄々しく猛々しく凛々しく、そして美しい、その鎧に翼は見惚れていた。

 

弦十朗も鎧に見惚れていたが、それ以上に少年達にまなざしに目を向けた。

 

「(何と力強さと気高さに満ちた眼をしているんだ。この少年達は・・・決して折れない強き『意志』と気高い『心』を持っていなければこんな眼をすることはできない!)俺は風鳴弦十朗。君たちの名を教えてくれ」

 

少年達は頷き会うと口を開く。

 

「俺はシジフォス、戦女神アテナに使える黄金聖闘士、射手座<サジタリアス>のシジフォス」

 

「同じく黄金聖闘士、山羊座<カプリコーン>のエルシド」

 

『最強の十二人』との初めての会合であった。

 

 

 

 

それからしばらく経ち、ノイズとの戦いを望んだ奏は厳しい訓練と薬物の等量を繰り返し、聖遺物第三号『ガングニール』への適合を試みる。

 

「ヴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!グアアアぁぁぁぁぁぁぁぁ!ウグアアアアアアァァァァ!!」

 

その光景を弦十朗と翼とシジフォスとエルシドは見ていた。翼は不安そうに弦十朗は血が滴る程に手を固く握る。シジフォスは辛そうに見ていたがエルシドは無表情に見ていた。

 

「これしか方法が無かったのだろうか? 彼女には、奏には他に道が有ったのでは無いのだろうか?」

 

「やめろシジフォス、『力』を求めたのはアイツ自身だ。アイツが心からこの道を選んだのならそれを外野が口出しする事じゃない」

 

「しかし・・・」

 

「お前は奏に“甥っ子”の面影を見ているんじゃないか?」

 

「!?」

 

エルシドに言われ、シジフォスは何も言えなかった。弦十朗達も複雑な理由がありそうなので追及しなかった。

 

「(確かに。俺は彼女に、奏にレグルスを重ねていたのかもしれない。もしもレグルスが俺と出会わなけば、奏のように自分の全てを奪った仇への“憎しみ”のみで生きていたのかもしれない)」

 

弦十朗は了子に目配せをし、手術を中止した。

 

「ここまでしても未だ適合ならずか。やっぱり簡単には行かないものね」

 

カッシャーーーン!!

 

「「「「「!!??」」」」」

 

突然手術室からの音に眼を向けると。奏は更に薬物を等量しようとした。

 

「よせ!」

 

「ここまでなんてつれねえこと言うなよ」カチッ

 

奏は自ら等量した。獰猛な笑顔で。

 

「パーティー再開と行こうや。了子さん」

 

「・・・・・・」

 

了子も唖然としていると。

 

ピーンピーンピーンピーンピーン

 

「?!適合係数、飛躍的に上昇。第一段階、第二段階突破、続いて第三段階」

 

急激に成長しようとする力に奏の身体が苦しみ出した。

 

「うぐっ!ぐえっ!」

 

大量の血を吐き出した。急いで弦十朗が指示を飛ばす。

 

「何をしている!中和剤だ!」

 

あわただしく動く医師達が奏の身体から放たれた波動で吹き飛んだ。

 

「・・・・・・」

 

バンッ!

 

「・・・?!」

 

突然翼の目の前に血塗れの手が現れた。

 

「翼、見るな」

 

エルシドがそっと翼の眼を塞ぎ、シジフォスは手術室の窓を破壊し奏を抱き抱える。

 

「しっかりしろ。大丈夫か?」

 

「へッ大丈夫に決まってんだろ・・・手に入れた」

 

ガングニールの結晶が消え、奏は歌う、『戦いの歌』を

 

「♪~♪~♪~♪~♪」

 

そして奏の身体が光る。

 

「これが奴等と戦える力!あたしのシンフォギアだ!」

 

それは翼のように偶然手に入れたものではない。天羽奏が自らの手で勝ち取った力であった。

 

シンフォギアを纏った奏と翼はノイズ討つ戦士へとなり二人でノイズを倒していった。突撃槍のガングニールを回転させ竜巻を生み出す。

 

『LASTMETEOR』

 

大型ノイズを倒し朝を迎え逃げ遅れた人間の救助に当たった。シジフォスは現場の指揮をエルシドは大きな瓦礫を破壊しながら救助活動をしていた。

 

「シジフォス達も協力してくれれば良いのによ」

 

「俺達が出たしまえばお前達の出番がなくなるぞ」

 

「あ、言ったなエルシド!次の模擬訓練絶対負かしてやっからな」

 

「奏!こっちを手伝って!」

 

「あぁ」

 

シジフォスは奏達の近くに行くと瓦礫から救助された人達と何か話してる姿が見えた。

 

「どうした?奏」

 

「あ、シジフォス。さっきの人さ。あたし達の歌が聞こえたから諦めなかったんだってさ・・・」

 

その時の奏の顔はどこか充実感に満ちた顔をしていた。シジフォスはフッと微笑み。

 

「悪くないだろ?こんなのも」

 

「あぁ。悪くない」

 

 

 

それからまた訓練が始まった。走り込みをする奏と翼は会話する。

 

「な、翼」

 

「ん?」

 

「誰かに歌を聞いてもらうのは!存外気持ちの良いものだな!」

 

「どうしたの?唐突に」

 

「別に、ただ!この先もずっと翼と一緒に歌を歌っていたいと思ってね」

 

その時の奏の笑顔はとても眩しく。翼も笑顔になっていた。

 

「奏!翼!」

 

シジフォスが二人にスポドリを投げ渡す。

 

「おっと!」

 

「あっ!」

 

奏はナイスキャッチしたが、翼はキャッチ出来ず落としそうになるが。

 

「・・・ほら」

 

寸前でエルシドがキャッチして翼に渡す。

 

「あ、ありがとう。エルシド」

 

「・・・・・・」

 

「相変わらず愛想ねぇな」

 

奏が茶化す。

 

「エルシド。次の訓練メニューだが・・・」

 

シジフォスとエルシドが訓練メニューについて話し合っていた。

 

「なぁ翼。気づいてるか?アイツらあたし達と同じ位走っているのに『汗』も掻いてなければ『息も乱れてない』」

 

「うん。やっぱり聖闘士と私達とじゃ才能が違うのかな?」

 

目の前にいる二人との圧倒的な『差』に弱気になる翼。だが奏は。

 

「『今』はまだアイツらに届かない。でもきっと追い付けるさ。二人一緒ならな」

 

「うん!」

 

こうして天羽奏と風鳴翼は共に歌い『高み』へ飛ぶ『ツヴァイ・ウイング』になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー現代ー

 

 

修行を開始してから響は朝早く起床しランニングを始めるようになった。だが未来はそんな響の行動に疑問を持ち始めていた。

 

風鳴邸でサンドバッグに拳を叩きつける響とサンドバッグを抑えるレグルス。響の隣には弦十朗がいた。

 

「そうじゃない。稲妻を喰らい。雷を握り潰すように打つべし!」

 

「言ってること全然わかりません!でもやってみます!」

 

「よし響!もう一丁来い!」

 

「うん!」

 

なんじゃそりゃ?とツッコミが飛んで来そうなアドバイスをする弦十朗と良く理解してないが気合いでなんとかしようとする響。レグルスも響を鼓舞する。

 

サンドバッグを見据える響。全神経を集中させて心臓の鼓動が一鳴りしたあとに拳を叩きつける!するとサンドバッグは吹き飛びサンドバッグを支えていた枝も折れた。

 

「うわっ!と!と!と!あらららら?!」(ドボーン!)

 

抑えていたレグルスごとサンドバッグは吹き飛ぶがレグルスはなんとか堪えようとするが風鳴邸の池に落ちていった。

 

「レグルス君!大丈夫?!」

 

「ああ大丈夫!大丈夫!それにしても響凄いなー」

 

自分の成長に喜ぶ響とそれを賛美するレグルス。弦十朗はミットを構え、本腰を入れる。修行は着実に進んでいた。ミット打ちを始めた響達を尻目にレグルスは池に落ちたサンドバッグを回収する。

 

「(響の修行は良い感じだな。『片足だけ』で受け止められないとは)」

 

響は気付いていないがレグルスは響がサンドバッグを打っているとき『片足だけ』でサンドバッグを支えていたのだ。

 

「(大分鈍ってるな・・・少し俺も俺で修行しておくか。デジェルは今どうしてるだろう?)」

 

レグルスは青空を眺めながら感慨に耽っていた。

 

 

 

ー???sideー

 

そこは森に囲まれた湖にも面している屋敷。だがその屋敷の半分側は不釣り合いのメカメカしい設備になっていた。そこのある一室には最先端の設備があった。まるで何かの研究室のようなその部屋で一人の『女性』が英語で自分達に『ソロモンの杖』を譲渡した組織と電話で会話をしていた。全裸で。

 

長いプラチナの髪をし、張りのある大きな乳房、くびれた腰回り、美しい曲線の肉付きの良い脚、芸術品のような豊満な裸体はまるで女神の様に美しく、妖しい色香を漂わせていた。

だがその手には不釣り合いな『杖』が握られていた『ネフシュタインの少女』が使用していた『杖』だ。『女性』は電話をしながら『杖』を構えると『杖』から何かが射出され、そこから“ノイズが現れた”が『女性』が再び『杖』を振るうとノイズが消えた。その『杖』こそ『女性』の電話相手が求めている『完全聖遺物 ソロモンの杖』である。

 

女性は電話相手に実験結果の報告をしていた。電話相手は完全聖遺物<ソロモンの杖>を自分達の祖国に占有物とするために『女性』を支援していたのだ。

 

お互いに『利用し合う関係』であることは重々承知の上で利用し合っているのだ。『女性』は電話を切り電話相手に侮蔑の言葉を吐く。

 

「粗野で下劣、生まれた国の品格そのままで辟易する・・・そんな男に『ソロモンの杖』が既に起動している事を教える道理はないわよね?クリス」

 

『女性』はある装置に磔にされた裸の少女に問う。クリスと呼ばれたこの少女こそ『ネフシュタインの鎧』を纏っていた少女である。

 

銀色の長髪に雪のように透き通る白い肌、『女性』にも引けを取らない豊麗な裸体を晒したクリスと呼ばれる少女は、苦しそうに目を開ける。

 

「苦しい?可愛そうなクリス。貴女がぐずぐず戸惑うからよ。誘い出された『あの子』をここまで連れて来れば良いだけだったのに。手間取ったどころか空手で戻ってくるなんて」

 

歪んだ笑みを浮かべる『女性』にクリスは苦しそうに呟く。

 

「これで・・・良いん・・・だよな?」

 

「何?」

 

「私の・・・望みを叶える為には・・・お前に従ってれば良いんだよな?」

 

「そうよ。だから、貴女は私の全てを受け入れなさい。でないと嫌いになっちゃうわよ」

 

そう言って何かのレバーを引き装置を起動させるとクリスが磔にされた装置から電流が流れた。

 

「グアアアぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

悲鳴を上げるクリスに『女性』は呟く。

 

「かわいいわよクリス。私だけが貴女を愛して上げる」

 

歪んだ笑みを崩さぬまま装置を停止させる。激しく呼吸するクリスの頬に手を添え身体を密着させ囁く。

 

「覚えておいてねクリス。『痛みだけが人心を繋ぎ『絆』と結ぶ』、世界の真実であることを。さ、一緒に食事をしましょうね」

 

クリスはそう言われ微笑みながら言う。

 

「今度こそ・・・上手くやるよ。奏者だろうが黄金聖闘士だろうが蹴散らして「今なんと言った?クリス」え?」

 

歪んだ声から突然氷のように冷たい声になる『女性』。『女性』は再び装置を起動させ。

 

「アアアアアアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「お前ごときが・・・お前ごときがっ!『黄金聖闘士を倒す』だとっ?!自惚れぬなっ!逆上せ上がるなっ!!『あの者達』を!あの『頂きに最も近い』黄金の戦士達を!お前ごときが倒せる等と思うなッッ!!!」

 

歪んだ冷笑を浮かべていた顔は憤怒に染まり声も荒々しくなった『女性』は、クリスへ流していた電流を激しくし、クリスの苦しそうな悲鳴が屋敷中に広がった。

 

 

 

 

 

 

ーデジェルsideー

 

デジェルはビル群の屋上から町を眺めていた。

 

「(我々のいた時代とは本当に違うのだな・・・世界のあちこちでは紛争が耐えないというのに・・・クリス、君は今どこにいる?)」

 

デジェルは『この世界』に来てからずっと探していた『少女』に思いを馳せていた。

 

 

ーside changeー

 

「立花さん!立花響さんはいつもの『お節介』でまた遅刻ですか?!」

 

響と未来の担任の先生の怒号が教室に響く。日頃から『お節介』が趣味の響の行動は担任の先生からしたら悩みの種みたいなものである。クラスは少しクスクス笑いが響く。未来が挙手する。

 

「先生!響いえ立花さんは、今日は風邪でお休みするそうです!」

 

嘘だとは思うだろうが先生はため息をつきながら『しょうがない』と言ったが未来は隣の響の席を見て呟く。

 

「嘘つき・・・」

 

 

 

ー響sideー

 

その頃響は本日の修行が終わり、二課のソファーの上でぶっ倒れた。

 

「うはー!朝からハード過ぎます・・・」

 

「お疲れさん響」

 

「頼んだぞ。明日のチャンピオン」

 

響が寝転がるソファーと向かい側にあるソファーに腰かけたをレグルスと弦十朗が労う。あおいが響にスポーツドリンクを渡す。ぷはーと人心地着いた響は率直な疑問を言う。

 

「あのー、自分でやると決めた癖に申し訳ないんですけど。何もうら若き女子高生に頼まなくてもノイズと戦える武器って他にないんですか?外国とか」

 

「何か今更な質問だな」

 

「いやそうなんだけどね」

 

響とレグルスのやり取りを聞きながら弦十朗呟く。

 

「公式にはないな。日本だってシンフォギアは『最重要機密』として完全非公開だ(それに身体を鍛えただけでノイズと互角以上に戦うことができる聖闘士の『小宇宙<コスモ>闘技方』も日本軍部の一部が手に入れたいと考えているし、これが米国軍の耳に入れば『泥沼な事態』になりかねん)」

 

シンフォギアを必要とせず圧倒的な強さを誇る聖闘士の存在が世界に知れ渡れば各国の軍が聖闘士達を狙う可能性もあるのだ。

 

「ええ~~、私、あんまり気にしないで結構派手にやらかしてるかも・・・」

 

「響は隠密行動なんてできそうにないもんな♪」

 

やっちゃたかもな顔になった響をレグルスが茶化すがあおいが助け船を出す。

 

「情報封鎖も二課の仕事だから」

 

「だけど、時々無理を通すから今や我々の事を良く思ってない官僚や省庁だらけだ。特異災害起動部二課を縮め『突起物』って揶揄されてる」

 

朔也が味方だらけでもないと言う。あおいも呟く。

 

「情報の秘匿は政府上層部の指示だってのにね。やりきれない」

 

「いずれシンフォギアや聖衣を有利な外交カードとしようとする目論んでるんだろう」

 

「EUや米国は何時だって改定の機会を伺ってる筈。シンフォギアの開発は基地の系統とは全く異なる所から発動した理論と技術で成り立っているわ。日本以外の国では到底真似できないから、尚更欲しいのでしょうね」

 

「聖衣に至っては『オリハルコン』とか『星屑の砂<スターダストサンド>』といった伝説級の素材で作られているし、確認しているだけでも行方不明になった射手座<サジタリアス>の黄金聖衣を除いて3つしかないからね。日本以外の国は喉から手が出るほど欲しがっているよ」

 

あおいと朔也は世知辛い話をする。響は難しい話を聞きソファーの上でだらける。

 

「結局やっぱり、色々とややこしいって事ですよね?」

 

「こう言うのを世知辛いって言うんだな~」

 

「あれ?師匠、そう言えば了子さんは?」

 

「(すっかり弦十朗は響の師匠になったな~)」

 

「永田町さ」

 

「永田町?」

 

「(国会議事堂つまり日本の元老院みたいな場所がある街か)」

 

「政府のお偉いさんに呼び出されてね。本部の安全性、及び防衛システムについて関係閣僚に対し説明義務を果たしにいっている。仕方のない事さ」

 

「デキる女は色々忙しいんだな・・・」

 

「本当、何もかもがややこしいんですね・・・」

 

「ルールをややこしくするのはいつも責任を取らずに立ち回りたい連中なんだが」

 

同じ大人として弦十朗は苦々しく話すがフッと微笑み。

 

「その点広木防衛大臣は・・・了子君の戻りが遅れているようだが?」

 

腕時計をみて呟く弦十朗。その頃了子は。

 

 

「フェッックシュン!誰かが私をうわさしているのかな?今日は良いお天気ね。何だかラッキーな事がありそうな予感♪」

 

と暢気に車を走らせていた。

 

 

 

ー翼sideー

 

翼は生死の間を未だ漂っていた。

 

「(私、生きてるの?違う死に損なっただけ。奏はなんのために生きて、何のために死んだのだ?)」

 

迷い悩む翼を後ろから誰かが抱き締める。

 

『真面目が過ぎるぞ翼』

 

「!?」

 

誰なのか直ぐに分かった。

 

『あんまりガチガチだとその内ポッキリいっちまいそうだ』

 

やっと会えた。奏にやっと会えたと翼は微笑んだ。

 

「私はエルシドと一緒に一層の研鑽を続けていた。数えきれない程のノイズを倒し、死線を越えそこに意味など求めずただひたすら戦い続けてきた。そして気付いたんだ。私の生命には意味や価値がないことを」

 

奏は優しく囁く。

 

『戦いの裏側とかその向こう側にまた違った『モノ』があるんじゃないかな?あたしはその事をシジフォスから教えてもらった。あたしもそう考えてきたしソイツを見てきた』

 

2年前のコンサートホールで背中合わせに座る二人。

 

「それはなに?」

 

『自分で見つけるもんじゃないかな?』

 

「奏は私に意地悪だ」

 

『その分シジフォスが優しくしてくれたろう?』

 

「でも私に意地悪な奏も優しかったシジフォスももういないんだよね?」

 

『ソイツは結構な事じゃないか?』

 

「私はイヤだ!奏やシジフォスにそばにいてほしいんだよ。何時までも四人で一緒にいたいんだ。奏とシジフォスが笑いあってる姿が私は大好きだった。二人に幸せになってほしかった!」

 

「ありがとよ翼。私達がそばにいるか、遠くにいるかは翼が決めることさ』

 

「私が?」

 

『言ったろ?あたしは風の中にいるってさ』

 

「私が決める、だったら私は」

 

『少しは見所があるようだな』

 

翼の後ろから奏ではない誰かの声が聞こえた。翼は振り向くとそこには。自分と同い年位の少女と三人の少年達がいた。

 

「貴女達は一体?」

 

『私達の事はどうでも良い、それよりもお前は戻りたいのか?』

 

有無を言わせない態度だが何故か翼は彼等は敵じゃないと直感した。

 

「・・・」コクン

 

『それじゃ、このまま真っ直ぐ行け』

 

少女と少年達は道を開けるとその先に光が指していた。翼はゆっくりとその光に向かっていきその光に包まれていった。不意に翼の耳に少年達の声が入った。

 

『エルシド様の事は任せた』

 

「!?何故エルシドの事」

 

『もう俺達はあの人に追い付けないけどさ』

 

『貴女ならきっとエルシド様を支えられます』

 

翼は少年達に声を掛けようとするが目の前が光に埋め尽くされ翼は消えた。

 

『悪いな。翼が面倒をかけて』

 

『何『同じ守護星座』を持つよしみだ』

 

『私達も『エルシド様の大切な人』を死なせたくなかっただけだ』

 

奏は嬉しそうに言う。

 

『ありがとう。『ユズリハ』・・・『ツバキ』・・・『ラカーユ』・・・『ラスク』』

 

そこにいたのは、翼と同じ守護星座を持つ『鶴座<クレインのユズリハ』とエルシドの部下であり弟子でもあった『帆星座<ヴェダ>のツバキ』と『船尾星座<バビス>のラカーユ』そして『羅針盤星座<ピクシス>のラスク』であった。

 

そして治療カプセルで眠っていた翼が目を覚ます。治療室は医師達で騒然となるも翼の耳には『母校の歌』が聴こえていた。

 

「(不思議な感覚・・・まるで世界から切り抜かれて、私だけ時間がゆっくり流れているような・・・あぁそうか私、『仕事』でも『任務』でもないのに学校休むのは初めてなんだ。聖金賞は絶望的か・・・心配しないで奏。私、貴女が言うほど真面目じゃないから、ポッキリ折れたりしない。だからこうして今日も無様に生き恥をさらしている・・・先ずはエルシドに思いっきり怒られないとな・・・)」

 

翼の目から一筋の涙が溢れた。

 

 

 

 

ーside outー

 

時は夕方、三台の黒い車が一列に走ってた。その中央の車の中に弦十朗が信頼を寄せる広木防衛大臣が乗っていた。

 

「ハッハッハ!電話一本で予定を反故にされてしまったか。全く野放図な連中だ」

 

「旧陸軍由来の特務機関とは言え些か豊潤が過ぎるんじゃないですか?」

 

おおらかな大臣に秘書は神経質に言う。

 

「それでも特異災害に対抗しうる唯一無二の切り札だ。私の役目は連中の勝手気ままを出来る限り守ってやることなのだが」

 

顔を引き締めた大臣に秘書は満足そうに微笑み自分の膝にのせたケースを見る。

 

「『突起物』とは良くいったもので」

 

車がトンネルに入り出ようとすると突然、先頭の車の前にトラックが現れた。トラックにぶつかる車両に玉突きでぶつかり三台の車は止まる。するとトラックの荷台が開きそこから銃を持ち武装した一団が現れた。

 

直ぐにSPが応戦しようとするが呆気なく射殺される。防衛大臣はまだ揺れる頭を抑え横にいる秘書に目を向けるが。秘書は既に撃たれこと切れていた。防衛大臣は秘書の持っていたケースを持とうとするが車の窓が破られ銃を突きつけられる。

 

「『広木防衛大臣と見受けましたが』」

 

防衛大臣は英語で話した事で誰か気付いた。

 

「貴様ら米国の・・・」

 

その先を言う前に銃声が響いた。

 

 

 

 

ー二課指令部ー

 

「大変長らくお待たせしました♪」

 

「あっ!」

 

「了子君!」

 

「?!」

 

「何よ。そんなに寂しくさせちゃった?」

 

暢気言う了子に弦十朗はシリアスに言う。

 

「広木防衛大臣が殺害された」

 

「え!?本当?!」

 

「複数の革命グループから犯行声明が出されているが。詳しいことは把握できてない。目下全力で捜査中だ」

 

「了子さんに連絡も取れないから皆心配してたんです!」

 

「・・・・・・」

 

「え?」

 

了子は自分の端末を見ると。

 

「壊れてるみたいね♪」

 

気が抜けたのか安心した笑みを浮かべる『響と弦十朗』。

 

「でも心配してくれてありがとう。そして、政府から受領した『機密資料』も無事よ。任務遂行こそ広木防衛大臣の弔いだわ」

 

『ケース』をソファーの上に置きメモリー端末を見せる了子。

 

 

 

 

だが死角になって見えなくなり『ケース』の『血痕』に誰も気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

僅かに漂う『血の匂い』を感じた『1名』を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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