ホワイト・エンゲージ   作:リファ

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第5話

「ここ…まで、来れば…ひとまずは…」

 

 

 

 

夜の町、俺たちは裏路地を通っていた。

家からものすごい勢いで飛び出したすぐあとに、再びいえの中からなにかが割れた音が聞こえたあたり…また、奴がでたのか?

状況の整理が頭の中でできていない、呼吸を落ち着かせ…俺はひとまずファリニスの方へ向き直す。

 

 

 

 

「なぁ、あいつらは一体なんなんだよ!?急に俺の…命を狙ってるみたいに…襲ってきたぞ!」

 

 

 

 

「…命を狙ってる…それは間違いないです」

 

 

 

 

 

 

 

「セグレトさんが命を狙われていたのは、今から1ヶ月以上まえになります…ずっと、狙われてたんです」

 

 

 

 

 

「なっ…!?」

 

 

 

 

俺は信じられなかった

記憶は既にもう完全に戻っている、なのに…あんなに殺気にまみれた奴等を俺は当然のごとく知らない。

 

 

 

 

「そんな…でもっ、俺はあんな奴等しらないぞ!?」

 

 

 

 

「わからなくて当然なんです、あいつらは決して表に出てこない存在…目で見ることすらできないハズなんです。」

 

 

 

「目で、見えない…?それって」

 

 

 

 

さっき聞いたようなことだ

目に見えないなにか、それをファリニスの口から…

 

 

 

 

「はい、あれは思念…正確には思念だったもの…です」

 

 

 

 

「あれが…?」

 

 

 

 

 

禍々しく殺気を放つ、金色の瞳…あれが思念?あんなのが、俺たちの中に同じく入ってるもの?

とても信じられなかった、思念が、俺たちと同じような思念が、なんで人に牙をむくんだ!?

 

 

 

 

 

「乖離のことは先程お話ししましたよね…生命体が活動を停止した際に、思念がからだから離れる現象」

 

 

 

 

「ああ…さっき聞いた」

 

 

 

 

一呼吸おいてから、ファリニスは続ける

 

「乖離した思念は通常、この星の内部に埋まり次なる生命体に思念を宿すためにその一切の記憶を浄化してから次の生命体に宿します。」

 

 

 

 

「浄化…消去するってことか?」

 

 

 

 

「はい、消去しなければ次の生命体の活動に影響を及ぼしてしまうので…極稀に、消去されないこともあるらしいのですが…」

 

 

 

 

輪廻転生…オカルトまがいな話だけど、本当にあるのか?

 

 

 

 

「しかし、またこれも稀に思念が地面に還らずに空気中で浮遊してしまうことがあるらしいのです。これを<待機滞留>と言うのですが…」

 

 

 

 

「えっと…それがなると、ああいう化け物になるのか…?」

 

 

 

 

 

錯乱しかけた頭でなんとか理解しようとする、口頭での説明での理解は難しい…頭の回転が遅いのも、呪いたくなるな

 

 

 

 

「正確には、その思念が集まった場合にです…あのように集合した姿を思念論において、<思念集合体>と呼びます」

 

 

 

 

殺意を剥き出しに、襲いかかってくる思念集合体…か

でもまてよ…

 

 

 

 

「その思念集合体は…なんで、俺を襲うんだ?その、肉食とか…なのか?」

 

 

 

 

やつに噛みちぎられるとか…そういう考えは持ちたくもないけど、聞いておかなければ気がすまない…

 

 

 

 

「いえ、あれは普通の食料はいりません…思念ですから、消化器もなにもありませんから」

 

 

 

 

「ふ、普通の…?」

 

 

 

 

 

「他者の思念が、奴等の活動源…その方法は精神の搾取…搾り取るように、セグレトさんのように…殺しながら」

 

 

 

 

 

 

背中が寒気を覚えて、ゾクッとした

 

 

 

 

 

「俺、みたいに…?」

 

 

 

 

 

「奴等の目的は獲物の記憶…セグレトさんの記憶を封印して、無理やり頭の中の思念を搾り取り…活動源にしていました」

 

 

 

 

 

記憶がなくなっていたと思っていたのは…奴等の仕業だったのか、脳裏に封印されて、俺は奴等に思念を貪られてた…?

 

 

 

 

 

「…その…思念は……俺のなくなった思念は?」

 

 

 

 

「それはもう大丈夫です、セグレトさんが元々持っていた思念とはまた別の思念を使って、なくなった部分の補完には成功していますので」

 

 

 

 

「それなら、記憶も食われちゃったんだろ!?俺の記憶は戻ってるぞ!?」

 

 

 

 

思念と記憶は繋がってる、なら食われた部分の思念と繋がってた記憶もなくなっちゃうんじゃ…と、俺は考えたが

 

 

 

 

「記憶は思念にすべて宿ってるわけではないです、脳自体にも記憶を管理する場所はあります…そこから抽出して、新しくいれた思念に流し込みました」

 

 

 

 

「そ、そっか…なら、よかった」

 

 

 

 

ガシャン!

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

遠くの方から、微かに聞こえた…窓ガラスの割れる音。

間違いはなかった、方向からするに俺の部屋からだ。

 

 

 

 

「こっちに…くるのか!?」

 

 

 

 

「…っ」

 

 

 

 

正直、生きた心地はしない…奴等は影に紛れて近寄る。

窓から見えたのをたまたま見ていなければ、奴等の奇襲であっという間に死んでいたのかもしれない…

 

怖い

 

 

殺される…?

 

 

 

怖い…

 

 

 

 

 

 

怖い…

 

 

 

 

 

 

 

死にたくない…死にたく

 

 

 

 

 

「セグレトさん、これを」

 

 

 

 

「ぁ…え?」

 

 

 

 

ファリニスが渡してきたのは、彼女が最初から持っていた鞄…肩から提げるタイプの可愛らしいピンクの色合いだった。

その鞄をまるごと俺に渡して、ファリニスは俺の部屋の方面へと向き直る。

 

 

 

 

「…もし、私が10分経ってもここに来なければ…その鞄に入ってるすべてのものを使ってもいいです、ここから逃げてください…できるだけ、遠くへ」

 

 

 

 

驚きの提案だった、ファリニスの言葉通りの意味でとらえるのなら…

<自身を犠牲に、ここから俺を逃がすつもり>ということになる。

 

 

 

 

「なっ……!?ちょっと待ってくれよ、ファリニス!それは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫です、セグレトさんは…私が守ります」

 

 

 

 

 

そう言って、俺の返答も聞かずに彼女は走り去っていった…

 

 

 

 


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