無駄に長くなったぁー。
では、どうぞ
「えーと、こんなに人要ります?」
「いる。主にシオン君抑制係が」
「なんだそりゃ。完全に私が来た意味無いじゃないですか。むしろ邪魔者になってますし」
「シオン君は保険なのさ」
いやそりゃわかるよ? 相手にこのメンバーが負けるほど強い奴はいないだろうけど、念のためっているのは重要だからね。ま、行けるだけで途中ちょっと抜け出せれば、私の目的は果たせるし何ら問題ないのだが。
「で、どうして集合場所がここになった。他にあっただろ、色々……」
「え~、だってあまり動きたくないし」
「ふざけんな」
「いでっ」
軽くデコピン、それだけでもうヘスティア様の額にはばっちり腫れが出来上がっていた。
横から刺さって来る日光に変わらず顔を
鍛練場をまじまじと興味津々に眺める【タケミカヅチ・ファミリア】の主要人物三人、今は
ええっと……Lv.2が四人、1が一人。んで不詳という名の計測不能が私含め二人。うん、こりゃ相手が可哀相に思えて来た。
「シオン殿、こちらの鍛錬場は、一体いくらしたのでしょうか……」
「いきなりどうして」
「あ、いえ、その……これほどの鍛錬場があれば、と少し思ってしまって……あ、今の鍛錬場所が不満なわけでは無いのですよ!?」
態々そんなこと言わんでも、貴女のお仲間さんは理解していると思いますよ。とは内心温かい目で見ながら思ったことだ。真面目な彼女は一々気にしてしまうようだ。
「あ、それボクも前から気になってた!」
「……ま、隠すほどでもないですかね。1億5700万ですよ」
『はァ!?』
「ちょ、ちょっとなんですか。いきなり詰め寄って……」
一気に詰め寄って来られ、伴い私も下がったのだが、壁際まで押し寄られ逃げ場を失う。理由の解らないティアと私が驚いていると、十人十色に感情を向けられた。勿論、私に。
「どうやって稼いだのさそんな額!? ボクは知らないぞ!?」
「いいいいいえヘスティア様!? 分割払いという可能性が―――」
「いや、一括だから。というかヘスティア様、荷物移動のとき見てたでしょ。あれざっと3,4億ですよ」
「はぃィ!?」
もう完全に絶句し、落ち着いてはくれたよう。ふぅと一先ず安心したものの、自分の迂闊さに呆れが伴った。そいえばそうなのだ、ちょっと前に金銭感覚が可笑しくなったせいで気づけなかったが、億という単位は早々稼げるものでは無い。大手ファミリアでも遠征して漸く稼ぎ、費用のマイナスで数百万の利益といったところ。こつこつ溜めてやっと億は超えられるモノなのだ。
「というか話変わってる。さっさとここに集まった意味思い出せ」
「あ、そうだった、いけないイケナイ……」
あぁ決めた、もう絶対この
「じゃあ気を改めて! サポーター君の救出作戦について、放し合おうか」
漸く本題に入ったよ……遅すぎるだろ、何分待ったと思っていやがる。
全員気合入れたようだし、もう別の話に移り変わることは無いだろうけど。
というか、これ言っちゃうと根本からひっくり返るけど……
作戦ナシの、正面突破で十分じゃない?
* * *
けたたましく、聞き慣れない音が轟いた。しかめっ面を浮かべているのは、一応この音が鳴る意味を知っているからか。その音に興味も無く、下手に身動き取れない状況で不貞腐れていた自分には、音が『警鐘』と言われた所為で何故だか全てがわかった気がしてはっと息を呑んだ。
「なん、で……」
弱々しく、思わず漏れた擦れ声。静かだった牢まで響く戦闘音。物語っていた。無駄に警備が固いこんな場所を襲う輩は、『酒』に支配された狂人の中でも、どうしようもなく堕ちた奴だけだ。それが、普通。なのにこれは違うと確信した、自意識過剰とでも言われそうだが、この音を奏で始めた人々は、明らかに自分を助けようとしている人々だ。
だが意味が解らない、どうしても。何もできない、価値も碌にない、求められる意味すらない、自分。そんな奴を何故助けようとする。こんな大事を起こしてまで。
ふと過ぎる、英雄の顔。泥沼から引きずり上げて、汚い自分を全て受け入れてくれた彼の愚かしいまでの純粋な思い。筋すら通ってない馬鹿げた理由で、彼なら助けに来てしまいそうだ。だが、彼を止めてくれる残酷だが常に正しかった
堂々巡りじみた、永久に答えに辿り着けない思考の闇。ある一声で、一度無理矢理に止められた。
「出たいか」
「……え?」
「出たきゃ出ろ。俺はとめん」
「……何を、言って……」
牢に寄り掛かるドワーフの男――チャンドラが突然に言い出した内容こそ訳が分からない。先程命令されていたのだ、一応上司的立場の
「俺は考えるのが苦手だ。考えずに飲める酒は好きだ。美味い酒は何よりも好きだ。だからこのファミリアに入ったが……今の『ここ』は嫌いだ。あいつが全部支配した。だから俺はあいつが嫌いだ、あいつの言うことに態々従うのも面倒だ」
「……そうですか」
変わった人だとは思う。一時の感情で動くこと以上に愚かしいことはない。自分もそうなのだから、確実にそう言えた。
程なくして、肉に食い込むほど強く拘束していた銅線があっさり切れた。鍵を使われて牢が開けられる。
自分は何故出ようとしているのだろう。何のために向かうのだろう。
わからない、わからない、知らない、でも知れる。行けば、わかるんだ。そのはずなんだ。
「ありがとうございます」
だが、それだけ。
もう振り向かずに、小さい体を全力で動かして躍起になり階段を駆け上がる。
段々と強くなり、近くなっていく剣戟の音、叫び声、荒れていることが見なくともわかるその状況は、自分の所為だと明らかになっているからこそ急かされて、拘束され不自由だったせいで悪い感覚が何度も行く手を阻む。
それでも、辿り着いた光景は、ある意味最悪であった。
まさに地獄絵図。なんというか、その……誰が敵なのか区別がついてないというか。
「何やってるんですかシオン様!?」
「あ!? やっと見つけたよサポーター君! お願いだぁ助けてくれぇ!!」
「誰を何でどうやって!? 無理です死にたくありません!!」
格子越しに必死の形相で、目に涙まで浮かべながらこの状況をどうにかしろと無理難題を押し付けて来る見慣れた神様。広場でのこの絶望的な蹂躙劇にどう最弱のリリが手を出せと―――
「シオン君の面目はやられたからやり返した、だ! ソーマの子が戦うのを止めてくれたら止まるはずなんだ! でも僕たちはとりあえずシオン君を抑えるので必死で、そっちまで手が行き届かない! 頼んだよ、サポータ君。君が必要なんだ!」
「何を都合がいい時に! どうせ何の役にも立てないんですよ!」
「いいやできる! 君ならばできるはずだ! どぉせ思ってるんだろう、自分には存在価値すらないとか!」
「ええそうですよ!」
全くもって的を射ている。だがそれがどうした、ただ事実を言われただけだ。
でもなんでだ、どうしてこんなにも悔しい。なんでこんなに苦しい。
「ボクはそれを正面から全否定する! 力がない? 笑わせないでくれ。力がない、可能性を秘めていない子なんてこの下界に存在してない! 君だって例外じゃないんだ!」
「そんな理想論なんてリリは信じません! そもそもなんで助けになんて来てるんですか!」
「言っただろう、君が必要だからだ!」
「御託はいいんですよ!!」
無償にイライラする! 何を言いたいんだこの
代りなんていくらでもいるだろう、サポータになんて、この状況を納める人にだって。
「もうどっかいってください! リリに構わないでください! ベル様やヘスティア様たちと一緒に居ると迷惑を掛けることになるんです!」
「迷惑ならもうとっくに被ってるよ! 好きなだけかけてくれていいんだ! だからさっさと戻ってこい、リリルカ・アーデ! 君はベル君のサポーターだろ!? ベル君のそばに居たいんだろ!? だった来いよ、勝手に逃げ出すなよ! ベル君がボクのものになっても遅いんだからな!?」
「何の話をしてるんですか!? というかそんな勝手許しませんからね!」
あぁもう本当に何なんだ、本当に何がしたいんだ!
奥で繰り広げられる蹂躙は段々と緩くなっている、宛ら、リリの決断をあの人が待っているかのように。あの人までもが、リリに決断を迫る。何一つできない、矮小な存在に対して、あんまりな無理難題の。
『どんな理由でもいいだろうが、さっさとしろ馬鹿』
「え?」
頭の中で響くかのように、不思議な音で聞こえる声。それは、今混乱を起こす張本人のモノ。だがどうやって、あんな遠くにいるのに。だがどうして、彼にはどうでもいいことであろうに。
『必要とされる、ただそれだけでいいだろ。それに、自分を矮小な存在というのなら、いいこと教えてやる』
逃れられない。悪魔の囁きのように聞き入ってしまう、誘惑のような何かを秘めた声。
知りたかった
『矮小だと卑下するヤツなんかに、選ぶ権利はない。理由がないヤツなんかに、生きる意味はない』
「――ッ!?」
はっと上げた顔、伴った目線の先にはそう言い放つ、残酷でも真実を射貫いた彼の
『生きたいか、お前は。ベルの近くに居たいか』
どん底へ落ちて逝く、そのへ一筋の光のように、隙を突いた声が届いた。
ヤケに響き亘る。眼前でアホ面を浮かべるヘスティア様にはこの声は届いてないのか。
『お前には理由があるか。お前には望みを叶えたい欲があるか』
「……ある」
気づかず、呟いた。悪魔の甘言に誑かされて、返答してしまった。
『無いなら消えろ、世に留まるな。だがあるなら叫べ、想いのままに、望むままに」
「――ッ!!」
だから、もう歯止めなんて効かない!! いらない、自分を無理に抑える必要も!
「リリはベル様と一緒に居たい!」
ギョッとヘスティア様が驚き、気迫のあまりに一歩引いた。
だがそんなの知るか。
「そばに居て役に立ちたい! 何でもいい、支えるのでも、愚痴をこぼす相手でも、本当になんでも! ただあの人の隣に居られればいい! 弱くても、矮小でも、ただリリはリリの為にあの人と一緒に居たい!」
「そうか! それがお前の理由か! ならばもっとだ、答えまで出してみろ! お前がするべきこと、できることを!」
悔しい、まんまと嵌められた。でも、悪い気が全然しない。いっそ晴れ晴れしい。なんだかすっきりしているのだ。
今自分にできること、すべきこと。
問題の原点はリリがどうこういうものでは無い。今は移動し、この状況の鎮静だ。
彼らはザニスから指示を受け、それは恐らくソーマ様の名を利用している。だから引けず、切羽詰まってもやるしかないんだ。命様たちやヴェルフ様、ティア様は恐らくヘスティア様からの指示でシオン様を抑止している。でもあのシオン様を止められるわけがない、あれでも加減している状態なのだから。そしてシオン様は相手が止まれば反撃を止めると言っている。ならば止めるべきは【ソーマ・ファミリア】側。つまりザニス。
だがあの自己中心的な奴は人の言うことを聞かない。リリの言うことなど一蹴されてまた牢にぶち込まれるだけだ。ならば人のコトバではなく、力のある神のコトバなら―――
「ヘスティア様、行ってきます!」
「―――! あぁ、行って来い!」
見切って走り出す。随分前になる記憶から経路を引き出して、ひたすらに走る。
背後でまた一層と激しくなる戦闘は気にしてはならない。自分の役目を果たせば、早く終わるのだ。
総出で広場での戦闘にあたっているのだろう。もぬけの殻、不思議なまでにすいすいと進むことが出来ていた。せまっ苦しく面倒臭い隘路で組まれた一階から、漸く抜け出し二階へ―――
「――だハッ」
「何処へ行くのだ?」
たった少し、舐められていることを顕著にする、ただ背を這わせただけ、撫でられただけのもはや一撃とすら呼べないものは、脅威でしかなかった。容易く吹き飛ぶまでに。
「ぐぅっ……!」
無理矢理にその力をヘタクソながらも利用して、向かう力へと変えてやる。一心不乱にただただ目指す先、それを阻む格上の存在。
広々とした二階ではこの方法は有効であった。時間はかかる、だが着実に三階へ。
それでも蹴飛ばされる。独りでは重くて開けられなかったであろう扉も、結果的に役に立った形で、体を張って蹴破った。三階に一室だけぽつんとある、神ソーマの
「…………」
いた、目的の
「ソーマ様! どうか、との蹂躙に終止符を打ってください! 下手すれば死人が出ます!?」
「……なんだ、騒がしいな。ザニス、雑事はお前に全て任せていたはずだ」
「申し訳ございません、ソーマ様。このリリルカ・アーデがどうやら、思うにソーマ様へ直訴したいのであろうと。どうか聞いてやっては下さいませんか」
苛立たしい言い方だ。だが今はそれに歯向かう意味もない。そう言うのなら利用するだけだ。
全く興味を示していない、動こうとすらしないソーマ様を動かしてやろう。
「お願いします! この不毛な争いに、リリの為と言って起きてしまったこの蹂躙劇に終止符を打ってください! 本当に死人が出てしまうんです!」
「それが……どうした」
静かに、もはや消えているまでありそうな声。だがかろうじて音は
残酷なその言葉に、『土下座』という体勢のまま驚き硬直した。
「簡単に……酒に溺れ、呑まれてしまう子供たちの言うことなど、どこに聞く意味がある」
それは明らかに己が創った『
完璧な酒、それを彼は、自らの趣味を続けるためにお金を稼いでくれる眷族たちへのお礼として、純粋な思いで与えたのだ。結果は言うまでもない、
彼はそんな子供たちを見て思ったのだろう。失望を感じてしまったのだろう。嫌気が差して、勝手に見放したのだろう。
そんなの、勝手だ。ふざけている。
「薄っぺらい言葉に、取り合う必要はない」
そうだ。リリも溺れている、一度飲まされた完璧な酒。リリを本当の狂人へと堕とし、遥か昔に払われた麻薬。リリの人生をぶち壊してくれたモノ。そんなリリの言葉は、意味がないらしい。だがもう、自分に意味を見出した。だからそれを否定されるのは―――
「―――とても、不快です」
「―――そうか、ならば試してみるとしよう」
ゆっくりと、億劫そうに歩いていく。壁際へ――いや、そこに在る酒樽へと……。
杯を一つ取り、中へと少量の虹のように輝く透明な液体を注いだ。
魅惑的な匂い、それだけで酔えてしまえそうなそれは明らかだ。肌を逆撫でさせる、全身から欲しながらも全てで拒絶するそれは『神酒』。人を狂わす、最高にして最凶の酒。
「飲め。それでも同じことを言うのならば、考えよう」
「―――!?」
予感はしていた。だがまさか本当に―――
後ろで面白そうに笑むザニスの顔が恨めかしい。
飲むしかない。だが、飲んだら溺れる、確実に。どうする、どうすればいい……
杯を持つ手が震える、わななく口は、求め拒む二律背反の所為で乾き不自然な声を漏らす。
覚悟を決めて、呷った。
「――ぁ、ぐがっ……」
取り落としそうになる杯、いや、もう落としているのだろうか。遠くなって、判らない。
埋まっているのだ、世界が。白濁色に、酒に浸食されて。
抗うことが苦しい、初志がほんのり甘い
「えへっ、ィヒッ―――ヒヒッ」
零れたのは笑みだった。至上の快楽に惑わされて、困惑した意識の中上気した頬を引きつらせ、馬鹿みたいに笑う自分は、一体何をしているのだろう。
幾つにもぶれたソーマ様が、踵を返してやはり失望し、更に遠くへと消えていく。
侵されていく中で、どこか寂しく思ってしまう自分は何なのだろうか。
もう、このままでいいのではないか。自分を忘れて、酒を求める餓鬼になってしまっても。そうすれば、楽に―――
『ただリリはリリの為にあの人と一緒に居たい!』
――――なっていいわけないだろ!
決めたはずだ、求めた筈だ、願ったはずだ、答えをもう出したはずだろ!
ならばこんな誘惑払っちゃえよ、負けるなよ!
リリルカ・アーデ、お前は何時までも弱いままでいいのか!? こんな酒に溺れる程度の存在でいいのか!?
いいやよくない!! 御免だ、断固拒絶だ!
こんな酒なんてクソ喰らえ! 負けてなんかやるもんか。
「さっ、さと――――」
「「 !? 」」
「―――さっさと、この不毛な蹂躙を、止めてください……!」
近くに戻って来た世界。復活した全神経。
やってやった! 酒に、勝った、勝ってやった!
これなら聞いてくれる、そうだからこそ言いたい放題言ってやる。
「全て貴方の所為で始まったことです……お酒なんて創ったから、神酒なんてものを下界へ
踏みしめて立ち上がり、驚きのまま硬直して、こちらをただ見つめている主神へ言い放つ。
「酒に溺れませんでしたよ。さぁ、どうしてくれるんですか」
挑発的に、不敵な笑みを浮かべながら。
一歩、二歩、何を思ったか退くソーマ様に、詰め寄ることなく見守った。尚唖然としているザニスがそのときになってようやく動く。
「いけませんソーマ様! こんなものの意見など聞いてしま―――」
「黙れ、ザニス」
威厳を持った彼の言葉を、初めて聞いた気がした。実際、そうだっただろう。
リリが彼との初対面時、既に彼は世に、子供に失望していたのだから。
放り投げた酒瓶、放物線を描き、暫く滞空して甲高い音を立てた。尚も響いていた痛ましい声がやっとのことで止む。
「戦いを止めろ」
しんと静まり返る。がちゃり、じゃりん、多種の武器を落とす音が次々になり始めた。恐らく、彼も止まってくれたのだろう。でないと本当にこの意味がなくなる。
「いやぁ、遅いですよ。周りを壊さないようにするのって結構疲れるんですから。加減なんてやめてそろそろ蹂躙に入るところでした」
「さっきので蹂躙じゃな無かったんですか!? というかあれ以上に酷いのは不味いですよね!?」
突然現れただけで驚けるのに、それ以上に驚ける発言をしないで欲しいものですよ全く……いうだけ無駄なのはわかっているから声には出さないけど。というか、然も普通のように首を傾げるのはどうかと思うのだ、流石に。
「あ、これが
「え、ちょっと何をいって―――何してるんですか!?」
「なにって、頂戴しようかと」
「バカですか!? なぇ馬鹿なんですよね!?」
人間がそれを飲んだらどうなるか知っているだろうに!? いやこの人が人間かどうかは疑わしいのだけれど……とにかくダメであろう!? というかそもそもそれは盗難だ。普通に犯罪である。
「貴様ァ!! その酒に触れるなぁァァ!?」
「うっさい」
途轍もない破壊音が鳴った。地を揺らし、耳を塞ぎたくなるほどの。
おそるおそると、一番音の強かった方を向いた。そうしたらどうだろう、先が面白いくらいに突き抜けていて―――
「本当に何やってるんですか!? 結構犯罪積み重ねてますよ!?」
「わかってないなぁ……犯罪は、問題にされきゃ犯罪じゃないんですよ。つまり、こいつら全員口止めすればこの犯罪も全くなかったものとなーる。そしてついでに
「それが目当てですか! リリを助けに来たわけでは無く、酒を奪いに来たんですね!?」
「大正解」
「最低ですよ!?」
この人ヴェルフ様並みに疲れる……あ、でも流石に神酒を奪うのは止めたらしい。証拠に酒樽を元に戻して、隣に置いてあった杯を執って……栓を抜いて少し注いで―――
「――ぷはぁ」
「の、飲んじゃいましたよこの人……! とうとうやってしまいましたよ!」
「ほわぁ、うニャづけるニャ~。これは確かに、美味いニャ……」
「――え?」
「――普通に、酔っている、のか……!?」
リリが飲んだ量の倍以上を一気に呷り、かなり心地よさそうな声を出して
あたりまえだ。だって、今彼は誘惑に抗う素振りどころか、溺れる姿すら見せてない。ただ酒を飲み、程度良く酔っている――いや、ちょっと酔いすぎなくらい?
「って、何やってんだよお前等……」
「ほわ、遅いニャんよ~魔剣鍛冶師君。ささっ、飲もうではないかなかな?」
「オイ、一瞬目ェ話しただけでなんで酔ってんだよこいつは……」
「……ハハッ、ハハハハッ……!」
窓の外からダイナミックに入室してきたヴェルフ様が、シオン様の酔った後の豹変っぷりにもはや呆れていた。前はこんなことにはなっていなかったのだが……。
そんなことを気にしている思考は、すぐさま取っ払われてしまった。高々と大笑いを声に出して盛大に浮かべる斧が主神の所為で。声も出ない程の。今日一番の驚きが訪れた。
「私の酒を、美味い、か……」
「もちろんですニャ~!」
と言いながら二杯目に移ろうとしたのは流石に止めに入った。不満そうに火照る頬を膨らませているのはどこからどう見ても美少女にしか見えないのだが、本当にこれ以上は不味い。いろいろな意味で。
「おい、ソーマ! 聞こえてるかぁー!」
「……ヘスティア、か」
「あぁそうだよ! 今からそっちに行くからなぁ! ちょっとシオン君を止めたままで待ってろ!」
それは無理な気がするが……まぁ、今酔った状態で少しは力も抜けているし、暫く抑えてはいられよう。
「あぁ、早く来い。お前がここに来た意味を、問いたい」
どれ程の心境変化が彼の中で起きたのだろうか。こんな積極的な
少しは、考えるべきだろか。向き合わなかった、この
仄かに口元を緩ませる彼を見ながら、勝手に思ったことを口に出すのは、どうしてか小っ恥ずかしくて目を逸らしてしまった。
今日、