刀の名前に一苦労
では、どうぞ
時は約束の夕方。場所はバベル四階、草薙さんの店だ。
「ほらよ、ご希望通り、『吸血』が付けられたぜ。ひやひやしたがな」
そう言いながら差し出された刀は、気配の変わった『一閃』。受け取り、確認のため抜刀。長さも重心の位置も以前と変わらない。だが見る限り、刃が本来の力を出したかのように鋭くなっている。それをやってのけた草薙さんの技術はかなり高いだろう。
「素晴らしいです。同じ刀とは思えません」
「だろうな。その刀、手入れしなかった期間があったんだろ?刃が鈍ってたぞ」
ふ~ん。まぁ、お祖父さんがかなりの時間封印(物理)してたみたいだからな。
「ありがとうございました。あの、そういえば、吸血の効果を聞いてなかったのですが…やっぱりそのままですか?」
「まあな。その刀は血を吸う。それによって欠けても修復するぜ。折れたらさすがに無理だけどな。あと、扱いには気をつけろよ。『選定』を乗り越えられたから大丈夫だとは思うが、最悪、呪いに呑み込まれるからな」
「呪い?」
あれか?
「あぁ、シオンは俺と契約するから教えておくべきか。少し長くなるがいいか?」
「問題ありませんよ」
「そうか。なら話すが、まずは俺についてだな。シオン、『呪術一族』って知ってるか?」
「字面から考えて、呪いを扱う家系、といったところでしょうか。もしかして草薙さんも?」
「あぁ、俺はその家系で生まれた。俺たちの家系は先祖代々、呪を使った封印とか、除霊とかをやってるんだが、俺は封印や除霊ができなかった。代わりにできたことが、呪いの『作成』『解析』『破壊』『解放』」
「それっておかしくないですか?」
「そう思うだろうな。シオンの言いたいことはこうだろ?『呪いの作成ができるなら、封印の呪いや、除霊の呪いを作れたんじゃないか』。あぁ、できなくはない。でも足りないんだよ。俺以外の
「それなら、作成した呪いを、ご家族に増幅してもらえばよかったのでは?」
「あぁ、俺もそう思って、一族で神童と謳われた兄貴に頼んだんだが、できなかったんだ。兄貴からは『僕達が普段使っている呪いの系統と違うんじゃないかな』と言われたよ。実際その通りだった」
「系統が違う呪いを作ってしまうのなら、お兄さんの呪いでも真似て作ってみればよいのでは?」
「鋭いな。俺もその後そう考えたさ。だが、失敗した。作れなかったんだよ、兄貴の呪いの根本が。根本から違ったんだよ、俺の呪いと他の呪いは」
「そうでしたか…」
「それがわかったら、俺は家から追い出されたんだよ。『使い物にならん奴は消えろ、一族の恥だ』って言われてな。そこで路頭に迷いそうになった時、俺はある刀鍛冶に拾われた。まぁ俺の鍛冶の師匠なんだが、俺はその師匠の元で三年間鍛冶を学んだ。そして、気づかされたんだよ、鍛冶の魅力に」
鍛冶の魅力、ね…私で言うところの剣の魅力だろうか。
「俺は昔から、誰かの役に立ちたいと思ってたんだ。家では何もできなかったけど、鍛冶でなら役に立てる。それがわかったんだよ。だから俺は鍛冶をしているわけだ」
うん、全然違かった。
「まぁ、これが俺の鍛冶をしている理由なんだが、次は俺の鍛冶で使う呪いについて説明する」
「鍛冶で呪い、ですか?」
「あぁ、その刀についている吸血属性も呪いだ」
そういえば最初呪いとかって言ってたな…呑み込まれるとも
「俺は、師匠の元で三年間鍛冶を学んだ後、
【
「…もしかして、その呪いに呑まれた人が過去に居たんですか」
呑み込まれる、さっき草薙さんはそういった。選定を乗り越えたから大丈夫とも言った。つまり、選定を乗り越えず―――いや、選定せず、武器を使った人が呪いに呑み込まれた。その可能性が大きい。
「シオン、もしかしてとか言いながらほとんど断定してんじゃなーか、まぁ残念なことにそうなんだけどな」
やはりか……だから選定なんて面倒なことを。
「因みに、呑み込まれると、どうなるんですか?」
「そりゃ気になるよな。呪いによって差はあるが、大体、狂う。例えばその吸血属性は、血を求めるあまりに、血を持つものはなんでも殺して吸っていく。それは刀が吸うんだが、最悪の場合、自分が吸血鬼紛いになって自分も血を吸うようになる。そうなったらもうどうにもできない」
「そうなったら、と言うことは、そうなる前なら何とかなるということですか?」
「あぁ、俺の魔法を使えば、呪いの
「つまり、刀だけではなく、使用者まで呪われた際、
「…あんまいいたかねぇが、植物人間になるか、
「…何と言いますか…ご愁傷様でした…」
「言うな、マジで」
「まぁ、その、ありがとうございます。お話聞かせてくれて。呑み込まれないように気を付けます。あと、オーダーメイドをお願いしてもいいですか?効果が付いた刀があと四本程欲しいんです。呪いも指定で。その効果があれば、ですが」
「おう、いいぜ。とりあえず、シオンは明日暇か?暇なら俺の工房で話し合って、その場で作ろうと思うんだが」
「はい。明日、予定はありません。なのでいいですよ。ですが、私は草薙さんの工房を知らないので、早朝…はさすがに早いと思うので、九時頃、此処で良いですか?」
「おう、問題ないぜ」
「ありがとうございます。では、また明日」
* * *
余談
「あ、シオン。『一閃』戻って来たんだ」
「はい。凄い能力もついてますから下手に触れないようにしてくださいね」
「うん!で、その凄い能力って…」
「刀が血を吸う、『吸血』です」
「な、何それカッコいい!」
「そうでしょう!」
* * *
早朝鍛錬――日が昇る前から始めてたが――を終え、朝食後、また少し鍛錬してから、草薙さんとお店で合流。向かったのは北東のメインストリートから
「んでだ。ここが俺の工房になる訳だが、わりぃ、座るとこがねぇな。立ったままになるが、いいか」
「問題ありません」
「そうか。んで、シオンの欲しい、刀の呪いは何なんだ?」
「それはですね…」
―――――――
「…まじか、シオンってかなり命知らずだよな、俺はお前を信じるが」
「ありがとうございます。あと、作業風景見て行っていいですか?少し興味がありまして」
「いいぜ、ただ俺には近づいたり、周りのものに触れないようにな。下手すれば失敗して、作成途中に呑まれる」
まじかよ、どんだけ危険なんだよ…呪い。
* * *
場所は同じく工房。現在上半身裸。何故かって?
予想以上に熱がこもって
風で冷やそうにも風が温い。
あ、因みにもう刀は二本完成しております。今は呪いを馴染ませてるとのこと。
完成度は一級品。こんな物を無料でもらうとなると、少し背徳感が…今度、感謝の気持ちを込めて、酒でも奢ろうか…
と、恩返しの方法を考えていると、等間隔で鳴っていた槌の音が止まる。水に入れ、冷やし、刃の仕上げに入っていく。全体的に砥ぎ、それを終えると、銘を刻む。普通の刀の工程はすべて終わらせ。最後に呪い。普通の気配だった刀が異様な、それも他とは比べ物にならない気配を纏い始める。いままで作ってきた呪いよりもだ。それに草薙さんも顔を顰めたが、ギリギリ耐えたようだ。
三本目が完成したな。これまた一級品。この呪いは初めて試すらしいが。
それを近くの机に横たわらせ、また炉の前に戻る。
そして、同じ工程をまた行う。呪いも刻み終えた。刀を横に置く。すると草薙さんは、壁際へ行き、棒状の物を捻る。すると、ガシャ、と音を立てて光が差し込む。その光は陽光ではなく月光。すでに夜となっていた。
すぐさま中の空気を、外に出し、涼しい外の空気を中に入れる。精霊の力をこんなことに使ってるのが、何と言うか、複雑な気持ちだ。
「……とりあえず、終わった。今回は本気でひやひやしたぞ、特に三本目と四本目。少し呪いが回って来たぞ」
「呪いって、製作者にも回るんですね、呑み込まれないんですか?」
「最悪呑まれる。だがな、耐えてると慣れた。そして何故か呪いで耐異常があほ高い」
「因みに、おいくつ?」
「Bだ」
「…お疲れ様です」
「気にすんな。それより、早くもってけ。最後の呪いも、もう馴染んでるはずだ」
なんか早い気が…まぁいいか。
「ありがとうございました。私の我が儘に答えてくれて。この刀たちも大切にします」
「おう、うんじゃあな」
「はい。また何かあったら、お店に伺います」
「そん時も、我が儘を受け付けるぜ」
* * *
余談
「シオン君。その刀は何だい?」
「オーダーメイドの一級品装備ですよ。しかも
「…道理で。君がヘファイストスの武器を遠慮した理由が理解できたよ」
「何か勘違いしてません?まぁいいですけど。あと、私の刀に下手に触れると、最悪それだけで死にますから気を付けてくださいね」
「君はなんて物騒な物を持ってきてるんだい!」
刀の呪いが気になる方、次まで待とう!
オリキャラまとめ
カグラ・草薙 性:男 種族:ヒューマン 職:刀鍛冶兼冒険者
元呪詛一族、特殊な能力持ち。
Lv.4ながらも恐ろしい耐異常の持ち主。
刀鍛冶の腕は一級、だが刀以外打てない。
過去に何度か呪いによって辛く苦い経験をしている。