やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 アイズの可愛さを改めて感じている私です。

では、どうぞ


ぱっと集まりささっと解散

「やっほー! みんな元気してるかぁー! って、あれ? なんでこんなに静かなわけ?」

 

「どう考えたって貴女が悪いですよ……昨日すっぽかしましたからね」

 

「ハンッ、アポロンからの呼びかけなんかに誰が応えるもんか」

 

 堂々と言い張っているが、正直やめて頂きたい。同じ気分ではあるんだが……もうすこし建前というものをもって……いや、この(ひと)に言っても殆ど意味無いか。自由奔放が過ぎるから。

 

「で、本当にシオン君ついて来たけど、いいのかな……」

 

「問題なし。さっ、緊急会議なのでしょう? さっさと始めましょうよ、うちの駄女神の所為でできた遅れを取り戻すために」

 

「あぁー! いま駄女神って言ったぁー!? 仮にもボクは君の主神だぞ! 君は本当に敬意というものが無いのかな!?」

 

「あっれぇー可笑しいなぁ……敬意を払えるほどの女神が何処に――あ、あそこにおられるのは、この駄女神に何年もの間くっちゃね生活を許すほど寛大な本物の女神さまではありませんか! あぁ女神様よ、うちの主神が本当にご迷惑を」

 

「グハッ……ぐぅの音も出ない……」

 

 たまたま居座っていたのか、前触れもなく訪れたこの会の席についている女神様――ヘファイストス様に最敬礼を恭しくしながら、いやみったらしくヘスティア様を言外に馬鹿にする。  

 耳を塞いで目を逸らす彼女をもう気にせず、空いていた彼女の臨席へと腰を置いた。

 

「……当たり前のように座るわね」

 

「参加する権利がありますから。座るのも当たり前です」

 

「いやいや、シオン君に本当は参加する権利ないから」   

 

「はぁ……これだからッ――ギルド所有『規定目録』第二十三条神々の集まりについて。第二項神会(デナトゥス)の参加資格はLv.2以上の眷族を所有する神とする。第二号、尚一度参加権を得たものは永遠に継続する。第二号に準じて考えると私は以前参加してますし、何ら問題ないでしょう……? 条文くらい読めよ、マジで」

 

 この法令には矛盾が発生しているが、利用できる方を執るまでだ。

 というか、何でそんなに唖然(あぜん)と目を剥いているのかな? そりゃ、条文なんて一々正確に記憶している人などいないだろうけど……何分、一度見たものは大概忘れられんもので。

 というかそんな引くなよ神々よ、ちょっとばかり傷つくだろうが。

 

「ヘファイストス、知ってた?」

 

「……ごめんなさい、しらなかったわ」

 

「オイオイマジか、この視線はそういう意味かよ」

 

 神かが作った神の為の気まりなのに、神が知らないってどういうこった。神ウラノス、貴方の努力はどうやら全く報われていないらしい。頑張る人ほど損をするとは、本当に世知辛い世の中だ。

 

「あ、今回の司会進行は誰か聞いても良いですか」

 

「オレだぜ、シオン君」

 

「あ、どうも。ファミリアの資産は大丈夫ですか?」

 

「アハハ、できれば聞かないでおくれよ、思い出したくない……」

 

「ざまぁ」

 

 規定を破ってまでもベルを助けようとしたのは悪くない思い入れなのだが絶対裏があった。だからこそ罰金も甘んじて受けたのだろう。今となってもその企みもどうでもいいのだが、厄介事はこれ以上御免だ。安寧の生活がしたいんだよ……

 と、そんなことより、早く進めてもらわなければ。

 

「はいはい、じゃあみんな、アポロンを解放してやれ」

 

『このままでいんじゃね?』

 

『いやいや、せめて猿轡(わるぐつわ)くらい外そうぜ』

 

「全部開放してやれよ……」

 

 憐憫(れんびん)を籠めた視線をつい向けてしまう、椅子に完全拘束された恐らく神アポロンと思われる神物(じんぶつ)。どうしてそうなったと思うが、訊かない方が良いだろう。多分私たちが悪い。

 口々に面白がる声が上がるが、そんなことでは話が進まないのだ。時間は私にとって有限、ちんたらせずさっさとしてほしい。

 

「さて、じゃあ始めようか。戦争遊戯(ウォーゲーム)がための会議を」

 

 引き締まる空気。それは一体なにから来た真剣さなのか。このアソビを盛り上げようという意思か、将又ただの娯楽に対する好奇心か。

 どちらでもいいが、面倒な方へと転がらないこを願おう。ま、願ってばっかりにならないように行動するだけなんだけど。

 

「じゃ、面倒なことは省いて……アポロン、お前の要求を再確認するよ」

 

「ふんっ、知れたことを。ベル・クラネルおよびシオン・クラネル。そしてあのセアという女性に加え、確か……ティア、という子もいたのだったな、その子も要求に含もう。それだけではないぞ、ヘスティア。貴様は。天界へ帰ってもらう」

 

「なっ……!」

 

「なんだ、殆ど変わってないじゃん」

 

 予想外とばかりに絶句しているヘスティア様に対して酷く落ち着いている様子に不審とばかりに衆目を集めるが、別に予想の範囲内の要求だから何ら問題ない。

 単純明快で実に妥当な要求で助かった。万が一不慣れな戦闘形式(カテゴリー)で運悪く負けた時、もっと質の悪い要求だったら死んでたぞ。例えば……一生刀を執ることを禁ずる、とか。ま、死んで生き返れば無効となるけど。そうポンポンと死にたくはない。

 

「んじゃ、次はこっちの要求ですかね」

 

「あぁ」

 

「にしし―――私たちからの要求は、ファミリアの解散、眷族の再編成を禁じ、所有財産の全てを【ヘスティア・ファミリア】へ譲渡、加え神アポロンへオラリオでの永久()()()()を命ずる」

 

「う、うわぁ……何度聞いても質悪い」

 

 周りからの冷たい視線……あぁ、ちょっといいかも。

 神に生命はない、永遠の存在があるだけだ。その神に永久労働を命じる、という鬼畜な要求はすなわち、実質的に労働の神様になれと言ってるようなものだ。疲れ果てる姿を眺めながら自由な日々を送るというのは実に素晴らしい。喧嘩を先に仕掛けて来た馬鹿への報いとしても十分だろう。

 

「……さ、さて気を取り直して! 本筋へと入ろうじゃないか。なにで対戦するかだけど……まずはそれぞれ要求を聴くべきかな」

 

「ボクは代表戦を希望する。両派閥の代表者一名が闘技場にて決闘し、単純に勝敗を決める。間近で観られる方が良く盛り上がるだろう?」

 

 溜め息はぐっとこらえた。必ずしもこれに決まる訳では無いから、今文句をたらたら並べる意義はない。時間の無駄は省いて、他の種目になることを願うばかりだ。

 

「私もその意見に賛同させてもらう」

 

「同じく、だ」

 

 それに同意した神格者(じんかくしゃ)二神(にめい)。タケミカヅチ様とミアハ様だ。タケミカヅチ様は個人の実力を見て圧倒的にこれが有利を踏んだからか、ミアハ様は単純に私たちを案じてくれているのだろう。二人とも素晴らしい(ひと)なのだが……今はその必要がない。

 

「で、アポロンは」

 

「……正直に告白すると、何一つ考えていなかった」

 

「おい」

 

 思わず素で突っ込んだが、これは好都合かもしれない。

 自身に意見がないのならば必然的に周囲から意見を集うのが本能的行動だ。彼の神とてこの例外では無かろう。

 機を逃さない神々が、ああだこうだともう口々に意見を飛ばし合う。だが聞く限りでは碌なものがない。何だよ衣装センス対決(ファッションショー)って……もはや戦争じゃないじゃん。いや、ある種戦争か?

 

「あーあー、おーい! 一旦聞いてくれ。もうなんか色々面倒臭くなってきたから、全員にこの紙を配る。何をするかは、わかるな?」

 

「クジね。妥当じゃないかしら」

 

 小さな紙だけを渡され、各々そこへと迷うことなく記入していく。おろおろしていたヘスティア様はペンの持ち合わせがなかったのだろうから貸してあげた。こういうものは、普通用意するべきだと思うのだ。私が普通を語れるかどうかは知らんけど。

 

「ほーい、じゃあ引くぞ」

 

「誰が?」

 

「……誰にしようか」

 

 先が思いやられるよ本当に! 無計画にも程があるんだよお前等!

 公平性と保つためにも私たちないし関り深い(ひと)たちは無理。勿論相手側もそれは同じだ。中立を謳うこの神はもはや論外だろう。何をしでかすかわかったものでは無いから。

 だが下手な神にお願いするわけにもいかんし……

 

「え、わ、私が引くの?」

 

 自然、同じようなことを考えていたであろう人たちの衆目を集めた美の女神(フレイヤ)が、やけに動揺しながら察していても聞いてきた。皆がそろって首を縦に振る。

 箱がすぅーと滑って、彼女の手元までたどり着いた。

 

「……じゃ、じゃあ――う、恨まないでね?」

 

「くどい、早くしろ」

 

 何をそんなに遠慮気味なのか。ただ引くだけであろうに、恨むもどうも小細工さえしなければ正当だと私は認める。たとえどんな勝負だろうと。

 

「……さ、三本勝負?」

 

「なんじゃそりゃ」

 

「わ、私に訊かれても分かる訳ないじゃない」 

 

 答えてくれることなんて端から期待してないわ。 

 ニュアンス的に、何かしらで三回勝負して勝数が多い方が勝ち、という感じか? 単純だが……これ書いたの誰だよ。決めるためのくじ引きなのに決めるモノ増やしてどうすんだ。

 室内をぎろりと睨みつけてみるも誰が書いたかなんてわからなかった。然も当たり前のようにされているから気づけないのかもしれないが。

 

「……あー、これはまた面倒なことをしてくれたなぁ……もう止めだ止めー。適当に決めちゃおっか。とりあえずこの三本勝負は適応して」

 

 しちゃうんだ。もしかしなくても、それ書いたの貴方でしょ……平然と進めやがって、後で一発鳩尾に喝でも入れてやろう。

 

「これ、多分そのままの意味で理解して三回勝負するから、また三つ決めないといけない訳……んじゃ、ついでにもう三回引こっか。フレイヤ様、お願いいたします」

 

「わ、分かったわ。あ、後三回……変なものでありませんように、ありませんように……」

 

 神が何に祈るのか凄い気になるのだが、おどおどしながら三枚の紙を一回ずつ取り出した彼女が、それぞれ開き、順に読み上げたことによってそんなこと気には無くなる。

  

「一枚目、いえ、初戦は……代表戦」

 

 隣であからさまにほくそ笑み、拳を固める満足気なヘスティア様。その顔は、すぐさま苦いものへと変わった。

 

「二枚目、本戦は……フラッグ戦? 何かしらこれ」

 

 とある男神以外は首を傾げている。仕方あるまい、これまた訳の分からんものを。まだ漠然とした内容でない分ましなのだが。

 

「三枚目、最終戦は……攻城戦」

 

 にたりと唇を裂く男神、深く知らない神々が、興味本位に先を嘲る。

 苦笑いを浮かべるのはやはり、ほぼ確実な予測ができている少数の神々のみだ。

 

 中々に面倒そうなものが挙がったな……あとは詳細なルール決めだけど、確か大半はギルドで決定される。本人たちからこういう条件を、もしくはハンデをというのをつまり決めるということだ。

 

「言うまでもなく、まずはフラッグ戦だな。ニョルズ、君だろ?」

 

「あぁ」

 

 中々に出来上がった体格をした男神、目鼻立ちはやはりよく、そこはかとなく爽やかに思わせられるのは、漁を司る神だからこそか。

 厳かに椅子へ座っているが、考えていることは奇想天外そのもののような気がしてならない。知らん戦闘形式(ゲーム)を提示してくる時点で私の中でそれは確定した。 

 

「出場人数は自由だ、そして勝敗は敵の(フラッグ)の特定位置までの奪取、ないし敵主要旗(しゅようき)の破壊。たったこれだけ、細かいルールはギルドが決めるだろう」

 

「いやいや、新競技ならルール厳密に考えておきましょうよ」

 

 自分の趣向と違ったルールに決まっても改正できないのだからさ……今大体想像はついたけど、この考えと大いに違ったものだったらルール違反の反則で負けかねない。そんな負け方は流石に嫌だ。

 

「そうか? ならば旗は三振り、内一振りが主要旗としよう。設置場所は各派閥(チーム)自由とするが、要報告。相手を倒すのは自由だが、殺傷は禁ずる……」

 

「普通ですね。ま、妙に拘られるよりかはマシですけど」

 

「用意面倒になるしな。さて、んじゃ代表戦はさっきの通りとして、攻城戦の方だけど」

 

「ふっ、防衛は難しかろう。攻めは譲ってやるさ、フハハハハッ!」

 

 高笑いを余裕に浮かべているその顔に一発拳をぶつけてやるのは、叩きのめした後にでも間に合うだろう。それにこのハンデ、絶対後悔させえてやる……!

 

「で、開始日は?」

 

「簡単に開催できる代表戦が二日後、フラッグ戦が用意期間を考慮して更に二日後、攻城戦がいろいろ大変だろうし、その三日後……ていうのが基準と思ってくれていいぜ」

 

「了解です」

 

 ギルドで内容決定の期間もあるだろうし、結局期限一週間なんてものはないも同然のものとなったが、私にそんなものは関係ない。ただ問題は、飛び出していったベルの方だ。代表戦は団長の出場が当たり前だろうし、ならば出場選手はベルとなる。何処へいるかもわからず、何をしているかもしれない。さて、どう知らせたものか。

 一人席から立ち上がると、次いで隣に居座っていたヘスティア様まで私に倣う。他に続々と終わった会議にただ同席していた面白半分の神々も立ち上がった。

  

「あれ、ヘスティア様。神ヘルメスに何か聞くことあったのでは?」

 

「あ、いけない忘れてた!」

 

 ふと思い出したことは、朝に彼女が話していたこと。

 ベルのサポータ、リリこと本名リリルカ・アーデが攫われたとかなんだとかで、それについて情報収集を頼んでいたそうな。まぁどうでもいいけど、私には。

 

「……なんですか」

 

「……ちょっと用があるのだけど、来てはくれないかしら」

 

「お断りします」

 

「なんでよ!」

 

 口調とか正確とか何やらを定型化して欲しいのだが……

 袖をちょこんと引っ張った美の女神が、潜めて耳元でこそっと囁いたが、私の即答に大声を上げた所為で周りから注目を集める。いつもならあり得なさそうだが、居たたまれなくなったのか連れられ退場させられた。何故だかほんのり紅潮する頬は恥ずかしさの表れか、一体どうしたんだこの(ひと)

 

「この後暇でしょ?」

 

「オイ、その言い方だとまるで私が暇を持て余した自由人(フリーダム)みたいじゃないですか。予定ぎっしりの多忙な人に向かってなんてことを。よって貴女と付き合っている暇などないので、それでは」

 

「話くらい聴いてもいいんじゃないかしら!?」

 

「……それに私が得る利益は」

 

「あるわ、無かったら作るまでよ」

 

 何ちゅう強引な……ま、ティアをあと少しだけ待たせることになるだけだし、何ら問題ないか。後で文句たらたら言われるのは私なのだが。飯の一つでも出してやれば落ち着くだろうし結局問題ない。

 

「――碌なことじゃなかったら、ダンジョンに放り投げますからね」

 

「そ、それは本当に止めた方が良いと……ま、まぁいいわ。じゃあついて来て頂戴」

 

「どこへ」

 

「――私の個人空間(プライベートルーム)へ」

 

 あぁ、あそこね。割と平然とバベルの最上階を思い浮かべる。

 そういえば、バベル内部からの行き方は知らない。外からはただ飛ぶだけで事足りるのだから、考えもしなかった。少し興味が湧いて来る。

 

「……眷族以外を招待すると考えると、やっぱり緊張するわね……」

 

「んな見られて恥ずかしいものでも置いてるのかよ……そうは見えなかったけど?」

 

「何勝手に見てるのよ、というかいい加減敬語使いなさいよ。仮にも私は都市最高の神なのよ?」

 

「知らんしどうでもいい」

 

 そう言うことを言っている時点で敬うに値しないわ。何なら本当にヘファイストス様の方が尊敬できるし、よっぽど神格者であろう。敬う女神は誰よりもあの方だな。別に鍛冶師ではないのだが。

 

「おいちょっと待て、コレなんだ」

 

「何って、階段だけど?」

 

「……まさかとは思いますが、上って行くわけでは」

 

「当たり前でしょう」

 

 超現実的(シュール)だなおい……てっきり高性能魔石昇降機でもあるのかと思って期待してたのに。というかニ十階分って……一体何段上ることになるのやら。

 というか、こういう事平然と思っちゃうのねこの(ひと)。意外と動くの好きなのかね……

 そんなことを考えている間にも、段々と上っていく。

 一段……一段……一段……

 

「遅いわ!!」

 

「!?」

 

 流石の鈍さに、声を荒げて叫んでしまう、短気な私と共に上る蜿蜒とした階段。

 終始、おどろおどろしく怯えていた小心女神を眺めることが出来ていた。

 

 

 

 


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