やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 シオン、チートキャラの予感

では、どうぞ


再会、それは偶然

 

  一週間でしたことのざっくり説明。

鍛錬をした。

【ステイタス】についての情報を集めた。

神聖文字(ヒエログリフ)の読み方を憶えた

ダンジョンについて調べた。

モンスターの出現階層と攻撃方法を粗方憶えた。

ダンジョンの階層について調べ、憶えた。

ギルドでアドバイザーを紹介された。担当はミイシャさん。

アイズ・ヴァレンシュタインさんについて調べた。

 

 と、こんなところだ。

 

 そして今は、ベルと共にダンジョンに潜っている。私は初挑戦、現在一階層。まだモンスターはいない。

 

「ベル、今日まで数回潜ったようですがどうでしたか?」

 

「う~ん、まだ三階層までしか行ってないから断言はできないけど、シオンの方が強かった」

 

「はい?」

 

「いや、モンスターも強かったよ。でも、僕、シオンに一撃も当てたこと無かったでしょ? だけどモンスターには当たるから」

 

「そんな理由で判断されるとは……モンスター達も気の毒に。まぁ、実際に試してみますけど」

 

 そういうと同時にピキッと音がした。それはダンジョンの壁から、モンスターが生まれる前兆だ。

 壁が壊れ、出て来たのは三体、ダンジョン最弱モンスターであるゴブリンだ。

 此方に気づくと向かって来る。それを見てゆっくりと抜刀。

 飛びながら攻撃してきたゴブリンたちを一閃、魔石ごと断ち斬ってしまった。

 断末魔すら上がらない。横を素通りするゴブリンに力はなかった。

 

「しくじりました」

 

 そして、モンスターが灰へと変わる。魔石は一つも残らなかったがドロップアイテムが落ちていた。

 ドロップアイテムとは魔石以外にもう一つ換金できるものであり、モンスターの魔石を傷つけても落ちることがある。大抵はそのモンスターが落とす魔石より高価だ。因みにゴブリンの場合、ゴブリンの牙というもの。稀少とは言い難く、一般人でも入手ができるほどのモノで、換金しても少しマシくらいだ。

 

「あっけないですね」

 

 そう思うのも仕方のないことだ。こうも容易く斬れるとは、正直期待外れだ。

 用意していた小袋にドロップアイテムを仕舞ってベルの方を向くと、わなわな震えながら俯いていた。

 

「シオン……今の、力の何割」

 

 平坦な声で、そうとだけ訊かれる。 

 

「というと?」

 

「今の攻撃、どれくらい本気でやった」

 

「本気? いえ、力の一割も出してませんよ? ただ斬っただけです」

 

 何を馬鹿なことを、内心呟きながらも答える。

 それを言った途端、ベルの顔が青ざめた気がしたのは気のせいだろうか。

 ハハハッ、壊れたかのような失笑らしき声が届く。 

 

「シオン、これからは別行動にしよう。シオンはもっと下の階層に居るべきだよ」

 

「確かにそうですね。このあたりのモンスターでは手応えが無い。ですがベル。大丈夫ですか? 一人で」

 

「うん。だいじょうぶだよ。そこまで深く潜らないから」

 

「そ、そうですか。では、私は下の階層に行きます。またホームで会いましょう」

 

「うん」

 

 言えない。ベルの声が何故か怖かったなんて口が裂けても言えない……

 歩き立ち去る時に振り返ってみたが、その目は空虚、漏れ出る声がただ繰り返されるだけの笑い声。 

 何が原因なのかは、全くもって分からなかった。

 

   * * *

 

「よっ」

 

 私は今、ダンジョンの十階層と九階層を繋ぐルームに居た。いつもは十二階層あたりで戦うが、今は事情が異なった。

 仕方あるまい、十二階層で戦うよりも良い獲物がいるのだから。

 

「そいやっ」

 

 今私が戦っているのは牛頭人体のモンスター、ミノタウロスだ。

 本来、ミノタウロスは中層の十五階層から出現するはずなのだが、何故か居たためイレギュラーだと思い対処しているところ。

 ミノタウロスは推定Lv.2、だが正直、そこまで強くない。実際、相対しているのは全九体だが問題なく対処している。

 技も駆け引きも無い純粋な力だけの攻撃など、私には無意味だ。

 

 屠り続けていると、だが問題が起きた。

 五体ほど倒すと突如、ミノタウロス達が逃げ出したのだ。それも多数に分かれる通路へ。

 あぁ、逃げたか。そう嘆息するも束の間、思い出す。ベルが上層、この階層より上に居ることに。

 もし、ベルとミノタウロスが遭遇したら? 考えるまでもなかったことが体をすぐに動かした。

 全速力でミノタウロスを追いかける。だがミノタウロスは上へ上へと上がっていく。七階層あたりで一体倒しさらに上へ。

 そして、五階層についた。懸念が現実となる。

 ベルの叫び声が五階層で反響した。音の発信源を追って、助けに向かう。

 途切れることなく響く悲鳴を追って走っているうちに気づく。この先の道には一つ行き止まりがあることに。

 さらに速度を上げる。すると私の横に()()ぎった。

 思わず足を止めてしまった。過ぎった()()()に見覚えがあったからだ。

 いや、それは正確ではない。その風の主が随分と成長していた。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 そしてベルのまた違ったが絶叫が聞こえ、今度は()()()()が私の横を通る。血の臭い、ミノタウロスの血でも被ったのであろうベルだ。

 普通なら追いかけるだろうが私の足は逆の方向、ベルがいたほうに向かっていた。確かめたかったから、求めてしまうから。

 そして、見つけた。()()()、それはやはりアイズ・ヴァレンシュタインさんその人であった。

 随分と変わり、成長している彼女。横顔しかはっきりと見ていなかったが、見紛うことはない。あれほど神秘的な美少女など他に居ないだろうから。  

 私が近づくと彼女もこちらに気づいた。そして目が合う。

 待ちにも待った再会。一日千秋の想いで待ち続けたこの時。。八年前のお礼を言おうと、自然と前に出る足に従い近寄った瞬間――

 

――視界が歪んだ。同時に全身が熱くなり、胃の内側が暴れるかのような猛烈な吐き気。

 頭が突き刺されたように痛い。ただ苦しい、呼吸が辛い。吸う量と吐く量が釣り合ってない。

 八年前のあの時を思い出すが、それとは何処か根本的に違っている気がした。

 歪む視界の中、彼女も私と同じく苦しんでいた。証拠に膝で体を支え、片手で頭を押さえている。俯き顔は見えないが、あの顔が歪んでいると考えると別の所が苦しくなってしまう。今この状況が私の所為であるのならば。

 私は彼女よりも症状が酷かった。全身に力が入らず地面に倒れ、握っていた刀も握力が無くなったかのように握れない。視界の歪みも酷くなってきた。同時に全身の熱も増していく。

 そして何故か声も出ない。悶えて苦しみを誤魔化したくとも体が言うことを聞かない。

 だんだん意識も薄れてきた。感覚も無くなっていく。それだけは八年前とよく似ていた。

 でも、何故か今度も怖くは無かった。私はそれよりも再開の喜びに浸っているらしい。

 薄れゆく意識の中、今回も彼女のことを見ていた。

 朧気な視界の先で、驚きに染まった彼女の顔が最後の光景となる。

 理由は、知れない。

 

 


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