「おっ、みえてきたぞ!」
休憩を終えてからの道中は何事もなく、マイペースと言いつつも無意識で急ぎ足になっていたのか・・・日がまだ高いうちに次の街が見えてきた。
すぐそばにある真新しい看板には<鉄鋼の街 ルメタルシティ>と書かれている…もう目的地は近い、目と鼻の先だ。
「ふぅ…あと少しですね…頑張りましょう」
疲れた様子のファリニスだが、ここまで来て休憩もなんだかもどかしい気分になる。
あと一息だ、とファリニスの意気込みに乗ってルメタルシティまでマイペースに歩いていくのであった。
カンカン…
硬くノックするような音が響く、しかしそれが聞こえているのは真下…俺たちの足元からだ。
ルメタルシティの街並みが見えてくる門の手前まできた頃に、そんな音が響いてきた…足元を見ると、今までの土の道とは違い鋼鉄のような光沢のあるプレートがそこに敷かれていた。
「さすが鉄鋼の町…か?」
「こんなところに使うなんて…贅沢ですね」
恐る恐る門を見てみると、誰もいない…俺の住んでいた街と違い警備などはそれほど厳重ではなさそうだった。
パスポートを懐にしまい、俺はすんなりと門を通って街の中へ入る…ファりニスも同様に、俺の後から続く。
街へ入ると、目の前に広がってきたのはせわしなく動く人たちの姿だった。
皆わりとラフな格好で、特に長袖のシャツを着てダボダボのズボンを履いた‥いわゆる鳶職に勤める人のような格好の人が多い。
「工事中…なんでしょうか‥?」
「いや、まあ…どうなんだろ?」
俺たちはとりあえず…この街を詳しく知るために、門のすぐそばにあった観光案内のパンフレット置き場から、2冊のパンフレットをもらい読んでみることにする。
ゆっくりくつろげるスペースがないために立ちっぱなしでの黙読だが…贅沢も言ってられない。
「工業の栄えた街…なんですね…」
「そうか…それであちこち工場だらけなんだな」
上を見上げてみると、煙突から煙の上がる大きな建物がチラホラと見える。
おそらくあれが全部工場ってことなんだろう…と納得する。
そしてそのままパンフレットを読みすすめていると、ファリニスが横で地面にお尻をついてしまった。
「あいたた…」
そう言って手を当てた場所は、おしりの方ではなく足の方だった。
かなりの長距離を歩いてきたんだから無理もない、俺は観光案内パンフレットの中に休める場所がないのか探してみることにした。
「ちょっとまってろ…お、いい感じのカフェが近くにあるみたいだぞ?」
「じゃあ、ちょっとそこに行きませんか…?もう足が棒になってしまって…」
そうしようか、と俺はファリニスの持っていた分の荷物を持って、パンフレットを頼りにそのカフェの場所まで歩いて行った。
荷物を持ってない分楽だろうけど、ホントは椅子にでも座ってゆっくり休みたいはずだしな…なによりも、俺もまた休憩したい
「重くないですか?」
「だいじょうぶだいじょうぶ、地図見るとすぐそこっぽいし!」
近くの、と言ったように街の入口からさほど離れていない場所にそのカフェはあった。
あまりお客のいない静かなカフェみたいだ…ひと目も気にしないで、ゆっくり出来そうだなと、俺は内心喜ぶ。
荷物に手を取られてドアが開けられなかったが、ファリニスがススっと移動してドアを引いて開けてくれた。
「さんきゅ…」
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
カフェに入ると、少し年の言った中年男性が俺たちの前に駆け寄る、名札を見るとカフェのオーナーらしい。
二人です、とファリニスが答えるとオーナーは荷物をチラチラと見てから 奥の席へどうぞ と笑顔で案内してくれた…奥の席は右手側に窓があって、片側がソファー、もう片側が普通の椅子になっている席だ。
「お荷物の方は、ソファーの上においてくださって構いませんので…」
「あ、どうもありがとうございます」
オーナーの言葉通りに、俺はソファーの上に大きな荷物二つ、その上にファリニスのカバンをひとつ置いた。
重たい荷物から解放されてふぅ~と深めのため息をついてから、俺は椅子の方に勢いよく腰を下ろす。
「すごいところですよね…ルメタルシティ」
ソファーの方に座ったファリニスが、窓の下を見下ろしながら言った。
俺も窓の下を覗き込んでみると、さっきと変わらずにせわしなく動いているゴト着(鳶職の人たちが着てる服)を着た人たちが見えた。
汗を流しながら急ぎ足で動いてる姿は、一種のカッコよさも感じるような気がする…と、ここでオーナーがお冷を持ってテーブルまで来た。
「ご注文は、お決まりでしょうか?」
「あ、ごめんなさいまだ考えてなくて‥」
ああ、大丈夫ですよとオーナーはテーブル脇に差してあったメニュー表を手にとってファリニスと俺の手元に置いてくれた。
こちらがオススメのメニューです、と最初のページを開いて商品を案内する。
「お二人は旅の方…でしょうか?」
「えっ?」
「いや、失礼しましたこんな街に観光に来られる方も少ないもので…ハハハ」
オーナーの話によれば、門に近くて観光客をメインにした店舗の作りにしているそうなのだが…観光客自体があまりに来ないので、年中閑古鳥が鳴いているとかなんとか
片隅にオレンジ色の髪の女性も見えるが…そういうお店にも常連のひとりやふたりはいるもんだろうか。
「大変ですね…あ、わたしはコーヒーでお願いします」
「ん…じゃあ、おれも」
かしこまりました、とオーナーは厨房の方へと下がっていった。
「観光客0かぁ…たしかに、そんな気分で来るような雰囲気の街でもないですよね…」
「こんなところに、思念集合体なんているのかって感じだよな…ん?」
お冷を口に含んでから、少し疑問に思って眉をしかめた。
水は何もなく澄んだ色で味もおかしくない…俺がふと疑問に思ったことは、思念集合体の話だ。
「思念集合体って、どうやってみつけるんだ?前は俺の方によってきたからいいけどさ、こんな広い街の中で探し回って見つかるもんなのか‥?」
パンフレットを見る限り、この街は広くて裏路地なんかも様々にある、思念集合体の形状から察するにどんな場所にも忍び込んだりもできそうな感じがした…そんな奴らを見つけることができるのだろうか?と
それは問題ありません、とファリニスは一番上の自分のカバンからゴソゴソと何かを取り出す…
「…瓶…?」
自動販売機で売っている缶のジュースとおんなじぐらいのサイズの瓶だった、中身は透明で何にも見えない…
と思ったら、薄ーく青色の膜が張ったようなものがうっすらと見えた、大きさで言えば非常に小さく、塩の小さじいっぱいと同じかそれよりも少ないかだ
「これはセグレトさんを襲ってきた思念集合体のかけらです、今は無力化して瓶の中に封じ込めてます」
「えっ、これが…あの?」
前回襲ってきた思念集合体のかけらと言ったそれはまったくうごかない、無力化と言ったようにまったく恐怖感も何も感じない…それどころか動きもしない。
「思念は他の思念と寄り合って集まる習性があるんですが、それを応用すれば近くに別の思念集合体がいれば、この瓶の中で反応を示すはずです」
「なるほどな…こいつが、道しるべってことか」
「瓶からだしちゃダメですからね、こんな状態でも危険ですから!」
「あんた…」
「!」
気がつくと、俺の背後には先ほど見たオレンジ色の髪の色をした女性が立っていた。
表情は険しく足音は聞こえなかった…気配も消していたのかとも思える程に
背後の女性は、表情を変えないまま腰に当てた手を
素早く太ももに下げていた拳銃を引き抜き、俺の額に銃口を当てる。
「っ!?」
銃口を額に当てられる経験なんてあるはずもない、動揺を隠せない。
険しい表情のその人は、指をしっかりと引き金に引っ掛けている…
「油断してるねー…あたしが少しでも力入れて引き金引けば、あんたの額に風穴開くよ?」
状況がよく飲み込めない…一体、なんでだ!?
この女性には見覚えがないし銃口を向けられるようなことをしたおぼえもない、何よりもこの街に来たこと自体が初めてだ、知り合いなんているはずがない
「あの、どちらさまで…」
「さあて…ね、あの世の閻魔様にでも聞いてくる?」
いったい
なんだってんだ・・!?