やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 シオン大金持ち化計画始動

では、どうぞ


売買、それは値段交渉

 太陽が一度沈み、また姿を現し始めた今日この頃。シオンはいつもとちょっと違った鍛錬の最中だった。

 彼が刀を振るう度に、周囲に暴風が吹き荒れる。

 彼がしていること、それは詠唱有りの魔法を使った架空戦闘。

 軽く一時間はその状態が続いている。そろそろ精神(マインド)も枯渇しそうなレベルだ。

 

「ふぅ……このあたりで……終わりにしておきましょうか……」

 

 軽い目眩がしたくらいで、魔法を解いて、一旦休憩に入る。

 周りには生物がいない為、『黒龍』『青龍』での即時回復はできないから、休憩は必要となるのだ。

 三分ほどで休憩を終え、今度はいつものセットを行う。勿論手は抜かない。

 

 魔法による暴風では無く、剣圧による風が吹く。

 吸血鬼の時ほどではないが、剣圧で風を起こしているのだから、どれ程の速さは想像に難くないはずだ。

 

 風が止んだ。彼は振るっていた二本の刀を納めている。

 教会の一角へと向かい、隠し扉を開いて、部屋へと戻る。

 

「いつも変わらないね」

 

「規則正しい生活を心がけてますから」 

 

 この時間には既に起きているベルが話しかけてくるのも、またいつものことだ。

 装備を金庫へ入れ、浴室で汗を洗い流した後、朝食の準備を行う。

『わざわざ金庫に装備を出し入れするのって、面倒じゃないの?』

 と、聞かれることもあるが、そこは単なる保険に過ぎないのだから、別に深い意味はない。

 朝食を用意し終え、ベルがヘスティアを起こし、毎度恒例のセリフを叫ぶ。

【ヘスティア・ファミリア】の朝は変わらない。流石に会話の内容や食事のメニューは変わるが。

 

 食事を終え、片付けも終え、それぞれの用事にはいる。   

 ヘスティアは安定のバイトで、ベルはダンジョンへ行くと言っていた。

 シオンはまずギルドへと向かった。情報をもらう為である。

 

「ミイシャさん。お仕事お疲れ様です」

 

「ほんとだよ……シオン君の情報を書き込んだ資料を渡しても、嘘を書くなとか言われて追い返されたし……エイナにと二人係でやっと受け取ってもらえたと思ったら、情報が少ないとか言われてやり直しだし、大体、謎が多いシオン君の情報をどうやって書けって言うのよ……」

 

「まぁまぁ、そこは持ち前の情報収集能力で、頑張ってください。無駄になることは目に見えていますが」

 

「なんか悔しい……で、何でシオン君が? もしかして情報?」

 

「はい。今日はここで大丈夫です、簡単なことなので」

 

「どんな事?」

 

「貴石や宝石の売買を行ってるお店と、腕のいい鑑定士が居るお店を教えていただけませんか?」

 

 魔法石の使い道は、昨日の魔法発現で決めていた。あれは売らずに加工して使う。

 

「えーとね。その二つの条件が当てはまるお店はあるよ」

 

「何処にですか?」

 

「北のメインストリートの真ん中あたりに、『夢の巣窟』っていう探索兼商業系ファミリアのホームがあるんだけど、そこに居る鑑定士の人がレア・アビリティ『鑑定』の持ち主で、確かBまであったかな。目は確かだから結構信頼されてるの」

 

「その『鑑定』は、特殊効果を見分けられますか?」

 

「あ、うん。できるみたいだよ」

 

 条件クリア、そこにしよう。あ、いっそのこと、金庫に溜まってる色々な物の鑑定を頼んでみようか。

 

「ありがとうございました。いつもすみませんね」

 

「別に情報のことは気にしなくていいよ。仕事のことは恨むけどね……」

 

 グルルルルゥと言いながらに睨みつけて来るミイシャさん。全く怖くないけど、その代わりなのか、顔が面白い。

 

「それでは、失礼します」

 

 睨むミイシャの殺意のない視線を背で受けけながら、ギルドを去った。

 

   * * *

 

 北のメインストリート。

 ホームへと一旦戻り、いろいろとバックパックに詰めた後、『夢の巣窟』と書かれた札が掛けられているお店のドアを開けた。

 少し狭く感じるそのお店は、天井が少し低めなのと、豊富な商品で場所が埋まっている所為なのかもしれない。

 その中の、区切られた場所へと向かう。そこには、天井から『鑑定所』と書かれた札が垂れさがっていた。

 

「また来るんだよ~」

 

 そんな女声が聞こえると、中から一人の男性が出てきた。

 その顔は、明らかに失敗したような感じ、もしかして値段交渉とかするの? 上等だな。

 

「初めまして。鑑定をお願したいのですが」

 

「あ、いいよいいよ。とりあえず座って。そして商品を見せてくれたまえ」

 

 水色の長髪、着る意味の解らない白衣、平均以上の容姿。そしてこの気配。 

 あ~あれだ、この人腹黒だ。

 早いうちから理解できててよかっただろう。この人の雰囲気は商談中のアミッドさんとどことなく似通っている。

 気を引き締めてやらないと、マジで足元掬われる。

 

「私からお願いするのは、このバックパックに入っている物全部です」

 

「はいぃ⁉ 大口の客! 凄い人が来た!」

 

「そう言うことは、物を見てから言った方が良いですよ」

 

 騒ぎ出す鑑定士の人を、宥めてから続ける。

 

「同じもののセットで行きましょうか。そちらの懐に余裕はありますか?」

 

 これを確認しておかないと、売る時の為の交渉が進まなくなる。

 

「問題ないよ、50億までなら何とかなるしね」

 

 どんだけ金あんだよ……でもこれなら何も気にせず値段交渉ができる。

 

「まずは貴石。赤青緑紫全部で72個」

 

「スゴ……全部拳より大きいし……何個か貴石の中でも稀少な『アレキサンドライト』があるし……君何者?」

 

「ただの冒険者ですよ、それで、値段交渉でもしましょうか」

 

「うん、いいよ。じゃあ9200万」

 

 高いな。でも、相場で考えたらかなり値切られている。

 

「安すぎますね。5億」

 

 あえて、相場以上の価格を突きつける。

 

「チッ、君には効かないか。切り返しも面倒なことを、1.2億」

 

 効く、それは恐らく値段に怯ませる、と言うことなのだろう。昨日までの私なら効いたかもしれんが、金銭感覚が崩壊した今の私には効果が無い。

 

「まだまだいけるでしょう? 4億」

 

「大きく下げるねぇ……1.8億」

 

 彼女は笑顔を纏っている、余裕の表れだろうか。

 

「限度ではありませんよね、3.5億」

 

「2億、これが限度かな」

 

「嘘は()かないでほしいですね。売っていた貴石の値段と、そこからの利益換算で考えて、差し引き0になるのがおおよそ3.7億。3.5億で買い取るのなら、単純に考えて2000万の利益。このくらいの利益が見込めるのなら、十分ではありませんかね~?」

 

「やるね……確かに2億が限度は嘘、3億、これで決めてほしいな」

 

 彼女の笑顔から、一滴の雫が滴ったのを見た。内心焦っているのだろう。

 

「そうですか……3.5億で買い取ってもらえないのなら、仕方ないですね。他を当たります。2000万でも利益は得ておいた方が良いと思うんですけどね~」

 

「………わかった、3.5億で買い取る」

 

「ありがとうございます」

 

 満面のどす黒い笑みを向ける。値段交渉はアミッドさんに教えてもらったのだ。そう簡単に負けるわけがない。別段、難しいことでもないしな。

 

「ちょっと待ってて、お金取って来る」

 

 そういう彼女の顔には、悔しさが浮かんでいた。負けたことが無かったのかな?

 貴石はとりあえず売れたし、次は宝石樹の宝石か…ざっと見て1.5くらいから始めるのがいいか。

 

「はい、3.5億。次は負けないから」

 

「頑張ってください。私は負けなければいいので。貴女の勝ち負けはどちらでも良いのですよ」

 

「なんかムカつく……で、次は」

 

「宝石、しかも宝石樹に生えていたやつです。手は一切加えてません」

 

 バックパックから色鮮やかな宝石を取り出す。それを見て彼女は一瞬目を見張った。

 

「稀少品……じゃあ1億」

 

 ありゃ? 以外といい値段出してきた。

 

「私は1.5億で売りたいのですが。稀少品とはどういうことですか?」

 

 そう問うと、彼女はある一つの宝石を手に持った。紅色の半透明な宝石。

 

「『運命の石』、石言葉は『永劫不滅の思い』と『唯一の希望』。ダンジョンでとれる石の中でも最上級の宝石。五本の指に入るね」

 

 へ~運が良かったのかな? それにしても、この石言葉、いいな……

 

「あの、その石を抜いて1億で良いですか?」

 

「お? 心変わりしたね。これが無いなら8500万くらいがいいんだけど」

 

「そう言わずに、9000万で諦めてくださいな」

 

「まぁそれくらいならいいよ。お金持ってくるね~」

 

 今回も負けではないか。強いて言うなら引き分け? 

 それにしても、『運命の石』ね~。自分で加工してみようかな。

 

「はい9000万。じゃあ次、まだあるんでしょ」

 

「ええ、次は値段交渉はありません。普通に鑑定で」

 

「了解、で、その物は?」

 

「今出します」

 

 バックパックの中から、箱に入れたアクセサリーを取り出す。

 白銀で、竜の文様が刻まれた指輪。薄紅の宝石が一つ埋め込まれた、瑠璃(るり)紺の腕輪が二個。眩しくないくらいに輝く、翡翠の宝石が先端に付いた黄金のネックレス。神聖文字(ヒエログリフ)が組み込まれている漆黒の手袋。

 どれも気配が普通じゃない物だ。

 

「……………」

 

「あの、早くしてもらえます?」

 

「あ、ごめんごめん。こんな凄い物早々お目にかかれないから」

 

「そんなに凄いんですか?」

 

「鑑定に出すくらいだから、どんな物か分からないんだよね。これは全部魔道具(マジック・アイテム)

 

 薄々気づいていたが、本当にそうだったか。

 

「効果は、この指輪が、遮断(シャットアウト)。認識阻害ともいうね」

 

 それなら、気配を紛らせれば同じようなことが出来るから必要ないな。

 

「腕輪は、反射(リフレクション)。ある程度のものは撥ね返せるよ」

 

 便利だな。でも、呪いまで跳ね返したら、ちょっと使えない子になっちゃう。

 

「このネックレスは、加護(グラシア)。いろいろ種類はあるけど、これは致死の一撃を一度だけ防ぐっていうやつだね。役目を終えたら直ぐに割れちゃうけど」

 

 これは使いどころさえ考えていれば、案外いいかもしれん。まぁ、致死の一撃をもらったところで、人間辞めればすぐ治るんだけど。吸血鬼化マジ最強。

 

「この手袋は、魔力干渉。魔法使用時に魔力の循環を良くして、魔力を操りやすくする効果があるんだ。上手くやれば、使う精神力(マインド)を減らせるよ。あと魔力事態を飛ばすこともできるかもね」

 

 へ~面白いな。魔力を操りやすくするってことは、並行詠唱や高速詠唱もしやすくなるってことかな? しかも魔力を飛ばせるって、波動技みたいなもんか。

 

「効果は全部一級品。誰が作ったのか気になるね……」

 

「鑑定ありがとうございます。私はこれを誰が作ったのかは知りませんからね?」

 

「そっか~。まぁいいけど。次もある?」

 

「ありますよ」

 

 アクセサリーを全部箱へ戻し、バックパックに入れてから、今度はドロップアイテムを取り出す。

 十二階層で入手した、シルバーバックと思われるモンスターの『変異種』の毛皮。何故かギルドで換金できなかったので、こういう手段を取るしかない。

 

「これは?」

 

「稀少モンスターのドロップアイテムです」

 

 『変異種』である時点で稀少だから、そう言っても齟齬(そご)は無い、はずだ。

 

「へ~、耐久性も抜群、伸縮性も問題なし、と言うより良い。軽いし、もふもふで暖かいから防寒性有り。特殊効果なのかな? 耐熱性もあるみたいだし、精霊の護布(サラマンダー・ウール)と似てるけど、完全にこっちの方が上。色も黒色だから目立ちにくいし、実用性は高いね」

 

 あんまり使い道は無いけど、ベルが中層行くときにでもプレゼントしてあげようかな。

 

「これってなんのモンスターのドロップアイテム?」

 

「名称不明って言うのが適切ですね。ちゃんとした名前がありませんし」

 

「てことは新種? ギルドに報告したの?」

 

「してませんよ、早々現れるものではありませんから」

 

 第一、現れてた場所がギルドに登録されてない資料上の未開拓領域だし。また生まれたとしても、遭遇するのは私だけだ。

 

「そのあたりはもういいや。他にはある? 鑑定して欲しい物」

 

「いえ、もうないですよ。今日は中々の稼ぎでした、ありがとうございます」

 

「うん、また来てね~」

 

「何か鑑定してもらいたい物ができたら来ますよ」

 

 そう言い残し、既にまとめ終えていた荷物を持って、店を後にした。

 

 

   * * *

 

 大きく一本ずれ、現在は北西のメインストリート。

 【ディアンケヒト・ファミリア】治療院内。そこに彼はいた。

 

「こんにちは、アミッドさん」

 

「こんにちは、シオン。今日はどんな用件で?」

 

高等精神力回復薬(ハイ・マジック・ポーション)二本と、収集できた物を売りに来ました」

 

「用意するので少しお待ちを」

 

 高等精神力回復薬(ハイ・マジック・ポーション)は新しい魔法の発動後に、魔力枯渇(マインド・ダウン)で動けなくならないように、という保険で、売りに来た物とは二十四階層で採れた白樹の葉(ホワイト・リーフ)である。 

 アミッドさんが高等精神力回復薬(ハイ・マジック・ポーション)をカウンターに置くと共に、持ってきた白樹の葉(ホワイト・リーフ)をカウンターに置く。

 

「……二十四階層に行ってきたの?」

 

「諸事情で向かい、道中で発見したので採取しました」

 

 実際は採取なんて生ぬるい方法では無かったが。  

  

「まぁいいです、そこは追及しませんので、それで、いくらで売るつもりですか?」

 

「全部で240万 三十枚もあるんですからこれくらいが正当な額だと思いますが」

 

「それで引き取りましょう。よかったです、シオン相手に価格交渉するとなると、かなり苦労しますから」

 

「私も、アミッドさん相手に価格交渉はゴメンですね。さっきの人では何とかなりましたが、同じ腹黒と言っても、格が違いますから……」

 

 さっきの人の腹黒さが一だとすると、アミッドさんが二十。因みに、ナァーザさんは十五くらいだ。

 カウンターの上に置かれていた白樹の葉(ホワイト・リーフ)の代わりに、音からして、230万ヴァリスが置かれる。

 

「10万少ない気がしますが」

 

高等精神力回復薬(ハイ・マジック・ポーション)の代金を引かせてもらいました。なので、もう代金は必要ありませんよ」

 

 ああそう言うこと。確かに二つの工程を踏むことは面倒だらね。

 

「シオン、この後用事はありますか?」

 

 と、荷物を纏めている途中に話しかけられた。理由は確定的にあれだろう。

 

「ごめんなさい、この後まだやることがありまして、話し相手になれないんです」 

 

「そうですか……シオンが気に病むことではありません。どうぞ用事の方を優先してください」

 

「はい、そうさせてもらいます。それでは」

 

「ええ、また今度」

 

 なんというか、アミッドさん。強く生きてください……

 

 

 




  オリキャラ紹介!!
 今回は、この方!
『夢の巣窟』、鑑定と値段交渉担当の。名称不明ちゃん。
 このななしちゃんは、実は、このファミリアの副団長だったりする。
 Lv.3の第二級冒険者でもあり、到達階層は二十階層。
 水色の長髪が良く目立つ、白衣を着た彼女は、『鑑定』のレア・アビリティの持ち主であり、腹黒だが、鑑定の信頼度は高い。
 
 っとこんなところかな?
 聞きたいことがあったら、気軽にどうぞ。勿論この話のこと限定ですが。

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