やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 シオン猫化の反感が予想以上に高いのでもうやらない。

では、どうぞ 



酒場、それは進展地

 翌日。私は宣言通り、ベルを尾行することにした。

 起きる時間など、生活スタイルは変えず、なるべく怪しまれないようにして、朝を過ごす。

 ベルがダンジョンに向かう時間になったら、作戦開始だ。

 まず、金庫から私の装備を出す。

 『一閃』『黒龍』『青龍』『紅蓮』『雪斬繚乱』に防具一式。フル装備である。

 『黒龍』は右肩から、『青龍』は左肩から抜けるように背中で交差させて帯び、『紅蓮』は左腰、『雪斬繚乱』は右腰に帯び、『一閃』は鞘ごと手に持つ。

 防具は、一応中層レベルで通用する、動きを阻害しない物を、胸、脛、腕、に装備する。

 服の中に、仕込みとして、刃渡り15C程の短刀(ナイフ)

 靴は特注性で、外側は皮でできているが、内側を金属で作っているため、そんじょそこらの武器では貫けないという、便利仕様ようだ。少し重いが。

 太股にレッグホルスターを巻き付け、そこに、万が一の為万能薬(エクリサー)一本と高等回復薬(ハイ・ポーション)二本と解毒薬一本を入れる。精神回復薬(マジック・ポーション)を持っていないのが残念だ。

 

 そこから、ベルの後を追ってダンジョンへと向かう。

 数分して中央広場(セントラル・パーク)でベルを見つけた。そこからは、気配を追う。

 ベルは、どういう訳か、視線にとても敏感だ。いくら気配で認識しにくくしても、視線は隠せない。だから、見ないで追う。つまりは気配を追う。と言うことだ。

 

 十五分ほどして、ベルへ向かう向かう気配が一つ。確かリリの気配だ。

 一時停止し、また歩き出す。ベルも共に歩き出して、ダンジョンへと潜っていった。

 その後を時間差で追っていく。勿論、探知範囲から外さないようにだ。

 潜っていくスピードは私と比べて格段に遅い。その分慎重なのだろう。それは生きるためにはいいことだ。

 スピードは遅い。でもその分着実だ。どんどん下へと潜っていき、十階層までついてしまった。ここまで来る途中で、体に電気が走る感覚がしたため、アイズもダンジョンに潜っているのだろう。

 ベルたちは、十階層に入ってからペースを格段に落とした。恐らく、この階層にとどまるつもりなのだろう。

 十階層の今いる場所は、霧が濃く、10M離れたら見えない、というレベルだ。だが、気配は問題なく追えるため、尾行に支障はない。

 そして、ベルが数戦している間、リリがベルから距離を取った。ただそれだけなら、戦闘では普通だろうが、リリは、必要以上に距離を取り、剰え、九階層に繋がる高台まで行ってしまった。

 その時になって気づく。ベルの気配がある方向から、特徴的な臭いがした。

 この臭いは、確か狩りを効率化させる。罠道具(トラップ・アイテム)

 ベルはまだ大型相手に慣れていないはずだ、なのにこの階層で、これを使うのは…

 

 そこで一つの考えが浮かんだ。

 

 確定だろう。どうやら警告は全く聞き入れなかったらしい。

 

「リリ!何言ってるの⁉」

 

 そんな叫び声が響いた。その後に何度も、何度も、同じ名前を叫ぶ声が途切れ途切れで響く。

 流石に不味いと思い、ベルを助けに入る。その間、リリの気配は遠ざかって行き、次第には探知外へと出てしまった。

 それは後へと回して、ベルを襲っていたオークの魔石を『一閃』で貫く。

 

「大丈夫ですか?ベル」

 

「シオン⁉どうして⁉」

 

「そんなことはいいんです。それより聞きます。ベル、貴方はどうしたいですか?」

 

 この質問の答えにより、私の行動が変わる。

 

「僕は…僕は、リリを助けたい!」

 

 あぁ、言っちゃったよ。どうしようもないお人好しだな、やっぱり。

 

「わかりました。行ってください」

 

「え、でも!」

 

 戸惑いの声を上げると同時に、一筋の剣線が走った。それはベルの目の前にいたオークを断末魔を上げる間も無く殺す。

 

「問題ありません。早く行ってください」

 

「…わかった!」

 

 決意を固められたのか、しっかりとした、迷いのない足取りで、リリの気配が消えた方向にベルが走って行く。

 

「さて、片付けましょう」

 

「うん」

 

 その言葉に返事を返したのはアイズ。

 先程の剣線はアイズのものだ、潜っていたことは知ってたが、偶然会えるとは思ってもいなかった。まぁ丁度いい。

 私とアイズは、文字通り瞬く間に雑魚(オーク)を斬り殺した。

 

   

   * * *

 

「おはようございます。アイズ」

 

「うん、おはよう」

 

 こんな暖気(のんき)な会話をできるのも、二人に実力があるからだろう。

 

「それで、アイズは何しに来たんですか?やっぱりレベルアップ後の調節ですか?」

 

「それもあるけど、頼まれたから」

 

「誰からですか?」

 

「ギルド職員のエイナさんから」

 

「あ~なるほど」

 

 あの人、ほんと心配性だな……  

 

「シオンはどうして?」

 

「私はその原因その原因である人の監視を」

 

「今はいいの?」

 

「はい、多分大丈夫だと思います」

 

 あとはベル次第。まぁ、ベルは助けるって言ってたから、本当にそうするんだろうけど」

 

「それよりシオン、これって…」

 

 そう言いながら、アイズは地面を指さした。その先には、緑色のプロテクター。ベルがいつも付けている物だ。

 

「ああ、ベルのですね。どうしましょうか…」

 

「後で渡す?」

 

「そうですね。……アイズから渡してもらえますか?」

 

「どうして?」 

 

 アイズに渡してもらう、そうするにはベルと会わなければならない。その時に膝枕の一件のことをベルに謝らせればいい。

 

「まぁ、いろいろとあるんですよ、いいですか?」

 

「うん、いいよ」

 

 私の理由の言わないお願いに対し、快く返事を返してくれる。本当にいい人だ。

 

 ……さて、そろそろ出てきてもらおうか。

 私はとある方向を向き、眼差しを強くして、殺意を込めた。

 その方向からは草を分ける音がして、ニードル・ラビットが出て来る。アイズもそれに気づいていたようで、その方向を見ていた。

 だが、私が見ているのはその奥、あそこには()()が居る。 

 アイズも感づいたのか、同じ方向を向いて抜剣した。

 

『【剣姫】はともかく、そちらの御仁まで気づかれるとはな』

 

 その方向から出てきたのは、中性的な声を放つ漆黒の影のような、人物?

 肌の露出が一切なく、気配もなんだかおかしい。ウォー・シャドウの『強化種』に似ているが、本当に人間なのだろうか…

 

「何か、用ですか」

 

「その通りだ。だがその前にその剣を下ろして欲しい。君たちに危害を加えるつもりはない」

 

 そう言われ、アイズが此方を見てきた。目配せで合意を求めてきた。それに頷き、納刀する。だが手は刀に添えたままだ。

 

「まぁ、警戒を解け、と言うつもりはないからそのままでいい」

 

「貴方は、誰ですか…」

 

「なに、しがない魔導士(メイジ)さ。前回、ルルネ・ルーイに接触した人物、と言えばわかってもらえるだろうか」

 

 その言葉に納得したような様子のアイズ。なに?全くわかんないんだが。

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン……君に冒険者依頼(クエスト)を託したい」

 

「あの~。そろそろ状況説明してもらえますか?」

 

 置いてきぼりにされてなんかちょっと寂しいよ?

 

「おっと、これはすまないね。急を要するんだ。あと、確認だが、今から言うのは情報規制されているものだ。できれば聞かないでほしいのだが……無理そうだな。依頼の内容で理解してくれ」 

 

 どうやら私の発した殺意で拒絶を理解したらしい。ていうか、無茶苦茶だな…できなくはないと思うが

 

「二十四階層で怪物(モンスター)の大量発生、異常事態(イレギュラー)が起こっている。これを調査、あるいは鎮圧してほしい。報酬は勿論用意しよう」

 

 二十四階層での異常事態(イレギュラー)ね~。ていうか、報酬ってどのくらいだろうか…

 

「ことの原因の目星はついている。恐らく、階層の最奥……食糧庫(パントリー)

 

 おい、食糧庫(パントリー)は三つあるんだぞ……特定しておけよ。

 ていうか、それ以前の問題として、他派閥の人間に、ギルドを仲介しないで冒険者依頼(クエスト)をお願いするとか、どうなんだよ…

 

「実は、以前にも三十階層――――ハシャーナを向かわせた場所で、今回と酷似した現象が起こっていた」

 

「!」

 

 そう言われたアイズは、何故か肩を震わせた。完全に動揺している……どういうことだ…

 

「リヴィラの町を襲撃した人物……例の【宝玉】と関係している可能性が高い」

 

 【宝玉】とは何だろうか…ていうか、リヴィラの町って襲われんのかよ…

 

「事態は深刻だ。【剣姫】、どうか君の力を貸して欲しい」

 

 ありゃ?私は?忘れられてる?

 

「わかりました…」

 

「恩に着る。それと、君にもできれば力を貸してもらいたい」

 

 お、忘れられてなかった。

 

「勿論いいですよ。けど、報酬はくださいね?」

 

「はは、構わないさ」

 

 状況は理解できてないが、アイズから聞けばいいだろう。

 

「できれば今すぐ向かってほしい。いいだろうか?」

 

「私は構いませんが、アイズは…」

 

 アイズは、エイナさんから頼まれてきた。と言ってたから、恐らく、ファミリアの人には何も言ってない。大手ファミリアではそういうところに規制があると聞く。アイズがそれに当てはまるかどうかは知らないが。

 

「あの、伝言をしてもらってもいいでですか?私のファミリアに……」

 

 そう来たか。いやでも、そんなのできる訳……

 

「ん?あぁ……なるほど。わかった、それくらいは頼まれよう」

 

 良いのかよ!てかできんのかよ!あんた何もんだよマジで…

 そんな私の考えは置いておいて、アイズは早速、魔道具(マジック・アイテム)らしき羽根ペンで、即席の手紙を羊皮紙にしたためていた。

 少し時間を要て書き終わり、それを黒衣の人物が差し出した手袋(グローブ)に渡した。

 

「では、始めにリヴィラの町に向かってほしい。『協力者』が既にいる」

 

 ありゃ?そう言うのをちゃんと用意しててくれたのか。

 

「わかりました」

 

「それじゃあ行きましょうか」

 

「待ってくれ、まだ伝えることがある」

 

「何ですか?」

 

 そして言われたのは、『協力者』の居る酒場の場所と、『合言葉』を言え、と言う指示だった。

 言い終えると、余計な会話などせず、後退し、さっさといなくなってしまった。

 それについては、とやかく言う気は無いが…一つ、言いたいことがある。

 『合言葉』、味変えようぜ?

 

―――――

 

「アイズ、状況が理解できないので、説明お願いできますか?」

 

「うん、いいよ」

 

「では、まず。【宝玉】から」

 

「……うん、分かった…」

 

―――――

 

「シオン、刀の帯び方、変えたら?」

 

「と言いますと?」

 

「背中の刀を腰に差して、両方二本ずつで、今もってるのを背中に帯びる……とか」

 

 指示に従い、『黒龍』を左腰、『青龍』を右腰に差し、『一閃』を右肩から抜けるように帯びる。

 

「こんな感じですか?」

 

「うん。そっちの方がいい」

 

「そうですか。なら、そうします」

 

―――――

 

「シオン、本当にLv.1?そうなら今の動きはありえない…」

 

「【ステイタス】に補正がかかってるんですよ」

 

「それでも十分おかしいと思う…」

 

「そのあたりは自覚があるので触れないでほしいです…」

 

「…わかった」 

 

―――――

 

「ここが十八階層ですか…似てますね」

 

「似てる?何処に?」

 

「今度教えますよ」

 

 結局、二時間とかからずここまで来てしまった。何気に到達階層も増やしている私である。

 

「さて、行きましょうか」

 

「リヴィラの場所、わかるの?」

 

「はい。ギルドで公開されている、地図(マップ)の情報は、大体暗記してますから」

 

「すごい…」

 

―――――

 

 着いたのはとある酒場。どうやらアイズも知らなかった穴場のようだ。

 『黄金(こがね)の穴蔵亭』。群晶街道(クラスターストリート)という、発行する水晶の群生地帯付近の裏道、硬そうな岩壁にぽっかりと口を開けた洞窟だった。

 看板も飾られていて、赤い矢印が斜め下の方向を向いていた。そっちにいけ、と言うことなのだろう。

 洞窟に入り、人工物である木製の階段を、ギシギシと軋ませながら下りて行くと、扉もない空洞に出た。そこには同業者がたむろしていて、騒いでいる酒場があった。

 洞窟の中央には、黄の光を宿す稀有(けう)な水晶の柱があり、その周りに、複数のテーブルや椅子が用意されていて、卓の上ではにやけた冒険者が賭博(カードゲーム)に興じていた。賭金(チップ)は大小の魔石だ。

 酒場は存外繁盛しているらしく、席はほとんどが埋まり、残りは、酒場の隅にあるカウンターだけだった。

 

「んん?あれっ、【剣姫】じゃないか⁉こんなところで、奇遇だな!」

 

「ルルネ、さん?」

 

 話しかけてきたのは、犬人(シアン・スロープ)の女性。アイズがルルネさんと言っていたから、この人が【宝玉】の運び屋を頼まれていた、ルルネ・ルーイさんなのだろう。

 

「前は世話になったな。おかげで死なずに済んだよ。あらためて礼を言わせてくれ」

 

「いえ……体は、大丈夫ですか?」

 

「あはは、この通り、ピンピンしてるよ」

 

 それを示すように、体のあちこちを動かして見せる。

 

「一杯奢らせてくれよ」

 

 と、好意的に提案もしてきてくれたが、今は飲んでいる場合ではない。アイズに黒衣の人物から指定された『隅から二番目』のカウンター席に座ってもらう。その時、彼女が訝ったような表所を浮かべたが、すぐに笑みを纏い直し、話かけて来る。もしかして……協力者って、この人?

 

「で、【剣姫】。そこに人は?」

 

「この人はシオン。一応男だよ?」

 

「え、マジで?」

 

 相変わらずだな…まぁ、もう性別自体が女に変えられるから、何とも言えない気持ちになるが。

 

「こんにちは。シオン・クラネルです。よろしくお願いします」

 

「へ?あ、うん。よろしく?」

 

 あれ?意味が伝わなかったかな?まぁすぐにわかるしいいか。

 

「注文は」

 

 と言ったのは、不愛想と言っていいドワーフの主人(マスター)

 合言葉はこのタイミングで言うことになっている。

 

「『じゃが丸くん抹茶クリーム味』」

 

 ガシャ―ンッ!!と盛大に音を立てて椅子がひっくり返る。

 

「あ、私も同じ()ので」

 

 今度はドンッ!と鈍い音を立て、誰かが尻餅をついた。

 その音に驚いた様子で反応していたアイズは、どういうことか理解できていないらしい。

 そして、その張本人は、信じられないという顔で放心していた。

 

「まさか、あんたらが、()()?」

 

 


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