こはる日和   作:こふきいも

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あか

 

 「こはるってさ……」

 猫派?

 と、俺は続けた。

 最近、こはるが買ってくる栞は、

 猫のイラストが描かれたものが多い。

寝転がる猫、猫じゃらしに飛びつく猫、

欠伸する猫。

 何より、勝手なイメージだが、

 本が好きな人は、猫が好きな気がする。

 本の中を自由に駆けずり回る言葉と、

 勝手気ままな猫が重なるのだろうか。

 「犬派か、猫派かって聞かれたら猫……かな。」

 とても曖昧な返答だ。

 要するに、

猫よりも好きな動物がいる、ということか。

 

 ……猫よりも、こはるが好きな動物かぁ。

 何だろうな。

 真っ先に思い浮かんだのは、鳥だ。

 色鮮やかな、オウムや、インコの類い。

 でも、こはるは騒がしいの嫌いだよなぁ。

 と、すぐに打ち消しの記憶が蘇った。

ジュウウシマツ?いや、違う。

 それじゃあ、小動物。

 ほら、ハムスターとか、ウサギとか。

 女の子は、好きじゃなかったっけか。

 

 「こはるって……

 もしかして、ハムスターとか、ウサギとか、好き?」

 俺は、勇気を出して聞いてみた。

 おかしな話だが、何か話すたび、

 こはるが嫌がりはしないか、心配でたまらない。

 つくづく臆病だな、俺は。

 

 「ううん。私ね、金魚が好きなんだ。

 でもね、金魚の栞ってあんまりなくて……」

 それで、猫か。

 しなやかな金魚の尾っぽと、

 猫の仕草は、似ているといえば似ている。

 「そうなんだ。俺も、金魚は好きだぞ。

 綺麗だし。」

 会話はこうして打ち切られたが、

 俺には、いいアイデアが浮かんでいた。

 単純なこと。

 きっと、金魚の栞をプレゼントすれば、

 こはるは喜ぶに違いない!

 

 俺は、翌日から

 学校帰りに書店に立ち寄ったり、

 ネット通販なんかを使って、

 探してみた。

 しかし、成程確かに、ない。

 こはるが諦めるのも、無理なかった。

 

 臆病なままじゃ、嫌だ。

 自分勝手だと分かってる。

 でも、こはるの笑顔を見れば、

 もう、怖くないと思うんだ。

 だから……

 

 「できたー」

 俺は、徹夜で栞を作り上げた。

 初めからこうすれば良かった。

 美術は5だったんだ。

 生かさないともったいない。

 涼しげな水色と白に、

 浮かび上がる、赤。

 金魚。金魚だ。

 さあ、あとはこれを、どう渡すかだな……

 

 普通に渡したんじゃつまらない。

 俺は、交換小説に挟んで、こはるに手渡した。

 それに気づいたこはるの顔。

 多分、一生忘れないだろう。

 始めは驚いて、目をしばたかせて。

 続いては、喜びかな。ちょっと顔が紅く染まる。

 それから、笑顔。

 これだ。これを待ってたんだ。

 

 「俺くん……ありがとう。」

 いや、いいんだよ。

 お礼は十分貰ったし。

 ……何てな。


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