やがて我が身は剣となる。   作:烏羽 黒

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  今回の一言
 裏物語を読んだ方は解りやすく、呼んで無い方は推理を楽しめるでしょう。

では、どうぞ


するは是とし、されるは非とする

「あぁ、くそぉ! もう少しだった――ッッッ~~~~~!?」

 

「んなのたうち回っても呪いが納まるまで解かねぇかんな。じっとしてろそこで。今、実質大犯罪者をかばってる状態なんだぞ? わかってんのかお前」

 

「知らんわそんなの! 勝手に引きずり込んだんでしょうが変態! お持ち帰りなんて許した覚えはありません!」

 

「誰がお前なんか持ち帰っか。しでかそうとした瞬間にぶっ飛ばして終わりだろうが。損しかねぇよ損しか」

 

「私今結構な美少女だと思いますけど!? 貴方の目は節穴ですか!?」

 

「何言ってやがんだお前? 中身男だと判ってるやつを美少女と思う男が何処にいんだよ。馬鹿かお前」

 

「馬鹿じゃないですし!? それにその具体例となる私の弟がいますし!?」

 

 鎖、のようなものでつながれながらも飽きることなく言い争うを続けるとある工房の中。下手に抵抗したり暴れたりすれば手痛いしっぺい返しを食らうこの状態で今や口しか満足に動かせない。

 無理矢理鎖を消し飛ばして逃げることはできない訳ではないのだが、「逃げたらもう打たねぇ」と言われてはそうすることもできない。彼ほどの技術者をそう易々と手放せるはずも無いから。なにせ無茶ぶりを一日以内で終わらせてしまうのだから。

 

「んで、私は何時まで監禁されないといけないのですか。早々に出たいのですが、臭いので」

 

「後三時間は覚悟しとけ。嫌だったらさっさと呪い治めろ。あと、臭いとかいうな、地味に傷つく」

 

「人狂わせて普通でいられる人が傷つくとか、草薙さんこそ大丈夫ですか? 主に考え方が」

 

「おい、身ぐるみ()いで中央広場(セントラル・パーク)に吊るしてやろうか、ア?」

 

「変態」

 

 吊るされるだけで止まるならともかく、絶対に後が続く。『おかず』になるなんて御免だし、レイプされるなんてのはもっと御免―――

 ……いま、ナニカが引っかかったような。

 

「おい、一気にしゅんとしやがって何だよ。つまんねぇな」

 

「あと少しで思い当たりそうだったのに……というか、私で遊ばないでください」

 

 ま、気にする事じゃないだろう。その内思い出せるだろうし。

 それよりも本当に早くこの部屋からは出たい。汗を流すことは仕方ないだろうが、臭いが充満してしまうから換気くらいはするべきだと思うのだ。

 呪いを治めろとは言われたものの、一体何の呪いだろうか、私が縛られていることだし、私に付与する形の呪いではあると思うのだが……『吸血』か? 

 

「草薙さん、今私の眼って何色ですか?」

 

「紅眼だろうが、何言ってんだ?」

 

「ただの確認ですよ、ただの」

 

 違和感なく紅眼と言えたあたり、流石に草薙さんも私に毒されてきているな。 

 それはともかく、鎮める呪いは『吸血』でどうやら間違いないらしい。『吸血』を多量に取り込んで発言した私の発展アビリティである【鬼化】を先程は『大罪』を利用して発動させていたのだが、元を辿れば『吸血』が強まったということである。それがまだ私の中で粗ぶっているという事か。おぉ、怖い怖い。

 さて、どうしてやろうか。今は『大罪』の能を利用している訳では無い。勝手に増幅することは無いだろうからその点問題は無いが、今すぐに鎮めたいのだが私の思い。

 心の中で直接アマリリスを落ち着かせるか? 【鬼化】について色々教えてくれたのも彼女だし、呪いの根本も彼女だし、基本『吸血』の呪いに関することは彼女に()くのが手っ取り早い。

  

「んー、でもどうしたもんか」

 

「は?」

 

「お気になさらず」

 

 今や座って、『狂乱(大太刀)』を砥ぎ直してくれている草薙さんが私の呟きに一々反応するが、今回ばかりは何も用はないただの独り言だ。

 【接続(テレパシー)】――――は、繋がらねぇー。あっちから何か言ってくる様子もないし、これは行くしかないのかなぁ……だとしたら本当に吸血鬼化して解除するか? それこそ無理だ。私に繋がれている鎖は呪詛抑制だか何だかの能力があってこれ以上の呪いを増大させることができない。何より吸血鬼化した姿は所かまわず見せびらかすものじゃないしな。

 

「……ねぇ草薙さん? 因みにですけど……今この鎖解いたら私ってどうなります?」

 

「爆散するか今以上に狂人化するか、将又吸血鬼に成り果てるか……どれをとっても最悪だぞ? 段々と呪いは弱まってきてっから、待てばいいだけだ。じっとしてろ。近くにいる俺の身にもなってな」

 

「そうですね。真っ先に殺されるのは確実に草薙さんですし」

 

「お前がそれを言うなよ」

 

 う~ん、手詰まりだな……私の方から『心』の中に行くのなんて方法不明の状態だし、できない訳ではないのだろうけど、今探し始めたら先に期限(リミット)が訪れる。意味がない結果が見えている行動はしない主義だ。

 

『―――オ。――シ――――シオ―――』

 

 ふと、耳鳴りじみた音を捉える。小さくしかしはっきりと聞こえるのに、途切れ途切れである矛盾。

 ……あっちからの【接続】か。遅れて気付いた。声の主に見当をつけて、ひたすら彼女へ呼び変える。

 

『よかった! やっとつながった!』

 

『なんです? もしかして漸く私がそっちに行けるようになりました?』

 

『行くも何も、強制的に来てもらうわよ! さん、にっ、いちっ』

 

 正確に刻む気など端からなかったようで、意識が引っ張られるかのように落ちていく。

 無慈悲に、何もない奈落へと誘われるような感覚。感覚とは言っているが、それは定かではない。何も無いのに感じているという自己矛盾の果てにこういった思いが来るのか。

 無駄に働いている思考が思いついたのは、驚きでも突然の状況への不説明に対する怒りでもない。

 

『強制的に心へ引っ張られるって、できたっけ?』

 

 途轍もなく小さな疑問であった。

  

 

    * * *

 

「さて、私はどうするのが正しいでしょーか?」

 

「考えるまでもなく助けなさ――ひゃはぅ!?」

 

「いやぁ、嗜癖心(しぎゃくしん)がそそられて……あと十分くらい耐えてみてください♪」

 

「嫌よ! 何のために呼ん――はふっ――!? だと思っているの!?」

 

「実はマゾヒストで、自分の恥ずかしい姿を見られて興奮したいから……ですよね♪」

 

「ちッがうわよ!」  

 

 あり得ないくらいに顔を真っ赤にして、非常に珍しく面白い光景ではあるのだが……多分原因私だし、助けてやらない訳にはいかない。

 というか、しょっちゅうアリアの性格や言動が変わっているように思えるのは気のせいなのか? っと、深く考えるのは止めよう。言ってしまって面倒臭い。

 どういう訳か貼り付けにされているアリア。釘などで打ち込まれている訳では無く、鎖のような例のアレで縛られているだけのようだ。拘束、というのがもっともらしい形容かもしれない。

 

「……中途半端な分、かなりエロイなおい……」

 

「まじまじと見ないでよ恥ずかしぃヒィッ!?」

 

「弱すぎだろ流石に……」

 

 ただ、貼り付けにされてるのではなかった。腕を横に大きく広げられ、足は肩幅の二倍程度に開かれた状態。両手首に両手足、更には首とくびれという見事なくび揃いで縛られているせいで、(ろく)な抵抗はできやしないだろう。今まさにされるがままだ。何にかと言えば、我が使い魔――とは言い難いが、一応そんな立ち位置(ポジション)吸血鬼(アマリリス)にである。

 歯が食い込んだ痕が良く目立ち、崩された服装で秘部が丸見え。……アマリリスと役割交代してぇ。ありゃ羨ましい。なんならアリアとアイズも交代していると尚よい。というかしてください……!

 どうやら今回の邂逅(かいこう)では、清楚感を醸し出す純白のドレスをボロボロに裂いて()()()露出させるという奇抜な服装(ファッション)らしい。アイズの母親とは思えないくらいの素晴らしいセンスだ。

 

「そんな訳ないでしょ!」

 

「あ、そっか。私の考える事がある程度伝わるの忘れてましたよ」

 

「そんなのイイきゃりゃァ!? ……は、早く助けて、お願い……」

 

「はいはい」

 

 触れるのは危険――といっても本当は、あんな状態のアマリリスに近づくのを忌避しているだけだが。爛々(らんらん)と潤う紅き双眸(そうぼう)、背後からで見える音を立てずに滴る透明な液、垣間見える新鮮な口紅で彩られた唇、覗く吸歯(きゅうし)、変に漏れる不気味な狂笑(きょうしょう)。明らかだ、興奮している。下手に近づくのは危険でしかない。

 まぁ、遠距離からでも鎖を破壊できない訳では無いのだが。

 

「はぅっ」

 

「お、成功。腕とか消し飛んでませんか?」

 

「さらっと怖いこと言わないで頂戴。ほんとに飛んだらどうしてたのよ……」

 

「どうもしませんけどね」

 

 治りそうだし。証拠にほら、解放されてから判りやすいまでに衣服の傷までもが()えているではないか。もう、私の心の中では何でもありな気がしてきた。

 貼り付けに使われていたもの全て、無かったことにするのは精密さが問われる作業だし、大雑把に消し飛ばしたのだろう。見れば判る、逆に見ないと判らん。

 無意識中の行為と(ほとん)ど変わらないのだ、コレは。何が起きたかは周りの反応・状況から知るしかないので確認は必須である。

 

「……ある、じ……じゃない、」 

 

「おっと、これはヤバイかも」

 

「ちがうちがうちがうちがう――――」

 

「うっはー、いい感じに壊れてんなぁおい」

 

 私に漸く気づいた狂鬼(きょうき)ことアマリリス。一瞬、正常な意識が戻ったかのように見えたのだが、続いた行動に即座の否定を余儀なくされる。先程はただ――恐らくは欲の増幅による効果で快楽を求めていたのだろう。吸血鬼は単純だ、ただ快楽を充たしたいがために生きる。その手段で血が有名なだけで、本当は何でもいいのだ。

 否定を繰り返す、頭を抱えてまでも。私という存在は『セア』の形でここにいる。何故かは知らんが体を変えるとここの『体』まで変わるらしいのだ。姿は違っても、その魂、根本は『シオン』である私。彼女はそこをを理解できていないのだろう。私はいるのに、私が居ない。という二律背反で。

 

「うぁぁぁぁあぁぁぁ!?!?」

 

「あぶなっ、かしぃっ、なぁっ、視認っ、できねぇっ、んだよ!」

 

 と言いながらも避けれ無いわけでは無い。あたりまえだ。彼女の体、というより記憶に染み付いた動きは全て、私の昔の動きであるのだから。一撃見切れば後は容易く往なせる。考えることまでも戦闘面では全て同じであるはずなのだから。 

 蹴りや拳、貫手なんかも全て私の癖が出る。どうしようもなく治らない、嫌な癖だ。全力で、我武者羅な分厄介極まりないのだが、染み込んだものはそんな中でも無意識に露わになる。

  

「ぁぐっ」

 

「ふぅ、危ねぇ危ねぇ。ま、こういう事だな。見えなくても隙は見える。温いんだよ、アマリリス」

 

 鈍い音を立てて脊柱が軋み、砕かれていく。段々、だんだん、ゆっくりと。

 歪み、喘ぎ、絶対的な暴力だが尚も抗う。抵抗に引っ切り無しで動かされる手、己の首を破壊せんとするそれを引き剥がそうとしても、折ろうとしても、何一つ効果がない。オカシナなまでに、力が籠っていないのを不思議に思うことすらできないのだろう。冷静に考えれば、自分も使える

(わざ)』だと判るのに。

 感触を楽しみ、血の気が引いてゆく様を見届けながら私も欲を充たす。もがき、あがき、苦しみ、それでももう何もできない。精力突き、放り投げられるその時まで。

 

「……っは! っはぁ……はぁ……」

 

 異常な音を立てた後に、跳ね上がるようにして起き上がったアマリリス。軽い過呼吸状態であるのは仕方あるまい。何せ呼吸もできなかったであろうから。

 

「正気、取り戻しましたか? 一回死ぬのが一番手っ取り早いでしょうし」

 

「……(あるじ)、ボクだって痛みはあるんだ、できるなら一瞬で殺して欲しかったよ」

 

「私の性格、一番知っているでしょう?」

 

「愚問だったね、ごめん」

 

 首を(さす)りながら苦笑いを浮かべて、ゆったりと立ち上がった。すっかりと落ち着いて、先のように興奮と現実否定をない交ぜにした狂鬼にはなっていないようだ。一安心、そっと息を吐く。

 

「……んで、羞恥に再度悶えているそこの精霊さん? 私の役目ってやっぱりこれで終わり?」

 

「うるさいわね! 放っておいてよ! わたし、まだあの人としかしたこと無いのに!」

 

「したことはあるんだ。道理でしょ――」

 

「――それ以上は、言っちゃだめよ?」

 

 何を隠す必要があるのやら。処女でなくたって別に可笑しくないだろうが。痴女認定がそれだけでされてしまう訳でも無かろうに、何を恐れているのやら。それにこの会話を聴けるのは私たちだけであって、そう隠す事でもないはず。やっぱり尊厳とかあるのかなぁ……めんどくせぇ~。 

   

「シオン~? めんどくさいとか言って、貴女も処女大切にしてたくせに。だってほら、あんなに泣いてた――」

 

「――止めな馬鹿精霊、下手に言わない方が良い」

  

 ふざけた調子で何か大切なことを言わんとしたアリアを脇腹への手痛い肘打ちで止めたアマリリスに、妙な違和感を覚えた。いや、それだけじゃない。処女喪失、というのは確かにした。だが泣くとはどういうことだ。鳴くだったら確かにそうだ、かなり鳴いた。だがしかし、泣いてなどいない筈なのだ。理解の間違いなんてありえない、ここで発した言葉は偽れないのだから。

 泣いた? 泣いたって本当に何だよ。誰が? 流れ的に私がだ。だが記憶がない。確か、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……ご褒美と言うことで……あれ、なんでその程度で――

 バチッ、 

 

「――ッッ?!!?」

 

「主!?」

 

「シオン! ねぇちょっとシオン!? しっかりして! 落ち着いて、正常を保って!」

 

 なんだ、なんだなんだなんだ――! 何だよコレ、判んねぇ、考えられねぇ、思考が強制的に閉ざされている!? ありえない、私が、制御されてる!? オカシイオカシイオカシイオカシオカ、オカ、シ―――  

 

「【黒転(シャウト)】!」

 

「――ぁ」

 

 

 

―――――――――奇妙な感覚だ。

 何一つ分からなくなる混乱が私を()()()。神経を狂わせる耳鳴りが()()()。意志を真っ向から攪拌(かくはん)()()()。もだえ苦しみたくてもそれすら許されない絶望が()()()

 それらは全て、過去の出来事であった。

 ならば、今があるはずだ。感じるはずの、生きるはずの今が。だが、それがない。無いということがわかるからこそ可笑しいのだ。今が今ではなく、未来でもなく、過去でもない。

 確かな矛盾を、だが何故か納得してる自分がいる。自然と、落ち着いている。

 

『【再起(リスタート)】』

 

 不思議と、あるかどうかも分からない口がその音を奏でていた。

 それだけでは意味も効果も無いただのコトバ。だが、条件を満たせば成立する絶対の反転技術。

 己を侵食するもの全てを払いのける、ただそれだけのもの―――

 

 

「―――――――これは、助かったというべきなのかわかんねぇな」

 

「……ボクたちが助かるためにやったことだからね。助けた訳では無いような気がするかな」

 

「…………シオン、その……迂闊(うかつ)なことして、ごめんなさい……」

 

「叱られた子供かよ、貴女はっ。というか、理由もわからん事謝られても知らんとしか答えられんわ」

 

 寝かせられていたようで、憂いを籠められた顔二つに見下ろされていた。頬を掻くアマリリス、しゅんとして柄にもなく謝るアリア。二人を確認して、ぱっと起き上がる。

 

「あァ……思い出したぞ、本当の恐怖っていう感情を。最悪だッ、何だってんだよ」

 

「感性が基本麻痺しているからね。ボクたちの特権っていえるけど、弱点でもある。感じられたってことは、少しは人間らしさを取り戻したってことじゃないかな」

 

「いらん、そんなもの。私はバケモノ……人間辞めた異常者(サイコパス)で十分」

 

 記憶の制限、か……一体だれが、何のために掛けやがったんだよ。犯人突き止めて絶望見させてやるぞ、絶対に。

 

「んじゃ、アリア。そろそろあっちに戻してください。制限時間はまだまだでしょう?」

 

「そう、ね……じゃあ、また今度。怖い思いさせて、本当に、ごめんなさい。貴方だけはせめても、幸せでいてね……」

 

「は? そりゃどうい――――」

  

 一気に、急速に、突然に、前触れなく―――堕ちた。

 意識が、容易く。そしてひっくり返って、上がっていく。対の間にある境界線を通過したかのように反転して、上昇を続ける。

 ふと、止まった――

 

「……あ? やっと起きやがったな。どうやったかは知んねぇが、とりあえず呪いは治まったから縛めは解いといた。もう帰っても問題ねぇぞ」

 

 一番に到達した鼻を刺す汗の臭い。続いた声はこの場所の持ち主の声だろう。

 解放感に身を委ねてぐぃーと伸ばす背。煩わしい縛め()などもうない。 

 

「――えぇ、そうさせていただきます。あ、『狂乱』は?」

 

「どんなネーミングだよ……こいつのことだろ? 少しや思いやりを持てよ」

 

「ピッタリじゃないですか。あ、研磨ありがとうございました」

 

「気にすんな、ついでだついで」

 

 それでも感謝は忘れない。刀は非常に大切なのに、かなり摩耗させてしまったから。私に迫るほど長い刀身、(つか)を含めれば私をも超す長さとなる。それをアホみたいな速度で振るえばそりゃ摩耗だってするもんだ。

 ずしっ、背に掛け丁度良い重みに思わず笑みを零す。

 

「てかよ、急だけどお前、その(さや)何なんだ?」

 

特注製品(オーダーメイド)ですよ。ちょっと工夫を加えた逸品です、創ってくれた人の腕も良いもので、注文通りに出来上がっています。まだ使ってませんけどね」

 

 私を指さしながら、いや、私の背にある大太刀を納める多彩の『仕掛け』が施された鞘を、指しながらだ。色もさることながら、設計通りなら機能もとんでもないはずの。

 下手に使うことはできない。【猛者(おうじゃ)】との戦いですらこれは使えなかったものだ。地上でなんか使ってみろ、それこそ死者多数で殺されるぞ。

 

「では、また今度」

 

「おうよ。地上で下手に呪い使うんじゃねぇぞ。また行くのは面倒だ」

 

「はいはい、善処しますよ」

 

 手を振りながら、工房を後にした。

 騒がしいのは変わってないオラリオ、中天まで昇る太陽変わらず見下してくる。

 ズキンズキンッ、『芯の部分』に異物感がある。だが取り除くことなんてできない。

 嫌な気分のまま慌ただしい人混みへ、そっと紛れた。 

  

 

 

 


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