やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今日の一言
 やり過ぎた、かな?

では、どうぞ


戦闘、それは圧倒

 (Side Fin)

 

 普通ならこう思うだろう。()()()()()()()()()と。

 でも、現実は違う。彼はそこに居た。

 

「な、何が起こったんですか⁉」

 

 レフィーヤが今の一瞬を理解できないのか、質問してきた。それをアイズが答えてくれる。

 

「ベートさんが…()()()()()()()?」

 

「……それは…どういう…」

 

 やはり理解できないのだろう。正直、僕も理解が追い付いていない。見えただけだ。

 ベートが彼の顔面を殴ろうとしたら、彼が少し動き、ベートが別方向に向かって行った。 

 

「ロキ、少し外へ出る」

 

 断りを入れ外へと向かう。その時にはもう彼が外に居た。

 僕の後をアイズたちが出てきて、その後に酒場に居た冒険者が続々と出て来た。

 そして、問題のベートと彼は酒場から出て右前方に居た。

 彼はベートへまっすぐ向かい、ベートは壁を使いながら困惑した表情で立っていた。

 

「テメェ…何しやがった…」

 

 当然の疑問だ、ベートが()()()()()で壁に突っ込むとは思えない。なら、ベートは知らないうちに操られていた?でも精神支配系の魔法を駆け出し冒険者が使えるはずもないし、たとえ使えたとしてもLv.5のベートには効果が無いはずだ。

 

「ん?わかんなかった?本当に馬鹿なんだな~まぁ教えてやるよ。俺は親切だからな。単に受け流しただけ、お前が自分から壁に突っ込んでいったんだろ?自殺志願者も驚きの速度だったぞ」

 

 彼の言ったことに顔には出さなかったが内心、驚愕した。普通、Lv差のせいで攻撃が見えないし、そんなことにベートが気づかないはずもない。第一、()()()()()()()()()()()()

 

「受け流した……Lv.1がLv.5の攻撃を?」

 

 当然の疑問だろう。声に出したくなるリヴェリアの気持ちも分かる。

 

「「「「Lv.1⁉」」」」

 

 そんな疑問に驚いた表情を浮かべるティオネ達。

 

「リヴェリア様、何故あの人がLv.1だと知っているのですか?」

 

「いや、昨日少しばかり話してな、彼は自分を駆け出しと言っていた。だがどうやって…」

 

 恐らく、リヴェリアも彼が受け流した動作が見えていなかったのだろう。

 Lv.6の目でも捉えられない動き、彼は本当にただの半精霊なのか…

 

「あの人、すごい」

 

 そんな中アイズが賞賛の意を口にした。

 凄い?何故それが…

 

「アイズ、まさか、見えたのかい?」

 

「うん。少しだけ」

 

「彼は何をした?」

 

「本当に一瞬、私にはベートさんの肩と脇腹に柄、脚に鞘をあててるように見えた」

 

「それで受け流す事は?」

 

「できる、と思う。私には、無理」

 

「つまり彼はアイズより技術が上だと」

 

「たぶん」

 

 半精霊で、剣の技術はアイズより上…ますます彼が何なのかわからなくなってきた…

 

「そろそろ復活したかぁ?早くしろよ~痛めつけられんだろーが」

 

「チッ、舐めんな!」

 

 考えていると一時止まっていた戦いがまた始まった。今度のベートは本気に見える。さすがにそれでは死んでしまうと介入しようとしたら、

 

「うそ…」

 

 ティオナからそんな言葉が漏れた。見ると彼らは()()に戦っていた。

 

「あの人、目、開けてない」

 

 そして、それは事実だった。彼はベートを見ず、目を瞑ったまま戦っていた。対するベートはその所業に苛立ちを覚えたのか、さらに激しく数と力の暴力を振るい続ける。

 でも彼には一撃も当たらない、それどころか反撃していた。

 互角ではない。彼の方が優勢だったのだ。

 しかも、よく見ると彼は限られた動作しかしていない。

 蹴りはバランスを崩すように逸らす。

 拳は関節が動きにくいほうに逸らす。

 動きにくいように納刀したままの鞘を動こうとする方向に突き出す。

 そして、隙ができる度に鞘で叩く。

 そのうちのどれかをしているだけ、しかも彼は刀を抜いていない。さっき言った通り痛めつける気なのだ。

 そして数分が経ち、戦況が変わった。

 傾いたのではない、終わったのだ。

 ベートが全身痣だらけになり、膝をついた。数ヶ所骨折が見られる。

 

「うんだよ、根性ねーな、不完全燃焼なんだけど」

 

「クソッ…何で…あたんねぇ…」

 

「はぁ~お前も人のこと言えねぇくれぇの雑魚じゃねえか、本気も出してねぇ酔っ払いの駆け出し相手に、なんだ?このザマは」

 

「月さえ…出りゃ…」

 

「月かぁ?テメェはそれさえありゃぁ、全力が出せんのか?」

 

 ベートのスキル、【月下狼哮(ウールヴヘジン)】の事だろう。それだけベートは追い詰められてる。実際彼は全く疲れた様子を見せてない。

 

「あ~。不完全燃焼だしねぇ~いいか。もう少し痛めつけられんなら」

 

「あ?」

 

 彼は何をする気なんだ?

 

「【ロキ・ファミリア】の中で不壊属性(デュランダル)が付いた剣を持ってるやつ居るか~」

 

 不壊属性(デュランダル)?何のために…

 

不壊属性(デュランダル)?それならアイズが持ってるよ~」

 

「アイズさんが?そうか。ならアイズさん。それ、少し貸してもらえますか?」

 

「フィン、いいの?」

 

「……許可する」

 

 彼が何をするのか少し拝見しようか。

 

「ありがとうございます。アイズさん」

 

 口調が変わった気がするが気のせいか?

 

「うんじゃ、やるか、雲も少ないし、いけんだろ」

 

 雲?…まさか!

 

「止めろ!そんなことできる訳が!」

 

「少し黙ってろ、フィン・ディムナ。俺のやることが見たいんじゃないのか?」

 

「…気づいてたのか」

 

「だから黙ってろ」

 

「…わかった」

 

 そして彼がいつの間にかできていた人だかりの中に空いたスペースの中心へと行き、

 

「少し邪魔だ」

 

 そこにいる疲労したベートを容赦なく蹴り飛ばしてから剣を構える。

 自分の刀を腰に帯び、アイズの剣の切っ先を下にして上を見上げる。その先にあるのは空。

 彼が深呼吸をした。その瞬間彼の雰囲気が大きく変わる。そのせいか場が静まり返り

 

「【目覚めよ(テンペスト)】―――【エアリエル】」

 

 その()()()()()詠唱式と魔法名がよく聞こえた。

 だが驚く暇もなく、彼が空へと跳んだ。同時に突風が吹く。

 Lv.1ではあり得ない程の跳躍力で空を上り、止まる、そして叫んだ。

 

「吹き飛ばせ!【ブレイク・ストーム】!」

 

 それと同時に剣を振る。空中で自由が利かないはずなのに、彼の振るった剣は軌道が見えなかった。

 数秒後、彼が着地し、光が差した、上を見上げると月、本当にやったのだ。

 

「ありがとうございました、アイズさん」

 

 気づくと、彼がアイズに剣を返していた。

 

「さっきの魔法って…」

 

「そのうち教えますよ、では」

 

 そういい彼はベートの所へ向かった。既にベートにはスキルの条件を果たし、強化されている。

 

「さぁ、来いよ駄犬、躾けてやるよ」

 

「やれるもんならやってみろ。一発当ててぶっ倒してやる」

 

「そっちこそ、やれるならな」

 

 そう言い動き出す、だが。

 

「ちょっと待て」

 

 接近する寸前、彼が静止を呼びかける。素直にベートが従ったが

 

「なんだよ」

 

 当然の疑問を投げかける。

 

「…やばい、吐きそう…」

 

「「は?」」

 

 僕とベートは思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 そもそも僕たちは酒場に居たのだ。そして食事をしていた。彼もそうだろう。

 その後に戦闘、胃に入れた物が出てきそうになってもおかしくない。

 しかも彼は空中であんなことまでしたんだ。ならない方がおかしい。

 

「少し…外す」

 

 そう言い、彼は裏路地に走って行く。人だかりは飛び越えていた。

 

「少し外す、ね。帰ってくるといいけど」

 

「あ、あの…」

 

 独り言を呟くと、誰かが話かけて来た。

 声からして少年。振り向き、見たときの印象は兎、話しかけて来たのはヒューマンの少年だ。

 

「どうかしたのかい?」

 

 戸惑っているようなのでこちらから質問を投げかける。

 

「これって…ファミリア同士での問題になったりしませんよね…」

 

「ん?君はもしかして彼と同じファミリアなのかい?」

 

「は、はい」

 

「因みに何所の?」

 

「ヘ、【ヘスティア・ファミリア】です」

 

「ふ~ん、聞いたことないファミリアだね。最近できたのかい?」

 

「はい。半月前にできました。まだまだ弱小です…」

 

「そうかい。あぁ、さっきの質問だけど、ならないと思うよ。多分ベートが悪いし。そちらが問題にしない限り大丈夫さ」

 

「よかったぁ~」

 

「はは、それで、君の名前は?」

 

「あ、ベル・クラネルです」

 

「じゃあさっきまで闘ってた彼は?」

 

「シオン・クラネル。僕の兄です」

 

「シオン・クラネルか…何故彼があそこまで強いか知ってるかい?」

 

「そうですね…本人に聞くと毎回『日々の鍛錬とお祖父さんと命の恩人のおかげですよ』って言われます」

 

「命の恩人?誰か分かるかい?」

 

「いえ、シオンはそこまで教えてくれませんでした…」

 

「そうかい」

 

 手がかりが掴めると思ったんだが、何か他にはないのか…

 

「フィン」

 

「どうしたアイズ」

 

「その子、ミノタウロスの…」

 

「…もしかしてこの子がベートの言っていた被害者かい?」

 

「たぶん」

 

「そうか、ベル・クラネル」

 

「ひゃっ、ひゃい!」

 

 顔が真っ赤だが…何かしたか?まぁいい。

 

「ミノタウロスの一件、こちらの不手際で危険な思いをさせてしまって、すまなかった。代表して謝罪する」

 

「い、いえ!そんな!僕が弱いのは事実ですし…」

 

「…もしかして、君も酒場に居たのか?」

 

「…はい」

 

「そうか…重ね重ね本当にすまない!団員が迷惑をかけた!」

 

「い、いえ!いいんです。それについては多分こちらの方が後々謝罪しなければいけなくなるので…」

 

「謝罪?どうしてだい?」

 

「多分ですけど、シオン。吐きそうにならなかったら本気で言った通りにしてましたよ…」

 

「言った通り?」

 

「『心身共にズタボロにされて、何もできなくなるだけだから』ってやつです」

 

「…あれ、本気で言ってたのかい?ただの挑発かと思ってたんだけど…」

 

「本気だったと思います。証拠に刀、抜きませんでしたし…」

 

「痛めつけるために?かな。でもそうしたら刀で切り刻んだ方がいいんじゃないかな。彼ならできただろう?」

 

「切り刻むかどうかと言うより、シオンは刀を抜いたら、ほとんどの場合、痛めつける前に、楽に殺す、と言う感じですから…」

 

「あはは、おっかないね」

 

 その後、【ロキ・ファミリア】の幹部全員と準幹部、そして、ロキとベル・クラネルで談笑を繰り広げた。幹部の大体はベートを叱っていたが、アイズとティオナは基本ベル・クラネルと一緒に居た。

 何十分か経ち、待つのに疲れたのか、さっきまでの観衆は無くなり、人だかりは消えていった。それでも僕たちは、豊饒の女主人の前で待機していた。

 

「それで、ベート。反省はしてるかい?」

 

 そして、現在は、僕がベートを叱っていた。知らないうちに順番性になっていて、何故か最後だ。

 

「してねぇ。というより、するつもりもねぇ」

 

「まあそうですよね、私が勝手にキレたんですからね」

 

「そう……お前、何時どっから来やがった…」

 

「今、屋根の上から飛び降りてきました」

 

 その途中、いつの間にかシオン・クラネルが僕の隣に座っていた。

 僕が気づけないって…彼は本当に理解できないよ…

 

「それより、フィンさん」

 

 何故かする頭痛に堪えながら、彼と向き合う。

 そんな彼が、いきなり跳んだ。何かと思い目で追うと空中で一回転、その後手刀を構え僕の方に突き出す。そして、綺麗に体を折りたたみ、何度か見たことのある姿勢になって、

 

「すみませんでした!!」

 

 大声で謝ってきた。しかも、最大級の反省の意を込めた土下座で。

 

「さっきの戦闘は八割方あの駄犬が悪いですが「アァッ⁉」残りの二割は私が悪いと思っています。しかも貴重な戦力である第一級冒険者をサラッと永久退職させようとしてましたし、吐きそうにならなければ本当にしていました。ですけど…その…ファミリア間での問題にはならないようにお願いしたく…」

 

 本当にやろうとしてたんだな…

 

「まあまあ落ち着いて、僕も問題にする気は無いから」

 

「そ、そうですか。ありがとうございます」

 

「いや、気にすることないさ。それより、君たちはまだ続けるのかい?」

 

「あはは、できれば今日ではなくまた次の機会に回して欲しいのですが…」

 

「なんだよ、テメェ、ビビってんのか?」

 

「何を言ってるんですか、駄犬にビビるほど私は弱いつもりはありませんよ」

 

「フィン、こいつのこと一発殴っていいか?」

 

「当たるんですか?」

 

「当ててやる」

 

「ベート、君少し落ち着いた方がいいね」

 

「…チッ、気に入らねぇ」

 

「それとシオン・クラネル君、話があるんだけど」

 

「またですか?いいですけど」

 

「ありがとう。じゃあ少し待っていてくれ、人を呼んでくる」

 

()だけですよ」

 

 

 

 

 




 原作ではこの時アイズはデスペレートを【ゴブニュ・ファミリア】に整備に出していて持っていませんが、持っているのはあくまで自己設定です。
 因みに、デスペレートを整備に出したのはこれの翌朝です。
 

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