やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 オリキャラ登場!

では、どうぞ


開戦、それは食糧庫

 

「レヴィス、侵入者だ」

 

 薄暗く、不気味な大洞窟で、男が警告を齎した。

 『レヴィス』と呼ばれた赤髪の女は、その警告に、蹲らせていた顔を上げ、『モンスターか?』と問うた。

 

「いや、冒険者だ」

 

 その言葉に、『やはり来た』、と続ける。

 周りが慌ただしくなる中、レヴィスはくだらなそうに一瞥し、無感情なまでに、ただ落ち着いていた。

 

「相手は中規模パーティ……全員手練れのようだ」

 

 そして、肉壁の一部には蒼白い水膜に、冒険者が戦う姿が映し出されていた。

 その水膜を無機質な目で見ている中、ふと、金髪金眼の少女が現れた。それを確認すると、レヴィスの目の色を変える。

 素早い動作で立ち上がり、一言告げた。

 

「『アリア』だ」

 

「なにっ!」

 

 比較的落ち着いていたその男は、『アリア』、と聞くと大きな反応を見せた。そんな中、レヴィスはその少女を見つめていた。

 そのことで、誰のことを指して『アリア』と言っているのかを男は理解し、顔を歪めさせる。

 

「【剣姫】が『アリア』……?信じられん」

 

「確かだ」

 

 男の確認のような疑問に、レヴィスは短く答え、雰囲気を豹変させた。

 それはとても冷酷なもの。目的の為なら手段を択ばない、狂人のようなそれをレヴィスは纏っていた。

 

「私が行く。『アリア』の周り奴等から引き剥がせ」

 

「……わかった」

 

 レヴィスは男の返事を待たずに動き出していた。男は、それを見送っていた。

 その二人は、もう一人のアリア(危険分子)の存在に気づくことは無かった。

 だが、ただ一人、危険分子の存在に気づき、恐れた者がいた。

 

「相棒、俺も行かせてくれ」

 

 それは男だった。顔を隠していながらも、そこから見え隠れする目は、武人のそれ。

 

「何故だ、お前が行く必要はないはずだ」

 

「いや、あいつだけは殺しておかなければ、後々厄介になる」

 

 男は、水膜の何もないように()()()部分を見続けていた。

 

「あいつ?誰のことを言ってるんだ」

 

「……やはり、()()()()()()()()

 

 その部分には、注視しても、何も()()()()。だが、男には見えていた。

 変わった髪をして、能力を持った刀を使い、向かって来る食人花(ヴィオラス)を瞬く間に殺していく、左目を隠した者。 

 その者の気配は薄く、捉えにくい。

 この水膜は、()に映る者の気配をそのまま映している。全ての気配を映すことはできても、その気配を捉えられるかどうかは、個人の技量次第なのだ。

 

「見えていない?どういうことだ」

 

「それはいい。とにかく、俺も行かせろ」

 

「……お前がそれ程う奴か」

 

「あぁ」

 

「仕方がない、行くぞ、相棒」 

 

 

  * * *

 

 とある蒼白い花に見下される中、激しい戦いが繰り広げられていた。

 モンスターの必殺(体当たり)盾役(ウォール)が防ぐ。

 無数に広がり、不規則にうねる触手(むち)迎撃役(中衛)攻撃役(アタッカー)が弾く。

 詠唱を行う魔導士へ、脇目もふらずに突っ込む食人花が、一筋の赤い炎に斬り殺され、焼却されていく。

 【ヘルメス・ファミリア】は一進一退の攻防戦を繰り広げながらも、悪戦苦闘していた。

 

「ルルネ、相手の魔石はどこですか⁉」

 

 現在の前衛であるアスフィさんは、いち早く戦況に順応し、声を出せるくらいにまではなっていた。

 多角度から押し寄せて来る触手を全て斬り飛ばし、相手の懐に入り込み、鋭く、深く斬り込む。

 その度に、空間に破鐘のような悲鳴が響き、相手の攻撃も激しくなる。

 アスフィさんは、相手への撹乱も兼ねて、素早く動き回っていた。

 

「えっと、確か、口の中!」

 

 少し間を置き、叫んだのは、相手の弱点がある位置。

 それを確認すると、魔道具(マジック・アイテム)らしきマントで、振り下ろされた触手を受け流し、(ホルスター)から一本の、緋色の液体が詰まった小瓶を取り出し―――投げた。

 それは食人花の口腔へ放り込まれ、爆発。

 

「―――――――ァッ⁉」

 

 食人花は悲鳴を上げたが、それは最後まで続かず、灰へと変わる。

 そして、私とアイズで、狙わやすい魔導士たちを守りながら、食人花を解体&焼却していく。

 

「アイズ、それそろ突っ込んでいい頃合いですよね」

 

「うん」

 

 全体的に安定もしてきて、退くことも無くなり、魔導士を守る必要もなくなって来たので、あとは殲滅だけだ。

 同意を得た私は、相手の懐に突っ込み、斬り刻みながらも焼却していく。

 アイズも、振り下ろされる鞭を難なく躱し、頭部を斬り落としていた。

 

 

 

 

「あらかた片付けましたね……」

 

 少し時が経つと、周りには食人花が一体しか残っておらず、その一体も、今ルルネさんに仕留められていた。

 食人花は強弱に差はありつつも、意外と弱く、簡単に屠れた。

 中に入っていた極彩色の魔石も、大小様々で『強化種』が居たことが予想できる。

 まぁ、同個体なのに強さに差があった時点で大方予想はしていたが。

 

「落ち着いて戦えば、何とかなるもんだなぁ」

 

打撃(こうげき)が通らなかった時はどうなるかと思いましたが……まぁ良しとしましょう」

 

 その後は武器の点検や魔石の採取を行い、進行を再開させた。

 

「聞いてはいましたが、あれが例の新種のモンスターですか……」

 

「固くて、速くて……しかも数も多い。やになるよなー」

 

「そうですか?あれくらい普通だと思いますが?」

 

 これは素朴な疑問だった。十二階層から繋がるあの巨大ルームに出て来る奴らは、これ以上の大群且連携も取れていて、個体差もあるが、大概速いし固い。刀の前では無力だが。

 

「シオン、これを普通と言うあなたは、今まで何と戦ってきたんですか?」

 

「知りたいですか?」

 

「いいえ、やめておきます。常識が崩れそうで怖いので」

 

 良い判断だ。私の常識はとっくに『世間一般=常識』では無くなっているからな。

 

「それと、あなた達はあの新種の性質を熟知しているようでしたが、知っていることがあれば、今のうちに教えてもらっていいですか?」

 

「いいですけど、それは私ではなくアイズから聞いた方が良いと思います。私はアイズから聞いたので。アイズ、説明をお願いしてもいいですか?」

 

「うん、分かった」

 

 そして、情報の提供が始まった。その間も進行は止まらない為、警戒は怠らないが、私は自分なりに考えをまとめることにした。

 

 まず、今回の事の原因。それは恐らく赤髪の女性だろう。食人花は、アイズによると従う怪物(テイムモンスター)らしく、その(テイマー)が赤紙の女性とされているからだ。

 そして、その食人花は『強化種』が多数存在し、個体により強さに差がある。

 基本的に、『強化種』になるには、魔石を食べる、と言う行為を行わなければならない。それは、恐らくあの肉壁を突破した比較的強い個体から得た物だろう。

 だが、一つおかしい点がある。

 食人花が『強化種』なら、何故、他の食人花を襲わないかと言うことだ。

 普通、『強化種』は誰彼構わず魔石を喰らっていく。それが同種のモンスターであってもだ。

 ……いや、例外は存在した。実際に見ているではないか。統率のとれた『強化種』の群れを。

 あいつらは、同種を決して襲わない。だが、他は問答無用だ。

 その性質とこの食人花の性質は酷似している。

 私の推測では、その性質は、『キラーアント』のフェロモンもように、同種にしかわからない何かを発しているのが原因ではないかと思っている。

 

「……あと、他のモンスターを率先して狙う習性が、あるかもしれません」

 

 アイズの情報提供はどうやら終わったようだ。最後に言っていたことは私も聞いたことが無かったが。

 恐らく、それはアイズが立てた推測だろう。『強化種』が他のモンスターを狙うことは当たり前だが、率先して、というのは珍しい。

 これまた推測だが、食人花が狙っているのは、モンスターでは無く、その魔石だろう。魔力・魔法に反応する、と言うのは、魔石と似ているからだ。

 魔法は、魔力が世界に干渉し、生み出される、非現実的な現象。その過程で魔力を放出するため、魔法に反応するのだろう。

 そして、魔石は単純な魔力の結晶体。それは魔力を放出し続けている。

 魔法も魔石も、魔力を放出する、と言う点では、量の差はあれど、同じなのだ。

 

「共食いのモンスターってことか?珍しいな」

 

「別に珍しくはありませんよ。同じようなモンスターは大量にいます。まぁ普通は『強化種』自体が珍しいようですが」

 

「その言い方だと、貴方にとっては『強化種』は珍しくとも何ともない、と言う風に聞こえますが」

 

「そう言ってますから正しいですよ」 

 

「……もしかして、貴方が普段闘っているのは…」

 

「常識が崩れるのでそれ以上は考えない方が良いですよ。アスフィさん」

 

「……そうですね。もう考えないことにします」

 

「ってことは、食人花(あいつら)は『強化種』だってことか?」

 

「そうでしょうね。さっき見た灰なんかが証拠だと思いますよ。魔石だけが消えてましたから」

 

「確かに、言われてみればそうだな~。あの食人花(モンスター)力がばらばらだったし」

 

 やっぱり、手応えなんかで気づけるくらいには強いのか。

 

「まぁ、『変異種』がいないことを望むばかりです」

 

「『変異種』?なんだそりゃ」

 

 あれ?知らないの?結構常識的なことかと……私の常識は世間一般じゃないんだった。

 

「『変異種』、『強化種』の個体が、更に強くなって見た目や能力までもが変わったモンスター。今のところ三体しか確認されていません。そのうちの一体はまだ生きていますが」

 

 アスフィさんが補足説明をしてくれた。知ってる人もいてちょっと安心。

 

「で、その三体って?」

 

「『古代』に地上に進出した、三大冒険者依頼(クエスト)の討伐対象です。陸の王者(ベヒーモス)海の覇王(リヴァイアサン)、黒龍…隻眼の竜と言った方が通じますか」

 

「え、『変異種』ってそんなバケモノ共なのかよ…勝てっこねぇじゃん」

 

「いえ、『変異種』と言っても、それだけではないんですよ。三大冒険者依頼(クエスト)の『変異種』は、元が強い特殊個体なんですよ。普通の『変異種』は、頑張ってもLv.5か6。その程度なら勝ち目はありますよ。苦戦を強いられることは確かですが」

 

「うへ~Lv.6を程度とか言っちゃったよ」

 

「一口にLv.6と言っても、強さはそれぞれですよ」

 

 実際、前に見たインファント・ドラゴンの『変異種』は潜在能力(ポテンシャル)はLv.6相当だったが、一刀で終わった。実に弱すぎた。

 

「さて、アイズ。肩の力を抜きましょうか」

 

「!……うん…」

 

 何故私がそう言ったか。それはアイズが必要以上に力を入れて剣を握っていたから。何が原因かは分からないが、あの状態のままだと、足元が掬われかねない。

  

「また、分かれ道か……」

 

 再び分かれ道に差し掛かり、パーティの足取りが止まった。

 ルルネさんがアスフィさんに指示を仰ごうとしたとき、私は『紅蓮』を抜き放つ。

 

「アスフィ、今度はどっちに―――――」

 

 私が刀を抜いた理由、ルルネさんの質問を途中で遮られた原因。

 それは左右の道から、そして後方からもやってくる。

 

「両方からかよ……」

 

「違う……後ろからも」

 

「げっ」

 

 遅れて気付いたアイズたちは、漸く得物を構えた。

 

「……【剣姫】、片方の通路を受け持ってくれますか?」

 

「わかりました」

 

 私は、その提案を、アイズに断らせるために、口を挟もうとしたが、アイズはそれよりも早く、了承してしまった。

 アイズは今現在一人にしてはいけない、あいつがやってくる可能性があるからだ。

 既に隊列は組まれている、アイズは勿論一人となっていた。

 そんな中、いち早アイズが飛び出した。

 

「アスフィさん、私はアイズの援護に回ります!」

 

「ちょ、勝手なことを!」

 

 それを追うように私も飛び出す。アイズが食人花を切り伏せた――次の瞬間。

 

 落下音が幾度も響いた。

 

 それは見計らったかのように落ちていく、勿論回避はできたが、懸念していたことが起きた。

 

「分断⁉」

 

 残念なことに、その通りだった。

 

「くそっ!」

 

 思わず、罵声が飛び出てしまう。この大きさで、この量だと、切り開くにも多少時間が掛かる。その間にアイズは襲われ、更に引き離されてしまうだろう。

 

「アイズ!気を付けてください!また合流しましょう!」

 

 その叫びに対する返答はなかった。でも、信じて行動する。

 

「アスフィさん!アイズと分断されました!早く移動しましょう!」

 

「どこへ!」

 

食糧庫(パントリー)ですよ!急いでください!道は開きます!」

 

「わかりました!全員!シオンに続いてください!」

 

『了解!』

 

 背後からそんな声が聞こえる頃には、私は食人花の斬殺を始めていた。

 速度を緩めることなく殺して進む。やって来るものをすべて灰に変えてゆく。

 進む度にやって来る食人花(モンスター)の数は増えていくが、お構いなしに殺していく。

 そして、系統の異なる光が見えた。

 

「もしかして、石英(クオーツ)の光?食糧庫(パントリー)が近いのか?」

 

 食糧庫(パントリー)と呼ばれる大空洞は、中央に石英(クオーツ)大主柱(はしら)が立っていて、それが発する神秘的な光が、常に大空洞を照らしているのだ。

 

「突っ込みます!いいですよね!」

 

「構いません!」

 

 食糧庫(パントリー)からは無数の気配を感じる。その中には、モンスターや人間の気配もあるため、ゆっくり行って、あちらから襲われるよりは、こっちから襲った方が、有利に事を運べる可能性が高くなる。

 そして、突っ込んだ。

 尽かさず、人間の気配がある方へ向かう。

 その過程で、見てしまった。

 巨大化した食人花が巻き付いた石英(クオーツ)の根本。

 (おんな)の胎児を内包した、緑色の球体を。

 全身の血の廻りが、急速に早まった。心臓の鼓動が刻む音の間隔が狭まる。

 皮膚の間に何かが通るような感覚、腹から込み上げてくる、猛烈な吐き気。

 頭痛と眩暈も遅れてやって来る。体の力が抜けてゆき、倒れそうになる。

 倒れなくとも、立つことはできなかった。片膝を地面に付き、口を抑えてしまう。

 この症状は、いつぞやのときと似ていた。

 それは、精霊同士の反応だ。アイズとの反応よりは弱いため、属性は異なるのだろう。

 

「え……?【剣姫】と、同じ?」

 

「シオン!大丈夫なんですか⁉」

 

 ルルネさんの呟きが気になる中、アスフィさんが焦ったような声で確認を求めて来る。

 それも当たり前だろう。さっきまで前線で無双していた人が、いきなり膝をついているのだ。

 さすがに負担になる訳にはいかないため、治まって来た症状に耐えながら、立ち上がる。

 

「……大丈夫です、戦えます」

 

「そう、ならいいです。全員、陣形を整えてください」

 

 さっきの()()、恐らく【宝玉】なのだろう。 

 気持ちが悪い。文字通りの意味で、生理的に無理だ。

 でも、視界に入れなければ問題ないはずだ。  

 

「侵入者どもを生きて返すなァ!」

 

 そんな怒号が、食糧庫(パントリー)に響くと共に、()()()()が始まった。  

 

 

 




 冒頭の一言、確かに登場はさせた、だけどね。
 私は、出番が多いなんて、一言も書いてないよ?

  オリキャラ紹介!
 今回は…
 『正体の不明の男』
 もう一人の男のことを、『相棒』と呼ぶ彼はいったい何者なのか…

 修正しました。4/28

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