やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 タグ、変えました。

では、どうぞ


第六振り。常識破壊
異常、それは更新


 

「貴方、何時までそうしてるの?」

 

「体の怠さが消えるまでですよ……」  

 

「ここには肉体が無いじゃない。体の怠さはないはずよ」

 

「では訂正を、心の怠さが消えるまでです」

 

「なによそれ」

 

 くだらない言い合いをするのは、『アリア』とシオン。片や見下ろし、片や仰向けになって見上げている。

 

「もういいわ。ここは貴方の心なのだし、貴方が自由にするのは当たり前よね」

 

 アリアが言った通り、今いる場所はシオンの心だった。草原のような空間、そこには、相変わらずの金髪金眼の精霊と、一刀の刀。

 

「それで、何故私はまた自分の心に?」

 

「貴方が呪いを使い過ぎなのよ。あんなに体に呪いを入れて、しかも態と強くして、正気かどうかを疑ったけど、七割くらい正気なのよね。三割は完全に興奮していたけど」

 

「め、面目無いです……」

 

 仰向けのまま顔に手を当て、恥じらいを表現するシオン。肉体は無くとも。『肉体のようなもの』はあるのだ。

 

「で、それと私がここに来たのがどう繋がるのですか?」

 

「呪いで外の貴方の体が変わるのは、実体験済みよね。三日前はまだ許容の範囲内だったけど、今回はダメ。超光速で動くなんて、死にたいの?」

 

「嫌です、死にたくありません。でも、あれくらいじゃないと死んでいたかもしれないので。神と同じ不老不死と言われている吸血鬼だからって、私もその不老不死の吸血鬼とは限りませんし」

 

「貴方の言い分はわかるわ。だから責めはしない。でもね、やり過ぎるとここに閉じ込められるわよ」

 

「閉じ込められる?」

 

 シオンにはその意味が解らなかった。自分の心に自分が閉じ込められるなど、完全に矛盾しているのだ。

 

「貴方、実際に体験してるじゃない。心ではなく呪いだったけれど」

 

「あぁ、なるほど」

 

 呪いの世界、シオンがそう呼ぶあの血塗られた残酷で残虐で非情な世界。名もない吸血鬼が住み着いていたその世界に、彼はその体を乗っ取る形で閉じ込められた。 

  

「でも、そうしたら外に出る手段もあるのでは?」

 

「貴方がそれに至るまであっちの世界で何十年過ごしていたの?」

 

「外とあの世界とでは、時の流れが異なります。外が加速度一倍に対し、あちらは約四十五万倍。前より倍の時間が掛かったとしても、外では一日も経っていません」

 

「あっちの世界では、だけれどね。貴方の考えを使って言うと、外の加速倍率を一として、この心の世界の加速倍率はどのくらいだと思う?」

 

「不明です。現段階でそれを調べる手段はありません」

 

「なら、教えてあげる。12.25倍よ」

 

「な……」

 

 それを聞いてシオンは、自分の考えが浅はかだったことを知る。12.25倍、一秒が約十二秒。時が経てば差は次第に大きくなっていくが、時間が掛かり過ぎる。しかも、あちらの世界と比べると、この差は誤差の範疇だ。あちらの世界のように長い時間を過ごしたら、多少は少なくなるかもしれないが何十年とかかるのは必須。

 

「これは……下手に吸血鬼化ができなくなりましたね……」

 

 残念そうに、寝っ転がったまま溜め息を()くシオン。彼は長い間いたあの体を気に入っているのだ。性別が違うと言うことは関係なく。

 

「いいえ、吸血鬼化事態に問題は無いわ。ただ、そのまま暴れないで、と言ってるのよ。力を酷使するからダメなの。吸血鬼化したままでも、いつもと変わらないくらいで戦えば問題ないわ」

 

本当(マジ)ですか」 

 

「ええ、だからそんなに悲しそうな顔をしなくてもいいのよ」

 

「よかったぁ……」

 

 悲しそうな顔から安心した顔に早変わりして、安堵の溜め息を()くシオンを、愛おしむように眺めるアリア。彼の表情は、彼女が愛する我が子の表情に瓜二つだからかもしれないし、他の訳があるのかもしれない。

 

「そろそろ時間かしら」

 

 と、唐突に彼女が呟いた。

 

「時間、とは?」

 

「貴方が今ここに留まれる限界の時間よ」

 

「限界なんてあったんですね。だったら、私が閉じ込められても出れるのでは?」

 

「今回は、気絶した貴方の意識を、私が此処に連れてきたの。勿論、呪いについて注意するためよ」

 

 と、漸くアリアはここにシオンがいる理由を話した。そして続ける、

 

「だから気を付けなさい。あと、最後に二つほど言っておくわ」

 

「何でしょうか」

 

 やはり寝っ転がったまま聞き返すシオン。起き上がる気は毛頭ないらしい。

 

「外に出ても、興奮して叫んだりしてはダメよ。黙っていた方が堪能できるわ」

 

 意味不明なことを口にし、更に一言。

 

「それと、【ステイタス】更新をしておくといいわ」    

 

「それは、どういう―――」

 

 シオンが途中まで口にしたところで、彼の視界は暗転し、感覚も消え失せた。

 

 

   

   * * *

 

 『コツ、コツ』『トン、トン』と(まば)らにに足音が響く。

 彼は目を覚ました。だが、完全に自然体で、瞼を上げず、気絶したふりをしている。

 指先から感じる、さらさらしていて、ぷにぷにする柔らかい感触。

 体が一定の間隔で上下に揺れる。腿辺りには、支えられるような感覚。

 顔を何かがくすぐる、滑らかで、心地の良い感触。

 近くから匂う、整備され、綺麗な、穢れなき森のような香り。

 私はその数少ない情報で、何が起きているのかを理解できた。

  

 誰かに背負われ、運ばれている。それは確か。

 そして、その人は女性、または少女で質感の好い長髪の持ち主。追加で言うと、いい匂い。

 もう確定だ。私が背負われているのは誰か、ではなくアイズ。 

 

 その時点で最高である。

 

 彼は心の中に感謝を送った。そして同時に、『親としてどうなの?』 とも呟いておく。勿論心の中で。

 それに返事が無いのは分かっている。だが、何故か耐えがたい頭痛がして、頭を反射的に抑えてしまった。どうにも頭痛には慣れない。

 

「シオン、大丈夫?」

 

 動いてしまったせいで、やはりばれてしまった。もう少し堪能したかったのだが……

 ばれてしまったのなら仕方ない。堂々とやるだけだ。

 瞼を上げ、覚醒したことを示す。と、左の視界が塞がっていることに気づいた。

 

「えぇ、大丈夫だと思いますよ。体も戻ってますし。あと、眼帯つけてくれたんですね。ありがとうございます」

 

「うん、シオン、左眼見られるの嫌がると思ったから」

 

「別に嫌ではありませんよ。ただ、あまり知られたくないだけです。この眼の存在を知っているのは、お祖父さんと、ベルとアイズだけなんですから。親しみの証としてわかりやすいでしょう?」

 

「そう、だね」

 

 肯定だけをして、親しみの証、と言うところにあまり反応が無いことを残念に思いつつ、ふと気づく。

 

「……『一閃』は?」

 

 自分の背中に愛刀の重みが無いことに。

 

「アスフィさんが持ってる」

 

 そう言われ、後ろを振り返ると、二人係で『一閃』を運んでいた。その顔には汗が浮かび、息も上がっていることから、疲労が見受けられる。

 

「大丈夫でしょうか……私が持った方が……」

 

「動けるの?」

 

「ここままアイズの体に密着していたいですが、一応動けると思います。過度な戦闘はまだできませんが」

 

「わかった……」   

 

 脚を支えていた感触が、強まった気がした。何かと思いアイズの顔を見るも、後ろから見ている所為で、髪で隠れた顔は見えない。だが、一瞬見えた頬が、微かに赤みを帯びていた気がしたのは、気のせいなのだろうか。

 

 

   * * *

 

 地上への帰還を果たし、事後処理を始める冒険者の面々。時は既に夜。

 負傷者重傷者共に多く、怪我をしていない者など、シオンくらいしかいなかった。

 彼らはすぐに【ディアン・ケヒトファミリア】の治療院に向かい、全員が五体満足の状態へと回復した。()()()()()()()()()()()

 だが、最も重症だったのは、恐ろしい重量を誇る刀を運んでいたアスフィ。瀕死になる程の傷を負っていたことと、本人も気づかぬ内に、腰の骨が折れていたことも相俟って、かなりやばかったそうだ。

 治療を終えた面々は、自分のやるべきことを済ませていった。

 約束を果たす者、別れを告げる者。帰還を祝う者。報告へと向かう者。

 様々なことが行われるが、最後には、皆、帰路を辿っていた。

 愉快に言葉を交わしながら、疲れに耐えながら、喜びに浸りながら。

 仲間(家族)と共に、帰路を辿った。

 

 だが、彼は一人だった。

 

 周りには誰もいない。彼が歩く裏路地には、何の音も響かない。

 

 彼は独りだった。

 

 同じ場所へ帰る仲間は存在しない。同じ道を辿る仲間も存在しない。

 彼を追いかける仲間も存在しない。彼に寄り添う仲間も存在しない。

 

 何もいない。何も感じない。何も響かない。何の影響も与えない。

 そんな時が過ぎていると、彼の足は、ある場所へと辿り着き、歩みを止める。 

 

 目の前の隠し扉を開けた。

 

 現れた、奥に続く(くだ)り階段を進んで行く。

 一段一段を音も無く歩くと、薄暗い階段の先に、灯りが見えた。

 階段を下り終わり、視界に入るのは、生活感あふれる一室。それと、くだらない会話で盛り上がる、白兎とロリ巨乳。

 音も無く、気配を捉えられない彼に、気づくことは無かった。

 彼はそのことに慣れているのか、動じる様子はない。

 一直線に、部屋の一角へと向かった。そこには大きめの金属扉。彼が三日かけて作り上げた、自信作である。

 『スライドパズル』と『暗証番号』で開錠されるその扉は、かなりの安全性(セキュリティ)だと彼は自負していた。

 扉の材質自体はミスリル。借金をして購入したそれを、ふんだんに使用している。硬いし対魔法用金属とまで言われるほど、魔法にはめっぽう強い。因みにいうと、彼はその借金の返済を終えている。

 開錠音や開閉音はなるべく抑えるように、防音素材も内側に使用している為、音は殆ど聞こえない。

 金庫内に武器防具道具(アイテム)類を置くと、着替えを持ち、浴室へと向かう。

 血塗れ、染み付いた戦闘衣(バトル・クロス)を脱ぎ、体や髪を洗う。その時、特に髪には気を使っているのは、別に可笑しくは無いだろう。

 洗い終え、体を拭き、髪の水気を、風を操って飛ばす。こういう時に、風の便利さを理解させられるのである。普段着に着替え、血が染みた戦闘衣(バトル・クロス)は捨てるしかない。シミ落としは面倒なのだ。幸い、戦闘衣(バトル・クロス)はあと二着ある。

 浴室を出て、『アリア』に言われた通り【ステイタス】更新を行う。

 主神ことロり巨乳ことヘスティアに声をかけるシオン。

 

「うぎゃぁ! シ、シオン君、帰って来てたのかい。相変わらずの隠密(ステルス)性だね……っと、【ステイタス】の更新だよね。わかったよ、今度こそ驚かない。絶対だ。驚いたら明日の朝ごはんは無し……よしっ! 驚かないぞ!」

 

 毎度のこと驚かれるのは、仕方のないことだと、彼ことシオンは既に割り切っている。

 ヘスティアは、服を脱ぐようにいってから、更に自己暗示を始める。失敗することが目に見えているシオンは、それを生暖かい目で見守って、ただ待っているのだ。

 自己暗示を終えたヘスティア様は、神血(イコル)を垂らし、【ステイタス】の更新を始めた。すると、【ステイタス】が異常に発光する。

 

「なっ……」

 

 それを見て固まるヘスティア。

 

「なんじゃとぉっぉおぉぉおぉぉぉぉっ!!」

 

 次には驚きのあまり、叫んでしまった。近くにいた白兎は、その姿を見慣れていて、もう驚いていない。

 

「明日の朝食抜きですね」

 

 更に言うと、シオンも全く動揺しない。冷静に考え、ヘスティアが自己暗示中に言っていたことを実行するつもりだ。

 

「そ、そんなぁ……じゃ、じゃなくて! シオン君! キ・ミ・は! 何をやらかしたんだ!」

 

「ちょっと冒険者依頼(クエスト)をやって来ただけですよ」

 

「ちょっとでこんなことになるかぁ!」

 

「知りませんよ。それで、何が原因で叫んでるんですか? 上昇値ですか? 新しいスキルの発現ですか? それとも魔法ですか?」

 

 呆れた様子で淡々と訪ねていくシオン。その様子に白兎も苦笑い。

 

「魔法以外全部だよ! 追加して言うと【ランクアップ】もできるよ!」

 

「「……は?」」   

 

 追加して言われたことを理解できない二人。流石のシオンもこれは想定していなかった。

 

「ヘスティア様、自分の耳を疑う訳では無いので、ヘスティア様が言い間違ったと思いますから、聞きますけど、何ですって?」

 

「だ・か・ら! 【ランクアップ】だって!」

 

 今度の声は、驚きでは無く、嬉々の色が窺えた。ヘスティアのツインテールはぶんぶんと動き回っている。本当にどういう原理なのか知りたいものだ。

 

「あはは、なるほど、そうですか、【ランクアップ】ですか……所要期間が約一ヶ月。アイズの記録を超大幅更新……ヘスティア様、偽装しちゃ……ダメですか?」

 

「ダメだよ! わぁーい! シオン君が【ランクアップ】したよ! やったねベル君!」

 

「そうですね。さすがシオン、って言えばいいのかな?」

 

 跳び回って喜びだすヘスティア。小指を机の角にでもぶつけないだろうか……と暖気(のんき)に思っているシオン。拍手と賛辞を贈るベル。賑わい? とでもいえそうな空間ができていた。

 

「もう……なんでもいいです。ヘスティア様、さっさと終わらせてください」

 

「うん!」

 

 

   * * *

 

「はい……冷静になってみてみたけど……流石だね…」

 

「褒めて頂いてありがとうございます」

 

「わかって言ってるだろ!」

 

 

シオン・クラネル

 Lv.1

 力:S  970→Z 4154

耐久:B  712→Z 3380

器用:SSS1385→Z 5241

敏捷:SSS1339→Z 4927

魔力:SS 1061→SSS1396

 《魔法》

【エアリアル】

付与魔法(エンチャント)

・風属性

・詠唱式【目覚めよ(テンペスト)

 《スキル》

乱舞剣心一体(ダンシング・スパーダ・ディアミス)

・剣、刀を持つことで発動

・敏捷と器用に高補正

・剣、刀を二本持つことで多重補正

一途(スタフェル)

・早熟する

・憧憬との繋がりがある限り効果持続

懸想(おもい)の丈により効果上昇  

接続(テレパシー)

・干渉する

・効果範囲は集中力に依存

・相互接続可能

 

 

 

「で、こっちが」

 

 

シオン・クラネル

 Lv.2

 力:Z 4154→I0

耐久:Z 3380→I0

器用:Z 5241→I0

敏捷:Z 4927→I0

魔力:SSS1396→I0

 《魔法》

【エアリアル】

付与魔法(エンチャント)

・風属性

・詠唱式【目覚めよ(テンペスト)

 《スキル》

乱舞剣心一体(ダンシング・スパーダ・ディアミス)

・剣、刀を持つことで発動

・敏捷と器用に高補正

・剣、刀を二本持つことで多重補正

一途(スタフェル)

・早熟する

・憧憬との繋がりがある限り効果持続

懸想(おもい)の丈により効果上昇  

接続(テレパシー)

・干渉する

・効果範囲は集中力に依存

・相互接続可能

 

 

 

 うん、おかしい

 上昇値も異常だし、てか、Zって何だよ。どういう法則で成り立ってるわけ?

 スキルも発現したはいいけど、説明不足。ベルの魔法並だよ。てか、発現する心当たりがないんですが~どういうことですか。

 

「あ、発展アビリティはあったよ……それすら異常だったけど……」

 

「一応聞いておきます、どんな異常性ですか?」

 

「二つの分岐があって、一つが【鬼化】って言いう意味の分からないレア・アビリティ。そしてもう一つが【精癒】()【耐異常】。どういうことか、分かる?」

 

「レア・アビリティが二つもあることと、【精癒】と【耐異常】、一度に二つのアビリティが習得できること。ですかね」

 

「で、どうするの?」

 

「【鬼化】で、それしかありませんね」

 

「即答だね……何か理由でもあるの?」

 

 理由か……吸血鬼のことを言うのはあれだし……久しぶりに一般論で……

 

「私が異常極まりないからと言って、流石にそこまではいくと、ヘスティア様が、神の力(アルカナム)を使ったと疑われかねませんから、心配してるんですよ」

 

「シオン君……」

 

 シオンが思う一般論に、涙を潤ませるヘスティア。彼は今とても複雑な気分だろう。

 

「じゃあ、そっちも早いとこ取っておこう!」

 

「【ステイタス】の更新ってそんな何度もやっていいんですか?」

 

「問題なし! 普通はしないだけだから!」

  

「はぁ、わかりました」

 

 

 


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