やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 タイトル違うけど前回の続きですよ。

では、どうぞ


刹那、それは絶対なる力

 

 名前を呼ばれた【猛者(おうじゃ)】はその場から()()()

 

 いやそれは適切ではない。視認できない速度で移動した。と、言うべきか。

 移動した先は私の横、大剣を横に薙ぐ構えをしている。

 何故視認できないのに分かるか、それは簡単なこと。私の領域に入ったから。

 

 私は戦闘時、とある三つの領域を作っている。これは【神の恩恵(ファルナ)】を授かる前からできたことで、お祖父さんは【知覚領域】【絶刀(ぜっとう)領域】【断頭領域】と呼んだ。

【知覚領域】敵の場所、動きを感知できる領域。大きさは半径 10M

【絶刀領域】私が刀での対処が可能な領域。  大きさは半径 3M

【断頭領域】私が相手を殺すことが可能な領域。大きさは半径1.5M

 そして、今【猛者】が居るのは【断頭領域】。つまり殺せる領域。

 

 大剣が振るわれる。狙いは右腰。振るわれる大剣の刃に刀を()()()。刀の反りを利用し、大剣を上方向に滑らながら、腰を落とす。逸らした大剣は髪の毛が触れるか触れないかのギリギリを通る。剣を振り、死角となった場所から左肘を狙う。関節を切断し戦闘不能にさせるためだ。だが【猛者】は甘くない。腕を少し引き、プロテクターで防御され、キンッと軽快な音が鳴る。

 防御はされた。だが私とて、それを利用しない程甘くない。弾かれた反動を殺さず、一回転。あえて大振りにし、遠心力による威力上昇。狙いは右膝。刃が届く寸前、大剣で弾かれ鈍い金属音。その衝撃をまた利用。今回は大振りにせず最小限且つ威力を殺さない軌道で、狙うは左腕。

 やはりと言うべきか、プロテクターで防御される。だが、()()()()

 パキッ、と()()()()が響く。音源は【猛者】のプロテクター。

 刀は弾かれた。だがプロテクターを割ってやった。

 それでだけで、攻撃()()めない。

 下方向に弾かれた刀の刃の向きを上から下に変え、そのまま振り下ろす。狙いは左脚。振り下ろした刀は【猛者】の耐久を突破し、腸骨筋から大腿直筋に刃が入る。さらに力を込め、関節まで行かせようとするが、左から大剣が迫り、やむ負えず刀を抜き、後ろへ回避。距離はギリギリ【絶刀領域】外。

 

 

――――――この間、約四秒。

  

 さすがに強い。いつ以来だろうか。抜刀状態の私と対峙してこれほど耐えられたのは。

 

「一つ聞こう。お前の名は何だ」

 

「私の名はシオン・クラネル。未熟な剣士ですよ」

 

「フッ…そうか。憶えたぞ」

 

 おや?これは…もしかして?認められた、とか?

 

「フレイヤ様。この者とは少し痛めつける程度では()()()()()()ありません」

 

「……しょうがないわね。聞き出すのは諦めるわ。気絶させなさい。本気でいいわ」

 

「御意」

 

 その瞬間、腕が本能的に動いた。そして、いくつものことが()()()起きた。

 刀が弾かれ、罅が入り、肋骨と頸椎と鳩尾に衝撃があった。

 吐血、それも夥しい量。骨折音、恐らく肋骨から。猛烈な痛みが走る。でも意識はまだある。

 魔法で反撃しようとするが、遅過ぎる。

 鳩尾に再度衝撃。後方に吹き飛ばされた。

 数瞬後、さらに、背からの衝撃。今ので骨が数十本砕けた。内臓も何個か潰れただろう。 

 痛みなんて感じなかった。いや、実際はあったのだろう。でも許容範囲を超えていたからか、全く感じない。

 体が動かない。視界は狭い。意識ははっきりしない。耳鳴りがする。

 体のありとあらゆるところが異常を訴えていた。

 だけど私はその訴えを聞くことは無く―――――

 

 

 

 

―――――――途絶えた。

 

 

 

    * * *

 

 視界が戻った。次第に目の焦点が合う。耳鳴りも消えている。

 ここは何所だろうか。少なくとも、あの場所ではない。 

 体を起こす―――ちゃんと起こせた。体は動く。外傷は見当たらない。痛みも感じない。

 周囲を見渡す。ベット、その横に机、机の上には籠、その中に刀と短刀(ナイフ)それと防具。壁には魔石灯。先日見たバベルの医療室と酷似している。だが恐らく違う。重傷だった私を態々遠くに運ぶ必要はない。重傷?

 …あぁそうだった。私は軽く死にかけたんだ、【猛者】攻撃で。

 探知できなかった…受け流せなかった…何より。

 

――――――負けた。

 

 一瞬で。圧倒的Lv()と言う名の暴力で。負かされた。

 はっ、何がLvを埋められるだけの技術だ。技術を発揮できなきゃそんなもん無いと変わんないじゃんか。

 でも、仕方がないのか…

 

――――――仕方がない?

 

「ばかかよ」

 

 そんなの言い訳だ。敗北を認められない自分への。

 私はは負けたんだ。まずそれを認めろ。現実から逃げるな。

 ……クソッ、認めれば認めるだけ嫌になる。

 そもそも何故負けた。相手はどこまで行っても人。それに変わりはない。なら勝てたはずだ。何が勝てなかった。

 装備?いや、破壊が出来た時点で違う。

 技術?いや、剣技は私の方が上だった。

 覚悟?いや、剣の打ち合いで覚悟を無くしたことは無い。

 体格?いや、傷を与えられた時点で関係ない。

 

 じゃあなんだ、考えろ。

 始めの数秒の打ち合いでは私が優勢だった。実際、私は無傷で【猛者】を負傷させた。その後、神フレイヤに『本気を出せ』と言われ、【猛者】は始めとは比べ物にならない強さを発揮した。つまりだ。

 始めは手加減して、後から本気を出した。

 なら勝機はあったはずだ。始めの手加減している内に、私が本気を出して攻めていれば、勝てた。なら何故そうしなかった。

 自分の技量に慢心していた?―――違う。

 相手の技量を見誤った?―――あり得る。だがそれだけで負けるか?

 なら、なんだ… 

 

 

 

―――――――私が【猛者】を嘗めていた。

 

「これだ、な」

 

 はは。ふざけんなよ。相手は都市最強だぞ。それを、嘗めてた?

 馬鹿だ馬鹿だ大馬鹿だ!

 都市最強?Lv.7?そう言われてんだぞ。つまりはそれだけ数多くの苦難を乗り越えている。そんな相手を嘗める?剣士として、いや生物として最低だ。生きる価値が無いと言われても可笑しくないぞ。

 あぁ、私は何時からこんなになってしまったのだろうか。

 この都市(オラリオ)に来て、自分が他とは違う。格上(強者)にだって勝てる。常識なんて通用しない。そんなことを思ったからだろうか。

 これは、慢心だな。自分の力に慢心してないと思っていたが、そうではないようだ。

 『力を手に入れれば人は堕落する。力を手に入れたいのなら、常に自分は無力だと考えろ』

 お祖父さんが稽古の度に必ず私に言っていたことだ。それすらも私は忘れていた。私は所詮無力なのだ。なのに私は自分に力があると思い込み、更にはその力を慢心した。これが堕落か…勘違いに近いんだな。

 

「なら、やることは一つだよな」

 

 無力な自分を抜け出す。堕落なんてもうしない。

 ()を追い求めろ。

 そして、

 

 【猛者】を倒す!

 そして、アイズを振り向かせる程の剣を持つ!

 

「なら早速、ダンジョンでも…」

 

 …なんか忘れてないか?なんか今、引っかかるものがあったような…………

 

「………あっ」

 

 ヤバイ…会いに行くってアイズに言ってた…

 体内時計……現在夜の八時少し前。

 さすがに…帰っちゃったかな?

 仕方ない。明日にでもホームに行けばいいか。

 

 いろいろ反省すべきところがあるシオンは。とりあえず、籠の中に入ってた、自分の装備を付け―――胸当ては無かったが―――その場を去ろうとすると、何かが落ちる小さな音が聞こえた。その音の方向には、黒色の封筒に、銀のシールが張られた物が一枚。何かと思い、開けると。神聖文字(ヒエログリフ)で書かれた一通の手紙。内容は、

『また会いましょう――――フレイヤより』

 

 簡潔に、それだけが書かれていた。

 

「どうやら気に入られてしまったみたいだ」

 

 迷惑な話だ。私はそれほど会いたくないのだが。いや少し会いたいかもな。

 

「【猛者】。あなたとはもう一度戦えるのなら」

 

 目的は、少し違くなるかもしれないけど。

 

 

 

 




  戦闘シーンの文句は勘弁してくださいね?

 あと、シオンが治ったのは勿論万能薬です。

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