初のベル視点!
では、どうぞ
(Side Bell)
心臓がとび跳ねた。
その原因は今入って来た種族が統一されてないが全員が実力者だと分かる集団、その中に居た。
視界に飛び込んできた砂金のごとき輝きを帯びたシオンの髪の一部と同じ色をした金の髪。
瞳はシオンの左目―――――普段は隠している―――――と限りなく似ていて、透明で澄んでいるが、大きく際立っている所為かシオンとは、全く違う印象を与える。
さらに、触れれば壊れる、そう思ってしまうほど儚く、細い、手足や体の輪郭、精密な人形などと思う人もいるかもしれないが、御伽噺に出てくる精霊や妖精といったものの方が合っていると思わせる。
整った眉を微動だにせず、無表情に近い静かな表情で落ち着きを払った美少女。
それは、僕の思い人、アイズ・ヴァレンシュタインさん。
酒場の他の人たちからも様々な意見が聞こえてくる。その中には畏怖の声も含まれていた。
憧れている人との再会、まさかこんなに早くできるとは思わなかった。
どうする?昨日のお礼を言う?…いやいや、こんなところでは晒し者にされるだけだ。そもそも行ったところでどうすんだよ。何もできないだろうが。冷静になれ、僕なんて少し助けてもらえたくらいで、赤の他人に近いんだ。
でもどうすれば………よし決めた!
現状維持!様子を見よう!だって何もできないし!
どうなっているかはわからないが絶対変になっているであろう顔をカウンターに突っ伏し、あちらの動向を窺う。幸いシオンがいい隠れ場となり、暗殺者のように身を潜めていた。
奇行なことをしている僕にシルさんが声を掛けて来るけど、構っている余裕はない。
【ロキ・ファミリア】の人たちは、予約していたのか、ぽっかりと空いた席に座っていった。
全員座ったところでジョッキを持ち、僕に背中を見せている人が立ち上がり、乾杯の挨拶。どうやら遠征の祝賀会らしい。乾杯を終え、食事をとり始めた。そういえば自分も食べ終わっていなかったことを思い出し、残っていた物に手を付ける。それでも見ることは
「【ロキ・ファミリア】はうちのお得意さんなんです。彼らの主神であるロキ様に、私達お店がいたく気に入られてしまって」
誰が見ても分かるほど興味全開で【ロキ・ファミリア】を見ていた僕にシルさんが耳元で囁いてくれた。
「それ、本当ニャ?」
と、今まで食事に夢中だったシオンがいきなり聞いて来た。そんなシオンにシルさんが少し驚いたが様子で首肯した。その時何故かカウンターの下で見えた拳と、変になっていた口調は気にしないでおこう。
でも、いい情報を得られた。絶対忘れない。
そして、【ロキ・ファミリア】の方々が入ってきて二十分程経った。
その間も絶え間なくヴァレンシュタインさんを見ていたが食事はちゃんとしていた。僕はこれ以上は食べられないけど。
でも、さっきからシオンの食べる速度と量が尋常じゃなかった…もう既に作っているミアと言う女将さんさえ驚くほどだ。どれくらいお金がかかるのだろうか…
「よっしゃあ!アイズ!そろそろあの話をみんなに聞かせてやれよ」
そんな思考を巡らせているとヴァレンシュタインさんと向かい合わせに座っている
「あの話?」
そんな青年に対し、ヴァレンシュタインさんは何のことかわからないのか首を傾げていた。カワイイ…
それを見て、青年は思い出させるように続ける。
「あれだって、帰る途中で何体か逃がしたミノタウロス!最後の一匹、お前が5階層で始末しただろ⁉そんで、ほれ、あん時いたトマト野郎の!」
瞬間、全身が凍ったように感じた。思考は止まる。でも反対に、心臓の刻む音は速さを増す。
「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に行きやがってよっ、俺たちが泡食って追いかけていったやつ!こっちは帰りの途中で疲れていたってのによ~」
でも、声はしっかりと耳に入ってくる。嫌になる程鮮明に。
「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しのひょろくせえ
その言葉で思考停止が終わる。できるなら止まっていてほしかった。だってわかるから。
――――言われているのが、僕だって。
「抱腹もんだったぜ、兎みたいに壁際へ追い込まれちまってよぉ!可哀相なくらい震え上がっちまって、顔を引きつらせてやんの」
今度は正反対、全身が燃え上がるように熱くなった。体の奥底の芯から燃やされるように、熱い。
これは、なんだ……そんなこと、言うまでもないくらいわかっている。
「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」
歯を食いしばる、でも歯は噛み合わない。酷使して普通なら感じるであろう顎や歯の痛みは全く感じられなかった。それよりも強い感情が僕を支配しているから。
それは、怒りだ。誰でもない自分に向けた。
「それでそいつ、あのくっせー牛の血全身に浴びて……真っ赤なトマトになっちまったんだよ!くくくっ、ひーっ、腹痛えぇ……」
さらに怒りが増していく、無論自分に対しての。
わかっているから、自分が弱いのを、笑われてしまうくらいに。
「アイズ、あれ狙ったんだよな?そーだよな?頼むからそう言ってくれ……!」
怒りが増え、そんな中で見る。獣人の青年は笑いを堪え、ヴァレンシュタインさんは眉をひそめていた。他のメンバーは失笑し、部外者の冒険者達は笑いを噛み殺すためか、手で口を押えていた。
「それにだぜ?そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまってっ……ぶくくっ!うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんのおっ!」
その言葉で失笑していた他のメンバーのうち数名が吹き出し、笑い出した。その反応にヴァレンシュタインさんが顔を伏せる。
それを見て、彼女を見てられず、僕も顔を伏せてしまった。
悪いのは僕だ、助けてもらったのに礼も言わず、逃げた。そのせいで迷惑をかけている。
なんて僕は愚かなんだ。今更ながら、そう思った。
誰かがそんな僕に声を掛け気がしたが、なんて言ってるかなんてわからなかった。
そして彼らがまたにわかに騒ぎ出す。
そんな中僕は下を向くことしかできなかった。
そして、見た。
シオンの左手から、ポツ、ポツ、と何かが垂れ、床に落ちていた。
カウンターの下だから影のせいで見えにくく、何が垂れているかわからない。
そしてその手が僕に迫り、肩に置かれた。
その手を目で追って気づいた。
シオンの
垂れていたのは、シオンの、血、だった。
「シ、オン?」
思わず困惑してしまう。どうしてシオンがそうなっているのかわからない。
「しかしまぁ、久々にあんな情けねぇヤツを目にしちまって、胸糞悪くなったな。野郎のくせに、泣くわ泣くわ」
困惑の中、追撃された。また自分に怒りが込み上がってきそうになるが、肩に感じた少しの痛みで我に返る。
「黙ってろ、ファミリア間でも問題をおこしたかねぇ」
そう言われた。そして気づく。シオンの口調が、聞き覚えはあるが、もう聞きたくないと思っていた口調に変わっていた。
シオンがこの乱暴な口調に変わるとき、それは怒っている証拠だ、しかも心の底から本気で。
昔、村で年上の人たちが年下の子を苛めていたときがあった。それに気づいたシオンが本気で怒り、苛めていた人たちを木刀で半殺しまで追い込んでいた。その際の口調がとてもシオンとは思えない程乱暴だった。
それと今の口調が同じ、つまり本気で怒っているということ。
「ほんとざまぁねえよな。ったく、泣き喚くくらいだったら最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての。ドン引きだぜ、なぁアイズ?」
その言葉は心を削いでいく。でも耐える。そうしないと、多分シオンが爆発する。それだけは止めなければいけない。
「ああいうヤツがいるから俺達の品位が下がるっていうかよ、勘弁して欲しいぜ」
「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。巻き込んでしまった少年に謝罪することはあれ、酒の
これで収まってくれるといいんだけど…
「おーおー、流石エルフ様、誇り高いこって。でもよ、そんな救えねえヤツを擁護して何になるってんだ?それはてめぇの失敗をてめぇで誤魔化すための、唯の自己満足だろ?ゴミをゴミと言って何が悪い」
やばい、シオンの手にさらに力が入ってる…
「これやめえ。ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」
お願いします!これで止まって!じゃないとヤバい!
「アイズはどう思うよ?自分の前で震え上がっているだけの情けねえ野郎を。あれが俺たちと同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」
止まってよ!本当に!ヤバいから!
「……あの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」
ちょっと心に来るところがあったけど、そんなこと気にしてる場合じゃない!
「何だよ、いい子ぶっちまって。……じゃあ、質問を変えるぜ?あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」
手が僕から離された。
「わりぃベル。言っときながら俺が我慢できねぇ」
「ま、まってシオン」
「シル、食事代だ。多分多く入ってっから迷惑料だと思え」
「え、でも迷惑なんて」
「だまれ、これからかけんだよ」
ヤバイ、オワッタ。
「……私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」
「無様だな」
そんな会話が聞こえてくるが正直、もうどうでもいい。
シオンの鎮静、どうやろうかな…
僕はもう、そちらの方に思考を使っていた。
「まぁ、やるだけやったら終わるかな。止められないし」
「と、止められない?ベルさん。それはどう言う…」
「すぐわかりますよ…残念ながら」
「え?」
「ベート避けろ!!」
そんな叫び声が聞こえた。見るとシオンは剣を鞘に収めたまま、横に振っていた。鞘に収めていつもより遅くなっているにも関わらず、その軌道は、目で追えないほど速かった。
ベートと呼ばれた獣人の青年は、それを椅子から落ちるようにして避けていた。さすがは【ロキ・ファミリア】の人だと感心する。
「てめぇ!なんのつもりだ!」
「なんのつもり?わかんねぇかなぁ~お強い第一級冒険者なら、さぞかしいいだろうその頭で考えてみろよ~。そ・れ・と・も、そんなのもわかんねぇくらい、頭が悪りぃのか?」
「アアッ⁉」
「あはは!苛立ってるぅ~もしかして、本当にわかんねぇの?はぁ~呆れた。第一級冒険者がみんな凄いわけじゃねぇんだな。戦闘ばっかしてるから、おつむがいっちゃってるのか?それとも、犬っころは知性が低いのかな?」
「誰が犬だゴラァ!」
「あ~うっさい。吠えんな駄犬。酒で頭に響くんだよ。あ、けど騒ぐことしかできないなら無理言うわけにもいかねぇか」
「あ?お前、喧嘩売ってんのか?上等だクソッタレが」
「いいの~?明日から外に出れなくなるかもしれね~よ~」
「はぁ?どういう意味だ」
「あぁそうだった。馬鹿な駄犬は理解力も低いのか。なら教えてあげんとな~」
「テメェェ」
「簡単だよ。ただ、心身共にズタボロにされて、何もできなくなるだけだから」
あ、
「クソが、死ね」
「止めろベート!!彼はまだ!!」
叫び声の途中で
「「「「「「「え?」」」」」」」」
あはは、会話のほとんどが原作のままです。