タグ、変えました。
では、どうぞ
異常、それは更新
「貴方、何時までそうしてるの?」
「体の怠さが消えるまでですよ……」
「ここには肉体が無いじゃない。体の怠さはないはずよ」
「では訂正を、心の怠さが消えるまでです」
「なによそれ」
くだらない言い合いをするのは、『アリア』とシオン。片や見下ろし、片や仰向けになって見上げている。
「もういいわ。ここは貴方の心なのだし、貴方が自由にするのは当たり前よね」
アリアが言った通り、今いる場所はシオンの心だった。草原のような空間、そこには、相変わらずの金髪金眼の精霊と、一刀の刀。
「それで、何故私はまた自分の心に?」
「貴方が呪いを使い過ぎなのよ。あんなに体に呪いを入れて、しかも態と強くして、正気かどうかを疑ったけど、七割くらい正気なのよね。三割は完全に興奮していたけど」
「め、面目無いです……」
仰向けのまま顔に手を当て、恥じらいを表現するシオン。肉体は無くとも。『肉体のようなもの』はあるのだ。
「で、それと私がここに来たのがどう繋がるのですか?」
「呪いで外の貴方の体が変わるのは、実体験済みよね。三日前はまだ許容の範囲内だったけど、今回はダメ。超光速で動くなんて、死にたいの?」
「嫌です、死にたくありません。でも、あれくらいじゃないと死んでいたかもしれないので。神と同じ不老不死と言われている吸血鬼だからって、私もその不老不死の吸血鬼とは限りませんし」
「貴方の言い分はわかるわ。だから責めはしない。でもね、やり過ぎるとここに閉じ込められるわよ」
「閉じ込められる?」
シオンにはその意味が解らなかった。自分の心に自分が閉じ込められるなど、完全に矛盾しているのだ。
「貴方、実際に体験してるじゃない。心ではなく呪いだったけれど」
「あぁ、なるほど」
呪いの世界、シオンがそう呼ぶあの血塗られた残酷で残虐で非情な世界。名もない吸血鬼が住み着いていたその世界に、彼はその体を乗っ取る形で閉じ込められた。
「でも、そうしたら外に出る手段もあるのでは?」
「貴方がそれに至るまであっちの世界で何十年過ごしていたの?」
「外とあの世界とでは、時の流れが異なります。外が加速度一倍に対し、あちらは約四十五万倍。前より倍の時間が掛かったとしても、外では一日も経っていません」
「あっちの世界では、だけれどね。貴方の考えを使って言うと、外の加速倍率を一として、この心の世界の加速倍率はどのくらいだと思う?」
「不明です。現段階でそれを調べる手段はありません」
「なら、教えてあげる。12.25倍よ」
「な……」
それを聞いてシオンは、自分の考えが浅はかだったことを知る。12.25倍、一秒が約十二秒。時が経てば差は次第に大きくなっていくが、時間が掛かり過ぎる。しかも、あちらの世界と比べると、この差は誤差の範疇だ。あちらの世界のように長い時間を過ごしたら、多少は少なくなるかもしれないが何十年とかかるのは必須。
「これは……下手に吸血鬼化ができなくなりましたね……」
残念そうに、寝っ転がったまま溜め息を
「いいえ、吸血鬼化事態に問題は無いわ。ただ、そのまま暴れないで、と言ってるのよ。力を酷使するからダメなの。吸血鬼化したままでも、いつもと変わらないくらいで戦えば問題ないわ」
「
「ええ、だからそんなに悲しそうな顔をしなくてもいいのよ」
「よかったぁ……」
悲しそうな顔から安心した顔に早変わりして、安堵の溜め息を
「そろそろ時間かしら」
と、唐突に彼女が呟いた。
「時間、とは?」
「貴方が今ここに留まれる限界の時間よ」
「限界なんてあったんですね。だったら、私が閉じ込められても出れるのでは?」
「今回は、気絶した貴方の意識を、私が此処に連れてきたの。勿論、呪いについて注意するためよ」
と、漸くアリアはここにシオンがいる理由を話した。そして続ける、
「だから気を付けなさい。あと、最後に二つほど言っておくわ」
「何でしょうか」
やはり寝っ転がったまま聞き返すシオン。起き上がる気は毛頭ないらしい。
「外に出ても、興奮して叫んだりしてはダメよ。黙っていた方が堪能できるわ」
意味不明なことを口にし、更に一言。
「それと、【ステイタス】更新をしておくといいわ」
「それは、どういう―――」
シオンが途中まで口にしたところで、彼の視界は暗転し、感覚も消え失せた。
* * *
『コツ、コツ』『トン、トン』と
彼は目を覚ました。だが、完全に自然体で、瞼を上げず、気絶したふりをしている。
指先から感じる、さらさらしていて、ぷにぷにする柔らかい感触。
体が一定の間隔で上下に揺れる。腿辺りには、支えられるような感覚。
顔を何かがくすぐる、滑らかで、心地の良い感触。
近くから匂う、整備され、綺麗な、穢れなき森のような香り。
私はその数少ない情報で、何が起きているのかを理解できた。
誰かに背負われ、運ばれている。それは確か。
そして、その人は女性、または少女で質感の好い長髪の持ち主。追加で言うと、いい匂い。
もう確定だ。私が背負われているのは誰か、ではなくアイズ。
その時点で最高である。
彼は心の中に感謝を送った。そして同時に、『親としてどうなの?』 とも呟いておく。勿論心の中で。
それに返事が無いのは分かっている。だが、何故か耐えがたい頭痛がして、頭を反射的に抑えてしまった。どうにも頭痛には慣れない。
「シオン、大丈夫?」
動いてしまったせいで、やはりばれてしまった。もう少し堪能したかったのだが……
ばれてしまったのなら仕方ない。堂々とやるだけだ。
瞼を上げ、覚醒したことを示す。と、左の視界が塞がっていることに気づいた。
「えぇ、大丈夫だと思いますよ。体も戻ってますし。あと、眼帯つけてくれたんですね。ありがとうございます」
「うん、シオン、左眼見られるの嫌がると思ったから」
「別に嫌ではありませんよ。ただ、あまり知られたくないだけです。この眼の存在を知っているのは、お祖父さんと、ベルとアイズだけなんですから。親しみの証としてわかりやすいでしょう?」
「そう、だね」
肯定だけをして、親しみの証、と言うところにあまり反応が無いことを残念に思いつつ、ふと気づく。
「……『一閃』は?」
自分の背中に愛刀の重みが無いことに。
「アスフィさんが持ってる」
そう言われ、後ろを振り返ると、二人係で『一閃』を運んでいた。その顔には汗が浮かび、息も上がっていることから、疲労が見受けられる。
「大丈夫でしょうか……私が持った方が……」
「動けるの?」
「ここままアイズの体に密着していたいですが、一応動けると思います。過度な戦闘はまだできませんが」
「わかった……」
脚を支えていた感触が、強まった気がした。何かと思いアイズの顔を見るも、後ろから見ている所為で、髪で隠れた顔は見えない。だが、一瞬見えた頬が、微かに赤みを帯びていた気がしたのは、気のせいなのだろうか。
* * *
地上への帰還を果たし、事後処理を始める冒険者の面々。時は既に夜。
負傷者重傷者共に多く、怪我をしていない者など、シオンくらいしかいなかった。
彼らはすぐに【ディアン・ケヒトファミリア】の治療院に向かい、全員が五体満足の状態へと回復した。
だが、最も重症だったのは、恐ろしい重量を誇る刀を運んでいたアスフィ。瀕死になる程の傷を負っていたことと、本人も気づかぬ内に、腰の骨が折れていたことも相俟って、かなりやばかったそうだ。
治療を終えた面々は、自分のやるべきことを済ませていった。
約束を果たす者、別れを告げる者。帰還を祝う者。報告へと向かう者。
様々なことが行われるが、最後には、皆、帰路を辿っていた。
愉快に言葉を交わしながら、疲れに耐えながら、喜びに浸りながら。
だが、彼は一人だった。
周りには誰もいない。彼が歩く裏路地には、何の音も響かない。
彼は独りだった。
同じ場所へ帰る仲間は存在しない。同じ道を辿る仲間も存在しない。
彼を追いかける仲間も存在しない。彼に寄り添う仲間も存在しない。
何もいない。何も感じない。何も響かない。何の影響も与えない。
そんな時が過ぎていると、彼の足は、ある場所へと辿り着き、歩みを止める。
目の前の隠し扉を開けた。
現れた、奥に続く
一段一段を音も無く歩くと、薄暗い階段の先に、灯りが見えた。
階段を下り終わり、視界に入るのは、生活感あふれる一室。それと、くだらない会話で盛り上がる、白兎とロリ巨乳。
音も無く、気配を捉えられない彼に、気づくことは無かった。
彼はそのことに慣れているのか、動じる様子はない。
一直線に、部屋の一角へと向かった。そこには大きめの金属扉。彼が三日かけて作り上げた、自信作である。
『スライドパズル』と『暗証番号』で開錠されるその扉は、かなりの
扉の材質自体はミスリル。借金をして購入したそれを、ふんだんに使用している。硬いし対魔法用金属とまで言われるほど、魔法にはめっぽう強い。因みにいうと、彼はその借金の返済を終えている。
開錠音や開閉音はなるべく抑えるように、防音素材も内側に使用している為、音は殆ど聞こえない。
金庫内に武器防具
血塗れ、染み付いた
洗い終え、体を拭き、髪の水気を、風を操って飛ばす。こういう時に、風の便利さを理解させられるのである。普段着に着替え、血が染みた
浴室を出て、『アリア』に言われた通り【ステイタス】更新を行う。
主神ことロり巨乳ことヘスティアに声をかけるシオン。
「うぎゃぁ! シ、シオン君、帰って来てたのかい。相変わらずの
毎度のこと驚かれるのは、仕方のないことだと、彼ことシオンは既に割り切っている。
ヘスティアは、服を脱ぐようにいってから、更に自己暗示を始める。失敗することが目に見えているシオンは、それを生暖かい目で見守って、ただ待っているのだ。
自己暗示を終えたヘスティア様は、
「なっ……」
それを見て固まるヘスティア。
「なんじゃとぉっぉおぉぉおぉぉぉぉっ!!」
次には驚きのあまり、叫んでしまった。近くにいた白兎は、その姿を見慣れていて、もう驚いていない。
「明日の朝食抜きですね」
更に言うと、シオンも全く動揺しない。冷静に考え、ヘスティアが自己暗示中に言っていたことを実行するつもりだ。
「そ、そんなぁ……じゃ、じゃなくて! シオン君! キ・ミ・は! 何をやらかしたんだ!」
「ちょっと
「ちょっとでこんなことになるかぁ!」
「知りませんよ。それで、何が原因で叫んでるんですか? 上昇値ですか? 新しいスキルの発現ですか? それとも魔法ですか?」
呆れた様子で淡々と訪ねていくシオン。その様子に白兎も苦笑い。
「魔法以外全部だよ! 追加して言うと【ランクアップ】もできるよ!」
「「……は?」」
追加して言われたことを理解できない二人。流石のシオンもこれは想定していなかった。
「ヘスティア様、自分の耳を疑う訳では無いので、ヘスティア様が言い間違ったと思いますから、聞きますけど、何ですって?」
「だ・か・ら! 【ランクアップ】だって!」
今度の声は、驚きでは無く、嬉々の色が窺えた。ヘスティアのツインテールはぶんぶんと動き回っている。本当にどういう原理なのか知りたいものだ。
「あはは、なるほど、そうですか、【ランクアップ】ですか……所要期間が約一ヶ月。アイズの記録を超大幅更新……ヘスティア様、偽装しちゃ……ダメですか?」
「ダメだよ! わぁーい! シオン君が【ランクアップ】したよ! やったねベル君!」
「そうですね。さすがシオン、って言えばいいのかな?」
跳び回って喜びだすヘスティア。小指を机の角にでもぶつけないだろうか……と
「もう……なんでもいいです。ヘスティア様、さっさと終わらせてください」
「うん!」
* * *
「はい……冷静になってみてみたけど……流石だね…」
「褒めて頂いてありがとうございます」
「わかって言ってるだろ!」
シオン・クラネル
Lv.1
力:S 970→Z 4154
耐久:B 712→Z 3380
器用:SSS1385→Z 5241
敏捷:SSS1339→Z 4927
魔力:SS 1061→SSS1396
《魔法》
【エアリアル】
・
・風属性
・詠唱式【
《スキル》
【
・剣、刀を持つことで発動
・敏捷と器用に高補正
・剣、刀を二本持つことで多重補正
【
・早熟する
・憧憬との繋がりがある限り効果持続
・
【
・干渉する
・効果範囲は集中力に依存
・相互接続可能
「で、こっちが」
シオン・クラネル
Lv.2
力:Z 4154→I0
耐久:Z 3380→I0
器用:Z 5241→I0
敏捷:Z 4927→I0
魔力:SSS1396→I0
《魔法》
【エアリアル】
・
・風属性
・詠唱式【
《スキル》
【
・剣、刀を持つことで発動
・敏捷と器用に高補正
・剣、刀を二本持つことで多重補正
【
・早熟する
・憧憬との繋がりがある限り効果持続
・
【
・干渉する
・効果範囲は集中力に依存
・相互接続可能
うん、おかしい
上昇値も異常だし、てか、Zって何だよ。どういう法則で成り立ってるわけ?
スキルも発現したはいいけど、説明不足。ベルの魔法並だよ。てか、発現する心当たりがないんですが~どういうことですか。
「あ、発展アビリティはあったよ……それすら異常だったけど……」
「一応聞いておきます、どんな異常性ですか?」
「二つの分岐があって、一つが【鬼化】って言いう意味の分からないレア・アビリティ。そしてもう一つが【精癒】
「レア・アビリティが二つもあることと、【精癒】と【耐異常】、一度に二つのアビリティが習得できること。ですかね」
「で、どうするの?」
「【鬼化】で、それしかありませんね」
「即答だね……何か理由でもあるの?」
理由か……吸血鬼のことを言うのはあれだし……久しぶりに一般論で……
「私が異常極まりないからと言って、流石にそこまではいくと、ヘスティア様が、
「シオン君……」
シオンが思う一般論に、涙を潤ませるヘスティア。彼は今とても複雑な気分だろう。
「じゃあ、そっちも早いとこ取っておこう!」
「【ステイタス】の更新ってそんな何度もやっていいんですか?」
「問題なし! 普通はしないだけだから!」
「はぁ、わかりました」