やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 今後どうしようか殆ど無計画です……

では、どうぞ 


共有、それは秘密

   

  ~移動中~

 

「アイズ、この魔石どうやって上まで持って行きます?」

 

「リフトを使うのは?」

 

「あれ、実はギルドに書類提出しないと使えないのですよ」

 

 指輪を外し、遮断(シャットアウト)を解いたシオンは、極大の魔石を持ち上げながら、アイズと意見交換を行っていた。

 人でせめぎ合うこの場所、認識阻害を看破できない人が大多数のここで認識阻害を行ったりしたら、ぶつかられるなどの、事故の発端を作ること間違いなしである。

 その為、目立つことを承知の上で指輪を外しているのだ。

 

「じゃあ、普通に階段上る?」

 

「……致し方ありませんね。飛びます」

 

「へ?」

 

 中央の空いた螺旋階段、その中央に立ち、彼女は上を見据えた。

 

「【目覚めよ(テンペスト)】―――【エアリアル】」

 

 風が荒れ始めたのと同時に、特大の魔石の重さを脚へと流し、引きちぎれそうな痛みに耐えながらも、反発する力を魔石に乗せ、更に風の推進力も加えて、上空へと投げた。

 それを追う形でシオンも飛び、上昇する魔石を追い越して螺旋階段を越えた。

 遅れてやって来る特大の魔石を、空中に在る状態で横から押し出す形で地面のある方へと移動させ、その下へと回り、推進力を受け流す事で殺し、魔石の重さを技術で何とか支えた。

 

「ふぅ……危ないアブナイ」

 

「最後棒読みになってる。反省してない」

 

 同じく飛んできたアイズが、そう言いながら乗っていた風を解除した。

 それと共にシオンも風を解除する。

 

「そんなことより、さっさと行きますよ。まずは魔石からです」

 

「わかった」

 

 そこにいる、唖然としている冒険者達を差し置いて、彼女たちはギルドへとゆっくり歩みを進めた。

 

 

   * * *

 

  ~換金中~

 

「ふぅ、まさか裏口から運び入れる破目になるとは……」

 

 特大の魔石を地面に置いて、滴る汗を艶かしく見えてしまう仕草で拭き取るシオン。

 疲労が溜まる肩を回しながら後ろを後ろを向くと、そこにはドロップアイテムを降ろし、一息吐き出すアイズ。

 

「仕方ないと思う。普通の入り口だったら狭すぎる」

 

「ま、漸く楽になれますから、別にいいのですが。あの、換金お願いできますか?」

 

「……っは、申し訳ない。今すぐ用意いたしますので少々お待ちを」

 

 目を点にしていたギルド職員に話しかけると、すぐさま動き出した。  

 これほどの魔石となると、置いてある換金用の金が足りない場合があるのだろうか。

 

 少し待つと、ギルドの魔石鑑定士がこぞって集まり、魔石の値を言い争っていた。

 やがて結論が出たのか、一人の鑑定士が此方へやって来る。

 

「いくらですか?」

 

「……8206万ヴァリスです」

 

「わぉ」

 

「すごーい」

 

 聞いて出た額に、表面上だけで驚く二人。

 正直言ってしまうと、二人の金銭感覚は、とある出来事によって粉微塵になっている。

 そのため、この程度なんともない。

 

「では、早速換金お願いします」

 

「は、はい」

 

 そそくさと去って行く鑑定士、それと入れ替わるように向かってくる、袋を抱えたギルド職員。 

 

「こ、こちらが換金額、8206万ヴァリスとなります」

 

「はい、ありがとうございます。アイズ、次はその骨を置きに行きましょう」

 

「わかった」

 

 口を半開きにしたり、疚しい視線を向けたりするギルド内の人々を目に掛けず、二人は裏口からその場を後にした。

 

   * * *

 

 ~【ロキ・ファミリア】ホーム、黄昏の館にて~

 

「あ、やっほー、セア」

 

「こんにちは、アキさん」   

 

 正門へと着くと、シオンに気づいたアキが声を掛けてきた。

 因みに、セアと言うのは『テランセア』からできた愛称である。

 

「アイズ、とりあえず中にでも置いて来てください。直ぐに出たいので」

 

「うん」

 

 ドロップアイテムを担いだまま、黄昏の館の庭を歩いていくアイズ。それを見送っていると、アキがシオンに話しかけてきた。

 

「で、セア。あれって何?」

 

「とあるモンスターのドロップアイテムです。私のファミリアのホームには置けるスペースが無いので、アイズもとい【ロキ・ファミリア】へ譲渡しようと思いしましてね」

 

「団長に怒られないかな……」

 

「大丈夫ですよ」

 

 アイズが持ってきたといえば、大体は通ってしまうだろう。それに、あれを武器に加工すればかなりの上物、一級品でも上位に位置するものを作ることが可能だろう。鍛冶師の腕にもよるが。

 

 そこから少し会話していると、アイズが意外と早く戻って来た。

 

「それではアキさん、さようなら。行きましょうかアイズ」

 

「うん、急いだほうがいいんだよね?」 

 

「ええ」

 

 簡潔に返答し、黄昏の館に背を向ける。

 

「あ、また行くんだ。じゃあね、セア。また今度」

 

「ははは……」

 

 背中から掛けられた言葉に、苦笑いが出てしまうシオン。

 セアがまた会うと言うことは、シオンがまだ性転換の状態であると言うことなのだから。

 

   

    * * *

 

「戻ってきました十二階層」

 

「ようやくだね」

 

「本当ですよ、往復で六時間かかるとは思ってもみませんでした」

 

 行きは地獄帰りは楽々。往復の殆どが行きに時間を掛けていた。  

 実際、帰りにかかった時間は一時間未満である。

 

「シオン、それで何をするの?」

 

「ふふふ、ちょっとついて来てください」

 

「? 分かった」

 

 シオンは目的地を言わずに、幾本もあるう内の一本の道を、鼻歌を口ずさみながら進んで行く。

 途中で遭遇(エンカウント)したモンスターは、壁から首を出した瞬間に灰へと変わっていき、酷い場合には、壁から出る前に魔石を貫かれていた。

 そうやって進んで行くと、少し風景の変わった階段らしき場所へ辿り着く。

 すると、アイズが腰に携えているサーベルに手を掛けた。

 

「大丈夫ですよ。この気配はモンスターのそれに似ていますが、モンスターのものではありません」

 

「そうなの?」

 

「ええ、このまま進みますよ」

 

 シオンも始めての時は存分に警戒したものだが、意外とあっけなくて毒気を抜かれた覚えがある。

 薄暗い階段を一段飛ばしで下りて行き、すぐに辿り着いた一本の直線道を進む。

 奥に見える光へと一直線に向かい、その光の中へ入ると見えるのは綺麗な自然。

 

「凄い……」

 

「えっへん、そうでしょう」

 

 自然に驚いたアイズが口から漏れたその言葉に、その大きくはない胸を張るシオン。その子供のような仕草は、あまり似つかわしくはないが、違和感はなかった。

 

「ここは、何?」

 

「さあ? 偶々見つけましたので、何とも言えませんね」

 

「……ねぇシオン。ここを知ってるのは、私とシオンだけなの?」

 

「今のところはそうなっている筈です」

 

 そもそも、ここに入れる入り口の存在を知っている人が少ないのだし、たとえ知っていたとしても、ここまで来れる実力の持ち主はそう居ないだろう。  

 総合的に考えて、此処を知っている人は二人以外存在しないに等しい。

 

「じゃあ、秘密の場所だね」

 

「というと?」

 

 理解できないシオンが聞き返すと、アイズは何も言わずに、中央の木の根元へ駆け寄っていった。

 その姿は、どこか楽し気で、軽やか。

 そのアイズを追いかけるようにシオンも歩み寄っていくと、根本に着いた彼女が振り返り、告げた。

 

「私とシオン、二人しか知らない、二人だけの場所。私たち以外、誰にも邪魔されない、誰も知ることのできない、何にも縛られない、二人だけの自由の秘密の場所」

 

 アイズは背で指を組みながらそう言った。その様子はとても嬉しそうで、その表情は曇りなんて無くて、その眼はとても澄んでいて。

 

「だから、誰にもいっちゃだめだよ?」

 

 そう言うと、アイズは相好を崩してはにかみ。

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

「!」

 

 それを見て、目を見張るシオン。

 目のあたりに熱が籠る。その熱は引くことは無く、頬を伝っていった。

 

「シオン?」

 

 視界がぼやける、それはいくら擦っても取れない。

 熱は止めどなく溢れる、頬を伝い、顎から滴って、一滴一滴消えていく。

 

「どうしたの?」

 

 アイズが駆け寄り、心配した表情になってしまう。

 

「いえ……何でもありません……ただ、願いが一つ、叶ったのが嬉しくて……」   

 

 熱を袖でぬぐい取ながら答える、その時にはもう目元が赤くなっており、袖は濡れていた。

 それを見て、アイズは優しく、温かく、シオンを包み込んだ。

 

「よかったね」

 

 そして、耳元でそう囁いた。

 

「あはは、だめだこれ」

 

 思わず出たその言葉と共に、苦笑と涙が洩れてしまう。

 それは情けない自分に対して向けた嘲笑だろうか。回りくどい方法でしか気持ちを伝えられない、勇気のない自分への嘲りだろうか。

 それとも―――――

 

「この場所を、私だけの場所に、しないでね」

 

「……しませんよ。アイズも、私だけの場所にさせないで下さいね」

 

―――――いや、そんなこと、どうでもいいか。 

 

 

   * * *

 

「シオンが泣いたところ、始めて見た」

 

「あ、あまり言わないでください……誰かに泣き顔見せたこと何て初めてでしたので……」

 

「大丈夫、誰にも言わないから」

 

 あの後、自分でも驚くほどに泣いてしまい、顔、特に目元辺りが酷い惨事となった。

 涙が止まると、アイズの顔を見ることが気まずく感じ、離れた場所で自分の顔を透き通った川に写しながら悶えたものだ。

 

「あ、そうだそうだ。アイズ、渡したい物があるのですよ」

 

「今日は何?」

 

 シオンはレッグホルスターの中から細長い箱を取り出して、それをアイズへと手渡した。

 

「まぁとりあえず開けてみてくださいな」

 

「うん」

 

 蓋で開け閉めする形の箱の蓋を外し、中身が露わになる。

 それは、金色の鎖に翡翠の宝石を繋いだネックレス。

 

「プレゼント?」

 

「ええ。遠征があるとのことですし、念のために渡しておこうかと」

 

「これ、もしかして魔道具(マジック・アイテム)?」

 

「ええ、加護(グラシア)というものが付与されています。簡単に言いますと、一回死んでも生き返る、という物です」

 

 遠征というものは危険なものだ。たとえアイズでも、死ぬような目に遭う可能性はある。

 念のため、と言っても、本当はその効果が使われないことを祈っているのだ。

 

「チート?」

 

「ええ、大当たりです」

 

「シオンって、いろんなチート持ってるよね」

 

「私自体がチートのようなものですから」

 

 その大半が、誰かしらにもらったものであると言うことは、言う必要あるまい。

 

「さて、問題のサイズですが、不具合はありますか?」

 

 このネックレスは、サイズも何も測っていない。小さいことは無いだろうが。

 アイズは箱からネックレスを取り、首へと回して、悩む様子を見せる。 

 

「……少し、大きいかな」

 

「少しばかり鎖を斬りますか?」

 

「ううん、服の中に入れれば邪魔にはならないから」

 

 そう言うと、首に回していた鎖を、何故かシオンへと差し出した。

 訳の分からぬままはシオンはそれを受け取り、首を傾げていると、

 

「付けて、欲しいな」

 

 と、背を向け髪を上げながら言った。

 

「え……私が、ですか?」

 

「それ以外に、誰かいるの?」

 

「いえいませんし誰かに譲るつもりなど毛頭ないのですが……良いのですか?」

 

「うん」

 

 少し混乱気味のシオンは、明確な許可を得ると、一度深々と深呼吸をして、覚悟を決めた面持ちになると、ゆっくりと手を回し、アイズの首に鎖を掛ける。

 首の後ろに留め具を回すと、カチッと音を立てて付けられた。

 

「ありがとう、シオン」

 

「い、いえ」

 

 覚悟した割には意外とあっけのない終わり。初めての経験と言うのは常にこういうものなのだろうかと思ってしまう。

 

「大切に、するね」

 

「……ええ、そう()()()くれると本当にありがたいです」

 

 それはつまり、アイズが死ぬような経験をすることが無くなる、と言うことなのだから。

 

 

   * * *

 

  余談

 

「そういえばシオンって、『魔導』のアビリティを習得したんだね」

 

「え? 習得してませんよ? どうしてそう思ったのですか?」

 

「だって、魔法円(マジック・サークル)が出てたでしょ?」

 

「え……魔法円(マジック・サークル)って『魔導』を習得していないと顕現できないのですか……初めて知りました」

 

「え?」

 

「え?」

 

   * * *

  

 うっすらと、小さな寝息を立て、隣に座る少女にもたれかかる金髪の少女。

 

「疲れてたのでしょうね……あれだけ闘えば普通そうなりますか」

 

 それを横目で見守りながら、おっとりとした表情をする銀髪に少女。

 中央に立つ大木の木蔭で休む二人は、静かにその場に留まっていた。

 実際のところ、アイズが眠そうにしていたから、休ませただけなのだが、転寝(うたたね)を繰り返していたと思ったら、知らぬ間に熟睡していた。

 

「起こすのも悪いですけど……アイズは帰らないとヤバいですよね……」

 

 シオンは今現在門限などないが、アイズにはある。先程、『夜までには帰らないと、フィンに怒られる』と言っていた。

 

「今から向かえば、日暮れまでには着きますかね」

 

 現在時刻は大体三時頃。じゃが丸くんの屋台があったら、つい寄り道してしまう時間だ。

 そろそろシオンの胃も、空腹を訴え始める頃である。

 

「運びましょうかね、失礼します、アイズ」

 

 支えを失い倒れ込まないよう、アイズの肩を支えながら立ち上がり、前に回って背負う。

 背中に防具の固い感触と、支える手から感じるやわらかい腿の感触に、悲しみながらも喜びを感じてしまうのは仕方のないことだ。決して疚しい気持ちで背負うわけでは無い。

 

「ん……」

 

 アイズが声を出して肩を跳ねさせるシオン。だが、次第に聞こえて来る小さな寝息によって安堵を覚える。

 

「これでは誘拐犯の気分です……」

 

 幼気(いたいけ)の残る少女を誘拐する銀髪美少女。なんというか、あのバカ男神共が興奮しそうなシチュエーションだ。 

 自分のことを美少女と言ったことは措いといて。

 

 一息吐いて、シオンは少しゆっくり目に歩き出した。

 

 

   * * *

 

  余談Ⅱ

 

「リヴェリア、これ、誰が置いていったと思う?」

 

「さあ、私に態々聞く必要はないだろう」

 

「団長、これ本当にアイズが持ってきたんですか?」

 

「恐らく、そうだね」

 

「流石アイズだね~でもさ、これって何なの?」

 

「帰ってきたら聞けばいいさ」

 

   

   

 


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