一番時間かかったのは何気に命さんである。
では、どうぞ
「さぁベル君っ! 脱いでくれたまえぇっ!」
「は、はい」
薄く作られた黒のニットを脱ぎ捨てると、優に三人は掛けられるソファにぼふっと横になった。潰された旧
「じゃあ、始めるよ……」
一滴、指先から玉になって滴り落ちる血液。人とソレが異なるのは単に一つ、『奇跡』が宿るか否かだ。人に刻まれるそれはその子の奇跡を現す。いわば、鏡と言っていい。そこに嘘は宿らない。
だがしかし、彼女は目を疑わざるを得なかった。だって―――
――奇跡が、消えている。
この子が起こした、可能性が。綺麗さっぱり。
目を瞠るばかり、【ステイタス】を調節する手が止まる。唖然とひたすら、あるべき場所に現れた空白を凝視していた。
だが次には、それは仰天の感情に塗り替えられる。目を白黒させて一つ開けた先の欄を見た。実に三つ目のスキル欄があるべき場所。
彼の【ステイタス】は豹変していた。
ベル・クラネル
Lv.3
力:I 0→I 14
耐久:I 0→I 8
器用:I 0→I 13
敏捷:I 0→I 22
魔力;I 0
【幸運】H 【耐異常】I
《魔法》
【ファイアボルト】
・速攻魔法
《スキル》
【
・
【
・能動的事象に対する矛盾の成立。
・多動的事象の干渉により
・矛盾の解消により消滅。
あぁそうだ、前兆はあった。消えかかった、文字に
気配を一風変え、震えている主神の様子に彼ははたと感づく。だが何も反応しなかった。そうやって不思議な挙動を見せるさまが、慣れてしまっているからかもしれない。
「……はい、そ、そんなに、変わってないけど」
「でしょうね。
なんて目を逸らしながら言ってしまう。だがいつも飛んで来るはずのつっこみはただの一つも返されない。だがそんなことを気にするほど彼は神経質では無かった。
食い入るように羊皮紙を見つめ、すぐに小首を傾げ尋ねる。
「神様、何かまた変な跡が……今まであった場所が逆に消えてるような……」
「ふぇッ!? あ、あぁそれは、少し手元が狂ってしまってね。ごめんよベル君、期待させて悪いけど君のスキルはまだ一つだけさ」
「ですよねぇ……シオンが羨ましいなぁ」
「シオン君のスキルを知っているのかい?」
「たくさんある事だけは。訊いても教えてくれないですよ、シオンは」
ようやく安堵に息を吐けたヘスティアは、納得して頷き、羊皮紙を畳むベルに向ける視線をどうにも選びかねていた。騙している背徳感、悲しき事実を伝えるべきか
「じゃあ、みんな待っていると思いますので、これで」
「あぁ……」
ニットを素早く着ると、羊皮紙をティーテーブルの上に置いてそそくさと去って行く。ドアの前で一度振り返り礼をするあたり、所々礼儀が良いのは不思議な点だ。
「あっ、ベル君!」
と、思い出したかのようにはたと大声を上げてベルへと向き直る。ノブに手を掛けていた彼はその声に驚き、だがゆったりと回れ右で振り向く。
「……いいかい、ベル君。絶対に、シオン君みたいにはなっちゃダメだ。君には今、その気質がある。気を付けてくれ」
「……? は、はい」
理解に及ばなくとも生返事を返し、今度こそ本当に、戸を抜けることができた。
首を傾げたまま。
* * *
「次は、ヴェルフ君かい」
「
「おぉ、それは期待できそうじゃないか。ささっ、上着を脱いでそこに座ってくれ」
「はい」
寝っ転がれと言わない辺り、無意識的な差が現れるものだ。自分が乗りたい人には上乗りになるという、なんたる差別意識。否、別段不遇では無いから区別とでも言った方が適当か。
「お願いします」
なんて恭しく言う彼は、敬意を払う相手にはしっかりと尽くすが、気に入らない相手に対してはかなり適当にあしらうレベルである。シオンがこの光景を見たら「あら以外、敬語なんて使えたのね」と小ばかにするようにいうことであろう。
ヴェルフ・クロッゾ
Lv.2
力:I 57→I 62
耐久:I 48→I 69
器用:I 49→I 53
敏捷:I 29→I 34
魔力:I 31→I 39
【鍛冶】I
《魔法》
【ウィル・オ・ウィスプ】
・
・効力、成功確率は魔力量に比例。
【燃え尽きろ、
《スキル》
【
・
・視認した魔法の模倣・応用可能。
・効力は『技量』に比例。
「おぉ、トータル40オーバーってかなり上がったんじゃないですか……!?」
「そ、そうだね。やっぱり二人は異常なんだ……」
なんて呟きは
「ま、ヴェルフ君。この調子で頑張ってくれたまえ。君ならまだまだできると思うぜ」
「はい、日々精進を忘れず、成長を目指したいと思っています。ところで、気になることがあるのですが、よろしいですか?」
「な、なんだいっ!?」
と、若干うわづった声に彼は然して疑問も覚えなかったようだ。動揺する彼女も、ヴェルフの質問を聞いて自分の見当違いにほっとする。まさか二人の【ステイタス】を聞かれるのかとドキドキしていた自分があほらしいと思うまでに。
「メイド服着た銀髪の女の子……あれって精霊ですよね? 何故うちのファミリアに……」
「あ、あぁ、ティア君のことかい。あの
「そうですか……あぁいえ、単に妙に近いあの二人の関係が気になっただけですので、深い意味はないですよ。興味本意です」
「そうかい。でもボクも気にならない訳じゃないからね、今度何か知れたら教えておくれよ」
「はい、勿論です」
冷や汗を流しながらも違和感なく受け答えした自分を褒めてあげたい。なんて思いで胸をなでおろす。その頃にはヴェルフは上着を着終えていて、写された羊皮紙をヘスティアへと手渡すところであった。
団員の【ステイタス】情報管理は、最重要項目――主神の大切な務めである。背に刻まれる
曰く、ヘファイストスである。
* * *
「案外と速かったですね、ベルといちゃついていると思いました」
「ボクも流石にそこまで自惚れちゃいないよ。さっ、シオン君も早く済ませちゃおう。あ、ちょっとこれ読んでて」
「ほーい」
なんて当たり前のように渡されたのは、茶色にくすんだ羊皮紙。触り心地には憶えがあった。【ステイタス】の模写用として幅広く使われる、あえて保存のきかないように設計された大人気製品だ。
見出しに書かれていた真名はベル・クラネル。
苦笑いを浮かべながらも、それにちゃんとした理由があると信用して目を落とす。ぼすっとソファに身を投げ出すと、その上に圧し掛かるヘスティア様。なんやかんやで、この姿勢が恒例。
「うわ、なんじゃこりゃ、意味不明」
「まぁ、そうなるよね」
なんてことを、シオンの背に血を垂らしながら言い合う。彼女もそれは同意だった。またもや変わったスキルが発現し、更にあるはずのものが消えている。内容までいったらもう話にならないほどだ。
日の光が唯一の明かりであるこの部屋で、蒼白く発光する【ステイタス】の光は、幻想的と言えるまであった。綺麗に彩られたその世界は、得てして容易くぶち壊されてしまう。
今回は、「うげっ」という似つかわしくない声であった。
「どうかしましたか?」
極めて冷静な声が届く。半分顔を上げ見せるその右目は察しているように笑っていない。
冷や汗がだくだくと溢れ出す中、彼女はその視線に耐え、光を納めるまで無言を貫いた。自分で見ろと言わんばかりにそっぽを向いて、それきり。
彼は考察を終えた問題をティーテーブルに伏せ置き、ぴょんと跳ね上がって軽やかにステップを踏む。ホームと共に潰されたはずの姿見の前に背を映し、髪を除けて首を傾ける。
―――な、なんじゃこりゃぁ。
それだけでは無かった。いや実際、唖然と硬直しているだけに過ぎないかもしれない。解読なんてそう時間のかかるモノでもないのだから。
シオン・クラネル
Lv.3
力:380≦Power
耐久:250≦Protection≦20581
器用:80≦Skillful≦9860
敏捷:15≦Agility
魔力:0≦Magical≦516943
【鬼化】H 【神化】S
《魔法》
【エアリアル】
・
・風属性
・詠唱式【
【フィーニス・マギカ】
・超広域殲滅魔法
・
詠唱式
【全てを無に
・第一段階【
詠唱式【始まりは灯火、次なるは戦火、劫火は戦の終わりの証として
・第二段階【
詠唱式【終わりの劫火は放たれた。だが、終わりは新たな始まりを呼ぶ。ならばこの終わりを続けよう。全てを
《スキル》
【
・覚醒する
・両想いの相手と範囲内にいるときのみ発動
・想いの丈により、効果は無限に向上する
・相手との接触中、相手にも効果は発動
【
・干渉する
・効果範囲は集中力に依存
・相互接続可能
【
・継続的能力固定
・器に依存し、能力を向上
・器の昇華を
《異能力》
【
・完全に理解した技の模倣
・
「意味わからん」
「いますっごく『デジャヴ』を感じたよ……」
そりゃそうや、少し前に全く同じ反応をした記憶がある。
確かに文字として変換することはできるのだが……悪いが理解できない。『
「よめにゃい」
「シオン君、口調まで可笑しくなってるよ? 勘弁しておくれよ、それ以上変わられたら僕はもう耐えられそうにない」
「ならいっそ
「いや、そればかりは止めておくれ。君の【ステイタス】を見たらベル君までついでに疑われかねない。大変になる事間違いなし、だから君はここに居ておくれよ。少なくとも君への注目が存在するまで」
それ半永久的事象やん。結局【ステイタス】を残すのならば、ここに所属する他ないと言う訳か……あっ、それ以外にもここに残る理由はあるな……あ、これ本当に抜け出せないかも。不味いな。
っと、そんな先々のことより今は眼前の問題だ。
「ねぇヘスティア様、これどういう事なんです。ちゃっかり【ランクアップ】してますし、変な文字? 記号? なんかも出て来てますし。羅列される意味も解りません」
「へぇ、シオン君でも知らないことはあるんだぁ……あ、それは『定義記号』とでもいえばいいのかな? 数直線上に並んだ大小関係を現わす記号なのさ。その場合、以上以下を表してるね。広がっている方が大きくて、尖っている方が小さい、そして下にある
「……なんとなく」
「よしっ、流石シオン君。でね、シオン君の【ステイタス】から読み上げると、力が380以上で上限なし。耐久が250以上20581以下って感じ。オーケー?」
「おーけーおーけー。大体わかりました。でもその『以上以下記号』の隣、もしくは挟まっている文字は何て読めば……あと意味が解らないんですが……」
今度はぷふっと吹き笑いを浮かべられた。なに、もしかして当たり前だったの? 神たちの間では当たり前なことなのか!? チョー恥ずかしいじゃないですかぁ!
「上から順に
「……それはそれは、どうもありがとうございましたっ」
「あれ、ちょっと怒ってる? ねぇねぇ怒ってる?」
顔面潰したろかこの幼女……だが教えてくれたことには素直に感謝し、お礼は一つだけ。
自分の【ステイタス】へと向き直る。
以上以下……つまりは変動する、という事だろうか。力は480以上、上限がない。ならば無限に力を込めることができると言う訳だ。脳のストッパーがあるのだけれど。だが耐久はどうだろう。別段これは、意識して変えられるものでは無いから、正直以上以下と範囲決めされている理由がわからん。どうして数値が変化するのか理解に苦しむものだ。その辺、魔力や敏捷、器用については理解が早い。変動するのが当たり前、自分のモチベーションによるということだな。
こんな適当推測で良いのかは知らんが、後々検証すればよいだけのこと。
「まっ、私のことはこれでお終いにしましょう。どうせ、ベルのことで話したいのでしょう」
「あ、そうそう忘れるところだったぜ。ベル君のあの変わりよう、流石にオカシイとは思わないかい? 【
「矛盾、なんて書いてありましたけどね。能動的か他動的かが重要なようで、推測するに『逃げ』でしょう」
「ん? それはどういうことだい?」
打って変わって真面目に語り出すシオンの言葉一つ一つを、今回ばかりはヘスティアもしかと聞いていた。いつになく真剣味を帯びた空気が漂う。尚、彼は上半身裸のままだ。しゃんとせい。
「そうでも無ければ矛盾が『成立』するなんてこと無いからです。矛盾を矛盾と認識しなくなるから、それは成立する。つまりは思い込むってことでしょうかね。だが他動的事象ならば、思い込みの介入余地がない、という事なのでしょう。よくできた《スキル》ですね、ばかばかしい。現実を見ろって話です」
「あははっ……随分辛辣なこというね」
「事実ですから。ですがこの《スキル》は早々に消去されるべきものです。矛盾が成立なんてしたらたまったもんじゃない。簡単な話、物理法則を捻じ曲げることができるわけですよ? 世界の絶対ルールを。壁をすり抜けたり、透視したり、時空を移動したり」
「それ、全部魔法でやっている人に心当たりがあるのは気のせいかい」
何を今更、魔法なんて物理法則に喧嘩を売っているようなものだぞ。まぁ、ティアは特殊なのだけれど、それは彼女が精霊だから許されるのだ。だがしかし、ベルはいち人間に過ぎない。確かに、英雄の器たる存在ではあるのだろうけど、まだ
「ベルには」
「教えてない。教えるわけにもいかないじゃないか」
「いい判断です」
流石に頭お花畑ではないようだ。そのあたり彼女は信用に値する。眷族を守るためならば、少しは法に
「あぁ、あとは【憧憬一途】か。でもこれはなぁ、何とも言いようがないんだよなぁ。似た系統の私の《スキル》が変化したっていう前例はあるし―――あ、もしかして、何か想いの
「なるほど……はっ、もしかして、ヴァレン
「ない。あとヴァレン某は止めろ。腹立つ」
「あ、はい」
まったく、人の名前を省略するなんて失礼だろうが。ベルが好意を寄せているからといっても、そんな妬みは良くない。本人に責はゼロじゃないか。
いや、もうその好意は変わった可能性が高いけど。
「まぁ、その線で考えたほうが懸命でしょうね。まぁ、眷属のことを考えるのも主神の役目です。どうぞご考察のほど頑張ってください」
「そりゃぁ頑張るさ」
漸く上着を着た彼へ、言われるまでもないと鼻を鳴らす。上下共に、しっかりと男物の服であった。といっても相変わらずゆるく、ふわふわぁとした薄手の服なのだけれど。
彼もやはり、去り際に一礼を残して部屋を出た。何気ないその仕草ですら【ファミリア】の核というものが試されるのだから、こういう礼儀正しい子が集まってくれると
さぁて、次は誰だろうか。もう、驚くことは無いだろうけど。
* * *
「失礼します」
「失礼ならよしておくれ」
「そんな恒例且つ安直な返しはつまらないですよ、ヘスティア様。さっさと済ませちゃいましょう、その方がいいです」
「ぐぬぬぬぬっ……」
いがみ合う二人のこんな会話はもはや当たり前、喧嘩が日常なのだ。喧嘩するほど仲がいいなんて言われるのはこうして喧嘩を通じてコミュニケーションをとる人が存在するからだ。本当の喧嘩なんてそれはもうえげつない。喧嘩といういがみ合いの中で友情や愛情を
「さっさと脱いでくれ、始めるよ」
「言われなくてもわかってます」
膨れ面で答え、態々渋々の様子を醸し出す徹底ぶりには驚嘆を覚えるほどだ。
だが上着を脱ぐ訳では無く、たくし上げ手で押さえるだけ。このあたりには女児ならではのプライドを感じる。露出狂でもない限り無駄に曝す必要なんて無いだろうから。
「……なぁサポーター君。ソーマって男神だよな。肌見せることに抵抗とかなかったのかい?」
「まぁ、ソーマ様ですから。あの方が女に興味があるとお思いですか?」
「……ないね」
ふと興味の湧いたことを訊きながら、手早く更新を済ませる。別段驚きもない、これこそ普通の【ステイタス】なのだろうと感じているのみ。
さっと、特に何の感慨も渡される羊皮紙を不思議無く受け取るリリ。
リリルカ・アーデ
Lv.1
力:I 72
耐久:H 108
器用:G 225→G 228
敏捷:F 374→F 375
魔力:F 389→F 392
《魔法》
【シンダー・エラ】
・変身魔法。
・変身後は詠唱時の
・模倣推奨。
詠唱式【貴方の
解除式【響く十二時のお告げ】
《スキル》
【
・一定以上の装備過重時における補正。
・能力補正は重量に比例。
「たった数日、ダンジョンに潜った訳でもありませんし、当たり前でしょうね」
「あぁ、君は当たり前だ、当たり前でいいんだ……」
「なんです、その意味深長な言い方は」
いくら薄目で
「はぁ、もういいです。これは何所に置けば?」
「あっ、すぐに片付けるから、テーブルの上にでも置いといてくれ」
「テキトーですね……」
呆れも感じるこの女神のテキトー加減に、自分の主神がこの人とは……なんてもはや悔いを感じているレベルだ。今後矯正すべき点と認識し、ソンナ女神にでも一礼残さないといけないこの上下関係というものが腹立たしい。
「最後は命君かぁ……」
どうやら、もう眼中にないよう。いっそ清々しいくらいに適当だ。
* * *
「失礼します、ヘスティア様」
恭しく、張りのある声が掛けられる。その大きさに驚くことはもうない。真面目な彼女はどうにもそのあたりに融通の利かない堅物だ。そも、別に間違っている訳ではないため注意するのは見当違い。
「さっ、命君。座ってくれたまえ」
「はい」
促されるがままにソファへと座り、横に腰を下ろすヘスティアに背を向け、着物を
「……そう言えば、命君は抵抗とか感じなかったのかい? タケに背中を見せるとき」
「なっ……そ、そんなことございません! タケミカヅチ様は誠実なお方です! 自分程度に劣情を抱くことなど断じてありません! 断じて……うぅ……」
「ご、ごめんよ? なんかごめん……」
命がタケミカヅチに淡く甘酸っぱい想いを抱いていることを、流石に同じ乙女であるヘスティアは感づいていた。【ヘスティア・ファミリア】の鈍感二傑は気付いていないだろうが。
無言が続く中、部屋を照らす青光りはすぐに納まった。
ヤマト・命。
Lv.2
力:H 136→H 142
耐久:G 239→G 256
器用:G 271→G 293
敏捷:F 318→F 335
魔力:F 347→F 364
【耐異常】I
《魔法》
【フツノミタマ】
・一定領域を圧しつぶす超重圧魔法
詠唱式【掛けまくも畏き――いかなるものも打ち破る我が
《スキル》
【
・効果範囲内における敵影探知
・隠蔽無効。
・モンスター専用。遭遇経験のある同種のみ効果を発揮。
・
【
・効果範囲内における眷属探知。
・同恩恵を持つ者のみ効果を発揮。
・
「……
「トータル80くらいかい。将来が期待できる成長してくれるね、君も」
「いえ、そんなことはございません。ベル殿やシオン殿は恐らくもっと……」
「あははっ……あの二人はちょっと『特殊』だから、比べない方がいいと思う……」
「は、はぁ……」
陰鬱な空気がふわふわと漂う。会話が長く続かないからこそだろう。だが命はそんな時間を空白とせず、思案に
ぽけぇとしているヘスティアを差し置いて。
ベル殿の成長はもはや『奇跡』と形容できてしまう次元へと至っている。追い付こうなんて考えられない。尊敬もする、羨みもする。だが自分には自分の長所があるのだ。タケミカヅチ様も申してくれた。人は人であり、自分が勝てる唯一を伸ばせ、と。そこを気にしてはならない。人それぞれ違いがある。
だがシオン殿はどうだ。あの方はただ一つ『努力』というもので強くなった、正真正銘の実力者だ。心の底から尊敬し、自分の憧れの一人と断言できる。だから悔しい。憧憬と比べてしまうのは自分の悪い癖だ。だがそれを悪癖というだけで切り捨てたりはできない。原動力とするのだ。
絶対に、シオン殿に認められるほどの強さを――技を、得る。
「ありがとうございました、ヘスティア様」
「お礼はいいって」
なんて笑い合いながら話し合う。やっとまともに二人は笑みを浮かべられていた。
慣れた様子で着付け直すと、入室を巻き戻すかのような仕草で命は退室した。その一貫して綺麗な動作に、ヘスティアは嘆息するばかり。
「ふぅ、今後が大変だろうなぁ……」
幸か不運か、どうやら自分には可能性の宝庫が渡されているらしい。それも手に余るほど。先々が大変なことは明白だろう。だが、それが少しばかり嬉しかった。
何もなかった自分。怠惰を謳歌し、暇を持て余す自分に、忙しさを与えてくれた二人。そこから始まった、数々の物語。それを見届けることができる立ち位置に居られることがどれだけ価値のある事か。
この場所を大切に、無くさないように――みんなを、見守らなくちゃね。