内容が薄すぎるww。
では。どうぞ
作成、それは装備
おおらかな陽が、さえずる小鳥の活気を付け、住宅街では、ガタンッ、ガタンッと立て続けに聞こえる窓を大きく開く音が、段々と広がっていく。
寝台から体を起こし、陽を見ながら大きく伸びる者や、目覚めとばかりにコーヒーを啜る者。朝の規則が異なる人々が、皆それぞれに朝を始めていた。
今日も地上は平和である。
今日これからのために準備を始める大通りの店々。夜の栄えを終えた一角は、目が霞むほど煌びやかなその派手さが一転し、静かにその鳴りを潜めていく。
昼夜を問わず、途切れることを是としない
今日の朝も、街は変わることを知らなかった。
彼も変わることはない。することはひたすら同じであった。
振るい、斬り、斬り続けた末、身を照らし始めた明かりと共にその刃を納める、
毎度毎度と潰すかのように使ってしまう体の調子を整え、当たり前のように滴る汗を洗い流しにシャワー室へと向かうのだ。
清潔さを取り戻した後は、移動と言う些細な時間を除いて、朝食の用意である。
せっせと動き、出来上がった料理は、本人は普通といえど、世間一般の観点では素晴らしいと評されるべき仕上がりだ。
それでも手を抜いているのだから、彼の技術は計り知れない。
今日は香ばしい匂いが漂い、それを印に兎のような彼がベットで寝ている彼女を起こす。もはやパターン化されている彼女の寝起きの一言は、相変わらずだ。
テーブルを囲むように座る三人、ソファがあるのにも関わらずそこに座る事はなかった。座れなくはないのだが、床に膝をついてこのような形をとった方が皆平等、とはヘスティアの談だ。
食膳の号令をかけ、静かな食事が始まる。
誰一人として、物を口に含むとき以外は口を引き結んでいた。
そのお陰か、食事は
やがて食器が置かれる音と、食後の号令が静かな部屋の空気を入れ替え、各々が自分の行動に移った。
「ベル、両手を広げて少しそこに立っていてもらってもいいですか?」
「え? あ、うん」
その中で彼は、インクの付いた羽ペンと羊皮紙を持ち、何やら書き込んでいた。
角度を変えて見ると、書き込み、場所を変えて見ると、また書き込む。
「何やってるの?」
不審に思われるのはもはや必至であった。だが彼はひたすらに紙に書き加えていく。
数秒経ち、突然走っていたペンが止んだ。
「これくらいで大丈夫ですかね……」
「で、結局何やってたの?」
「ただ長さを測ってメモしていただけですよ。採寸、というやつです」
あっけなく答えたが、それに驚きを隠せない者が一名。
『さいすん?』といわんばかりに首を傾げる彼に対し、彼女はその言葉を知っていたからこそだろう。彼が行ったやはりあり得ない行動にそのような反応ができたのは。
だが、彼女は自己完結をした。『シオン君だしなぁ』という根も葉もない、だが何故か説得力のある言い聞かせによって。
「さて、ベル。楽しみにしていてくださいね」
「な、何が?」
「だから、お楽しみです。悪いものではありませんよ」
彼は左目を瞑り、そう笑いかけた。
だが、眼帯によって見えることの無いそれは、全くの無駄であったりする。
こうして朝は、過ぎて行く
* * *
余談
「ミイシャさん、おはようございます」
「あ、おはようシオン君。情報をもらいに来たの? それとも
「情報をもらいに来ました。
「うん、わかった。で、欲しい情報って?」
「裁縫道具や布などを取り扱っているお店を教えていただけませんか?」
「え、そんなことでいいの?」
「ええ、調べるのが正直面倒なので」
「どーせー三分も掛からないくせに。ま、いいけどね」
「ありがとうございます」
* * *
独り、鼻歌を歌いながら進められる作業。
慎重かつ精密。それでいて素早い、相変わらずの手際の良さ。
過程は脳内で描き終えている。ミスさえしなければある程度のできにはなるはずだ。
皮を正確に決めている長さで斬り、確認し、また別の所を斬る。
何をしているのか。と聞かれれば、装備を作っていると答えよう。
耐熱性が高く防寒性も問題なし。サラマンダーウールと言う性能のわりに地味に高いものを買わずに済むし、しかも、それ以上に優れていると、どこぞの鑑定士が言っていた。
その装備ならば、ベルの大きな手助けになるだろう。少しくらいは弟の背を押してあげたいのだ。
だって、今まで殆ど何かをやってあげられてないし。
といったことをおもっでいる間も、手を止めることはない。
着々と進んで行く作業、そろそろ、集中し始めますか。
「完成……で良いでしょうかね」
以前とは違い、その言葉に言葉が続くことも返されることも無かった。
作業時間が圧倒的に縮んだのだ、おかげで陽すら沈んでいない。
手には、闇色に近づいたように思える黒色の服。いやローブだ。
目元まで隠せるように作ったフードに、膝辺りまで隠すであろう長さ。露出を極力抑えるために長く作っているのだ、勿論のこと邪魔にならない程度。
覆い隠せる部分が多ければ、それだけこのローブは有用性を増す。邪魔だと言われればまた調節すればよいだけのこと。本当は一発合格が望ましいが。
留め具は一つだけ丁度首辺りの位置に付けており、『紅蓮』の柄と同じ素材を使ったので、溶ける可能性も焼ける可能性も無に等しい。それでいて留め具としての役割を果たすのだから、そこに関する問題などなかろう。
そして、更なる利便性を考え、ローブの内側にポケットを用意した。
20C程の剣または刀なら、ぴったり納まるステンレス製の柄状ポケットを左右に二つずつと、
一応、満足のできではある。その道一筋のプロと比べれば全然かもしれないが。
だが、仕方ないだろう。作り始める数分前まで服作りの資料をひたすら読み漁ってやり方を憶えていたのだ。正直に言うと、何かを縫ったのなど今日が初めてである。
素人どころか初心者。だが言う程酷くはないと思うから、大丈夫なはず。たぶん。
「あ、シオン。今日はずっとここにいたの?」
「いえ、外で必要なことを済ませて、ここで少し製作していただけですので。でも、丁度よかったです」
「え? どういうこと?」
座っていたソファーから立ち上がり、綺麗に畳んでいたローブをベルへ渡し、『着てみてください』と催促する。
受け取ったベルはそれを広げると、途端に目を輝かせ、再確認とばかりにこちらを向いて来たので、首肯する。すると、留め金を外し、数歩下がって、バサッと音を立てながら大袈裟に着れくれた。
「あぁ、わかります、その気持ち」
私もローブ型の
確実にお祖父さんの影響を受けていますね、はい。
「か、かっこいい……」
「それは良かった。着心地は? それと、邪魔なところは?」
「邪魔なとこなんてないよ、というかぴったり。それに、着心地もいいし、全然大丈夫。でもシオン、なんでこれを僕に着せたの?」
それは事前勧告はしたが理解していなかったのだから仕方のない疑問である。
「ベルへのプレゼントだからですよ。近いうちに中層へ行きますよね、ならそれを着て行って下さい。始めは多少動き辛いでしょうが、慣れればかなり役立ちます」
「役に立つって、どんな?」
「そのローブは耐熱性、防寒性に優れていて、そんじょそこらのよりだいぶマシです。それに、ある程度の衝撃を吸収してくれますし、内側にポケットがあるので物を入れることが出来ます。ね、探索に便利でしょう?」
私からすれば取るに足らない存在である『強化種』ですらないヘルハウンドは、冒険者の間では難敵として知られていて、その大きな要因は口から出す炎にある。
上層では例外を除き出現しないが、中層から
防寒性は端に寒くならないようにであり、衝撃吸収は元の素材がそう言ったものであるからだ。ポケットは省略しよう。
「うん、ありがとう。わざわざ
「はは、買ってませんよ。手作り、オリジナル、オーダーメイド―――ではないですね。でも、それは恐らくベルしか持っていないローブですよ。素材含めて」
「……………」
目を丸にして硬直するベル、それほど衝撃を受けることでも無いだろうに、どうしたのだろうかと、心配していると、微かに口が動く。
「……シオンって、服作れたんだ……」
「やり方を覚えたので、なんとか作れただけですよ。それほど苦労はしませんでしたが」
『敏捷』による機敏さと、『器用』による針さばきは完全に【ステイタス】に頼っていたが、別にそれくらいは問題ないだろう。
作れたのだから、ね。
「……やっぱり多才だね」
「いえいえ、全てその場
私は決して多才などではない、あるとしてもたった一つだ。それは『記憶』というもの。それだけには他の追随を許さぬほど長けているといえよう。
だが、それだけ。他は才能なんて標準以下、それは才能とは言わない。
本当にその程度なのだ。所詮、その程度なのだ。
私はベルとは違って、才能なんてない。
「そ……っか。ごめん、なんでもない。ありがとねシオン、大事に使うから」
「いえいえ、使って頂けるだけありがたいです」
そこで顔を見合わせ、
それが何の笑いかは分からないが、自然と出たものであり、
――――決して、自分への嘲笑などではないはずだ。
* * *
『グロォー オーオーオー オーオーオー オーオーオー リア♪』
『イン エクチェルシス デーオー♪』
あと少しで半分まで削れる月は、中天に差し掛かってはおらず、今やっとのことで東の市壁上部から姿を
たとえ月が主役でなくても、空に光るまばらの星々はその輝きを失っていなかった。いや、目立つ月がない分より一層増したといえるだろう。
宝石箱のように
別段大きな声ではないが、その声は辺りに良く響いた。
周囲に音はない、必然的に音の発生源は二人の歌声だけとなるのだ。
それだけでは無いだろうが。二人の歌声は、男声とは思えない程透き通っており、片やソプラノの音域を出しているのだ。声変わりを起こしても尚その状態なのだから、不思議なものだ。
しかも完璧に噛み合っている。心から聴いてしまう
これは、西の地域で崇拝されている神への讃美歌、らしい。実際に西の地域へ行ったことも無いので、聞いたことでしかないから断定はできないのだが。
だが、この歌はいい歌だ。正直言うと歌詞の意味は断片的にしかわからないので歌詞についてではないが、メロディーについてである。それだったら曲でもいいのだろうか。
『グロォー オーオーオー オーオーオー オーオーオー リア♪』
『イン エクチェルシス デーオォ~♪』
それを最後に歌を終える。
この讃美歌は、ある文の後に『ルフラン』だったか、それを歌って構成されている。
十年前のことだが、お祖父さんの知人という人が村に三か月ほど滞在したのだ。その人が歌っていたのがこの讃美歌で、音が綺麗だったのでそのとき教えてもらえたのだ。案外簡単でベルもすぐに憶えることが出来て、偶にこうやって歌っているのだ。
「ふぅ、相変わらずシオンは歌が上手いね」
「ベルもですよ。それに、何度も歌っていれば自然と上手くなるものでしょう」
この歌は、村で鍛錬している合間も安らぎに歌っていた。休憩の合間の気晴らし程度だが、それでもある程度は身に付くものなのである。
「じゃ、戻ろっか」
「私はここで少しばかり星を眺めてからにします。ベルは先に戻っていていいですよ」
「……いいの?」
「気づいているのでしょう? 心配の必要はありませんよ」
「分かった」
早々に地下室に戻ろうとするベル、それが何故か、彼が何故意味不明な確認をしていたか、それは二人が共通で、歌っている頃から気づいていたことだ。
ベルが屋根から飛び降り、つたなくも受け身を取らずに力の分散で着地。屋根上までの跳躍はシオンの助けが必要であっても、着地ならなんとかできるらしい。
気配でベルを追い、地下室に繋がる階段に差し掛かったことを確認すると、私は寝転がっていた上体を起こし、そのまま声を掛けた。
優しく、それでいて強制力のある語気で。
「隠れてないで、出ておいで」
さて、次回どうなるかなぁ?
歌:讃美歌106番 荒野の果てに。
聞いてて落ち着く歌です、興味のある方は、ぜひ。