やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 誰がどう言おうと私は変態である。


忘れることなどありはしない。

 

「――――うそ……え、ほんと? なに、あ、え?」

 

「混乱する気持ちは解らなくも無くも無いですからとりあえず落ち着きましょう。このあってはならない状況の整理から、で、貴女誰ですか?」

 

「混乱してるのそっちじゃない? さっき私の名前呼んだよね、ね?」

 

「はいはいそうですよ私もただ現実を認めたくないで気ですよなんでいんだよ畜生が」

 

「酷くない!? 私はただ強引に連れてこられただけだよ!? 私が精霊って気づいているのにこのまな板女が無理矢理眷族にしたいしたいってぼやくの! そして気づいたらなんかとっても嬉しい状況になってどういう扱いにすればいいか至極検討中なの!」

 

 今まさに、指をその絶壁を誇る女神へ向けているのは、濃く明るい緋色となった短髪、そして何よりそのヘスティア様と張り合えるほどの巨峰が目立った女性に見えるおばさんだ。

 名をアストラル、光・熱系統星属性の……階級はいくつだったか。

 まぁそれはいい。

 

「ちょ、ちょっとまってねぇな。確かにアスちゃんはすっごもん持っとるけど……」

 

「勝手に人の名前を略さない!」

 

 一先ずの問題は、この騒いでいる二人だ。

 強引に連れてこられたと言うのが何時の事かは知らないが、普通にここへ入って来たことからして、慣れるまでの猶予はあった、つまりはある程度日は経っている。だが私が彼女を地上へ送り出したのはつい先日のことのはず。ならば、その日のうちに出会った(捕まった)とみるべきか。

 どうやって見つけたかは知り様も無いし、興味も無いが……この状況、(いささ)か問題があるのではないだろうか。

 具体的には――――

 

「誰」

 

「はは、ですよねぇ」

 

 素性と関係性を問いただされると言うことだ。

 どちらも答えるのは難しい。何せたった数時間程度しか関わっていないのだから。

 しかもそれはあまり口外したくないことである。

 

 だがしかし、この状況で逃れることは奇跡(ティア)でも起きぬ限り不可能。何とか回避しながら、説明する他ない。

 第一にして、周りの視線が痛いから。

 

「――――この精霊はティアと似た存在で、名はアストラル。素性について訊かれても、私は知りませんからね」

 

 嘘ではない。本当でもないが、この際仕方がないのだ。 

 

「そうか。で、どういった関係かの説明はあるのだろうな」

 

「何故に確定形? 別に説明する程のことはないですよ。それ程どうでもいい人ですし」

 

 続く質問に首を傾げる。一体どういった経緯でリヴェリアさんがこのことを訊くのかが分からないが、誰が訊こうと答えは変わらない。

 ぎゅっと握られた二名分の拳は、見なかったことにしておこう。

 

「そっけなさは変わらないのかぁ……はぁ……」

 

 嘆息し型を落とすのを、何かと見守っていると、「そういえば」と思い出す。

 

「私の服、返して頂けませんかね?」

 

「いやだ。絶対に返さない」

 

 彼女が今着ている上着。色落ちした黒色が主体となり、所々に赤黒さが見受けられる長衣外套(フーデット・ロングコート)は、色が明らかに変わっていても私があの日、彼女に盗られたものだ。

 だが彼女は、断固とした拒絶の意を、言葉と共に腕を抱いて表現した。今一瞬、「毎日着ているんじゃ……」と不吉な可能性が過ぎったが、無視だ無視。たとえ事実だとしても認めない。

 

「それに、貰って行くって言った」

 

「それを許容した覚えはない」

 

 何やらとこじつけて、何が何でも奪う気でいるのだろうか。だが、そうはさせない。思い出してみれば、意外とお高いオーダーメイドなのだ。対価も無しに渡す気は無い。

 

「……じゃあちょうだい」

 

「断る。早々に洗って返せ」

 

 うぐっ、と詰まった様子で少しばかり思案したようだが、返ってきた答えは可笑しなことに、考えるまでも無い馬鹿らしいこと。

 即答で早く返せとせがむものの、理性と本能が口走ったのは『洗え』と言う忌避。流石に他人が使ったものをそのまま使うのは嫌だ。

 

「じゃあ洗わないから返さない」

 

「洗わなくていいから返せ……」

 

 逆手にとられて、致し方なくその条件を放棄。結局自分で洗う手間が増えるだけだ。

 だがどうしてだろう、何故にして泣きそうな顔をされているのだろうか。

 

「……なんですか、その顔は」

 

「……私のこと、きらい?」

 

「好きか嫌いかで言えば嫌いですね」

 

「じゃあ好きかそれ程で言えば」

 

「それほど」

 

「好きか大好きなら?」

 

「大嫌い」

 

「そんな選択肢用意してない!」

 

 頭を抱えて何事かに苦悶する。こうも忙しいのはどうしてか。

 そもそもの話として、一体何が目的なのだろうか。方向性が全く見えない。

 それに加えてなんだ、この冷ややかな視線は。絶対零度のクズを見るような視線まで混ざっている気がするぞ。

 

「シオン、全部答えて」

 

 いや無理だろ。と反射的に答えそうになるのはぐっとこらえた。質問の発信源である彼女、アイズへ首を動かす。とそこで視界が吸い寄せられた。無感情の中にどす黒い感情を隠し持った、アイズの目に。

 一体何を私がしたと言うのだろうか。彼女に害を与えた訳でも、何か行動を間違えた訳でも無いはずなのだが……。

 

「なんで、この人がシオンの服持ってるの」

 

「盗られたからです」

 

「じゃあなんで盗られたの」

 

 答えようがねぇ……あのときアストラルが全裸だったから、と答えたら完全に自爆。かといって嘘を吐くのは断固としてお断りだ。

 状況に思案する最中、途轍もなく厄介な人が介入する。

 

「そんなの、欲しかったからに決まってるじゃん」

 

「……今、肌を逆撫でられたかのような不快感を味わいました……」

 

「それ態々声に出さないでよ……悪いとは思ってないからさぁ……」

 

「どういう因果関係だよ」

 

 意味不明。何故そうなったかすらわからん。

 大体そんなこと普通言わないで欲しい。なんなら吐き気まで催すことになりそうだから。

 

「……なんで、シオン服を盗れたの? 今こんなことになってるけど、シオンは注意深いし、簡単に盗れないはず」

 

 こんなって……随分な言われようだが、確かに今は完全に無力だし、碌に戦えもしないから適切と言えば適切か。

 

「シオンが服脱いでたから」

 

「……何で脱いでたの?」

 

「ちょ、待っ―――――」

 

 その先の語が予想できた気がして、本当に不味い状況になる前に止めに入るも、それは吉と出たか凶と出たか、答えは凶だ。

 確かに反射的に答えるのは止められたが、逆効果、考える時間を与えてしまい、にやっと悪い笑みを浮かべる顔を見てそれを確信する。

 絶対に、面倒なことになる、と。

 

「―――そんなの、シオンがお風呂に入ってたからだよ」

 

「……なんでそれを貴女が?」

 

「それはねぇ、一緒に入ったから」

 

「……終わった」

 

 思案を終えた時には、もう既に遅し。第二の手を打つこともできずに、私は終わっていた。

 そう、終わった。

 脱力し、首を前にこくっと折る。口元は引きつった失笑が浮かんでいた。

 注がれる視線が、非常に痛い。

 

「イレギュラー君、それはちょっと……」

 

「えぇ、無いわね……」

 

 今の今まで沈黙と通して来たヒュルテ姉妹までが失望の声を発すほどのものだった。

 それだけでは無い、横からぎゅっと掴まれ軋む肩、開いた窓から吹き通り、冷たく頬を撫でる風。あらゆる出来事が今は、自分を軽蔑しているように思えた。

 

「シオンたん、因みになんやけど、何で一緒に入ったん?」

 

「私が入ろうとしたら、一緒にと着いて来ただけです……あぁ、そう言えばティアもいましたねぇ、はは、ははははは」

 

「うん、思わず見惚れるほどシオン綺麗だったよ?」

 

「起きてたのなら助けてくださいよ……」

 

 無感情に、ほぼ反射的に、勝手に発した言葉。それに返されたのは気絶から回復してたのであろうティアだった。落胆の声をぼそっと嘆く。

 

「なぁなぁシオンたん、ティアちゃんとアスちゃんはどうだったん? 感想聞きたいねん」

 

「どうもこうも、ちょっと変わっているだけでしたよ……全身傷だらけで、無事なところなんて無くて、失明までして、感覚もあやふやで、並みの生命力でないことを証明していましたね……どうでもいいことですけど」   

 

 こんなことを説明して、一体何になるのだろうか。仕返し程度になったとしても(かゆ)いくらいのものだろう。

 証拠として苦笑いを浮かべているくらいだ。手痛い視線が薄れたのは心の平穏としてありがたいが。

 

「……なんで、そうなったん?」

 

「ハッ、知りたければ本人たちに訊いてくださいよ。どうせ答えないでしょうけど」

 

「シオンは知っているのか?」

 

「そんなことどうでもいいでしょう。もう終わったことです。綺麗さっぱり、彼女たちとは無縁のものとなりましたから」

 

 【カオス・ファミリア】の掃討は終わった訳では無い。ただ、実験に加担していた糞共は片付けた。散々苦しめて、希望をちらつかせて、果てに全てを絶望へと()とした。

 そして、ティアとアストラルはもうそれとは終止符を打っている。何ら関係のないことと、もうなっているのだ。

 

「それより、この場って会議で設けられたのですよね。ならその会議、続けます? それとも今すぐに打ち切ります? 私は後者が希望です」

 

 いやぁな空気になって来ていたのだ。早々に立ち去りたいものの、どうにも私にはできそうにない。なら、立ち去ってもらうほかないだろう。

 その口実は、原点回帰すればすぐにみつかる。本当は『穢れた精霊(デミ・スピリット)』についてあと少しばかり話したいのだが、それもこの雰囲気のままとなると難しい。

 

「そう、だね。では、この会議はお開きとしよう。みんな、解散だ。各々遠征後の後処理に入ろう。まだ、終わってないだろう?」

 

「そうじゃの。この空気もいやで仕方ないわい。ほれ、若人ども、さっさと立ち上がらんか」

 

 二人が場を切り、立ち去ると、続々とあとについていく。一人、また一人と部屋からは人が失せ、残ったのはたった数名。

 

「で、何故残っているのでしょうかね」

 

「年頃の二人を部屋で他人がいない状態にしておくなどと、放っておけるわけがあるまい」

 

 翡翠(ひすい)髪の隣に立つエルフに、視線を向けながらそう問うたが、返ってきた答えは事前に用意していたかのようなものだった。

 

「別に二人じゃないけど?」

 

 それに反発する銀髪の幼女こと上位精霊。純粋に疑問に思った私とは異なり、彼女は何やら意図があるように思えた。

 

「あとそれ、遠回しに自分のこと老齢の人だって言ってますよね?」

 

「うぐっ……と、兎に角私もここに残る。シオンがせめても自分で歩けるようになるまでは、な」

 

 私の指摘に行き詰まるかのように若干仰け反ったが、貫徹するつもりか退くことは無かった。 

 四人。人外級と人外がここにいる。流れて的に居ても可笑しくはないアストラルは、先程首根っこを掴まれて神ロキと共に部屋を後にしていた。

 

「……リヴェリア、後処理はいいの?」

 

「っ……シオンいいか。絶対に不純なことなどしてはならないからなっ。たとえ君が女性の様であっても本当は男だ。何を考えているか残念なことに知れないが、手を出してはならんぞっ、いいな」

 

 どうやら流石幹部というべきか、色々と仕事があるのだろう。渋々の様子で一度諦めをつけたかに見えたが、何故かなんやかんやと言われる始末。 

 

「不純でなければ良いのですね、わかりました」

 

 とりあえず見つかった抜け道で了承しておく。つまりは純粋なら何をしてもいいと言う訳で、あれやこれやとやりたい放題なわけだ。

 

「……嫌な予感はするが、とりあえず信じよう。シオンはそんなこと、しないはずだからな」

 

「どんな信用だよそれ」

 

 根拠のない信用があるようだが、それはうまく利用させてもらうこととしよう。

 憂いがあるかのように幾度も振り返りながら部屋の戸に手を掛けている様は、本当に信用したのか疑える。その後歯を噛みしめながら立ち去って行った理由が今一度考えてみても分からない。

 

「ま、いいでしょう。それで、ここに残るはいいものの、何します? 暇になりますよ?」

 

「じゃあシオン、あのね、したいことがあるの」

 

「何ですか? 率直に言ってくださいな」

 

 ベットの上で私に向き直り、もじもじとしているアイズに目を向けると、途端俯き、だがしかし後に言葉は続いた。

 発しながら、少しずつ、顔を上げる。

 

「いしょに、お風呂入ろ?」

 

「……今何と?」

 

「も、もう一回言うの? 聞こえてるのに? 意地悪したいの?」

 

 上目づかいでの衝撃に加えて、信じられない発言に思わず聞き逃したかのように思考が(ほう)けてしまった。だが、声に出した瞬間その呆けは晴れ、正常な思考に戻る。

 二度目を言う必要はもうないのだが、慌てふためきながら顔を赤くし、頑張って言おうとしているというのが目に見えて判って、つい先を待ってしまう。

 だが、その先見ること叶わず。

 

「じゃぁ、私も入る!」

 

「……ティア、空気読めよ。あと少しで、非常に可愛らしいアイズの反応が見れたのですよ。何邪魔しているのですか」

 

 というのに気づけと言うのは、ティアには悪いか。まぁ大丈夫だろう、ティアには大人しくしていてもらえば、何一つ支障はない。

  

「……やっぱり、聞こえてた。シオンのいじわる」

 

「グハッ……な、なんだこの破壊力は……諸に応えたぞ……」

 

 ぷいっと頬を膨らまさてそっぽを向くさまは、愛でたくなるほど可愛らしい。年上と言うのが嘘みたいで、なんなら妹に欲しいくらいだ。

 いや駄目だ。それなら結婚なんてできないではないか。アブナイアブナイ。

 

「そんな演技なんかしてないで、ほらほら、さっさと行っちゃおぅ!  じゃないとまたあの小煩いエルフの人が来るからね」

 

「うん、リヴェリアにばれたら怒られる」

 

「あ、肩を貸してもらうだけで大丈夫です。少しばかり、感覚が戻ってきているので」

 

 ティアの意見に賛同したアイズがせっせとクローゼットから服やらなんやらを取り出している姿をガン見するわけにもいかず目を逸らし、近寄って来て肩から腕を通したところでそう言う。

 そして思い出した。かなり重要なこと。

 

「……私、着替えがありません」

 

「じゃあ、私の使う?」

 

「それはいろいろ問題あるでしょうっ!」

 

 流石に私もその提案には驚いて、思わず声が少しばかり大きくなってしまった。きょとんと首を傾げている意味が逆にわからない。

 

「……変じゃないと思うよ?」

 

「むしろそこが問題ですよっ。いやそれ以外にもありますがね?」

 

 まぁ結局、サイズが合わないから入らないと思うのだが。

 はてさて、どうしたものか。

 ティアは別にどうでもいいとして、アイズと一緒に風呂に入れる機会は逃したくない。着替えを使いまわすと言う選択肢は無くはないのだが、正直言うともうそろそろ変えたい。だって三日は同じ服を着ているのだから。

 

「うーん、いい機会だしやってみようかなぁ」

 

「何を?」

 

転換生成術式(トレース)の実践」

 

 何か今聞いてはならないことを聞いた気がした。

 何やろうとしているんだか。そもそもそれは、神が行う大地創造と殆ど変わらない行いだ。下手すれば神にばれる。

 というか、何故そんなことが出来るのか訊きたい。下手すれば夢の未現物質(ダークマター)とか作っちゃいそうだから。

 

「いい?」

 

「とりあえず方法を。そこから検討します」

 

「なんか適当に材料用意して、それを分子レベルで解体して、組み上げた物質を想像したものと酷似させるの。ね、簡単でしょ」

 

「全然全くこれっぽっちも簡単じゃないですよ……そもそも分子って何さ、知らんわそんなの」

 

 もはや検討するまでも無く嫌な予感がする。聞き覚えの無い単語まで出てきたし、一体彼女はそこまで発展しているのか。

 

「説明面倒だからやーだ。でも別にいいよね。なんか服ない?」

 

「……ある、かな?」

 

 勝手に話が進んでいるようで、私を椅子へ下ろしたアイズがまたもクローゼットを漁る。

 一枚、二枚、三枚と、知らぬ間に服が置かれていた。

 それは小さく、とてもアイズが着れるような服では無い。黒いワンピースや、小さな靴下、それに加えて白い下着(パンツ)まで置かれていた。

  

「これ、私が小さいときに着ていた服」

 

「アイズの、幼少期……やばい興奮してきた」

 

 知っているから尚興奮と想像が止まらない。見覚えのある服では無かったが、何ともまぁあの一瞬の光景からアイズを動かしてこの服を着させると……めちゃくちゃカワイイ。抱きしめてくなるくらい。

 

「もう、着ないから、使っていいよ」

 

「いろいろ突っ込みたいけど……ま、いいや」

 

 何やら腑に落ちないご様子だが、無理矢理納得したらしい。

 ベットの上に並べられたそれらに手を(かざ)し、一言。

 

「【転換生成(トレース)】」

 

 橙色の魔力光がうっすらと包んだかと思うと、その後爆発的に光が弾け、気づいた時にはそこに見覚えのある漆黒の長衣外套(フーデット・ロングコート)が一着、ぽつんと何気なく在った。

 凄いと言う関心と共に、ここでまた思い浮かぶ。

 

「上着だけじゃ意味無くね?」

 

「あっ」

 

 ティアもどうやら今気づいたようだ。変換した本人がそこを忘れると言うのは、どういうことか。

 まぁ、別にいいか。

 

「そこまでの要求は止めです。これでいいですよ、下着の方はもう一日の辛抱となりますが」

 

「なら最初っから全部そうして欲しかったかなぁ……」

 

 苦言を呈されたが無視して問題なかろう。

 アイズがその服を私に持たせ、肩をとる。体重半分を支えられれば、今は歩けるくらいだった。

 風呂場でもこの状態となればかなり問題となるが……大丈夫だろうか。

 

「……どっちに、入ろうか」

 

「女湯で良いんじゃない? シオン一見女みたいでしょ? 下は全然男だったけど」

 

「わかった」

 

「おいちょっと待て、私の意見はどうなって―――いやだからッ」

 

 ここは全く意見が取り合われることはなった。

 確かにアイズを男湯など野蛮人の集まりに入れるわけにはいかないが、こちらだと人との遭遇率が増すし、何より社会的に死ねる。ばれたら確実に。

 

「という懸念はいざ知らず。誰もいなくてよかったぁ……」

 

「うん、じゃあ……入ろっか」

 

「シオンは私が脱がせるね」

 

「じ、自分で何とかしますから」 

 

 流石に着替えまで手伝ってもらう訳にはいかない。ここは意地でも、一人でやるべきことだ。

 シャワー室と浴室に分かれているらしい【ロキ・ファミリア】の浴場は、率直に言うと話に聴く限り『アイギス』の浴場より小さい気がする。本当にいい買い物をした、億がするだけあったものだ。

 棚の反対側で何とか苦行を極める脱衣を終えたところで、二人の待つところへいそいそと辛い五歩を歩むと、やはり、記憶通りそこは最高であった。

 

「はぁ、今昇天しても可笑しくないです」

 

「シ、シオン? 顔が可笑しなことになってるよ?」

 

「すみません、弛緩してました。気を引き締めていきましょう」

 

 真剣な面持ちに一転し、興奮して()つことはないように何とかして、歩みを進めようとしたが、そこで脚から力が抜ける。

 

「……大丈夫?」

 

「えぇ、最高です……」

 

 だがアイズの胸へとダイレクトに飛び込み、とても心地よい感触を味わいながらなんとか肩を借りて立ち上がる。

 

「ひゃっぅ」

「やわらかっ」

 

 その時迂闊(うかつ)にも前触れなく触れてしまった膨らみの感触は、忘れるはずも無い。

 

「……おぉ、シオンのおっきくなった。私じゃ興奮しなかったのに。なんか悔しい」

 

「何処見てるんですか……」

 

「あっつくて、カタイ。なんか、大きい……」

 

「感想言わなくていいから。恥ずかしいからっ」

 

 アイズの右脚にアレが擦れている所為でとってもやばい状況。今すぐに脱すべきという理性と、このままいようぜと言う本能は第一合で決着し、私はアイズにくっつくことを決めた。

 

「じゃ、じゃあ行こっか」

 

 少し熱くなる吐息にアイズは気付いているか。だがその理由は恥ずかしいからあまり知られたくはない。

 動揺するのは私も彼女も変わらず、緊張は心臓の律動が物語っていた。

 

「あれ? シオン、【ステイタス】は?」

 

「……何ですかティア。水を差そうとしても無駄ですよ。この空気はもう壊れない」

 

「突っ込みどころ満載だけどそういう事じゃなくて。シオンの【ステイタス】はどこいったの?」

 

「は? 何を言って――――」

 

 ティアの真意が掴めない質問、理解に苦しむそれは、一瞬にして理解させられた。

 洗面場所として設けられたそこにある一枚の鏡、そこに私の背が映されていた。

 何も記されていない、素肌のその背が。

 

「は? え? どういぅ、え?」

 

 混乱が始まる。理解からの逃避に必死になりつつ、状況は着々と理解でき、そしてある出来事を思い出した。

 私は一度、死んでいる。それも完全に。そこから蘇生したのだ。

 ならばあることが予期される。

 【ステイタス】とはその者の物語だ。死んでから何もせずとも二十四時間経てば消えてしまう。特殊加工をしなければ、それだけで終わってしまうのだ。

 つまり、私にもその条件が反映された。

 

「……これはまた、一からやり直しになりそうですね……」

 

 別段強さに拘る気は無いが、相応の衝撃はあるものだ。

 自らに落胆すると、アイズが「よしよし」と撫でてくれて、もうこのままでいいのではないかと思ってしまったりするが、全然良くない。

 後で、ヘスティア様に謝らなくては。

 

「じゃ、入りましょうかね」

 

「う、うん。頑張るから」

 

 何か気を引き締め、覚悟を決めたかのように力を込められたが、何のことかその時は解らなかった。

 ただ、少し経てば非情にわかりやすく理解させられた。

 

 語るのは非常に難しいため、端的にその時の気持ちを纏めよう。

 

 すごく、気持ちよかったです……

 

 この日、私は青年から、男へと昇進した。

 そしてアイズも、大人の女性へと昇華した。

 更に言えばティアも何故か、一端の女性へと自らの意思で戻ったのだった。

   

 絶対に忘れられない時間だったと、確信して言えよう。

 

 

 

 





 再度言おう、私は変態である。
 だからこの日を書けと言われれば、何とかして書こうじゃないか。
 R-18になるから、別で投稿しなきゃだけどね。

 気が向いたら、うん、書いておきます。ぐへへ……
 

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