やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

27 / 162
  今回の一言
 初の挑戦、第三者オンリー

では、どうぞ


理由、それは少女

 (第三者視点)

 

 日が沈み、月明かりが町を照らし始める時。独り、廃教会の中心で正座し、瞑目している人がいた。その者は、全くの不動で、冷たい夜風で金と白の髪が揺らめくことしかなかった。 

 その光景は、一枚の絵にしても、さぞかし栄えるだろう。それ程のもの。

 モデルとなった一人の少女に見える少年。その心もさぞかし美しかろう。

 

――――普通なら

 

 それは世間一般の常識。でも相変わらずと言うべきか。その者に常識は通用しなかった。

 

――――その者の心は現在進行形で荒れていた。それはもう焼き払われた森のように。

 

 その者の内心が、こちら。

 

―――――はははあいつマジでどうしてやろうか苦しめて殺してやろうか人生もっと後悔させて貶めてやろうか気絶させて下層に置いてきぼりにしてやろうか強化種の群れに投げ入れてやろうかいろいろあるけど結局は殺すことになりそうだなでも殺さずに生き地獄でも味合わせてやろうか植物人間なんてものもいいな呪いで侵してもやろうかははは面白そうだな悲痛な顔が目に浮かぶないおいあぁ楽しみだなハハハハハははははッ―――――

 

――――といった感じだ。お分かりいただけただろうか。

 

 心中不安定。爆発しないのは持ち前の理性が存分に発揮されているからだろう。 

 そんな安定しているように見えて全くそうではない人物は、暫しの時を経て、漸く動き出す。素人目でも分かる程軸をぶれさせなず、綺麗に立ち上がる。上を向いてその者が不意に独り言を呟いた。

 

「よし。殺しましょうか」

 

「いやいや、おかしいって!なんでいきなりそんな物騒なことを言うのさ!」

 

 いっそ清々しいくらいにあっさりと物騒なことを青年―――シオンは口にした。

 

「ヘスティア様、先程から居たようですが、どうかしましたか?私、今用事ができたんですが」

 

「待ってよ。その用事って絶対やっちゃいけないことだから、ね?」

 

 放っておくと本当に()りかねないシオンをヘスティアは止めにかかる。

 

「何故ですか?別にいいじゃないですか、泥棒の一人や二人くらい。証拠を無くせば、ばれないですし、罪にも問われません」

 

 だがそんなのを横目に、シオンは()も当たり前のように告げる。その声には、心の底からそう思っているのだと確信させるほど、疑念が含まれていなかった。  

 

「シオン君。君が殺しに行こうとしている人は誰なんだい?」

 

「本名は知りませんが、ベルは『リリ』と呼んでいました。悪辣なサポーターですよ」

 

「ベル君が?と言うことは、そのリリ君はベル君と知り合いなのかい?」

 

「そうですよ。残念なことに」

 

 その情報を聞いて、ヘスティアは一筋の希望が見えた気がしていた。

 

「シ、シオン君。ベル君なら、知り合いが死んだら、か、悲しむんじゃないかな」

 

 シオンは弟思い。所謂『ブラコン』であった。なら、弟が悲しむことをしない、()()

 

「……それもそうですね」

 

 作戦成功!と、言わんばかりにガッツポーズするヘスティア。そんなヘスティアを微笑ましく見るシオン。変な空間が形成されていたが、それを見事にぶち壊す声。

 

「ただいま戻りました~」

 

 ベルの声である。いつもタイミングよく現れるのが特徴だ。

 

「あ、お帰りベル君。さてシオン君、夕飯にしよう!用意してくれたまえ!」

 

「……仕方ないですね。わかりましたよ…」

 

 ヘスティアの要望に素直に応えるシオン。そこには()()()()()()シオンの顔があった。それに安心するヘスティア。だが、いつもの意味を真に理解できていなかった。

 

 

   * * *

 (シオン&第三者視点)

 

 翌日、いつも通り十二階層――ではなく、中央広場(セントラルパーク)にベルと共に居た。何故かって?殺す代わりの対策だ。

 あの後、どうやらベルはリリと契約したらしく、今日も一緒にダンジョンに潜ることにしたそうだ。リリにとっては、かなりの幸運(ラッキー)だろう。また盗れるかもしれない。まぁ、その為の抑止力として私が居るわけだが。

 

「と、言う訳で。今日はシオンも一緒に来るから」

 

 どうやら、リリへの説明も終わったらしい。まぁ、ベルに説明した理由は完全に建前なんだけど、ベルは全く気付かない。リリは表情を見る限り気づいたみたいだけど。おぉおぉ、いい顔してるね~あからさまに嫌そうな顔だ。

 そんなリリに私はあえて、人間の耳がある場所で囁いた。

 

「どうぞよろしくお願いします。犬の、いえ、小さな泥棒さん」

 

「…ッ!!」

 

 そんな私の囁きに、表情が一転。『なんで…』とでも言いたそうだ。それに微笑みを返すと、顔が絶望の表情に変わった。いい顔だ、ざまぁみろ。

 

「さて、行きましょうか。今日も私は援護しかしませんからね。あくまで、二人を見に来ただけなんですから。あ、自分の身は自分で守りますよ」

 

「わかってるって。そもそもシオンは上層で守られるほど弱くないじゃん」

 

「いえいえ。上層でも何が起こるかわかりませんよ。まぁ、ある程度は大丈夫ですが」

 

「それじゃぁ、行こっか。リリ。今日もよろしくね」

 

「…はぃ」

 

 

   * * * 

 

 ほいっと。結局午後四時まで潜ってました私たちです。

 今日の換金はバベルで行い。私とリリは換金に行ったベルをバベル簡易食堂で待っていた。

 さて、ベルが来るまで、リリについての情報をまとめますか。

 

 リリ、本名リリルカ・アーデ 性別:女 種族:犬人(シアンスロープ)

 年齢は15で、【ソーマ・ファミリア】所属。Lv.1の熟練サポーター。 

―――――標的(ターゲット)の前では。

 本来――私の知る限り――はこうである。

 リリルカ・アーデ 

 性別:元は女だが、性転換可能。 

 種族:元は小人族(パルゥム)だが、変身可能。

 恐らく、この変身は継続系魔法。一度かけたら解除するまで戻らないやつ。

 (ジョブ)はサポーター兼泥棒兼冒険者。

 泥棒は恐らく金目的、魔剣のような自分で使える物は所持したまま。

 手癖は良く、二つの意味で慣れていた。今までも数々の人に同じようなことをやってきたのだろう。

 

 と、言ったところだ

 お金を稼ぐ理由、【ソーマ・ファミリア】と言うことだから、大体は見当がつく。

【ソーマ・ファミリア】がお金を集める目的は二つしかないのだから。

 

 まず一つ、【神酒(ソーマ)】。自分()の名前が付けられた、人の身である神が作った酒。

 ミイシャさん曰く、

 『【神酒】を一滴でも飲んだら中毒になちゃって、おかしくなっちゃうから、絶対に飲んじゃだめだよ。まぁ、お店にある失敗作は別に大丈夫だけどね』

 

 お店にあるのは失敗作。つまり、成功した物、つまり完成品はお店に出ていない。じゃあ何故ミイシャさんが【神酒】の中毒症状について知ってるか。それは、【ソーマ・ファミリア】でその【神酒】を月々のファミリア貢献金上位者が微量ながらも与えられているからだ。

 一度飲んで、中毒になり、また飲みたくて躍起になる。最終的には手段を選ばなくなったりするおぞましい連中だ。

 

 もう一つの理由である二つ目、高い脱退金。

 【神酒】の中毒症状は一時的、長い間飲まないでいると自然と無くなるものだ。そして、中毒症状が無くなった団員が『こんなファミリア嫌だ』と言うことで、抜けようとするのだが、脱退金があほ高い。()()のLv.1冒険者が普通の方法で稼げる額ではないのだ。

 だから、本末転倒と言うことに気づかず、他のやつらと同じような事をする。

 

 リリは、理性を保って、冷静な判断ができている時点で、恐らく後者だ。

 

 っと、そんなことを考えている間に、戻って来たな。なんか凄い興奮してるが…

 

「リリ、リリ!凄いよ!!こんなに稼いだのは初めてだよ!」

 

「ベ、ベル様⁉どうなされたのですか?」

 

「うん。換金してきたんだけどね…じゃーん!!」

 

 完全に興奮しているベルは、その様子のまま、右手に持っている少し膨れた袋の(ひも)を緩め、口を開いて中身をこちらに見せて来る。

 中に入っていたのは2万6000ヴァリス。()()()()()()()()一般的にかなりいい稼ぎだ。

 

「に、2万6000ヴァリス⁉」

 

「うん!、あ、こっちはシオンのね!普通に換金してきたよ!」

 

 そう言って渡されたのはベルの持っている袋より、少し小さめの袋。多分、お願いしていた、私が自己防衛ついでに狩ったときに出てきたドロップアイテムの換金だろう。  

 中身を見ると……あれ?おかしいな…3万超えてる…

 それがわかると、そっと、袋の(ひも)を締めた。

 

「やったよリリ!!ありがとう!!リリのおかげだよ!!」

 

「いえいえ!全部ベル様のおかげですよ!!」

 

「あはは、そうかな~いやでもほら!兎もおだてりゃ木に登るっていうじゃん!!」

 

 ベル。兎じゃなくて豚ね。自分の見た目とかけてるのかな?

 

「何言ってるか全然わかりませんが!とりあえず賛同しておきます!」

 

「うん!ありがとう!リリ」

 

「いえいえ!ではベル様…そろそろ分け前の方を…」

 

「うん!はい」

 

「……へ?」

 

 分け前、1万3000ヴァリスを渡されたリリは、その金を目の前に困惑を隠せないようでいた。金が欲しいんじゃないのか?

 

「シオン!これだけあれば僕からも神様に何かお礼できるかな~!」 

 

 いや、お金が無くてもベルはヘスティア様の近くにいるだけでお礼になると思うが…

 

「ベ、ベル様!これは…」

 

「分け前だよ!決まってるじゃん!あ、そうだ!せっかくだしリリ!よかったらこれから一緒に酒場に行かない?僕、美味しいお店を知ってるんだ!」

 

 返ってきた答えにリリは困惑が最高潮に達しているように見えた。意味が解らん。

 

「じゃ、行こうリリ!」

 

「ベ、ベル様!」

 

 今すぐにでも行こうとしているベルを、リリが呼び止める。『どうしたの?』と聞き返されたが『あのぅ、その…』としか言わずに行き詰まる。流石にそれが続けばイライラしてくるので、ちょっと、圧を飛ばして、催促する。あくまで催促しただけだ。

 

「……ベ、ベル様は…独り占めしようとか…思わないんですか…」

 

 ……なるほど、そう言うことか。

 こいつ、冒険者の素質が無くて、サポーターになったはいいものの、今まで雇っもらった人たちに、分け前独り占めとか、かなりひどい目に合われてきたと。

 もしかして、恨んでたりしちゃってる人かな?それが発端で盗みを始めたとか? 

 

「え?どうして?」

 

 そんな思考も露知らず。ベルが心底不思議そうに言う。

 まぁ、ベルの辞書に『独り占め』なんて言葉は無いからな。当たり前っちゃ当たり前だ。

 

「僕はシオンみたいに一人で戦えないんだ。だから、誰かに助けてもらう必要がある。そして今日はリリが助けてくれたから、普通に戦えた。そして、リリも頑張ってくれたからこんなに稼げた。シオンにも少し手伝ってもらっちゃってたけど…まぁ、それは抜きとしても、リリが居て、僕と一緒に戦ってくれたからこんなに稼げた。だから、これはリリの正当な報酬。納得いかないなら契約金でもいいよ」

 

「…………」

 

 そんなことを言われ、唖然とするリリ。そんなリリの心情を理解できないのか初めから気にする気などないのか、そのまま手を掴み連れていく。

 

 …あれ?私は置いてきぼり?

 

 

    




 第三者視点オンリー。嫌だと言う人『だけ』返信ください。書きませんので。

 タイトル名、理由をリリルカ・アーデと読んだ人。かなりのダンまち好きだね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。