やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 バレンタインは正直リヴェリアさんに貰いたいです、無理だけど。

では、どうぞ


さぁ、幕開けの準備だ

 

 あぁ、何だかすっきりした。思い知ったよ、彼女のような存在が欠かせないことを。

 これからも頼ってしまいそうだ……招待状云々なんて言わなくてよかったぜえへへ。うん、気持ち悪い。

 

「おい」

 

「うげ、な、なに用で?」

 

 なんて下卑た笑みを浮かべながらしげしげ考えていると、襟を後ろから持ち上げられて吊るされるまで、彼の存在に気付けなかった。いやぁ、自惚れの油断は怖い。

 

「何があった。フレイヤ様の機嫌がもはや尋常非ざるレベルへと至っている。お前が原因としか考えられない」

 

「え、もう起きたんですか? え、じゃあ、もしかして……え、うそ、えぇぇぇ!?」

 

「おい、どうした。何故それほどまでに恥じらう必要がある」

 

「う、うるさい余計な追及するにゃ! マジでこれは不味いんだって、どれくらい不味いかというといっそ自分の記憶を吹き飛ばしてしまいたいくらいに!」

 

 本当に不味い、これは不味い! 今すぐにでも悶絶したいぃぃっ!?

 これはアイズに告白した時並みに恥ずかしいし、過去を変えられるのなら変えてやりたいくらい。

 

――ずっと、護り続けるから。その代わり、支えてね、フレイヤ。

 

「あぁぁァァッぁッ!! 何であんなこと言っちゃったんだよぉぉぉぉ!」

 

「おい、話せ、フレイヤ様に何をした!」

 

 あの発言は聞かれているのならプロポーズ同然だぞ! 完全にダメ、度が過ぎている、広まったらもう一回や二回死んだろことで何ら不思議じゃない。去り際に言ったところが特に気障ったらしく、振り返ってみても気持ち悪いことこの上ない。特に……彼女が起きていたとなれば尚更。

 

「もう嫌だぁ、何で私はこんなに馬鹿なんだよぉ……」

 

 後先考えないから、お前はよく失態を犯す。耳にこびり付くほど叱られたことではないか。だがこれは天性の性質(たち)なのか、一向に治る気配がない。

 

「お、おい、やめろ、何故泣き顔になる」

 

「女性っていうのは涙腺が脆くなるんですよ……というか、放してください。苦しいですし、見た目は貴方、誘拐犯宛らですよ」

 

 それはもう、私が奇声を上げたおかげで更に目立っているのだから。ごつい長身男性が、美少女の首を持ち上げて泣く子も黙る形相で睨みをきかせている状態を昼間の中央広場(セントラル・パーク)にいる人々が見て、一体なんて思うのかは、想像に難くない。

 

「あの、早々に逃げた方が良いです。むしろ私が逃げたいです」

 

「……賛成しよう」

 

 襟から手を放すと、気配がさっと何処かへ遠ざかった。私より速いんじゃないだろうかなんて間抜けにも考えながら、爪先が地に着いた瞬間、私もそこから脱兎の如き勢いで逃げ出す。

 どうやら、フレイヤについて訊くのは諦めたらしい。うん、本当にごめんなさい。

 

「まぁ、後々何とかするとして……今はこっちを優先するべきか」

 

 相変わらず、騒がしい場所だなここは。でも、今日はギルド自体に用がある訳でなく、職員に対してプライベートな用事なんだなぁこれが。だからそれほど騒ぐ訳でも無く、直接聞きに行くのである。何分、地位は獲得していたりする。ギルド職員とそれなりの関係性があると、誰でもできちゃうことなのだけれど。

 私の場合、シオンの時はその点全然余裕。だけど、セアは正直微妙だ。前にどデカい魔石を運んで来た時にちょっとのかかわりを持って、その後セアの時にちょいちょい顔を出したくらい。だが、この容姿、中々に利用できる。普通に入って行けば何ら不信感を持たれないのだ。

 

「やっほーミイシャさん。仕事に潰されてます?」

 

「……あぁ、セアさんね。こんばんは、こんな夜遅くにどうしたの?」

 

「……何徹(なんてつ)?」

 

「うーん、ひーふーみーぁあっ、サンテツダーわーい。おはようだね、あはははは―――」

 

 駄目だこの人、早く何とかしないと……!

 ギルド自体は然して重労働機関ではない……はず。問題なのは彼女なのだろうけど、何だアノ狂気に身を賭したかのような(かお)は。死人のそれに近しいものに思えるぞ。原因は考えるまでもなく仕事。隈できるまで働くなよ、休めよ……

 

「ミイシャさん、一先ず休憩して良いですから。私が上司の方へ報告してきますから……」

 

「あぁ、うん、わかったー。じゃあ寝るおやすみぃ」

 

 今は寝てていいから、とりあえず休んでおいてくれよ……後に色々してもらわなければならないのだから。 

 がつんっ、と音を立てて机に突っ伏した彼女は奇異の目を一斉に向けらるが、知ったこっちゃないと言わんばかりにもうそのまま動かなくなった。多分寝ているのだろう、死んではいない。

 視界に入って来たエイナさんは、本当に安心したかのような顔で手を合わせて腰を曲げていた。

 エ、エイナさんでも今のはどうにもならないことだったのか……

 

 一般的に知られている分で、ギルド内は大まかに六区画に分けられる。

 個室、待合所、受付、職員仕事場、資料室、そして『祈祷の間』。

 最後のは知っているだけ、という人が多い。私もそれに例外はなく。地下にあることは知っているのだが、正確な位置までは知れていない。

 閑話休題。

 用があるのは然して知られていない執務室。手近なところにある一般職員のスペースとは異なり、普通は入ることが禁止されている奥へと向かわなければならない。堂々と入っても私にどうこういう人間がいないのは、なんというか、偉くなった気分だ。全くそうではないのだけれど。

 

「どうも、一般人でーす」

 

 と、最奥になる上司という名のむさっ苦しい集団が居座る、『女性専用』と書かれた札が下げられていない方の扉を開けて、開口一番馬鹿みたいな発言で注目を引く。

 次には下心に染まった瞳が現れるのは、欲望を蓄積している証拠か、汚らしい。

 

「あの、ミイシャ・フロットさんについてお願いがあるんですけど」

 

「ほ、ほぅ、何だね君は。そもそも、ギルド職員ではない君が、どうしてここにいる。入りたければ受付嬢にでも志願したまえ、喜んで受け入れよう」

 

「黙れ貧弱オーク。誰が見せしめ役など受け入れるか。そうやって、ギルドの利益考えるなら、職員の健康と労働時間も管理した方がよろしいのでは。彼女、仕事に潰されてましたよ。今日で三徹(さんてつ)だそうです。気の毒な」 

   

 大仰に呆れてみせると、何故かこの男どもは、首を傾げるばかりだった。何を言っているのかと逆に疑われているかのような……

 

「そんなわけ無かろう。彼女は近頃仕事の消化率がやけに良く、給料を随分と上げたくらいだ。此方としては目を(みは)るばかりだったが、それは本当なのか?」

 

「あの人、単に無理しているだけかよ……はぁ、これはすみませんでした。どうやらその件については勘違いだったようです。ま、正直それは二の次なことでしたが――本題を伝えますと、ちょっとミイシャさん借りていきますので、今は働いていることにしておいてくださいね?」

 

「なっ……」

 

 絶句する一同。実にいい顔だ、この間抜け面を貼りだせばいい酒の肴になるほどに。

 あの様子は正直ヤバイ、休息をとらせた方がいいのは誰もが思うことだ。その発端は実のところ、彼女が無理を下だけでしたーなぁんてこと知れ渡ったら、エイナさんあたりからかなり怒られそうだけど。

 許諾なんてされる必要なし。単にミイシャさんが無断欠勤乃至退社したという事実が無くなればいいだけのこと。連れ出すのは私の勝手だからな、彼女に罪悪はない。

  

「そんじゃ、失礼しまーす」

 

「お、おい君!」

 

 なんて後ろから大声で引き留められたけど知ったことか。むさっ苦しい欲の塊どもと関わってなどいられん。

 そっぽ向いて、ミイシャさんの所へ戻ると、やはり彼女は死人のように鼾もたてずぐっすりと眠っていた。今すぐ起こすのも悪いし、彼女の自宅まで運ぼうか……?

 

「はぁ、全く。無理ばっかりして、他人に迷惑を掛けなきゃ気が済まないんですか」

 

「あ、あの、セア氏……ミイシャを、責めないであげてください。どうしてもやりたいことがあったようなんです。なんでも、シオン君に――あ、シオン君というのは【絶対なる異常者(アブソリュート・サイコパス)】のシオン・クラネル氏のことで……」

 

「知ってますよ、それくらい。でも……一体何を」

 

「前、嬉しそうに言っていたんです。シオン君が欲しいって言っていたアレ、絶対にプレゼントしてあげるんだから―――って。すっごい張り切っちゃって、ずっと頑張ってるんです」

 

 なるほど、ね。これ、私が聞いちゃってよかったのかねぇ……知らないふりをしておこう。意識しなければ後に思い出して、その時に初めてのような驚きも味わえる、はず。

 ミイシャさんの一番の友人はどう考えたってエイナさんだ。そんな彼女に心配をかけるなんて、随分と周りが見えなくなっているようだ。これはどうにかしなくては。

 

「エイナさん。今後ミイシャさんが無理をしないように、見張ってあげてください。私はこれから、ミイシャさんを少しばかり休ませようと思います。何かミイシャさんへの仕事がありましたら、エイナさん、代替してあげてくださいませんか?」

  

「え、あ、はい。ですが、ミイシャをどこへ……」

 

「家まで送ります。少し休ませてから、私の用事に付き合ってもらうために」

 

 今日の夜、彼女が勝負を仕掛けるその時。あんな宣言をしたんだ、馬鹿を見る目で(さげす)まれたけど、その馬鹿はどうやら一度言ったことを反故にすることはない。

 彼女にはその共犯者となってもらわなければ。つまりはすっごく大変なことになるわけで、今の様なへろへろ状態であっては困るのだ。

 

「んじゃ、また今度」

 

「あ、うん、またね」

 

 ミイシャさんを背負う―――のではなく安定のお姫様抱っこによって持ち上げると、周りから何とも言えない声が上がった。私にそんな趣味も性癖もない。

 耐性なんてものを持ちあわせていないミイシャさんが『狂乱』に触れることは危険。致し方ない事なのだ、おんぶなんて嫌だろうから、まだマシだと思ってほしい。

 まぁ、ミイシャさんはこの時この行為を自覚していないだろうけど。   

  

 

   * * *

 

「……知ってる天井だ。え、なんで?」

 

 って言うことは私、寝てた? 働いて、稼がなくちゃいけないのに……シオン君のために頑張りたいのに。

 あんなシオン君、初めて見たんだ。弱々しくて、自分を卑下しているようで……でもそれに自格なんて無かった。解らないんだ、シオン君には。あのとき感じていたものを。見ている私にはわかってしまった、寂寥としたその瞳から。

 だから、あんな悲しい姿見たくないから、頑張っていたのに……

 

「そんなことは良い。早く行かなきゃ」

 

「その必要はないですよ、ミイシャさん」

 

「――――――――――はぁ!?」

 

 何だよその間は。幽霊(ゴースト)でも見たかのような顔しおって。

 そりゃまぁ私がここにいるのはかなりオカシナことであろう。鍵だって勝手に開けさせてもらったし――勿論対応した鍵を使って――中に土足で踏み込んでいる。別段深いかかわりでもない人間が起きたらそこにいた、なんて驚かない私のような者の方が奇異なのだ。

 

「セ、セアさんがなんで私の部屋に!? ま、まさか……」

 

「あ、多分そのまさかです。私が運ばせていただきました、鍵はここに」

 

 窓辺に足を組んで座り、西日に照らされ銀糸を輝かせる彼女は、片手に持っていた本を置き、代わりにどこからともなく鍵を取り出し、しゃんしゃんとひけらかす。 

 どうやら、本当にそのまま運ばれてしまったらしい。閉塞感を感じて自分を見てみると、本当にそのまま……

 

「スーツのまま寝かせたの、馬鹿なの?」

 

「るっさい。脱がせるわけにはいかんだろうが、色々な問題上」

 

 女同士なのに、何を気にする必要があるのだろうか。そんな気遣いより、横になるならまだ全裸の方が良かった。別に露出狂なわけでも、一糸まとわぬ姿でないと眠れないとかそう言う訳では無く、単にスーツのアイロン掛けが面倒だということ。私だって寝巻くらいちゃんとある、ただ下着をつけないだけだ。

 

「それで、何でここにいるんですか? というか、どうして私の家を?」

 

「知ってることは知っている、ただそれだけのこと。あと、敬語なんて無理をせずとも構いません。いつも通りで良いですよ」

 

「……そう。ならそうするけど、全く答えになってないよ」

 

「おっと。すみません」

 

 説明不足は悪いな。今から協力してもらうのに、それは不味い。

 呆れながら、気持ち悪いと言わんばかりにスーツを脱ぎ始めた彼女を止めて、一つ咳払いで場の空気を整えてから話し出す。

 

「貴女に用がありまして、協力して欲しいのですよ」

 

「ふぅん、で、何を?」

 

「いやぁ、私ね、『エルドラド・リゾート』に入りたいのですけど、招聘状も何もないわけですよ、金以外。そこで必要になるのが――」

 

「――私のゴールドカード」

 

「そう、多分それ」

 

 パチンッ、響きの良い音が鳴らされた。左目で非常に綺麗なウインクまでして。

 セアさんも結構なギャンブラーなのかな? 何故私の神器が一種、『ゴールド・カード』の存在を知っているのかはいくら追及したところで話してくれないだろうけど、これは協力した方がいいのだろうか……

 

「あ、何故協力する必要があるのかって顔してますね。大丈夫です、ちゃぁんと貴方にも利益があります」

 

「……話してみて。納得したら、まぁ考える」

 

「うん、それでよし。真っ先に受け入れたら有無を言わずゴールドカードやらだけを奪って行きました」

 

 その意気や良し。私は用心深くないガサツな人間となど組みたくない。

 でも全部話してしまうのは良くない。誰に迷惑を掛けるかって言ったら、リューさんやシルさんにだ。

 

「貴女に提示する条件は、カジノで得た資金提供と最低限の保証。因みに三千万」

 

「……まぁそれくらいでも別にいいけど、外にあるの?」

 

「まぁ、ありますよ」

 

 お金程度で動かすわけにはいかんだろう。一応身の危険もあるんだし、お金はあっちで稼げるだろうし。

 これは正直、私の矜持的なものだ。ひた隠しを一方的に続けるのは良くない。巻き込んでい悪いとは思うけど、彼女は満更でもないようだし、別にいいか。両者納得は素晴らしい。

 

「三つ、貴女には何でも訊いていい権利を与えます。私とシオン・クラネルに」

 

「……なんでそこにシオン君が出てくるの?」

 

「安心してください、本人承諾は得ています」

 

 勿論今。セア()が決めたらシオン()の意思。その逆もまた然り。

 訝しみを簡単には消してくれないだろうが、受け入れてはくれたよう。彼女は宛ら情報屋、未知で包まれる人物の情報を得られる権利は喉が鳴らすほど欲しいようで、案外すんなりと。

 彼女には今回の件について少々語れない部分がある。その分の埋め合わせということだ。

 

「ま、いいや。で、いつ行くの?」

 

「今晩、二時間以内に出立したいところですね」

 

「ハァ!? エルドラド・リゾートに行くのに準備時間がそれだけぇっ!?」

 

「さっ、急いでください。私も準備を終えたらまた訪れますので」

 

「ちょ、ちょっと待った! お金はどうするの、チップ交換用の……私今、そんなに余裕ないから」

 

 交換条件は実に素晴らしい、目標へ大きく一歩踏み出せる。けど……私は今、遊んでいられるほどのお金がない。一発山を当てる、なんて荒業を狙って落ちてしまったら元も子もないのだ。着実に、絶対にやらなければ。

 

「良いですよ、貴女にお金を払ってもらう必要はありません。私が全額出しますから。因みにおいくら?」

 

「あそこだと……招待者なら1000万くらい始めに貰えて、常連ならだいたい500万から」

 

「りょうかーい。全然余裕ですね」

 

 あっけらかんと告げたあんまりな事実。絶句する他なかったのだ。

 それを余裕と言えるなら、一体この人の財産は……

 

―――1億480万ヴァリス。

 

 あの金額に、容易く届いているのではないだろうか。

 もしも、もしもだ……この人が、私と同じことに気付いているのだとしたら、私より親しい人間だとしたら……私に勝ち目も、希望も何にも無くなる。 

 

「んじゃ、鍵はここに置いておきますので。準備頑張ってくださいねー」

 

「あ、ちょっと――! って、速い……窓から出て言ったし、一体何なの?」

 

 初めて目にした時からその異常性は伝わって来たけど、こうして目の当たりにすれば、本当に嫌でも理解させられる。シオン君に近い何かも感じるし……癖とか。相手が正解をいい当てた時に、左手で指をパチンッと鳴らし、人差し指を向けてくるあたり。

 

「……後で訊こうかな」

 

 幸い、権利は与えてくれた。

 

 

   * * *

 

「ねぇ、セアさん。貴女本当に人間なの? 人間とは一線を引いているくらいなんだけど」

 

「そりゃどうも。貴女も、やはり普段とは大違いです。すっごく綺麗ですよ、私と居ても見劣りしません」

 

「厭味?」

 

「いいや、本音」

 

 くすくす笑い出すのすらも、彼女たちは美しかった。

 烏色の、まるで彼女には正反対の色を纏っているのに、逆に引きたつセア。珍しく、武器を何一つ所持していないので、今や噂だけ美の女神を知っている人間ならば、容易く騙されてしまうほど。 

 対し彼女は真紅を纏う。ロンググローブにより腕は隠すが、ほとんど晒しているようなものだ。やわらかく、さぞ触り心地の良かろう腿なんて、一瞬セアの吸血欲をそそらせた。

 

「それにしても、よく馬車なんてとれたね」

 

「御者がシオン・クラネルのメイドちゃんでしてね。可愛いでしょ?」

 

「うん、それは思った」

 

 ゆらゆらと揺れる馬車は、メイドことティアが自棄になって作った疑似生成物である。何気に座り心地がよく、揺れも少ない。それは御者を務める最強精霊ちゃんだからこその芸当。引いている白馬は魔法でできた幻影、動く原理は電磁波による地との反発から得た推進力。言わずもがな、馬鹿みたいな加速力だ。

 だが中の人は、そんなこと露知らず。

 

「ねぇ、歩いていった方が良かったんじゃない?」

 

「ハイヒールで歩くの嫌です」

 

「女のステータスでしょ……それで見た目は最強なんだから、ほんっと世の中ってものは」

 

「ですよねぇ」

 

「厭味だよね、今度こそ……!」

 

「もっちのろんっ♪」

 

 クッソムカつく……一発殴ってやりたい。

 こんな美少女が美に関して無関心なわけが無いのに、一体どういうことか。

 そもそも考えてみれば、こんな美少女がオラリオに来て噂にならないはずがない。なのに、彼女は唐突にその異常性を示して、唐突に姿を消す……それを繰り返すばかり。

 そうだ、訊いてみよう。

 

「ねぇセアさん、貴女は一体何なの?」

 

 ドンッ! 向かいに座っていたセアさんが馬車の壁に頭を打った。唐突に訪れた衝撃に、私はセアさんに飛び込んでしまった。柔らかく受け止めてくれたけど。

 

「だ、大丈夫ですかぁ……?」

 

「それ、こっちのが言いたい。大丈夫?」

 

「えぇ、まぁ。丈夫なので……さて、気を取り直して。もう着いたようですし、降りましょう」

 

「あ、うん」

 

 馬車のドアを開けられる。その先には浅く礼によって目を伏せるシオン君のメイド――ティアちゃんがいた。一言セアさんが告げると、優しくエスコートしてくれる。さっきぶつけた頭の痛みを、全く表情に見せずに。

 

「あ、そうそう。さっきの答えとしては――――同一人物、って回答で」

 

「はい?」

 

 訳の分からない解答。でも何だか心に残って、先端だけが刺さっているかのような違和感が消えなくて……

 でも、その違和感は払拭できずに、連れられてしまった。

 まっ、いっか。謎解きみたいで面白いし。

 

 

 


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