やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 不定時投稿開始しました申し訳ございません。

では、どうぞ


日常、それはストーキング

 時は行き過ぎ翌日。今日は特に用事は無いため、何の変哲もない日だ。

 『一閃』の呪いは、多用しないと心に決めたため、力試しにも行く必要が無い。

 と言う訳で、今日はベルをストーカーすることにした。

 

 朝は、私の作った朝食をとり、今日も休日なのか私服に着替える。

 その後はごろごろするなどだらけ始め、何かを思案しながら虚空を眺めていた。

 そんな時間が長い間続き、正午少し前。突然ベルが立ち上がり掃除を始めた。

 鼻歌交じりに掃除をしいて数分ほど経つと、ベルが突然硬直した。ある一点、棚の上を見たままで。

 その先にはバスケット。確かあれはシルさんのだった気がする。どうやら返してなかったらしい。

 そのことにベルも気づいたのか、バスケットを掴んで、大急ぎの様子で外へと出ていく。勿論、後を追って私もホームを後にした。

 ベルは、敏捷力全開で、裏道を着々と進んでいた。向かうは豊饒の女主人。

 十分とかからずに辿り着き、中へと駆け込む。

 覗いてみると、ベルとシルさんが向かい合っていて、厨房の方にはリューさんたちが固まって盗み見ていた。私も盗み見てるけどね?

 

「本っ当っに、ごめんなさいっ!」

 

 お見合い状態となっていたベルが腰を九十度に曲げ、両手を勢いよく合わせ、パンッと音を響かせる。土下座程ではないが、ちゃんとした謝罪だ。

 

「あははは……」

 

 そんなベルの様子に、流石のシルさんも苦笑い、そりゃ数日も返却するのを忘れていたのだ。こういう反応をされても可笑しくない。

 

「顔を上げてくださいベルさん。私は気にしてませんから」

 

「いや…でも…」

 

「過ぎたことは仕方がないんです。それに、ちゃんと謝ってもらえましたし、いいんですよ。ですが、ベルさんが納得できないと言うなら、これからの行動でそれを示してください」

 

 あ…何となく予想が付く…

 

「シルさん…」

 

「例えば、お店で沢山お金を使ってくれたり~」

 

「アハハ…ですよね~」

 

 うん。わかりきってた。まぁ本当は違うことを言いたかったんだろうけど。

 

「それより、何の音沙汰も無く、無事でよかったです。心配してたんですよ?」

 

「すいません……」

 

「いいんですよ別に。ベルさんが無事なら、それだけで」 

 

 あれれ~?おっかしいぞ~?なんで二人は目を見合わせて頬を赤らめているんだ~? 

 

「ベ、ベルさん。よかったら昼食はここで召し上がっていきませんか?」

 

「は、はい。そうさせてもらいます」

 

 そう言われて案内されたのは、やはりカウンター席。もはや指定席のレベルであそこばかりに座ってるな…

 座ると共に、シルさんがメニュー表を渡す。その際、おそらくベルは気づいてないだろうが、シルさんの指に、触れた。途端顔を真っ赤にし、厨房へと小走りで駆け込む。

 うん。耐えきれなくなったのか?好きな人から触られると、なんか、こう、ドキッとするものがあるからしょうがないよね~。

 因みに言うと、注文を取りにシルさんが戻って来るまで、厨房はとても騒がしかった。

 

「あれ?前にこんな飾りなんてありました?」

 

 そう言いながら指し示したのは、壁に掛けられていた、一冊の白い本。

 一見すると、ただ厚い本にしか見えないが、多分違う。

 普通ではわからない程のものだが、あの本からは魔力が感じる。それと、何処ぞで嗅いだことのある、甘ったるい微弱なにおい。

 それは間違いなく、神フレイヤのものだ。あの神、何が目的なんだよ本当に…

 

「ああ…それは…」

 

 そこで、やってきたシルさんが答えようとするが、何故かそこで言葉を途切らせた。だが、すぐに言葉を紡ぐ。もしかして、何か知ってたりする?

 

「お客様のどなたかが、お店に忘れていったようなんです。取りに戻られた際に気づきやすいようにと思いまして…」

 

 うん、嘘だね。一見真正面で見えやすいように思えるけど、影の所為で、若干視界に入りにくいし、人の死角になりやすい置き方をしている時点でダウト。

 あ、因みにダウトは、ヘスティア様から、『嘘を見破った時はこれを使うんだよ!間違うと恥ずかしいけど!』と元気よく教えられた。

 まぁ、そんなことどうでもいいか。

 

 

―――――

 

 あの後、ベルは、ケーキや紅茶を運んできたシルさんと取り留めのない会話をしていた。実に楽しそうで、追加注文をする度に、それを運んでいた人から冷やかしを受けていた。

 ベルは全く冷やかしだと気付いてなかったけどね。

 そして、会話が終わり、店を出る頃には、ベルの手に白く分厚い本があった。

 何故かって?

 話の最中に、休養の話題となり、『読書をしてみては?』とのシルさんの提案にベルが乗ったのだ。いや~これは神フレイヤの思うつぼですね~絶対シルさんなんか関わってんだろ…詮索はしないが。

 そして、ホームへと戻り、早速読書開始!即、寝落ちたようだが。幾らなんでも読み始めて数分って、ありえ無いだろ…

 あ…でも、あの神のやることだから、ありえるのか?

 何か、理由のない危機感を覚え、近づいてみると、ボサッと音をたて、ベルの持っていた本が落ちる。その本と見ると、始めのページから白紙になっていて、捲っていき、文字があったかと思えば、それが一文字ずつ消えていく。その速度は、丁度文章を読むくらいだろうか。

 待て。今、もの凄い嫌な単語が過ぎった。

 

 魔導書(グリモア)

 

 それは、奇跡を齎す本。制作自体が困難で、入手も困難。効果も絶大で、効果を知る者なら、欲しいと思うのはあたり前の本。

 そして、一度しか使えない。加えて言うと、超超超高価である。うん、まじで。

 この本の効果は、読んだ者に与えられる。心に訴えかけ、その者の、よく言えば秘められ力。悪く言えば本性が、魔法となって現れる。もしくは、魔法のスロットが一つ増える。

 魔法を最大限まで習得していたり、スロットが既に三つだと、効果が無いが。

 私は、元々スロットが三つの為、本を読んでも、魔法が発現するに限られる。

 

 そ・ん・な・こ・と・よ・り

 

 これどうすんだよ…読んじゃったから、どうにもならないぞ。

 あ、でもこれは明らかに神フレイヤからの贈り物だから、いいのか?間接的に渡されただけでそれは変わらんだろ。

 でも、ベルは、貸出って名目で渡されてんだよな……よし決めた。

 

 私は何も見ていない。 

 私は何も悪くない。

 悪いのは神フレイヤ。責められるいわれは無い。

 

 よし。もう関与しないぞ~魔導書(グリモア)なんて知らない!。

 

 私は、持っていたただの白い紙の纏まりを、そっと、ベルの手元に置いた。

 

 

   * * * 

 

  余談

 

「ヘスティア様、ベルの【ステイタス】を更新してみてください」

 

「ん?なんでシオン君がそんなこと言うんだい?まぁいいけど。ベル君」

 

「はい。わかりました」

 

 

――――――

 

ステイタス更新中……更新中…

 

――――――

 

「……魔法」

 

「え?」

 

「魔法が発現した」

 

「えええぇぇぇええええ⁉」

 

「ふぎゅぶ!」

 

「やっぱりですか…」

 

「「やっぱりって何⁉」」

 

 

   * * *

 

 翌朝、ではなく深夜。いつもより格段と早く私は起きた。それにはちゃんと理由がある。

 ゴソゴソっと音がしたので起きてみると、ベルがソファアから跳び起き、装備一式を持っていた。やっぱり我慢できないらしい。なら忠告くらいしてやるか。

 

「ベル、魔法は使い過ぎないように気を付けてください」

 

「え…シオン起きてたの?あ、気を付ておくね」

 

 ほんと、精神疲弊(マインドダウン)とかにならないといいが…

 

 

―――――

 

 結局、私は二度寝ができずに、あの後はずっと剣の鍛錬をしていた。

 いつも起きる時間帯になり、流石に何時間も帰ってこないベルは、精神疲弊(マインドダウン)確定だろうな。と思い始めた頃だ。

 

「あぁぁぁあぁああぁあぁあああ!」

 

 そんな近所迷惑と言っても過言ではない、というか、それそのものが、廃教会内に入って来たのは。  

 とりあえず、真正面から突っ込んできたので、鞘で一突き。『ごふっ』と空気が漏れる音がして、だらりと地面に崩れていく。

 

 暫し待つと、のろのろとベルは起き上がった。

 

「あれ……なんで僕…」

 

「ごめんなさいベル。突っ込んできたので気絶させちゃいました」

 

「そんな軽い気持ちで気絶させないでよ…」

 

「そんなことより、何で叫びながら走って来たんですか?」

 

「え、え~と、その…」

 

 ん?隠すつもりか?ふふふ、聞き出してやろうじゃないか。

 

「ベル。三日間朝食抜きにされたくなけれ」

 

「わかったわかった話すからそれだけは止めて!」

 

 どんだけご飯食べたいんだよ…

 

「あ、あのね…魔法を試してたんだけど、五階層まで行っちゃって…」

 

 よし、あとで説教確定だな。

 

「それで、なんか体の力が抜けて倒れちゃってね」

 

 はい、精神疲弊(マインドダウン)。これは仕方ないのかな?でもよく生き残れたな…

 

「何かわかんないけどね、アイズさんがね……膝枕をしてくれてたんだよ~~」

 

 そうデレデレしながら、ベルは言った。

 

 膝枕、と。

 

「わかりました。ベル、O★HA☆NA★SIでもしましょうか」

 

「え、ちょ、シオン?ねぇ、え、うわぁぁ!」

 

 

 


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