やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 最後、意味深な回です。

では、どうぞ


祝杯、それは記念

 時は行き過ぎ現在、日が傾き始める五時過ぎごろ。大荷物を背負いながら、邪魔にならぬよう、屋根上を移動している。

 ダンジョン帰還後、ギルドで換金を済ませ―――因みに35万260ヴァリス―――すぐにホームへと向かったのだが、途中、女の子の悲痛な声が聞こえ、その後に男の荒々しい声が聞こえたので、気になり、音源へ向かっているところだ。

 ぴょんぴょん、と数時間前に落ち着かせた心情を体現したかのように屋根を跳びはねる。気配は言うまでもない。抜刀していなくとも、これくらいならそれほど力を必要としない。

 屋根伝いに進むことで、入り乱れる裏路地も関係なく、最短距離で向かえる。

 程なくして、現場に到着。そこには倒れる小人族(パルゥム)の少女と直剣を構える雑魚そうなヒューマンの男。そして、何故かわからんが【ヘスティア・ナイフ】を構えるベル。

 

「はぁ?何言ってんだクソガキィ」

 

 お?ベルをクソガキ扱いとはいい度胸じゃないか。

 

「止めなさい」

 

 そこで、現れたのは、いかにもお使い中のリューさん。登場の仕方がカッコいいな。じゃあ私もそれに合わせて…

 

「あぁ?だれだテメェ」

 

「まぁまぁそんなことはお気になさらず。野蛮な雑魚ヒューマンさん」

 

 言葉を発するのと同時に『一閃』ので首の横、ギリギリ神経を斬らない所まで刃を入れる。出てきた血を『一閃』が吸い取っていくが、正直こいつの血などいらない。

 

「お前……どっから…」

 

 どうやらこの雑魚ヒューマンはこの程度で困惑するらしい。呆れるな。

 溜め息を堪える労力すらもかけるに値しない雑魚に呆れ全開で言ってやる。

 

「どうでもいいでしょう。私が現れた程度で困惑する雑魚ヒューマン。そんなことより、さっさと消えてもらえませんか?でないと」

 

 ここで、呆れを殺意に変え、一言。

 

「私が消しますよ」

 

「ひぃっ!」 

 

 その一言だけで、この雑魚は恐怖し、逃げ腰になる。と言うか全力で逃げてった。さっきまでの威勢はどうしたのやら。

 ほんと、呆れる。出した殺気は『強化種』のゴブリンくらいなのにな。

 弱者程よく吠えると聞くが、どうやら本当にそうみたいだ。

 

「……何その荷物」

 

 私が絶賛呆れながら逃げていく雑魚を眺めていると、こちらに訳が分からんかのような声で問うてきた兎がいた。まぁ聞かれたからには正直に答える。

 

「ダンジョン帰りなんですよ。かなり稼げましたよ」

 

「もしかして、また中層いってたの?」

 

「今日は行ってませんよ」

 

 実際、ばか広いルームと道と迷宮の安楽地(アンダーレストポイント)――かってに言っているだけだが――を探索しただけで、最初の死線(ファーストライン)は越えてない。中層レベルで戦ったが、それはあくまでモンスターが、と言う話だ。

 

「シオンさん。貴方はまた常識外れのことをしているのですか」

 

「酷いですね…ただ常識に囚われていないだけですよ」

 

「それにも限度がある。まず装備を改めるべきだ」

 

「大丈夫ですよ。これで生きていけますから」

 

 因みに今日の私の装備は、動きを阻害しない戦闘衣(バトル・クロス)を着て、左腰に『紅蓮』、右腰に『雪斬繚乱』を帯び、肩から柄が出るように、背中に『黒龍』と『青龍』を交差させ、『一閃』は基本抜刀したままで、鞘はバックパックに突っ込んでいる。

 回復薬(ポーション)などを入れるレッグホルスターは、服の上から右太股に巻き、バックパックは、サポータ顔負けの物を使い、戦闘時は勿論下ろしている。

 と、こんな感じだ。

 

「それよりシオン。かなり稼いだって言ってたけど、どれくらい稼いだの?」

 

 そう問われ親指と人差し指と中指を立てる。その行為にベルは少し首を傾げたが、理解したかのように『あ~』呟いた。さすが我が弟、言葉なしでも伝わるね~

 

「3万ヴァリス稼いだんだ!さすがシオン!」

 

 ダメダ、私とベルにに以心伝心なんて存在しなかった。

 

「ベル、私の稼ぎはそんなに少なくありませんよ…」

 

「え?何言ってるのシオン?3万だよ、3万。ソロでそれは凄い多いじゃん!」

 

「そうですか。なら切り捨てで30万稼いだ私は一体何なんでしょうね」

 

「え?…やだな~シオン。ソロでそんなに稼げるわけ…」

 

「リューさん。冒険者時代、ソロで何万稼げました?」

 

「そうですね…最高で60万は稼いだかと」

 

「ベル、これが現実ですよ、認めてください。ソロでもこれくらいは稼げます」

 

「うぅ…僕の努力って、なんなんだろ…」

 

「まぁ、それは私が異常なだけなんですけどね」

 

「なんなのさ!!」

 

 

   * * *

 

 現在夕食時、豊饒の女主人内前とは違うカウンター席、そこに二人と一柱。

 雑魚が逃げた後で会話をしている内に、助けた小人族(パルゥム)の少女は奥の方へ消えていった。気配を追ってみたが途中で面倒になり、結局リューさんに『今日も行きますから』と言って去ってしまった。

 何故あの女の子が追われていたかは知らんが、もう会わないからどうでもいいだろう。 

 

「さて、今日は手持ちを気にせず、沢山食べて下さいね。私が奢りますから」

 

「ほ、本当にいいのかいっ?お金は足りるのかいっ?」

 

「ですから、手持ちは気にしなくていいですよ。絶対に足りますから。ですよね、ベル」

 

「そうですよ神様。シオンは異常ですから、稼ぐ量も異常なので、問題ありません」

 

 実の弟に異常とか言われると、流石のお兄ちゃんも傷つくんだよ…

 

「因みに、ホームにシオンが作った金庫ですが、あれ、中身全部お金ですよ」

 

「なんだと!!あんなでかい金庫が⁉」

 

「まだ半分も入ってませんよ…あと、あそこには刀も入れてますからお金だけではありません」

 

 そんな私の返答に、ヘスティア様は呆れ半分驚き半分の表情を浮かべたが、『きゅぅ~』とかわいらしい音が聞こえてきたかと思えば、顔を真っ赤にしながら俯く。表情豊かな()だ。

 そんなヘスティア様は、やはり躊躇ってしまうのか、メニューに手を伸ばしたり…引いたり…はたまた伸ばしたり…と一人演劇をしていた。面白いが哀れに見えるのでリューさんにいつもの頼み方――メニューを見ずに頼むやり方――で注文し待つ。因みに内容は、醸造酒(エール)少なめ料理多め麺中心。

 私が頼んだことに気づいてないのか同じ奇行を繰り返す。そんなヘスティア様を見て、ベルは顔を引きつらせていた。なら止めてやれよ…

 

「はいよ!」

 

「うぉえい⁉」

 

「何奇声発してるんですか。そう言うことは酔っている人がすることですよ」

 

「いや、だってさ!ボク頼んでないよ!」

 

「安心してください。私が頼みました。じゃんじゃん来ますから覚悟してください」

 

「うぅぅ……もう!こうなったら食って飲んでやる!!」

 

 自棄(やけ)になったのか、置かれていたジョッキの中身を一口で呷る。ぷはぁ!とおっさん臭いがいい飲みっぷりのヘスティア様。ジョッキを料理を運んでいる途中のシルさんに渡し、もう一杯醸造酒(エール)をもらう。その頃にはもう全員分の料理と飲み物が準備されていた。まだ後から来るが。

 

「はい、では丁度良く全員分の料理と飲み物も来ましたし。乾杯でもしましょうか」

 

「乾杯?なんでだい?」

 

「あ!もしかして前に言ってた【ヘスティア・ファミリア】設立祝い?」

 

「よく思い出しましたね。そうですよ。その為にヘスティア様を呼びました」

 

 そう言った途端、ヘスティア様のツインテールがみょんみょん動き回った(比喩ではなく)。危なっかしいが、ヘスティア様のツインテールはありのままの感情を表す。数日の付き合いでは気づけないかもしれないが、一ヶ月も付き合ってれば、ツインテールからその感情を読み取れる。因みに今の感情は言うまでも無く歓喜だ。

 

「うん!うん!ありがとう!シオン君!ベル君!」

 

「僕は何もしてませんよ。全部シオンがやったことです。言い出したのも、お金を集めたのも、この店を選んだのも、全部。シオンのおかげなんですよ」

 

「それでもボクは二人にお礼が言いたいのさ!【ヘスティア・ファミリア】に入ってくれたのは君たち二人だけだからね!」

 

 瞳にあと少しで溢れてしまいそうなほど涙を溜め、元気いっぱい感謝いっぱいの笑顔で何度もお礼を言ってくる。このままだと止まらなそうだな…

 

「ヘスティア様。とりあえず座ってください…視線が痛いです…」

 

 その通り、今()()()()()()()()()には視線が注がれていた。私はヘスティア様が騒ぎ出してから気配を紛らわせている、勿論全力だ。

 ヘスティア様がベルに宥められ、ようやく落ち着いたのか、顔を赤らめながら座る。ようやっとのことで此方を見る視線は無くなった。そこで普通に気配を出す。

 すると小声でベルが囁いて来た。耳くすぐったい。

 

「シオン、どこ行ってたの、神様を落ち着かせるのはシオンの方が上手いじゃん」

 

「それはそうですけどね。ベルにも経験を積まそうかと思いまして。あと、私はずっとここに居ましたよ。一歩たりとも動いてません。ベルが私を見失っただけですよ」

 

 事実、私はずっと座っていた。気づいていたのは女将さんくらいだろか。【猛者】でも気づかなかった隠密(ハイド)に気づくって…あの人何もんだよ…

 

「……納得いかないけど分かった気がする。そういえば何度もこんなことされてたよね…」

 

 確かに。私は三年ほど前から、鍛錬の一環としてよくベルを脅かしていたものだ。あれは意外と楽しかったので今でも偶にやっている。

 

「そうですそうです。そんなことより、乾杯しましょう」

 

「うん!」

 

「乾杯の挨拶は誰がするの?」

 

 考えてなかった…まぁここは王道に沿って

 

「ヘスティア様でいいんじゃないですか?」

 

「ほぇ⁉」

 

「そうだね、神様にしてもらおう!」

 

「ほぇぇ⁉」

 

「ヘスティア様、早く早く」

 

 少し催促すると少し考え込み、ジョッキを持って立ち上がる。

 

「じゃあ!少し遅くなったけど!【ヘスティアファミリア】設立を祝して!乾杯!」

 

「「乾杯!」」

 

 木と木のぶつかり合う軽快な音が鳴り、次には中身を呷る。全員同時に「ぷはぁ!」と声を出して飲み切り、「おかわり!」と言う声も見事に被った。

 そこからはひたすら食べて飲んでしゃべった。はしたないと言われるかもしれないが、酒場でそんなの関係ない。

 ヘスティア様からは愚痴が、ベルからは()()()の事やダンジョンのこと、私は聞かれたことを答えているだけ、自分のことを全く話さない。だがそのことは悟らせない。場の空気を壊してしまう。こんなに賑やかで、楽しそうで、幸せそうなのだ。壊していいとは到底思えない。

 私はそれを今は見ているだけでいい。いつか、自分の力でつかみ取ろうと決めているから。

 私が望む幸せは、たった一つだけなのだから。

 

 

 

   * * *

 

「うは~!食べた食べた~」

 

「ははは~!そうですね~!久しぶりに~こんなに食べましたよ~!」

 

 私がお金を払っている間、外へ行くベルとヘスティア様のそんな会話が聞こえた。二人はもう完全に酔っている。とても幸せそうだ。

 対する私はどうだろうか。酒場に居た()()()()からすれば、とても微笑ましく、()()幸せそうに見えただろう。だが、本当はそうではない。一言で言うと、冷めていた。酔ってもない。何故かは大体検討が付く。自身のことだ、よくわかってる。でも()()()()()()わかるはずがない。

 だからこそ驚いた。

 

「次は、もっと楽しんでおくれよ」

 

 そう女将さんから支払いの際に言われた時は。

 本当に何者なんだろうか、この人は。

 

 私はその答えとして、渡した袋に、少し多めにお金を入れておいた。

 

 その意味が、伝わっていなくとも。

 

 

   * * *

 

  余談

 

「さてシオン君!お礼として【ステイタス】の更新でもしようか」

 

「わかりました。驚いて気分を落とさないでくださいね」

 

「まぁ、頑張るよ」

 

―――――――

 

ステイタス更新中……更新中…

 

―――――――

 

「ごめん、無理」

 

 

シオン・クラネル

 Lv.1

 力:A  825→S  970

耐久:C  611→B  712

器用:SS1083→SSS1385

敏捷:SS1021→SSS1339

魔力:S  974→SS 1061

 《魔法》

【エアリアル】

付与魔法(エンチャント)

・風属性

・詠唱式【目覚めよ(テンペスト)

 《スキル》

乱舞剣心一体(ダンシング・スパーダ・ディアミス)

・剣、刀を持つことで発動

・敏捷と器用に高補正

・剣、刀を二本持つことで多重補正

一途(スタフェル)

・早熟する

・憧憬との繋がりがある限り効果持続

懸想(おもい)の丈により効果上昇  

 

「おぉ、スキル新しくなってますね」

 

「もう慣れてるシオン君が怖い…」

 

 

 

 




 ハハッ、意味は自分で考えてみてください。そうした方が面白いでしょう?

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