やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 最近、フレイヤ様の可愛さをダンメモで知った。

では、どうぞ


ひそかな会合

 

 相変わらず、妙な場所、変わった景色、不思議な自然。ここにいると、時の経過を忘れて留まっていたくなる。柔らかく受け止めてくれる草に身を投げ出し、世間体も気にせずごろごろ。名前も無いであろう異形の鳥たちによった調べに耳を傾けながら、安らかに瞼を閉じればどれだけ心地よかろうか。

 

「そんな時間もあればよかったのに……もう、無用件だったらただじゃ済まさんぞ」

 

 小高い木に背を傾けたまま、真上に向かって恨み言を零す。今頃、お菓子でも用意して待っているのだろうけど、どうして私なのか――なんて考えちゃいけんのかね。

 

「まっ、昼までなら付き合ってやれるけど」

 

 どぉせ暇だし、予定の有無が変わっただけ。そう納得して立ち上がる。

 片手で持っている大太刀を、遥か高くの天井に――水晶の(むら)が生み出す日光宛らの光に翳す。血飛沫(しぶき)を全て受け止めていた白銀の刀身は、気づけばもう修復を終えている。刃先が荒れている様子すらなく、馬鹿みたいに新品のような輝き。まるで何一つ斬っていないかのようにすら思える。

 製作者曰く「整備面倒だろうから、修復能力は一応な」と。よく気が利く人だ。

 

「ある程度感覚は取り戻した。『狂乱』も万全、砥ぎも良し。もし何かあったとしても問題はない」

 

 封印符の位置を変え、鞘に身を納めると継ぎ目にまた封印符。無力な神の前で万が一にこの呪いが本領発揮でもしたら……念のためだ念のため、考えるだけで(おぞ)ましい。

 主神に手でも出したら、何言っても総出で潰しにかかるのが【フレイヤ・ファミリア】のわからずやどもだ。権力人数金武力――もっぱら戦闘系の彼のファミリアにただ異常なだけの私が対処しきれるはずもない。

 

「もうそろそろ限界、か……覚悟を決めろ、私。前みたいに上から目線を意識すれば何とかなる、はず!」

 

 あの人は常に上の立場に居た、孤高の王女様。常に高嶺の花とされ、護られ、常世ですらも逸脱し――地上ですらもそれは変わらず。常に彼女は、たとえ取り巻く『誰か』がいたとしても一人だった。だからなのだろう、上位者よろしく人を上からばかり見た彼女は、自分を下に見られてもの言われることへの耐性が皆無と言ってもいい。

 それを利用する私は、かなりのクズだな。

 

「まぁ、自分を優位に立たせようとするのはあたりまえ、か。私は悪くない、悪いのは約束も無しに無理に私を呼ぶあの神だ」

 

 なんて自己正当を訴えたところで、誰が納得したわけでもなく。強いて言えば自分に言い聞かせているだけだ。しょうも無いことに。

 次からは招待状を送るように、絶対に言い聞かせてやる。それもついでに、決心した。

 

 

   * * *

  

 こん、こん、こん、こん。よそよそしくも戸が叩かれる。鼻歌を歌いながら 何をしようかと妄想に耽っていた女性はそれにびくんっと跳ね上がり、発破されたかの如き速度で戸を開けた。

 だが、豪勢なその戸を開けた先には、誰一人立っていない。

 

「だーれだ」

 

「――!?」

 

 突如耳朶(じだ)をくすぐるかのように吹きかけられる、甘い声。か細く漏らしてしまう悲鳴は隠せるはずもなく、威厳なんて捨て置いて少女のように頬を赤らめた彼女は、振り向きながら数歩たじろぐ。

 

「シ、シオン!? いつの間に入ったのかしら……!?」

 

 何とか持ちこたえて、振り絞った声は上擦り、ふと浮かべた『シオン』の微笑みはそれを嗤っているのかと彼女に錯覚させる。でもそれはただの微笑みで、全く含蓄なんてない。

 目も前の女神が挙動不審になる様子を不審と思いながらも、彼女は変わらぬ調子。

 

「内側からノックしたので。それと、シオンではなくセアですよ、()()()()()

 

「あなた……そこまで気にする事かしら。まぁいいわ、セア。それと、あなたなら別にノックはいらないわ。他人みたいにされる方が嫌よ」

 

 ぷっくり頬を膨らませながら怒ってみせるが、当の本人はそれに一笑返すだけ。くすりっと笑った彼女は、悪戯気に女神の髪に指を通し――

 

「そっか、でもノックは礼儀ですから。他人行儀が嫌なら……フレイヤ、なんてどうです?」

 

「―――――」

 

 果たして、美の女神という存在は、眼前にある美に酔っても良いのだろうが。

 誰が否定しようと正当だろう。フレイヤは、己が美に盲目的で、他の美に嫉妬するようなことは稀にある程度だ。彼女は美しいものが好きなのだ。だから―――

 

――――こんな可愛い()、大好きに決まってるじゃない……!

 

 何て愛らしいのかしら。私をおちょくるようにさっきからオカシナ行動ばかりしているけど、その所為で自分が恥ずかしがっている辺りが特に可愛らしい。本当に、私の保護下に早く入ってくれないかしら……!

 

「あまり神をからかわないの。さっ、こっちよ。要望通り、ちゃんと甘いお菓子もあるわ」

 

「あら、それはどうも。ほ、本当に用意してくれたんだ……」

 

「どうかした?」

 

「いえ、なんでも」

 

 心内に留めておきたいことをポロリと漏らしてしまう。それを聴きとられた時の恥ずかしさと言ったら悶絶レベルだ。そんな事態にならなくてよかった――そっとまた一つ息を零す。

 

「今日はこっちよ、私の自室。今まで二人しか人間は入ったこと無いのよ?」

 

「そうですか。そのカウントっていつになったら増えるのでしょうね。あ、勿論私は加算されませんよ? 人間じゃないですし」

 

 厳密に言うと、人型吸血精霊? なんて言葉が当てはまる。どう考えても、こんなカテゴライズをされた存在が人間なんて小さな枠に収まるはずがない。

 そんなことは差し置いて、まぁ嬉しくなくもないかもしれない。ないないないないナイだらけ。

 だがそれにしたって、随分と用意ができているものだ。前は見つけられなかったティーセット、絢爛に並べられた稀少と一見してわかる何故あるかもわからない陶器類。絵画まで飾られているときたものだ。案外と広いもんだな、最上階。

 

「さぁ、座って頂戴。誰にも邪魔はされはないわ」

 

「でしょうね。時計まで無い」

 

 時間というものを忘れて過ごしたいのなら、時計が無いのを好む人がいても可笑しくない。私には常に付きまとっているものだから、どこにいたところで変わるモノでもないが。

 

 親切にも、背もたれの高い椅子を引く設営者(オーナー)。一つ礼を言って、そこに座りはした――が、用心深くも愛刀を背から降ろし、どうみても居合の位置へと掛ける。ちょっと不機嫌になる女神様。満更彼女がその感情を隠すことなどできずに、丸見えならば流石に鈍感な彼女でも気づく。

 

「あの、一つ良いですか……?」

 

「何かしら。私に魂まで全て晒してくれるのならば別に良いけど」

 

「あ、それは無理なのでやっぱりいいです」

 

「なによ、それ!? あんまじゃないかしら! 聞きたいことがあるんじゃないの、ねぇ!?」

 

 座ったはずなのに、不機嫌をまたこじらせて怒り出す女神様ががしゃりと下品にもテーブルに手を叩きつける。だが女性の――人と変わらない女神の力などたかが知れている。所詮その程度で終わって、淹れられていた紅茶を飄々(ひょうひょう)と飲んでいる様は全く気にしていないことを体現している。

 

 この女神は一体何を考えて行動しているんだか、そろそろ理解に及ばなくなってきた。いちいち人が言ったことを軌道修正する注意力があるのならば、こうした部屋に私のような存在をいれるという危険性を考えて欲しい。

―――この部屋にあるのは、装飾品だけではない。

 使用痕跡の見られるベッド、服でも入っていのであろうクローゼット。年季を感じる小物入れにはおそらく恐ろしいまでに高級な宝石やアクセサリーの類でもいれてあるのだろうか。

 仮に私がフレイヤを気絶させたとして、幾らでも奪えてしまうではないか。一体、どこに私へ信頼を傾けられる要素があったのか……? 

 

「んで、私のことは話があって呼んだのでしょう?」

 

「ふんっ、そうよ。別に寂しくなったからとか、話したくなったからとかそう言う訳じゃないの。いい?」

 

「念押しされなくてもわかってますから。どうぞ続けて」

 

 うん、わかってますよ。寂しかったんですよね、お話し相手が欲しかったんですよね。まさにアミッドさんみたいじゃないですかぁ。なにかな、銀髪の人は皆例外なく寂しがり屋だったりするの? 

 

「まずは、世間話から始めましょう。あ、先に聞いておくけど、いつまで暇?」

 

「限度はあと三時間。それより短くて結構ですよ」

 

「冷たいわね……ま、いいわ。急なのだし予定の関係とかもあるわよね」

 

 と、勝手に納得している彼女の思想をぶっ壊す「面倒なだけですよ」という発言は控えておこう。予定があることに変わりはないし、納得してるのならそれ以上余計なことをするまでもない。

 

「最近、ファッションに目覚めたようね。どう、いいものでしょう?」

 

「ま、悪くはないですよ。意図して目立つ必要のある場合などに利用できそうです。それに、偽装もできる。可愛いって便利ですね」

 

「あなたがそれを言うと厭味(いやみ)にしか聞こえないのはどうしてかしら」

 

「さぁ」

 

 肩を竦めて見せると、呆れたように溜め息を吐いた、お疲れ気味の女神様。彼女からしてみれば、ファッションとは娯楽。その考え方からして、相容れない私の考えは歓迎し難いようだ。

 だが仕方ない。主武装(メイン・ウェポン)たる『狂乱』や『一閃』を隠すことは無理があるのだが、副武装(サブ)という手の内を隠す事には十二分な有用性がある。私の場合、大抵使うのがサブの方。小物を中心とした武装において、一見して着飾った装飾品と見せることが重要となる。必要なことなのだ。

 それに、可愛いのなら何を着装したところで可愛いことに変わりはない。ただ、私のように努力もせず可愛い存在は、世の女性の方々への冒涜と言われそう。元男だし。

 

「偽装って言ったかしら。因みにどんなものがあるの?」

 

「それを教えちゃぁ偽装の意味がありませんよ。当てる分には構いませんけど」

 

 勝気に「無理であろう無理であろう」とでも言いたげな顔で茶菓子を頬張り、そのほどよい甘さに頬をとろけさせる余裕っぷり。暴かれることなどないのだろうと踏んでいる様が丸わかりだ。

 それを侮辱ととった女神はむすっとし、やけになって彼女を隅々観察し―――

 

「ふーんそう。じゃあ、その指輪と袖に隠した短剣のことであっているかしら?」

 

「――ッ!? ッん~~~!! はぁ、はぁ、な、何故わかった……」

 

――見事言い当て、クッキーをのどに詰まらせることに成功した。

 グイっと紅茶によって胃へ流し込んだ後、息を詰まらせながら驚きに揺れ動く瞳で逆に問いかける。だが今度は女神様が優勢のようで、如何にも偉そうに胸を張っている。

 

「あまり私を甘く見ないで頂戴。貴女に目を塞がれた時、微かにした薬の香りには覚えがあったわ。以前盛られた麻酔薬ね。それと、触った時に形状は何となくわかったもの、短剣って」

 

「そりゃぁ、まぁ正解ですが……盛られたんですか」

 

「えぇ、三年ほど前有名な某飲食店に行った際に。危うく犯されるところだったわ」

 

「おいおい……」

 

 大丈夫かよ、この女神……そのうち誘拐されるんじゃないか?

 更なる驚きに困惑を浮かべる彼女を差し置いて、その時の情景を思い出したか若干涙目になりながら二の腕を擦る女神様は、己の推論をまだ続ける。

 

「私にとってはあなたがそれを身に着けている方が意外なのだけれど……【神の兵器(エンシェント・ウェポン)】なんてどこで手に入れたの? そんな危険な物、早く封印してしまった方がいいと思うわ」

 

「……へぇ、知ってるんだ。コレのこと」

 

 静寂。世界が遠のくような、押しつぶされて自分が小さくなっていくような、そんな感覚に襲われた。音が無くなった訳では無く、音が捉えられなくなったような―――

 

「――話せ、これは何だ」

 

 底冷えして、そこには面影を欠片も感じさせない、ただのバケモノが存在しているかのよう。ただ見つめるだけで人なんて殺してしまいそうな、隔絶した、宛ら神のような存在が現れる。

 容赦のない命令に戦慄(わなな)く唇、痙攣する指先。自分が自分でないように、意思が全く働かない。尊厳も意識も薄れゆき、白濁とした脳内に入って来たのは些か高い声。

 

「それ、は……()()()()兵器の異端物。神殺しの渾名までつけられた、存在しちゃいけない、失敗作」

 

「裏情報はどうでもいい。使用法、重要なのは二つ前の所有者だ」

 

 核心へと、無我夢中に迫っていく。彼女が疑似的にかけているものの効果も危険性も加味せず。自分が目的のためにする事なんて、なんだっていいと言わんばかりに。結果さえ得られればいいと。

 

「兵器は、所有者を選び、使用者を選定する……だから、自然とわかるはず。それと、以前の所有者、は―――所有者は……ぁっ、あぅ、ぁぃ……」

 

「――ッ、はっきりしろ!」

 

 挙動不審となる、あまりにも不自然な女神。あと少しで判る――そのもどかしさが彼女に焦燥を募らせ、ついには荒んだ心のまま女神の肩を力強くゆする。すると気づいた――

 

――目が、からっぽ。

 

「お、おい! しっかりしろ、正気を取り戻せ、フレイヤ!」

 

「―――」

 

 状況の異常さに漸く気が付いた事の発端。自分が何をしてしまったのかは理解せずにただ混乱に襲われる。

 どうしてこんなことになっているのだろうか。譫言(うわごと)のように何事かを発しては奇怪に笑い出す始末。一体どうしたらいいのか、どうすれば―――

 

「フレイヤ、ねぇ起きて、お願い、お願いだから……ふれいやぁ」

 

 形振り構わず。体裁なんて捨てておけ、今大切なのは彼女が正気に戻る事。

 だが自分に何かできる訳でも無い。所詮能無しのただの異常者ごとき、神の一柱(ひとり)二柱(ふたり)助けられない。なんだ、無力じゃないか。

 存在しない誰かに縋って、何かと自分ができないことは助けを求めて。

 

「畜生……」

 

 だけど、無駄に『力』ばかりを有しているから、こうして誤ったことが起きる。

 悔しい、自分を制御できない自分が腹立たしい。

 

「あら、何を泣いているのかしら……?」 

 

「ぇ」

 

 弱々しく下を向き、えずき嗚咽すら漏らして、ぼろぼろ静かに泣く彼女に、慈愛の込められた優しやかな声が掛けられた。すぅーと通される指、彼女の髪を梳いては避け、その泣き顔を露わにする。

 

――ぐちゃぐちゃに歪んでいても、実に美しい。

 

「もう、神がその程度でへばる訳ないじゃない。ほら、涙拭いて、貴女らしくないわよ。常に強くいた筈のシオン・クラネル。私を驚かせるほどぶっ飛んだ存在である()()()()は何所へ行ったのかしら」

 

 責めるどころか、励ますように言い聞かせる。だが彼女は気付いてしまった、彼女の顔に浮かんでいる玉のような汗。明らかに無理をしているとわかる姿に、更に気分が萎えてしまう。

 挑発のようになる諭しも彼女は気にしていられない。申し訳ない気持ちでいっぱいになる、そんな稀にすらない現状が、彼女を混乱の一途へと導くのだ。

 

「よしよし。そうやって自分を責めたって別に悪い事じゃないわ。そう、悪い事じゃないの。でも、意味なんてそこにない。さぁ、私はこの通り無事よ。前を向いて、『今』を見なさい。そして考えるのよ、貴女があなたを責める理由が、一体どこにあるのかしら?」

 

「――――」

 

 押し黙る。すすり泣きながら、きょろきょろと周りを見て―――ぶるぶる強く、首を振った。やわらかに銀糸が揺れ――止まったころには、ぼろぼろ零れ落ちていたものなんてどこへやら。

 

「ごめん、なさい……」

 

「はい、赦します。だってまだ、子供だものね」

 

 母のような温かみを持って、椅子から降りた女神は同じ目線で彼女を包み込む。それに応えて、自然と彼女は腕を回していた。変に漏れる笑みは何なのやら。

 

「さて、仕切り直しましょう! せっかくのお茶会だもの」

 

 はたと立ち上がり、気直しとばかりに紅茶の新たな一杯を注ぐ。要望を忘れず角砂糖も追加し、くるくるとマドラーを回していたところで、ようやく正気を取り戻した少女。

 悪い気がして、彼女は役割の交代を申し出ると、女神は驚いた様子を見せるも素直に引き下がり、子を見守るような慈愛に満ちる目を向けていた。 

 

「ねっ、フレイヤ。今の原因をしっかりと説明する義務が私にはあると思うのです」

 

「あら、いきなり堂々言うようになったわね。私もそれに関しては知りたくない訳では無いから、話して頂戴。でも……」

 

 紅茶を二人分用意し終えて、椅子を引いたところ――何を機にしたか、ばたりと鈍く重い音が後ろから聞こえた。弾かれたように振り向くと、やはりか、無理の限界で膝をつく女神様。

 

「……ちょっと、横にさせてもらえないかしら」

 

「ほんっとごめんさい!」

 

 居たたまれなくなって、思わず平伏してしまう。もう踏みつけてくれても構わない意気で。私は決して踏みつけられて興奮するような性質ではない。断じてないのだ、マゾヒストでは。

 腰が抜けてしまったかのようにその場から動けなくなっている女神を、自分が悪いのだと言い聞かせて膝と背を支えて持ち上げる。か細く可愛らしい声が漏れた女神さまの顔を拝見してみれば、見事に真っ赤。こういう経験は少ないのだろうか。

 

「どうです、お姫様抱っこされて、ベットに連れていかれる気分は」

 

「……惚れちゃうわよ?」

 

「女神に惚れられちゃあ後が怖い。遠慮させてください」

 

 逆に、こっちが惚れそうになる。心の一番に旗が刺さっていなかったら、本当に危ういまでに。何だよ、可愛いじゃん。遠慮するとは言ったけど、それは単に先を恐れただけ。自分がどうなってしまうか、分からないから。

 

「あら、罰当たりね。そんなあなたには、えい!」

 

「うおっと」

 

 と、油断していると、グイっと手が引っ張られて、首に手が回されてしまう。引き寄せられて飛び込んだのは、弾力性の高い双丘。埋まった顔を、尚も悪戯気に押し込めて来る彼女は疲れているのに楽しそう。

  

「一緒に入る?」

 

「横で座るだけで十分ですよ、悪戯好きの女神様」

 

 にっこり微笑みを交わす、写し鏡のようにそっくりな二人。だがこの構図は、姉が妹を寝かしつけているように見えて、上下関係が逆転してしまっているのだけれど。

 

「あやし話を聞かせてくれないかしら?」

 

「――では、私の隠れた、悲願(おもい)の話でも」

 

 ははっ、寝かしつけるためにの話に、ねばっこい私の歪んだ願いをすることになるとは。というか、寝ちゃっていいのかよ。お茶会どうなった――

 

――ていっても、全部私が悪いのだけれどね。

 

「そうですねぇ、考えてみれば、気づいたのは四歳の頃でしょうか――」 

 

 

 

 


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