やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 引きずる形式をやってみたかった。

では、どうぞ


破天荒、それは二柱

 

 半日ほど、時は過ぎているだろうか。

 『朝』は『昼』に差し掛かる頃合いで、ぐっすり眠る少年たち。

 疲労だけでは無いだろう。今は跡形も無く去ってしまったが、内外共に損傷が激しく、内部の内部。精神すらも()り減らせていたのだから。

 

「そろそろ起きますかね」

 

「半日もぐうたら寝てたら起きないのはオカシイし―――あと離れる、今直ぐ」

 

「「やだ」」

 

「うぅぅ……なんでシオンまで言うのぉ……」

 

 ある天幕の中、六人の少年・青年・男の娘・幼女・少女・ロリが狭苦しく集合している。

 片三人は見ての通りぐっすり。だがもう片やの三人は静かに戦っていた。

 何故かと言えば単純、彼らの集まり方に在ろう。

 

 男の娘(シオン)を中心に両腕(両手)精霊()状態だ。

 右腕に幼女(ティア)、左腕に少女(アイズ)。防具と言う隔たりを持たず、二人は完全に密着し続けているのだ。

 いろいろな理由から発せられる熱で天幕内はむんむんとしている。当たり前のように汗を流し、それでも臭くならないのは一体なぜだろうか。

 というか、むしろいい匂いと言うまである。

 

「それにしても……見返すとかなりすんっばらすぃい状況ですねこれ……」

 

「ちょ、ちょっとシオン⁉ い、言わないよ恥ずかしくなるじゃん!」

 

「もっとすごくする?」

 

「耐えられなくなりそうなのでまた後日に」  

 

「何約束してるのぉ⁉」

 

 騒がしいティアを差し置いて、身を更に寄せ合い、もう抱き着き合っている二人。

 それは流石に耐えきれないようで、いじけながらも引き剥がす形で自分の存在を主張した。暑さで体力が持って行かれているのだろうか、息はとても荒かったが、それは意図せず自己主張力を向上させている。

 

「ぅ……」

 

「あ、ほら、起きました」

 

『――――』

 

 突然距離を置いた二人。あんなに積極的であったがそれは鳴りを潜めたようで、いうなれば羽目が外れていた。そんな状態だったのだろう。だが元に戻れば、あとは今までの行いを振り返る時間がやって来るだけだ。

 赤面して身(もだ)えるティアに、顔をはっと気づいて一向に顔を向けようとしなくなったアイズがその空間には見られ、独り頬を染める程度でいるのは一体どうしてか。

 

「―――――リリ、ヴェルフ⁉」

 

 瞼を開け、数瞬を呆然(ぼうぜん)と眺めるだけの時間で埋めると、はっと気づかされたかのように突然起き上がって叫んだ。

 忙しなくキョロキョロと見渡しているが、全く見えていない様子。

 

「ベル、少し落ち着いたらどうなのですか?」

 

「え? …………って、シオン⁉ 深層に居るんじゃないの⁉」

 

「ちょっと諸事情がありましてね。説明面倒なので省きますけど」

 

「いや、そこ省いちゃだめだから」

 

 普段通りに突っ込みを掛けるベルはどうやら落ち着けたようだ。忙しなく首を巡らせるもを止めている。冷静に視線を巡らせて、一つ一つを確認していた。

 背後を見た時に浮かんだ安堵の表情は、仲間想いの証拠だろうか。

 

「って、アイズさん⁉―――それにティアさん⁉」

 

「あ、何日かぶりだね。あと三日くらい寝てても良かったんだよ?」

 

「ベル、大丈夫? 傷は治ってると思うけど……」

 

 ティアは挨拶に紛れて本音を漏らし、アイズは仄かに朱色を残して、驚き仰け反るベルに向き合いながら調子を確かめる。

 

「―――ほんとだ、治ってる……」

 

「えっへん」

 

 腰に手をあて、若干弱々しいものを主張をする。だが悲しきかな、ベルですらそれには何も述べることは無かった。

 単に驚きの所為で気づいてないだけなのだが。

 

「あ、そうだ。アイズさんはどうしてここに?」

 

「私は、その……いろいろあって、十八階層でとどまることになって……」

 

 私にはすらすらと(しゃべ)ってくれることが多いが、本来アイズは『こみゅしょう』というものらしいからこれは仕方ないことなのか。

 自分には気軽に接してくれるのが、少し嬉しく感じるのは気のせいでは無いはずだ。

 

「あ、ベルベル。今普通に動けますよね、ならついて来てください」

 

「え、なに? というかどこに?」

 

「ちょっとフィ―――【ロキ・ファミリア】の団長様に挨拶しに行くのですよ。ベルが」

 

「なんで僕⁉」

 

 即座の返しは良い反応。驚かせるのはやはり楽しい。

 フィンさんから、『一応事情説明を受けるために、彼が起きたら連れて来てほしい』とお願いされたのだ。形式上そういったものは必須事項だから、仕方のないことだし、見ていて楽しそうだから快く承諾したが。

 

「んじゃ、案内しますね」

 

「……シオンは一緒に」

 

「行きません。案内だけなので説明等は自分でしてください。私は傍から見てますから」

 

「シオン、そう言えば話し合い中は入っちゃ駄目だってリヴェリアが言っていた」

 

「マジかよぉ~。つまんねーぇ」

 

 額に手を当て天を仰ぎ呟く。まさかのお達しは必要性が正直理解できないが、大方情報詮索が理由の旨だろう。ベルからは聞き出しやすいと思っていのだろうか。それは大いに間違っているのだが。

 というか、ベルは素で知らないと言えるからよっぽど性質(たち)が悪い。 

 

 ご愁傷様です、頑張ってくださいな。

 

 哀れげにそう心中呟き、ベルを送り届けたのだった。

 

 

 

   * * *

 

 妙に視線が痛い。今までこうも直に判りやすい殺意や嫉妬(しっと)憎悪(ぞうお)憤怒(ふんぬ)、呆れの視線を向けられたことは無かったのだ。中々に心地よい。

 

 原因は簡単、自然と創造された見えない隔たりの在る空間で行われていることにある。

 

「シオン、これ、食べてみて?」

 

「食べかけじゃ……あ、はい、いただきます」

 

「うわぁぁぁ! 待って待って間接キスなんて許さないもん!」

 

「――――時すでに遅し」

 

「ずるいぃっ! じゃ、じゃあわたしはこれ! シオン、あーんっ」

 

「はいはい、あーん」

 

 純粋な気持ちで自分の行いの問題に気づかずやってしまうアイズと、能動的に下心によって動くティア。アイズに対してはもうどうしようもないので、真摯に従っているが、ティアに対しては子供を相手する感覚だ。あやすように言うことを聞いてあげている。

 

「いぃなぁ……」

 

「なっ⁉ ベル様ベル様! 羨ましいのであればリリがいくらでもしますよ!」

 

「へっ? い、いや! そういうことじゃなくてっ!」

 

 あっちもなんだか騒がしい。というより、ここ一帯は賑やかな雰囲気で満たされている。誰もが笑み―――それが黒い理由だとしても―――を浮かべており、楽し気に振る舞っているのだ。

 

 流石にここは(おおやけ)だから、アイズもティアもある程度の自重はしている。距離も密着されることはなく、服がしょっちゅう(こす)れるくらいだ、   

 それでも十分近いが、先程のことを考えれば我慢している方なのだろう。

 密着状態が別に嫌なわけでは無い、というかむしろ嬉しいから。

 

「あ、そうだ。シオンって、この後どうするの?」

 

「といいますと?」

 

 突然出た今一要領を得ない質問。その顔に、期待と寂しさが浮かんでいるように見えるのは、見当違いだろうか。

 だがそれを直接聞けずに、全体について聞いてしまう。

 

「私たちはベートさんが薬を持って来て、みんなが回復したら帰還するけど、シオンはどうするの?」

 

「あぁ、そう言うことですか。予定としては、アイズたちと共に一時帰還するつもりです。フィンさんからもそうお願いされてましたしね」

 

 ティアに、一度使ったあの座標を再設定してもらうためなどと他にも理由はあるが、アイズにも分かりやすく説明できるものはこれが一番だろう。

 実際にそうお願いされたし、承諾もしていたのだから。

 

「ねぇシオン、今日は一緒にねよ? 昨日はシオンが気絶したから無理だったけど、今日は大丈夫そうだし、いいよね?」

 

「ダメです」

 

「なんでなんでぇーありのままの姿でいいからさぁ」

 

「もっと駄目だろ、諦めろ」

 

 ちょっとティアが図々しくなってきている気が否めないが、後々矯正しようか。

 流石に面倒だし、何よりアイズからの視線が身体を刺してくる。痛くて(かゆ)くて堪らない、それにアイズがそんな痛まし気に私を見るのは少しどころでは済まず、嫌だ。

 それ以上の同系列の視線を、ティアにも同じく向けていたが。

 

「じゃあせめてよば―――――」

 

「――――――――ぐぬあぁっ⁉」

 

 更に不味い発言をしようとしていたことが予想できたティアの言葉は、突然の高らかに響いた聞き覚えのある絶叫で遮られる。

 中々によく響く甲高い声だ。奇声とまで言えそうだが、そんなことを気にするよりかは、何故彼女がここにきているのかを知らなくてはならない。

 

「事情聴取ですかね。んじゃ、行ってきますっ」

 

「え、ちょ」

 

 戸惑いを浮かべていたが、そのくらいなら措いていく方が速く着く。

 といっても、然程離れている訳では無い。秒も掛からず着くほどに。

 

「ごふっ」

 

「ナイスダイブ。大丈夫ですか、ヘスティア様」

 

 丁度よく飛び込んできたヘスティア様を受け止め、ベルじゃなくてごめんね、と内心呟きながら勢いを殺し、足に地面を踏ませる。

 

「その声は……シオン君⁉ 深層に言っているんじゃなかったかい⁉」

 

「ベルと同じこといいますね……」

 

 (うず)めていた顔をぱっと上げると、驚きを隠さず後ずさり、『()眷族()はよく似る』というが、事実そのようだ。ベルと同じようなことを第一声で口走る。

 

「ん、まて、ベル君と同じこと?……あ、それっごふっ―――」

 

「――――痛ってぇ……なんだよあのデカいの。死ぬかと思ったよほんとに、まぁ死なないけどさ」

 

 気づいたことの確認のように問おうとしたヘスティア様に、勢い余って後ろから突撃し、それを遮ったのは、緑色の旅人が被りそうな帽子が印象的の優男然とした神――神ヘルメスだ。

 

「お、シオン君じゃないか、久しぶり? といってもちゃんと話してもないか」

 

「ですね。初めまして、といっても可笑しくないですよ、神ヘルメス。それと、早く退()いては?」

 

「おっと、悪いヘスティア。意外と気持ちよくて気づかなかった」

 

「それって気付いてるだろ、ヘルメス……」

 

 はぐらかす神ヘルメスにヘスティア様が悪態を呟く中、また数名、次々に下りの洞窟の薄闇に姿を現す影、それはこの二人のように神では無く、(れっき)とした人間であった。

 一目で極東出身と判る三人、【タケミカヅチ・ファミリア】の命さん、桜花さん、千草さんが重い面持ちで突っ立ち、それを避けて出てくるのは、緑色のケープを纏ったどことなく見覚えのあるエルフと、水色(アクアブルー)の髪に疲れた目をほどよく隠す眼鏡が良く目立つ【万能者(ペルセウス)】ことアスフィさんだ。  

 気配が全て見える範囲に出たところで、私の背後からも接近し、到着する気配。

 ベルと愉快(ゆかい)な仲間たちに、【ロキ・ファミリア】と【ヘファイストス・ファミリア】十数名だ。

 

「――――なんであいつらがここに……」

 

 赤髪の青年、確かベルの専属鍛冶師(スミス)、クロッゾとかいう落ちこぼれ貴族となった、精霊への反逆者一族の末裔(まつえい)だったか。その呟きは今一真意を掴みかねるが、彼のこともその呟きも興味ない。問題は何より、眼前の二柱にある。

 

「じゃ、ヘスティア様、神ヘルメス。事情聴取といきましょうか、ね?」

 

「「は、はい」」

 

 とりあえず、発端であろうヘスティア様と、何か隠していそうな神ヘルメスからいろいろ聞き出せばいい。最悪弱いところを突けばぽろっと洩らしてくれるだろうから。

 

 

 

 

「はい、そこに正座」

 

 誰もいないであろうこの場所、天幕の中ではなくあえて野外、大木の下だ。

 駄神(だしん)二柱(ふたり)を嫌々言いたそうな顔を無視して、眼光でさっさとしろと促す。

 

「か、神相手に容赦ないね……」

 

「いやいやヘスティア。だからこそシオン君じゃないか。神を容赦なく斬る人間だぞ?」

 

「安心してください。余計なことをしなければ、安全は保障します。例えば、本当のことを言わなかったり、ね」

 

「こわっ、シオン君がいつもより怖ぃっ」

 

 保険をかけて、話が円滑(えんかつ)に進むことを期待しながら、話をそのまま進める。

 

「で、まずは話したいことを話して良いですよ。私の聞きたいことを含めて」

 

「無理っぽくね?」

 

「ア?」

 

「わ、わかった。話せばいいんだろう? 話すから、刀に手を掛けるのは止めてくれ」

 

 牽制程度の圧と行動は見た目通り効果は()()ようだ。軽薄な笑みを絶やさないのがその証拠といえようか。ただし、女神様の方はどうやら効果抜群の様で、とても御しやすそうだ。

 

「ボクたちが態々ここまで来たのは、ベル君が心配だったからさ」

 

「ベル? これまたどう―――あぁなるほど」

 

 言わんとしていることはそれで大方読めた。

 ベルは中層で決死行に挑んだ、でもそれは予定にもない異常事態(イレギュラー)があったため。ヘスティア様にベルが約束していた期日になっても帰ってこなかったこと、それを心配したのだろう。

 それだけで来られるのは迷惑極まりないことなのだが、心配性の一言で片づけられそうだ。

 

 どうせ、冒険者依頼(クエスト)でも発行して、それに知己の仲である【タケミカヅチ・ファミリア】が協力し、面白そうだとかいう理由で神ヘルメスが参加したのだろう。それに付き添う形となったのがアスフィさんか。本当に苦労者だ。顔を隠したエルフことリューさんは、正直理由は不明だが、あとで本人から聴かせてもらうことにしよう。

 

「じゃ、ヘスティア様はもう様済みなのでベルと親睦を深めてきて良いですよ」

 

「え、でも……」

 

「はぁ……早く行ってください。正直邪魔ですし」

 

「酷いっ⁉ わ、わかったよ、この場に居なければいいんだね……」

 

「えぇ、邪魔ですし」

 

「二回言う⁉」

 

 驚き仰け反り、文句を挙げるヘスティア様を手で払い、渋々の様子で明るい方向へ向かう彼女を見ながら、すっと手を伸ばし、柔らかく掴む。

 

「げっ」

 

「逃がしませんよ?」

 

 『抜き足差し足』、間抜けにもそう呟きながら逃げていく彼を逃がさない。

 疚しいこと隠したいことがある証拠。判りやすいが懸命だ。でも意味はない。

 

「じゃ、洗いざらい吐いてもらいましょうか。貴方の思惑とやらを」

 

「はははっ、よく気づいたね」

 

「じゃなか殆ど他人の貴方が私たちの為に犯罪を犯す意味は無いでしょうに」

 

「あれあれ? 『バレなきゃ犯罪じゃない』って知らない?」

 

「バレてるから犯罪だって言ってるんだよ」 

 

 神威を隠そうと努めているようだが、隠しきれてない。

 間近で色濃く良く感じる、離れていても判りやすかった。こいつら神の気配は人間のそれとは異なり文字通りの格が違う、(しゃく)なのだが。 

 どうせギルドの管理者、神ウラノスとやらも感づいているはずだ。そうでなければ管理者とは名ばかりのものとなる。そこまで落ちぶれてはいないだろう。

 

「仕方ない、か。君には本当に話したくないんだけど、流石に天界に戻るのは御免だしさ」

 

「でしょうね、それと、余計な前置き入りませんから」

 

 本題だけで十分だ。あとはそこから探ればいい。

 それに、前置きをされると余計に情報が混乱しそうで、それは面倒だし。

 

「じゃあ、率直にいおうか―――――未来の英雄を見に来た」

 

「!」

 

 久しぶりに、虚を突く驚きによって心が揺すられた気がした。

 

 

 

 


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