やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 別に意図してここまで長くしてわけではない。

では、どうぞ


決定、それは神会

 うん、中々いい。

 地面の感触も悪くないし、ちょっとやそっとじゃ壊れない。それに、市壁上より全然動き回れる。

 遠くなる分剣圧による斬撃は壁を斬らないし、地面も抉れない。

 実にいい場所だ。

 

「さて、帰りましょうか」

 

 陽は見えないが、光は東から差し込んでいる。既に日の出は終えたと言うことだ。

 移動時間も縮まり、その分鍛錬する時間を増やすことが出来ている。それに、何にも邪魔をされないこの場所を見つけられたのだから、最近はとてもいいことの連続だ。

 嬉しくないこともあったが。

 とりあえず、今日はお試しついでにここのシャワーを使ってから帰ろう。

 

―――――これ、シャワー室じゃなく風呂じゃん。

 

 まじかよ、贅沢だなおい。

 後で料理場も見ておこうか、ここを見るだけで地下室の小さな台所より豪華だという事は歴然だが。

 

―――――【ロキ・ファミリア】の調理場並みだったぞ。

 

 大手ファミリアの食事処に引けを取らないとか凄いところ買ったな。

 

 そんな感激に触れながら、数秒でホームへと帰宅したのであった。

 

 

   * * *

 

「「「ごちそうさまでした」」」

 

 昨日言ったことが効いたのだろうか、食事中誰も話す事は無かった。

 実に、いい。静かな食事は大好きだ。

 

「ベル君ベル君、アドバイザー君に報告に言ってきたらどうだい?」

 

「はい! わかりりました!」

 

「【ランクアップ】の報告ですか? なら私もついていきたいのですが」

 

 何か報告することがある訳では無いし、特別な用がある訳でも無いのだが。

 

「え、どうして?」

 

「エイナさんの驚く顔を見たい」

 

 と言う訳である。絶対面白い顔して『はぁ~⁉』とか言いそうだから。

 そこを逃さず見たい。そしてついでにミイシャさんが泣き喚くであろうからそれも見たい。

 ……だんだん性格がいけない方に曲がっている気がする。

 

「シオンって偶にというかよく変なところあるよね」

 

「失礼ですね。否定はしませんが」

 

「しないんだね……」

 

 というわけで、朝食後の今、護身程度に武器を持って来たのがギルド。

 そして起こったことと言えば。

 

『一ヶ月半で、Lv.2~~~~~~~~~~~っ⁉』

 

 と、やはり面白い顔で叫んだ人がいたことであった。

 叫んだ内容は全然違かったけどね。

 

「そして今に至る」

 

「一人で何言ってるの? それより作業進めて」

 

「あ、はい」

 

 何故かミイシャさんに手伝えと言われた。それに従う私も私だが。

 どうやら本当に昨日のコーヒーの落とし前らしく、しかも(こぼ)したのが神会(デナトゥス)の司会のみに渡される精密書類らしい。

 そして今私がまとめているのが、アイズの書類。

 アイズのことが書いてある書類にコーヒーぶちまけたことに対していろいろ言いたいことはあるが、まぁそれは追々。

 

「よりにもよって、まぁ。どうしてこうなるのやら」

 

 勝手にまとめていいものかと思うが、任されたのなら仕方がない。

 誠心誠意、他の書類に比べ物にならないくらい丁寧に仕上げてやろうじゃないですか。

 

「――――――」

 

「――――――」

 

 少しの間無言の間が続き、

 

「終わりました。次はどれを?」

 

「はやっ、仕事速いっ、速い、速過ぎる。しかも凄く見やすいって……というか絵上手い……」

 

「ちょっと強引な方法ですよ。凄い丁寧に気を付けて書いたお陰で時間が相応にかかりましたが」

 

 大体十二分くらいか、丁寧に書けたし不備も問題も無いはずだ。

 

「で、次は? 一枚やったら二枚も同じ、さっさと終わらせますよ」

 

「あ、ありがとぉ~」

 

「その代わり今度何かお礼を頂きたいものですね」

 

「ぐっ……じょ、情報で我慢してね?」

 

 書類の山をどさっと置かれて、こんなに【ランクアップ】した人がいたのかと感心していると、その山の中に『被害届』というものがあり……

 

「ミイシャさん? 私がやるのは神会(デナトゥス)に関わる資料だけですよ?」

 

「チッ、バレちまったらしょうがねぇ」

 

「何ですかその口調」

 

 渋々書類の山から一気に束を取り出す、五・六枚程度のそれが問題の書類だろう。やることは、基本的な【ランクアップ】した者の情報を纏め、更には挿絵を入れる。

 先程は、アイズの挿絵を描くのに時間を多く要したが、今度は正直どうでも良い赤の他人であるため、適当に手を抜こう。

 まぁそんなこんなでかかった時間がミイシャさんが終るのを待って十五分ほど。八割以上私がやらされたのだが、その分収穫はある。

 

「もぅ、これシオン君が担当すればいいんじゃないかな?」

 

「面倒です。というか、何故自画像まで描かなければならないのやら……」

 

 【ランクアップ】した人物の中には、勿論のこと私も居る。いい感じに情報をぼやかせたし、手を加えられたのはミイシャさんに感謝すべきか。    

 

「というか、シオン君。ベルって言ったっけ? シオン君の弟。その子もかなりの速度で【ランクアップ】したけどさ、何か秘訣はあるの?」 

 

「さぁ? 秘訣ではありませんが秘密はありますよ。勿論載せてませんが」

 

「ちょ、それって」

 

「あれ? 何のことですか? 部外者に仕事を手伝わせてそれがばれたら更に不味いことになるミイシャさん?」

 

「ぐはっ」 

 

 ベルの資料にも手を加えた、神々の餌になることもこれでない。

 勿論、スキルや【神の力(アルカナム)】についてその場で言及されることはあるだろうが、それについては対策を既に練っている。

 それに、たとえこのことがミイシャさんに知られても、結果的にダメージを負うのは彼女であって、私では無いから密告される危険性も無い。 

 

「では、ミイシャさん。私は戦場へ向かいますので、今日はこのあたりで」

 

「え? 戦場? ……なるほどね、感想待ってるよ。頑張ってね~」

 

 気楽に送り出されたが、こちらの気持ちはこれほど軽くはいかない。

 はぁ、覚悟を決めるか。

 

 

   * * *

 

 という訳で、対神武装(考案者私)で会場に潜伏してます私です。もうあの女神にはバレていて、凝視されているせいで寒気を終始感じているが。

 因みに、武装と言っても簡単な物で、『黒龍』に『一閃』。魔道具(マジックアイテム)である漆黒の手袋に指輪という軽装だ。

 重さだけで言うと、右腰の刀だけで重装備相当、というよりそれを超しているのだが。

  

 因みに、会場はバベル三十階。仕切りが取っ払われ、広々とした空間である。

 そこに巨大な円卓がぽつんと置かれ、椅子が備え付けられていて、神々がそこに座っていく形だ。

 奥には硝子(がらす)は張り巡らされていて、高々としてバベルの景色を一望できる。

 私が跳躍したら、これより高くの景色を一望できるのだが。

 

 会場には様々な神が入場しており、くだらない会話を交わすものや、悪ふざけに遊び回るもの、神ならではの行動がよく見られた。

 一般的に神会(デナトゥス)とは真剣な会議の場と言われているが、もうこれだけ見たら全然違うものにしか感じない。

 

 と、そこでヘスティア様がタケミカヅチ様と共に入場してきた。

 タケミカヅチ様はヘスティア様とは知己の仲らしく、本人は素晴らしい神格者ではるが、その容姿と無意識の言葉使いから、『オラリオ二大女たら(しん)』と不名誉なことを言われていたりする。 

 因みにもう一人はミアハ様だ。神格者に限って何故こうなるのやら。

 あと、私自身も知り合いであったりする。顔合わせた程度だから顔見知りかな?

 

 そんなことを考えていると、不意にタケミカヅチ様と目が合った。 

 流石武神、容易に隠蔽(ハイド)を破ってきますか。

 それで騒がれるわけにはいかないので、人差し指を唇の前に当て意志を伝える。頷き返してくれたので意味は伝わったはずだ。

 ヘスティア様はとある席、神ヘファイストスの隣へと座り、タケミカヅチ様はその隣へと腰を下ろした。

 二言三言交わしているのを見ていると、突然間延びした聞き覚えのある声が聞こえる。

 その声の主は席から立ち上がり、何やら何千回目云云(うんぬん)といいだした。

 どうやら今回の司会は神ロキらしく、資料に手間をかけた成果が出るかもしれない。

 

 ヘスティア様が悪態を吐いてそっぽ向いてるけど、そんなに嫌いなの?

 

 と、そこからテンションアゲアゲで始まったのは情報交換。これって私聞いてていいのかな?

 内容は酷いものばっかりだったけど、中には食人花(ヴィオラス)と固有名詞は出さなかったものの、それらしき情報を探るような動きも見られたから、しっかりと目的をもって行動している神もいるらしい。

 まぁこのあたりはミイシャさんへのお土産としよう。

 

「さて、唐突なんやけど、今日はゲストが来とるでぇ~」

 

 そこで神々がざわめき始める。てか、知ってたのね神ロキは。あの、タケミカヅチ様? こっち見ない。それと神フレイヤ、貴女もさっきからこっちを凝視しない。寒気がするから。

 

「といっても姿が見えんのやけど、どこいったん? 遅刻?」

 

「してませんよ。時間には厳しく生きていますから」

 

『!?!?』

 

 タケミカヅチ様と神フレイヤ以外は私の出現に大きくどよめき、椅子から転げ落ちるものまでいた。

 良い反応だ、真顔を保つのが辛いくらいに。

 

「で、神ロキ。私は何も聞かされてないので、何故ここに呼ばれたかも知らないのですが」

 

「シ、シオンたん。びっくりさせんといてや。あぁ何故ここに呼ばれたかやけど、うち含め、何(にん)かからギルドに要請したんよ。それが誰か、言う必要あるか?」

 

 会場内を見渡してみると、三柱の神がニマニマしていた。あの顔面、殴りたい。

 

「必要ないですね。はぁ、もう帰っていいですか。私あの女神にあまり関わりたくないのですが」

 

「あら、そんな寂しいこと言わないでほしいわね。私はいつでも歓迎よ?」

 

「私はいつでも遠慮させていただきます。というか嫌です」

 

 そう言い返すと、さらに神々がどよめいた。

 美の女神相手にこうも堂々としていられる人間はそういないから、珍しいものを見た程度の感覚で驚いているのだろう。

 

「シオンたん、相変わらずやなぁ……あ、席ついてええで。今は参加者と変わらん立場やし」

 

「いえ、立ったままで構いません。直ぐに逃げられるように」 

 

 そう考えるのは今の状況で当たり前。だって、神々の目が今『娯楽に飢えた獣』の目になっているのだから。直ぐに逃げられるようにしなければ。

 と言う訳で、入り口近く、ヘスティア様の後ろに立つことにした。

 

「じゃ、シオンたんをどうして呼んだかは後々説明するとして、次、いこうか」

 

『ま、まさか……』

 

「せや、命名式やー!」

 

 そう神ロキが言うと、場の空気が、変わってはいけないベクトルに変化した。

 一部の神が、にんまりと、口角を上げて、いやらしく笑っている。

 あぁ、あれだ。絶対悲劇が起きる。

 

「資料はいき渡ってるなー? 今回の資料はやけに綺麗やけど、ま、気にせずいくでー? トップバッターは……セトのところのセティっちゅう冒険者から」

 

 途中、『とっぷばったー』なる意味不明な単語が出てきて、正直戸惑っていますはい。

 これが神々の領域か……理解不能だ。

 それに、なぜこんなに盛り上がる? しかもあくどい顔して。

 更に言えば主神がどうしてそれほど悶えているのだろうか。

 

「うーん、なんかぱっとしたもんででこんかなぁ……シオンたん、なんかある?」

 

「へ? あ、あの……【暁の聖竜騎士(バーニング・ファイティング・ファイター)】、とか」

 

 セティ・セルティ。確か炎系統の魔法が得意だった気がする。というかそう書いたはずだ。

 と言う訳で、ぱっとでできた炎の何かといえばこれしかない訳で。

 

「あ、それもろた。決定や」

 

『おぉ~』

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁっ⁉」 

 

 とその提案はすらっと呑まれ、絶叫するものが居る中殆どの神に『やるな』と言わんばかりの視線を送られた。

 え、なに? そんなに良かったの?

 

「シオン君、君は本当に人間なのかい?」

 

「それはどういう意味で?」

 

「主に考え方の面で」

 

「それはぁ……何とも言えませんね」

 

「じゃ、次いくで~。次はタケミカヅチのとこの、極東やから逆にして、ヤマト・命ちゃんやな」

 

 資料を捲る音が重なり、更に『ほぅ?』という関心の声も重なった。

 

「タケミカヅチ様、そう言えば命さんは元気ですか?」

 

「ああ、あれからも立ち直って頑張っているさ。それに、そのお陰でLv.2になれたとも言ってよかろう。感謝する」

 

「いえいえ、私はただ普通にやっただけですから」

 

 因みに、私が初めてタケミカヅチ様と会ったのはオラリオに来てから三日後の事であり、その日に何故か【タケミカヅチ・ファミリア】の人たち全員に模擬戦を申し込まれ、面倒なので一気に相手し、無傷で追い返してやったことがあった。

 木刀一刀で。

 そう会話している内にかなり可哀相な名前が並べられていて、それをタケミカヅチ様が必死で止めに入っていた。ちょっと面白いので、私も参加することに、

 

「あ、私は【忍び寄る影(アサシン)】で。命さんの特性に合っていると思うので」

 

「なっ」

 

「すげぇぞ、下界の子にこんなネーミングセンスの奴がいたとは……」

 

 見知らぬ神がそんなことを呟いたが、単なる悪乗りであり、別に決定されなくてよい。

 

「【儚き静寂の恋路(サイレント・ラヴ)】とかもいいかもしれませんね。ネタ的に」

 

「やめてくれぇぇぇぇぇっ⁉l 

 

 まぁ一時の楽しみだ。神をいじれる機会などそうそうないし、今のうちに遊んでおこう。採用されることも無いだろうから。

 

「よし、採用」

 

『異議無し』

 

 されちゃったよ。まじか、二つ目だぞ。人類史上初じゃない? 快挙だよ。笑えねぇけど。

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁっ⁉」

 

 実際本当に笑えてない、目の前で首根っこ掴まれて揺さぶられながら叫ばれたらねぇ。

 

「シオンたん容赦ないなぁ。神より酷いんちゃうか?」

 

「神ロキ、私はただ良い機会なので少し遊んでいるだけですよ。採用したのは貴女なのですから、私の知ったことではありません」

 

「投げやりかいな。まぁええけど、じゃ次。ぬふふふっ、大本命、うちのアイズたんや!」

 

 そう聞いて少し反応してしまう。

 これは流石に下手な手は打てない。現状維持を図れるようにしなければ。

 周りも何か企んでそうだ。いつでも殺―――対処できる構えをとっておこう。

 騒がしく意見を飛ばし合い、とりあえず問題なさそうなものばかりでているが、あれはダメだった。

 

「―――――【神々(おれたち)の嫁】だな」

 

 瞬時、バキバキと可笑しな音が床から鳴った。

 それはある場所を中心点にして円状に広がっている罅。

 その中心にあるのは、私の足。

 

「……皆様方、場を冷ますようですが、一つ言わせていただきます」

 

 私から放たれる鬼気を感じ取ったのか、神々の顔が険しくなる。

 

「アイズに不名誉な名でもつけてみろ……あんたら、殺すよ?」

 

 瞬間、風が吹いた。

 その正体は私。腰の『黒龍』で、先程の不埒な発言をした神を全身斬り裂いたのだ。

 勿論、死ぬこと無く失神しただけだが。

 

「意味、わかりましたか?」

 

 そこに込めた意味とは、『私は容赦なく神すらも攻撃する』ということ。

 

『調子乗ってすみませんでしたぁっ!!』 

 

 先程までふざけていた神々が、円卓の上で見事な土下座をした。

 てか、神が人間に頭を下げるって、威厳とかないの?

 

「シオンたん、やりすぎやで……」

 

「まだ足りませんよ。天界に送還させないであげている辺り、私の優しさなんですから」

 

「げっ、それやったらシオンたん追放されるで」

 

「なら追放しようとするやつら全員消せばいいだけの簡単な話です」

 

 実際、情報さえあれば一日で片が付くだろうし、余裕だ。

 

「……今のは聞かなかったことにして、じゃアイズたんは今のままな」

 

 よし、一つ波を越えた。あとは懸案事項なんて無かったし……

 

「次、シオンたんやな」

 

「は?」

 

「【異常者(イレギュラー)】」

 

「【危険分子(イレギュラー)】」

 

「【異質(イレギュラー)】」

 

 速いなおい、てか全部同じ読みじゃん。意味違うだけで……なんでそんなこと判ったんだ?

 

「というか、本人の前でよく堂々とまぁ」

 

「シオンたん、脅しは無しや。こればっかりはなぁ」

 

「……はぁ、わかりました」

 

 流石に不名誉な名を付けられそうになったらとっかかるが、無難までなら許そう。 

 というわけで、ヘスティア様の後ろ待機だ。  

 

「……流石だな、良い動きだ」

 

「ありがとうございます。でも、まだまだですよ。服を斬り落とさずに全身刻めましたけど、一部服の糸が解れてしまい、斬った痕が残ってますから……これではバレてしまいます」

 

 想像(イメージ)では、武神であるタケミカヅチ様にすら認識不能な淀みのない完璧な動きで斬り付け、何事も無かったかのように戻っていることなのだが。

 

「高みを目指すことを諦めないのは良いことだ。それと、無粋かもしれんが、その刀は、大丈夫なのか」

 

「ええ、問題ありませんよ。この刀、絶対に生物を傷つけないので、たとえ枷が外れて先程のように斬り付けてしまっても殺すことはありません。それに、私がこの刀に呑まれることはありませんよ。打った本人からもそう保障されています」

 

「そうか、なら何もいうまい」

 

 言葉では心配しているように思えるが、目は完全に、そんな心配など露ほどもしていないと言った感じだ。これはある種の信頼なのだろうか。

 

「【前例破り(ニューレコーダー)】なんてどうかしら?」

 

 会話が終り、会議の方に耳を傾けると聞こえてきたのは明らかに無難な名。

 

「神フレイヤ、もう少し格好良い名が欲しいので、考えを改めてください」

 

「そうねぇ……私のことを、フレイヤ、もしくはフレイヤ様と呼ぶようにしてくれたら考えてあげなくも無いわよ?」

 

「どこまでも上から目線ですね……無性に腹が立ちます」

 

 どうしてこうも自分が絶対王者のように構えられるのだろうか。凄いのは貴女ではなく貴女の眷族だろうに。それを見出した自分に絶対の自信を持っているのかな? なんともまぁ粉々に打ち砕いてやりたい自信だな。

 

「というかシオンたん。この資料、情報少なすぎるって。そのせいで考えようもないんよ」

 

「おかしいですね、沢山載せた筈ですが。私から見てもどうでも良い情報ですけど」

 

「載せた? それって……まさか、これ書いたのって、シオンたんか?」

 

「他の方々に配られた資料よりよく出来てるでしょう? 特にアイズのは頑張りました」

 

 ミイシャさんにも言われたが、どうやら私の仕事ぶりは、速い、正確、上手い、らしい。

 要するに、よくできているとのことだ。

 しかもそれは、適当にやった仕事であって、その私が少し頑張ったら、普通以上のものができるのは当たり前である。

 

「で、結局私の二つ名はどうなったのですか?」

 

「せやから情報が……そういうえば、今ここに本人居るんやな……」

 

「それがなにか?」

 

「なら簡単な話やないかい! 聞きたい事は直接聞けばええやないか!」

 

 気づいて欲しくないことに気付かれてしまった。

 確かに資料の誤魔化しはできたが、この場で聞かれてしまえば正直どうにもならない。

 今、かなりやばい状況である。

 

「と、言う訳やから、シオンたん。今日こそはいろいろ答えてもらうでぇ……」

 

 そう言いながら指をうねうねと動かし、じりじり円卓に乗り上がって迫って来る神ロキ。しかも進み方がしゃがみながら歩くと言う地味にバランス感覚の必要な歩法(ほほう)

 

「はぁ、致し方ないですね。答えられることなら答えますよ」

 

「うぇえっ⁉ 大丈夫なのかいシオン君⁉」

 

「大丈夫です。それと、かえってヘスティア様は邪魔なので黙っていてくださいね」

 

 余計なことさえ言われなければ、恐らくうまい具合に乗り切れる。 

 最悪、逃亡が許されるわけだし、ギリギリまで問題ない。

 

「あ、それと、一神(ひとり)一つずつ。それ以上は答えませんからよく考えてくださいね」

 

「条件付きかいな⁉」

 

「あたりまえです。私にだって、隠し事の一つや二つあるのであすから」

 

 例えば『くろれきし』、例えば七年前の出来事、例えばお祖父さんの正体。

 正直、挙げれば際限が無い程ある。

 

「んじゃ、まずはうちから。シオンたんって、どうやってこんなに稼いどるん?」

 

「あ、資料に乗せた所持金のことですね。といっても、別に変わったことをしている訳ではありませんよ? 質の良いドロップアイテムや魔石を換金したり、ちょっとばかり難関な冒険者依頼(クエスト)を攻略したりしていたら、ぽんっと貯まってました」

 

 私の所持金は、正直偶然の重なりであり、参考にすらならない。というよりしない方が良い。

 

「次は私でいいかしら」

 

「いいですよ、神ヘファイストス」

 

「それじゃあ聞かせてもらうけど、その刀、【ヘファイストス・ファミリア(うちの子)】が打ったもので、あってるかしら」

 

「ええ、草薙さん、カグラ・草薙に打って頂きました。使い心地の良い刀です。ですが、どうしてそれに気づいたのですか?」

 

 神ヘファイストスの言い方は、疑問ではなく半ば確証していた風だった。何かといえば確認に近い。

 

「やっとあの子も、ちゃんとした使い手を見つけられたのね……」

 

 小さく、そう呟き。答えになってないと思ったが、それは答えなどではなくただ自然と漏れてしまったものなのだろう。

 

「あぁ、どうして気付いたかだけど、ただの勘よ。あの子の刀と似た感じがしたから、気になっただけ」

 

 やはりそういったことの勘は、鍛冶神なだけあって一際鋭くなるのだろう。

 

 

 そして、その後も順調と思われるペースで質疑応答は進展していった。

 やがてタケミカヅチ様で終わりを告げ、命名式へと戻ったのだが、その時の空気はとても気まずいものだった。

 それはもう、静かに自分の存在を消してしまうくらいに。

 流石に存在を消したら、鋭い例の二神(ふたり)も気づくことはできないらしい。まさかこんなところで暗殺技術が役に立つとは。多用しちゃ駄目だけどね。 

 因みに、なぜそうなったか、それにはある一つの質問が関わっていた。

 

 

―――――――時は数十分ほど前まで遡る。

 

「じゃあ次俺ね~あのさ、結局の話、【神の力(アルカナム)】でなんかされたりしてないの?」

 

 それは、この会議に出席している大半の者が聞きたかった内容かもしれない。その気持ちを代表したのが、無神経そうな男神だった。  

 実際、周囲は静かに眼光をちらつかせるものや、興味津々を体現したかのように身を乗り出しているものもいるが、一致していることはこの答えを聞きたがっていると言うこと。

 私は、(あわ)れな目で見下すことを抑えもしなかった。

 

「あの、一つ良言わせていただきますが」

 

 会場内が、久しぶりの沈黙に支配される。

 誰もが聞き逃さぬように耳を澄ませているが、別に大したことを言う訳ではない。

 ただちょっと、喧嘩覚悟で言っただけだ。

 

「たとえヘスティア様が【神の力】を私に行使したとして、それに気づけなかったあなた方は、どれだけ無能なのでしょうか?」

 

『は?』

 

 唖然とした面をさらけ出している。うん、実に滑稽(こっけい)なり。

 だが私はまだ言い足りない。

 

「実際そうでしょう。この駄女神(だめがみ)ヘスティア様ですよ? 計画なんて碌に練れるわけがありませんし、正直言ってバレないようにしていても、馬鹿の一つ覚え程度。まぁ使っていたらの話ですが、あなた方はそれに気づけていません。つまり、この駄女神以下、いえ、未満の無能と言うことを自分から表明していると、お分かりいただけますか?」

 

「シ、シオン君⁉ 酷いじゃないか! 僕が駄女神なんて!」

 

 それに対し、即座に言い返してきたのは、なんとヘスティア様だった。でも、言い返した内容があまりに可哀相に思えてきて、うん、うちの主神様、とても残念。

 なので、証人をもって教えてあげたのだ。

 

「神ヘファイストス。ヘスティア様が貴女に養われていたとき、どんな生活でした?」

 

「食って寝て遊んで食って寝る。可哀相なくらいの駄目さだったわ……」

 

「ヘファイストス⁉」

 

 ヘスティア様は、以前神ヘファイストスの下で衣食住を満たしていたが、自身の堕落さの所為で追い出されてしまったのだ。別の住居を与えられて。

 マジで神ヘファイストス優しすぎ。そうだけどそうじゃなくて。

 つまり神ヘファイストスが、この中で最もヘスティア様の堕落さを知っていると言う訳だ。

 よって最適の証人である。

 

「と言う訳で、ヘスティア様が私に何かをしたと言うことを疑うのは自由ですが、自分が憐れにならないように、精々気を付けておくと良いですよ」 

  

 

――――――というわけだ。

 

 私は悪くない。 

 結果からして、その後も責められることもそれに関することで問いただされることも無かった。

 そして気づいたら、命名式が終わり、神会(デナトゥス)も締めくくられるところだった。

 

 自分の名が何に決まったのか、聴いてなかったのは痛い。後でヘスティア様に聞けば教えてくれるだろうか。そうでなければ聞き出すまでだが。

 そんな訳で、後半ただそこにすらいるようでいなかった私は、終わりの挨拶だけを聞いて早々にその場を去ったのであった。

 

 空は、空しく淡い。揺れ動くほんわかとした紅が、数秒の間私を包んだ。

 

 

  

 

 『世界最速記録保持者(ワーストワン)』シオン・クラネル。Lv.2

  二つ名

 

絶対なる変わり者(アブソリュート・サイコパス)

 

 







  因みに 
 アブソリュート・(二重奏)。とサ〇〇〇ス(psychopath)。言われてピンときますかね?
 どちらもご存じの方はすぐ気づかれたと思いますが、はいその通りです。それらを参考にさせていただきました。
 、

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