これでまずは投稿文の移行は終わりになります。
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???サイド
「━━━━クッ・・・・・・ソが!!!」
未知の大陸の外れにある辺境の地━━━チコ村の酒場で一人の男が乱暴に椅子を蹴り飛ばした。
椅子は高々に宙を泳ぎ、激しい音と共に海に吸い込まれるように落ちていった。
「おいおい、折角の椅子を飛ばすなよな。席が一個減っちまったじゃねぇか」
「うるせぇよ!こうでもしねぇと気がおかしくなりそうなんだよ!!」
宥めるように言ったもう一人のバンダナを額に巻いた男の言葉を振り払うようにして男はジョッキに入ったビールを一気に飲み干し、そのジョッキを蹴り砕いた。
「・・・・・・・・・いい加減、物に当たるのをやめろ。唯でさえ少ない物資がなくなるだろうが。
それに、そんなカッカしてたんじゃ何も解決しねえよ」
男はそのまま何も言わずに酒場から出ていった。
残されたのは大きく穴の空いた天蓋と粉々に砕けたジョッキとバンダナ男だけだった。
残されたバンダナ男は割れたジョッキを手を切らないようにまとめて、酒場の隅に片付けた。
今、この酒場━━━━ひいてはこのチコ村にはさっき出て行った男とこの男しかいない。
本来ならいるはずのアイルー達は他の村や狩場へと消え、唯一の住民である竜人族の村長もとっくのとうに━━━━彼らの頭首が
それも相まって今この村にいるのは男と男のいる組織の頭首についてきた者たち━━━━だったのだが。
「━━━━おい。いつからここは廃墟になった」
酒場の入口から一人の青年が入ってきた。
男の姿を確認したバンダナ男はカウンターの下からビールを一本取り出して渡した。
「お疲れ様です頭首、首尾よくいきましたか?」
「あぁ、あの村長の首は集会所に置いてきた。それとゴア・マガラについての新しい情報と食糧を手に入れてきた」
頭首と言われた青年はビール瓶の口を開けて、ラッパ飲みの要領で飲み干していく。
中ほどまで飲み干すとカウンターに瓶を置いて、酒場をグルッと見渡すように首を巡らせた。
「・・・・・・・・・ここも随分と少なくなっちまったな」
「仕方ないですって、大体の奴らはゴア・マガラに怯えて逃げ出してるところを殺されたり、そのゴア・マガラに直々に殺されたりしてますから・・・。
今この『音忌一派』にいるのは俺とアッシュに、後は頭首だけですしね」
バンダナ男がそう言うのと同時に酒場の入口から先程出ていったばかりの男が入ってきた。
その顔色は悪く、息も絶え絶えであった。
よく見れば男の服は海水をふんだんに吸い込んでいて、髪にも水滴が滴っている。
「おいおいおい、一体どうしたんだよ」
「はっ!はぁ!はぁ!・・・・・・・・・海泳いでたら狂竜化したラギアとガノト亜種に襲われた」
「その調子だと頭も冷えたか、またお前酒場で暴れてたろ」
「と、頭首!お帰りになっていたんですか!?」
男は居住まいを正すように踵をつけて直立した。
青年はカウンターから立ち上がって酒場の外へと出ていった。
外に出た瞬間に青年を襲ったのは炎天下の強い日差しと、沖から響いてくる重低音だった。
するとちょうど先ほど話に出てきていたラギアクルスとガノトトス亜種が海面を割って浜辺へと飛び出してきた。
シャァァァァ!!!!
ガァァァァァ!!!!
「・・・・・・すいません頭首、俺が迷惑かけてしまって」
「いいから、そんなことはどうでもいいから下がってろ。
俺らの縄張りに入ってきたからには、オマエらは捕食者じゃない捕食対象だ。つまり━━━」
青年は何も無い空間から一本の短刀を取り出して、左を前にするようにして半身に構えた。
「━━━━━━覚悟はできてんだよな?」
青年の腕が掻き消えるようにして振られ、短刀が衝撃音を伴って飛翔する。
その短刀は数分違わずガノトトス亜種の額へと飛んでいき、魚を思わせるその頭部を何の抵抗もなく貫いた。
━━━しかしガノトトス亜種はまだ立ったまま動こうとしている。
その鱗は亜種特有の翠色ではなく黒色にくすんでおり、瞳も赤々と光り輝いている。
穴の空いた頭部を揺らしながらガノトトス亜種は猛然と突進してくる。
今まで動きの無かったラギアクルスもそれに追随するようにして突っ込んでくる。
青年はまた同じく何も無い空間から今度は一対の銃を取り出した。
ラギアクルスが雷光弾を、ガノトトス亜種が水圧ブレスを放とうと構える中、静かに唱えた。
「━━━━━━『白珠よ、空を裂け』」
青年の放った銃弾はガノトトス亜種とラギアクルスの胴体へと吸い込まれるように着弾した。
しかし今回は違った。銃弾がその胴体に撃ち込まれた瞬間二体が周りの景色と共に歪み始め、そして絹を引き裂くかのような音と共に二体の存在が掻き消えた。
二体がいなくなった浜辺には波の音が響き、遠くの方で鳴く海鳥の声が微かに聞こえていた。
「━━━━さすがは空間を捻じ曲げる能力だこと。
使いどころが難しい上に抑制することすら難しいのにどうやってコントロールしてんだか」
「まぁ、確かに使いずらさはあるがそれでもだいぶ慣れれば楽だぞ」
男はそう言って酒場にまた入っていった。
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???サイド
「はっ、はっ、はっ!何なんだよ!!こんなに強ぇなんて聞いてねぇぞ!!」
ここは古くより人が足を踏み入れてはいけない地、『禁足地』
その頂のすぐ脇の山道を走り降りている人影があった。
彼は俗に言う『転生者』という者で軽い気持ちでこの禁足地に足を踏み入れ、そして全力で逃げている。
転生者の後ろには何もない。
しかしそれでも転生者は必死に逃げ続ける。
「糞、糞!糞!!なんだよあの神!この世界では転生者が一番強ぇんじゃねぇのかよ!
ふざけろよ!」
転生者は何処ぞに居るとも知れぬ神に文句を垂れながら後ろを確認した。
しかし後ろにはやはり何も無い。安堵した転生者が歩みを止めた。
しかしそれを見計らったのようなタイミングで上空━━━禁足地の頂きから甲高い鳴き声が響き渡った。
━━━━━━ゴァァァシャァァァ!!!!
「ヒ、ヒィィ!!」
その鳴き声と共に頂きから黒い何かが恐ろしい速さで降ってくる。
転生者は自分に与えられた特典という特殊な能力を使い逃げようとした。
「クソ!『テレポート』!」
しかし、もう遅かった。
「━━━━な、何でだよ、何で発動しねぇんだよ!」
転生者に与えられた絶対的な力の象徴である異能が使えない。
余りのショックに転生者は呆然と立ちつくしてしまった。
そこへ黒いなにかが覆いかぶさるように下ってき、遂に呑み込まれた。
「━━━ギャャァァァァァ!!!!!!!」
転生者は悲鳴を上げながら、のたうち回りその拍子に山道から滑落してしまった。
転生者の姿はどんどん小さくなっていき・・・・・・遂には見えなくなった。
『フ、フハ、フハハハハ!!!!!
足りぬ、足りぬ!まだだ、もっと寄越せ、我を満たせ!!
我は天を統べる龍なり、我が眷属よ我を、我を満たすものを!』
頂きには一体の白き龍と数十体もの黒い龍が集まっていた。
黒い龍等はその言葉を聞くとその翼をはためかせ、彼方の大陸へと次々と旅立っていく。
残された白き龍は禁足地の頂きより高々と宣言した。
『我は戻ってきた、我は再びこの地におりた。
我を阻むものはもういない。この地においてわれは絶対、我は最強なり!
我が眷属となりし者達よ、この地を、この世界を、死で閉ざすが良い!!!!』
未知の大陸、旧大陸、新大陸から離れた所にある禁足地。
その地において古の厄災を振り撒いた白き龍は復活した。
この禁足地に入りその姿を見たものはいても、生きてこの地から帰った者はいない。
古の物語の続きは今、時を遥かに超えて動き出す。