やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 どうでもいいけど、とりあえず水着のリヴェリア様を見たい。

では、どうぞ


第十二振り。見えぬ束縛受けし日々
窃盗犯は異常者の様です


「おー、こりゃぁ荒稼ぎだなぁ……」

 

 熱がほんわかと籠り、破片が点々と散らばる金庫内。そこを漁りながら一人呟いた。

 続々と近づく足音に振り返らず、転がっている肉叢(ししむら)を一つ見ることも無く一蹴すると、無傷な壁面へと近寄る。何段にも重なり、埋め尽くすように連なる金属ケース。そのあまりに単純な構造である錠を開けば、中に詰まっているは如何にも値打ち物の金品ばかり。

 

――持ち帰れるだけ持ち帰るか。

 

 なぁに、私の手元には換金していないアホみたいな量のチップがある。その分を考えれば少し頂戴したくらいでは文句を言われないだろう。あ、でも窃盗だから言われる? 否、これは正当なチップの対価交換だ。私は何も悪くない、無罪無罪。

 

「うーん、っても何が高いかわからんしなぁ……」

 

 残念ながら鑑定眼なんてものを持ち合わせてはいないので。

 にしても、カジノって場所はこれだけ保有してるのかぁ。ならあの被害者たちがいくら持って行ったところで何ら経営には問題ないか。知らんけど。

 

「んじゃ、とりあえず荒らしますかね」

 

 出せるだけ出して、めぼしい物乃至目の惹かれたものを引き抜けばとりあえずある程度の値打ちはつくだろう。輸送にはティアという強力な見方が付いているかなら、問題ない。

 

  

   

 

 

 

 

 

「というわけで、ティア。手伝ってくれる?」

 

「……窃盗犯」

 

 冷たい目で間をおいて告げるティア。じくりと心臓を突き刺す中々に応える言葉を、彼女は両手いっぱいに金品を持つ窃盗犯へと向ける。すぐにわかることだ、何処からともなく突然呼ばれたかと思ったら、カジノの裏手に堂々と待っているセアがいたのだから。これがいわゆる『盗み』であると、シオンから教わった。他人のものを奪うことはそう言うと。

 

「いいのいいの。これでシオンの財産も潤うんだから」

 

「ほんとに?? シオンの為になるのっ?」

 

「な、なるなる」

 

 だがしかし、彼女の正義感もその教えてもらった彼の名前を出してしまえばたちまち掌を返す。今のティアの世界は主軸をシオンとして回っているのだから。

 

「じゃあセアさん―――ほぃっ、これに乗せて」

 

「何度見てもすさまじいなぁ精霊術」

 

 そこには何もなかった。だがふと光量子と共に現れた馬車は、何度見たって慣れるものでは無く、新鮮な驚きと好奇心を与えてくれる。

 馬も可愛いし。贋物だけど。

 

「一緒に乗っていく?」

 

「頼みます」

 

 うーん、ティアはもう少し、『私』に対しての執着を弱めるべきかな。

 でないと、後々悪漢にでもつけ込まれてしまいそうだ。

 

 ゆっくりと馬が奔り出す。速度を格段に上げ、だが安定しているのは一体どこで身に着けた技術なのだろう。御者が知ったら大層(ねた)まれるだろうな。

 ほんと、正確以外は完璧なんだけどなぁ……はぁ。

 

 

   * * *

 

「……悪く、ない?」

 

 いやむしろ良いのかもしれん……

 

『それは男としての尊厳がないような発言だけど。でも可愛いから許すわ』

 

「今のは譫言(うわごと)のようなものですよ、忘れてください……」

 

 目を覚まして早々、鏡の前でふわりとゆるく一回転して自分の異常を確認する。だが、一に出た感想がそれであった。

 おおよそ接近してみなければ、ただの女性と間違えられたって可笑しくない。ロングスカートが舞って垣間見えるごつごつの筋肉なんて見たら、大抵の男はすぐに逃げてしまうのだろうけど。見かけ騙しとはまさに私のことだな。

 

『しーちゃん可愛い、可愛いよぉ……はぁはぁっ、私は女装癖があっても隠し事があっても受け入れるよ、両目が違う色でも受け入れるよぉ。いつだって『うぇるかむ』なんだからぁっ……』

 

『こ、この変態っ。シオンにソンナ不埒な目を向けないで貰えるかしら』

 

『まったく同じことを自分に言い聞かせるべきだと思う。ごめんね主、騒がしくて』

 

「本当ですよ、全く。あなた方全員、少しは人に迷惑を掛けないようにするべきだと思うのです」

 

『ボクも!?』 

 

 自覚ないのかよ。実際問題、迷惑と貢献を量る天秤があったとしたら顕著な右下がりを示すのがアマリリスだけと言い切れる自信があるから、他二人よりはマシと言えるけど。

 

――やった♪

 

――ぐぬぬぬぬっ……

 

 いい加減争うのやめろよ。心を読まれているという事実を忘れていた私の方も悪いが、逆もまた然りというのを知らんのか。

 そもそも、私だって好きで女装している訳では無い。

 シャワーを浴びている途中で意識を失い、起きたら全裸で冷水に撃ちつけられている仕打ち。温もりを求めて浴室から飛び出すとそこに在ったのが『私』が脱いだ服。温まるにはそれしかなかった。

 『焔蜂亭』で夜遅くながらも蜂蜜酒を頂いてきたはいいが、ドレスのままではいられず私服に着替え、だが煙臭い自分の身体を洗いたく浴場へ直行。セアであった私が男物なんて着る訳が無いだろう。斯くして倒れ、今に至る。

   

「はぁ、本当に疲れさせる。さて、そんなあなた方に挽回の機会を与えようと思うのですが……私の私物、どこへ消えたか知りません?」

 

 初見の時と変わらない、がらんどうな部屋に今更気づく。当たり障りなく山積した私物に然したる気を払わなかったせいで、当たり前のように部屋の奥にある姿見で自分を見ていた。本来ならここ鏡は物で遮られているはずなのに。

 

『知らないわ』

 

『分かる訳もないよね』

 

『捜す?』

 

「よぉしよくわかった、あなたたち全員たいてい役立たずだな」

 

 はぁ、これで考えなきゃならんことになった。面倒臭い。

 私の私物を守護する最後の砦はティアの多重結界だ。正直言って、ありゃ私でも下手に触れない代物。そこいらの人間が手を出す事なんて到底無理なことだ。誰かに奪われたという線は考慮する必要はないだろう。

 すると必然的に、因子となるのがティアであるといえる。

 

 なら、運ばれたという可能性が最も高い。

 

 となると新ホームに、引っ越しついでと運んだ可能性が高い。今日こそ運びたがったのだがな、私の『家』に。ひと手間かかるが、そこはティアに責任を取ってもらえばいいだけのこと。

 そっとベットの中を確認してみたが、どうやらこの妙に男心くすぐられる物は持って行かれなかったようだ。よかった、よかった。

 

「あれ、待てよ……つまり、私の服も持って行かれたわけだ」

 

『女装したまま行くことになるわね』

 

『主ガンバレ』

 

『私はそのままでいいと思うの』

 

 三人三様とか今はいいから。なんならと常に統一化を図ってくれるとありがたい。

 致し方ない、女装のまま隠密行動とは初体験だが、あの場所のどこかにあると推測される私の服を見つけ出せればこっちのものだ。

 ふふっ、久しぶりに胸躍らせてくれる。物語に出る盗賊の気分だ。

 標的は私物なんだけどね。

 

   

   * * *

 

 

『夜中ではなく早朝……迷惑なことこの上ない盗賊ね』

 

『熟睡中に起こされるより、寒い朝に無理矢理起こされた方がすっごく頭にくるよねぇ、よく妹のことそれで吹っ飛ばしてた』

 

 知らなくていいことを聞かされている気がする……何とも憐れな内容だ。

 というかそもそも、私は盗賊ではない。何故そこを一番に否定しないんだよ……昨日盗みをはたらいたばかりでした、てへ。

 

「さて、潜入開始――! ってあぶなっ、出たな()(へき)、始めから難所登場!」

 

 やはり手強いなぁっ、だが私は屈しない。時間を掛ければこのくらいの結界、破壊することができるんだよ。本当はそんなことすることなく通れるんだけど、ティアに居場所が筒抜けとなてしまう。即座にやって来てこんな格好で見られたらたまったもんじゃない。以前女装を見せてだの言っていたのだ、本当にしていたとなればなんて言われるのやら……ええい! いつまでも気落ちすることなど考えていられるか!

 

『楽しんでるわよね、絶対』

 

『うん、しーちゃんの顔が生き生きしてる』

 

『あるじー、力貸す?』

 

「無用! にゃはははははっ」

 

『近所迷惑』

 

「あ、はい、ごめんなさい」

 

 声は抑えて……静かにいこう。盗賊を心がけろぉ、冷静冷徹♪ 

 だめだこりゃ、やっぱり楽しんじゃう。

 

「よし……【現し世から弾かれる小さきものよ、さぁさぁその身を現したまえ。仮面に隠されたその顔を、漣漣(れんれん)たる雫を私は見逃さないだろう。賭し抗え、己が運命を破壊せよ。()(うら)みで世を捻じ曲げたまえ。表裏を返し、事象を看破せよ】――【真実の瞳(トゥルース・アイズ)】」

 

 干渉型光魔法。便利なことこの上ない、素晴らしき魔法だ。

 ただし成功率いいところで八割、全部が『見える』わけでもないことが欠点。

 

―――にゃぁるほどぉ。理解したぞ。

 

 だが、成功すれば目覚ましい効力を発揮する。

 流石ティアというべき、どこぞの都市最強魔導士さんですらこんなことはできないだろう。『感知・追尾・排除・幻惑・反射・反撥・阻害』というもはや穴の無い能力をこの広大な範囲で創り出しているのだから。しかも弱点がほぼないと言ってよい。素晴らしい、その一言に尽きるばかりだ。今度パフェでも作ってあげよう。

 

「感知・追尾さえ逃れられればいい……ふぅん、魔力を消せばいいのか」

 

 なんだ、案外簡単だな。感覚的には気配を周りと同化させることに似ている。勝手が同じと言っても良いだろう。然して難しいことでも無い。

 

「……おい、なんてことしてくれてんだ」

 

 訂正、ティアにはパフェなんか作ってやるもんか。

 遠目のように壁を見つめていると『見える』のは正面玄関(エントランス・ホール)。この魔法は透視も可能なのである。悪用はしちゃダメ、絶対。 

 そこに山積しているのは、明らかに私の私物であった。武器やら服やらお金やら、もう他人には見せられない品ばかり。恐らく運ばれたのは昨日の夜半十一時から十二時の間。見られているとしてもティアとベルくらいだろう。なら、可及的速やかに回収しなくては。

 

――まさか、ティアはこれを罠とでもしているのか。

 

 なんて可能性が浮かんで、訝しみながら見ると『目』は確かに応えてくれた。あれが罠であると、私を呼びだすための。ご丁寧に理由まで添えて。

 でもその程度のことで怒る? 私が帰ってこないだけで……

 

「ったく、寂しがり屋だなぁ。依存症でも発症しているんじゃないかなぁ」

 

 本当に心配になるものだ……心配なのは私の風評の方か。あれが露見すれば不味いことになる事必須。こんなところでうだうだしていられない。

 

 魔力を同化させる……ついでに気配も…… 

 行けるか。よし行こう。まだ誰も起きていないはずだ。

 

 正門から堂々。とてもじゃないが盗賊はこんなことはしないだろうけど、本業と言う訳では無いのでこれくらいの適当加減が相応しいのかもしれないな。

 館門には鍵が掛けられておらず、誘われていることは明白。だが気づかれてない今は単なる愚行の一種としか見えないな。あまり自分を万能と慢心するなよぉ、ティア。

 

――まずは男物の服を見つけなければ。

 

 中央に山積する悲しい扱いをされた私物を見て第一に思う。

 いくら私が気配を消そうと、音を立てればすぐにベルあたりが駆けつけて来てしまう。ヘスティア様やティアにならまだマシと言えようが、ベルにだけはダメだ。終わる。

 

「―――あれ、無くね?」

 

 つい声に出して、茫然と零す独り言。目を擦りもう一度『見る』と――それが確かであることが証明された。ただの一枚たりとも、男物の服が無いのだ。最悪、ズボンでもあれば偽装できたのにも関わらず、一着たりともありゃしない。上着はたくさんあるのに、どうしてこうなるんだ……仕方ない。一先ずは長裾外套(ロング・コート)でも羽織って隠すしか無かろう。日は昇っておらず、灯りも無ければ視界は悪い。たとえ下部からほんの少し見えるスカートの裾を見られても、最悪気絶させればこっちのもんだ。

 別に後回しでもいいのでは? 私服探し。

 

「どこに運ぶか……この量は往復の必要があるし、私の部屋でもありゃそこに運びたいところだが……」

 

 あくまで一時避難の形である。最終的には自宅へ移動だ。なにせ今日が正式な取得日なのだから、物はそちらに置くのが妥当だろう。

 

――さぁて、私の部屋はどこかな。

 

「……馬鹿じゃねぇの?」

 

 誰だよ決定したの、他にあるだろ空き部屋が山ほど。

 『見た』ところによる部屋の分布傾向から推測するに、私は『右手側』のどこかになると考えられるわけで、断じて『左手側』にあるべきではないと思うんだ。だがしかし、これは部屋の選定時に私が参加しなかった不届きの結果といえる。受け入れるしか無かろう……なんて納得できるかふざけんな! 後々全員絞めてやる。特にティア、ご丁寧に服まで持って行きやがって! 

 

 よし、じゃあ作業開始だ! 

 

 

    * * *  

 

 

「……っ」

 

 今、何か物音がした……気がする。近くじゃない、遠く。多分一階のどこか。ヴェルフを……ううん、まだ日も昇ってないのに起こすわけにはいかないし、不確かなことで迷惑を掛けてはいられない。

 なるべく気配を消しながら、枕元から得物を執り、寝巻のまま慎重に戸を押し闇へと身を潜ませる。ちょっと怖いけど、うだうだ言っていられない。シオンならこんな障害容易く突破してみせるだろう。賭博場(カジノ)から無事に帰還したかは定かではないのだけれど、どうせあっけらかんと帰って来るのだろう。

 

 裸足ですたすたと地を沿うように廊下を疾走し、階段へと差し掛かろうとするときには背を壁にはり付け、行き先を確認する。そうやってベルは着実にエントランス・ホールへと近づいていた。

 まだ、『彼』の作業は、半分も進んでいない。

 

 もう物音一つ、それどころか寝息以外の呼吸音もせず、加えて気配だって不審なものが一つたりともない。向かう場所も果たして正しのやら、わかったものでは無かった。

 

「……あれって」

 

 せっせとティアちゃんが運んでいた、シオンの私物だ。仕返しって言っていたけど、一体何なことだか僕には理解できなかった。  

 ぱっと見た限りで、様々な意味で理解不能な物ばかりが山積されている。一つ、それを見て気付くことがあった。

 

――少なくなってない?

 

 ティアちゃんが運び終わって満足そうに一息ついていた時は確か、もっとたくさん、それこそ本当に僕の体長は優に超え、二倍はあろう高さまで積まれていたはずだ。だがそれは今や僕の目線ほどまで減っている。一体何が……まさか、泥棒!? でも鍵が――

 

「――ティアちゃん、言ってたっけ……」

 

 そう、おびき出すとかなんとか言っていた。だから鍵が閉める必要ないとか、夜には外出するなとかいろいろ言ってたなぁ……その他諸々わけのわからないことも。

 ならこの減りようは、シオンがやったと言う訳か。なるほど納得ができる、今までの異変が大体。つまりはしっかり帰還していたという事か。加えて言えばちゃんと策略に乗せられているということ?

 

「手伝おっかなぁ」

 

 シオンには、色々お世話になっていた。何をしても返し切れない恩があると言ってなんら間違っていない。少しのことを積み重ねたり、困っていたら助けてあげるくらいやらなければ、全く釣り合わないのだ。

 

 そうして彼が熟考しているときだ。不思議かな、彼は考え事に(ふけ)ると、自然と自分を縮めこんでしまい、気配が薄くなるのだ。

 

「っしょ、あと、十三往復……」

 

 それは、もっぱら運ぶことに集中していた彼としてはあまりに不都合であった。別に油断していたわけでは無い、単に意識を割いてはいられなかったのだ。相性が最悪の状態、そんな中で気づいたのは不運にも彼が先であった。

 

「あ、シオン。よかったぁ、手伝うよ」

 

「――!?」

 

 どすっ、と音を立ててシオンが運ぼうとしていた箱が落ち、その角が触れた衝撃ですさまじい音を立てながら山積された彼の私物がごろごろと床に散らばっていく。

 彼は引き笑いを浮かべていた。しだれた金糸がその顔を隠し、ベルからは震える肩しか見えず首を傾げるばかり。残念なことに、ベルも夜目には慣れがあった。

 

「ははっ、よくも出てくれたなクソ畜生……」

 

 ふと零す、恨み言。

 心配になったベルは一歩二歩と近づき、ふと明瞭と見えた足元を訝しんだ。コートの裾の下で、何かがゆらゆらと揺れていたのだ。

 

  

   * * *

 

――あぁ、読み間違えた。こうなるなら始めっから着替えておけばよかった。

 

 見つからないと思い込んで、着替える時間的手間を省こうとそのまま続けていた所為だ。どうしようもない愚行だと今更気づいたなんて、もはや話にならん。

 

 さてどうしよう。これだけもの音を立ててしまったのなら、即座に人が集まって来るだろう。気配も隠しているだけ無駄と言う訳か。問題はまだまだ運ぶべきものがあること。ぱっと見部屋まで三往復の必要がある。しかしその経路にはティアが居座る部屋が存在していた。正直、危険である。

 

「あっ、えっ、シオン、その服……」

 

「……ははっ、見たな、私の服を見たな。ならば致し方ない、忘れてもら―――」

 

「うん、すっごく似合ってる。むしろ違和感がない」

 

「ぐはっ……」

 

 くっ、心的ダメージが甚だしいっ! なんという事だ、てっきり冷ややかな視線か罵詈雑言が飛んでくると思っていたのにぃ……ベルに限ってありえない可能性でした、てへ。

 

「あ、そうそう。これだけあったら大変でしょ、手伝うよ」

 

「え、えぇ……うそぉん」

 

「何が?」

 

「いや、さ。ほら、無いの? なんかこう、女装している兄と見下したりとか、気持ち悪いと思ったりとか」

 

「ごめんちょっと何言ってるのかわかんない」

 

 わからないのはこっちだ! そう声を上げて叫びたいがギリギリ堪える。

 不思議に思うことがあるのはこっちなのに、ベルは首を傾げて、私の考えを真っ向から否定するのだ。

 

「シオンが女装だなんて、別に驚くことでもないし。だって女の人になっちゃう人だよ? そんな人が女装したって何ら不思議無いじゃん。まぁ、似合ってなかったら僕でもちょっと無理かなぁとは思うけど、シオンならいいと思う。可愛いし」

 

「おい、最後のは余計だ」

 

「え? 事実でしょ?」

 

 否定はしないが口に出す事でも無いだろうに……

 ふざけた理由だ。まぁでも、あながち否定できない。まさかこんなことをベルの口から聞くとは意外なことこの上ないが、こういう事もあるだろう。ベルだって少しずつ変わっているのだ。

 

 って、そんなこと考えているばわいじゃない。 

 

「ベル、今手伝うって言いましたよね、なら急いでください。アレとアレとアレは絶対に見られるわけにはいかないので」

 

「あ、うん」

 

 正直に従ってくれるとは、使い走りとしては上等な種だな。

 いやぁ、これからもこき使えると、実に素晴らしい存在なのだが、果たしてどう動いてくれるのだろうか。

 

「みぃつけた」

 

「……あははっ、丁度良いところに来た。ティア、今すぐにコレ全部私の部屋へ転送!」

 

「りょーかいっ!」

 

 うん、この子の方が優秀だった。事の発端なのだけれど。

 灯り無い空間が突然魔法陣の輝きにより照らし出され、次の瞬間にはベルの持っていた荷物も含め、全て何処かへと消え去っていた。

 これで一安心……じゃないわ、これ。

 

「「「「―――――――」」」」 

 

 異なった反応を見せる【ヘスティア・ファミリア】の構成員+ヘスティア様に、失笑を浮かべて、踵を向ける。

 誰もがその時、私の女装姿を視界に入れていたのであった。

 

――あぁ、終わった。

 


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