よし、やってやるぜぇ……(意味深)
では、どうぞ
「……うん、なんか、その、凄かった。凄い良かった、楽しかった」
「それだけ聞くと誤解されそうですね……で、アイズとなんやかんやで踊って来たと。はぁ、大層なことをするものだ。意外と肝が据わってたり?」
「それ、セアが言う? というかどこ行ってたのさ」
「ちょっとバルコニーへ。少し熱かったものですし、確認もありましたし。ともかく外へ行っていました」
魂が抜けたかのように茫然としていたベルへと歩み寄ると、まさかのオモシロイ理由であった。アイズがベルと躍るとは……ベルは大丈夫だったか。まぁ無傷で目の前にいるし、問題は無かろうが、精神的にちょっと異常があるかな? これ以上頓着する気は無いが。
「あ、セア君見つかったのかい。ボクの苦労は何だったんだか」
「もしかして私、迷子扱い? 随分と甘く見られたものですよ……んで、私を探してたと言うことは」
「あぁ、そろそろアポロンと対面しようと思ってね」
「りょーかい」
きつく締めていた
本音を言うと、今すぐ斬りたくてたまらないのだが。
「――諸君、宴は楽しんでいるかな?」
薄れていった曲が途絶え、残響すら途絶えた
従者共々、こちらへ歩み寄ってくる。卑しい目線も連れられて。気分の赴くままに斬り付けてやりたいが、ここは我慢だ。また問題を起こすわけにはいかない。
「盛り上がっているようなら――――」
「ぅるっさい、さっさと話し進めろ。戯れに付き合う気は無い」
「む、何だね麗しの
「――死にたくないなら、さっさと言え。これ以上面倒事を増やしたくないしな」
神威に迫る威圧を正対する愚か者へ容赦なくぶつける。驚きか、一歩引いたがそれだけの効果。流石に圧は神に効き目が薄いか。ま、牽制程度になるし、良しとしようか。
「うむ、君は一体、ヘスティアとどんな関係か。眷族ではあるまい、主神は誰か」
「主神は私団員も私、結局のところただの
私と言う存在は、居るだけで抑止力となり、生命線となりゆる。この神も正体不明の異常者に警戒を抱かざるを得ないはずだ。私まで狙われるのは御免被るのだが……姿変わればもう私の勝ちだ。
「そうか……ならば都合がいい」
「そう言うことは心中に納めとけ」
本音駄々漏れじゃん。その調子で企んでることまで話してくれると簡単に潰せると思うのだが、流石にそこまで都合よくはないか。
「遅くなったが……ヘスティア、先日は私の
「……あぁ、そうかい。シオン君が色々やったのは知っているさ。ならこちらこそ、随分とボクの
「おぉ、下界にきて随分と変わったな、ヘスティア。前はそんなこと言わなかっただろう」
「神は不変だぜ? ボクは元々こういうヤツさ。アポロン、君が知らないだけで」
おぉおぉ随分と怒ってらっしゃる。挑戦的なのはそのせいか。不敵に笑うその様は明らかに独りでは無しえないだろう。
「私の子は重症を負わされた。
「ちょ、シオン君ってそこまでやったのかい!?」
「吹き飛ばした程度ですよ? 酷い音とかなりましたけど、死にゃぁせんよ。それにどうせ無理解の中の出来事だし、そこまで気にならないと思いますけど……嵌めようとして、盛っているとしか思えませんね」
「だ、だよね。流石にシオン君でもそれは……違う、よね?」
「……たぶん」
やべぇ、そう言えばあの時
だって仕方ないじゃん! あんな言い方されたら殺されないだけましだと思ってもらいたいよ! あれでもしっかり加減はした。ボロボロになったのならあの
そんな心中の言い訳など露知らず、話は一向に進んで行く。
「で、でも! 事の発端は君たちの方だ! ボクたちを責めるのなら、君たちにも責があるんだと言うことを自覚すべきだね!」
「開き直り方が見苦しく思えてならないのですが……どうしましょうか、この気持ち」
「セア君!? 君は味方だろう!?」
「やや傾いた中立です」
「それは中立って言わないんじゃ……」
黙り込んでいたベルが堪え切れなくなったか、小さくもしっかりと突っ込みを忘れない。その精神称賛に値する……が、もう少しシャキッとして欲しい。具体的に言うと、『それって中立じゃないでしょ!?』くらいの勢いで。
この緊張状態では難しいか、無理言ってごめんね? 言ってないけど。
「な、何を言っているかわからんが……ともかく。君の子が私の子を傷つけたのは事実、他にもいるのだが、あえて挙げないのは優しさと思え。勿論証拠もなくこんなことを言っている訳では無い。証人はここにいるのだからな」
「意地の悪い優しさ。うっわ、性格わるっ」
「絶対それセアにだけは言われたくない」
「確固としたその意思はどっから湧いてくるのか疑問ですよ全く」
二人場違いに呆れ合う。一致した行為に、目を見合わせてつい笑った。はっと気付いたように顔を赤らめ目を背けられたのは、まだ初心な証拠かな? 流石に不味いなこれは……重症だ。
円形になっていた人垣の中から、数
「んで、何をしたいわけ?」
「ふっ、話が早いな。なぁに、我々が与えられた屈辱を晴らす機会を、提案するだけだ」
大仰に、ばっと両手を広げた。嫌らしい顔で不敵に笑う、然も勝ち誇るかのように。
それは大層
「ヘスティア―――君たちに、
「ほぉぅ、そう来るか」
期待、同情、
息を
「―――オモシロイ、上等だ馬鹿ども」
不敵に、残酷に、残虐に、非道に、下劣に、だが結局美しく、笑った。
充満する殺気じみたこの気配は、別人のように思えて明らかに私のもの。いやはや、まさかこうなるとは。命知らずにも程があるだろう。
「ま、まてまて待て待て待ってくれ! 不味い、それは不味いんだ! セア君も落ち着いてくれ、とりあえずその手を柄から離してくれぇぇっ!?」
「おっと、気づかなかった」
「だから不味いんだよ本当に!?」
慌ただしいヘスティア様、恐れているのは恐らく結果であろう。普通にやって、あちらの惨敗は必須。もっといえばその負け方だ。総力戦になれば、大半を私は瞬殺する自信がある。文字通り、瞬殺だ。
私が殺人鬼でもあることをヘスティア様は知らないだろうが、問題はそれによって私が絶対的に目をつけられることだ。良くも悪くも、な。
霧散する殺気、そこで執成した神アポロンは平静と仮面をかぶった様子で、尚道化じみた大仰な仕草を続ける。
「どぉしたヘスティア~? 賭けるモノも聴かずに放棄とは。焦ることはない、私が求めるモノは簡単さ」
卑しく笑って視線を向けた。ベルは勿論、私まで。
まさかとは思うが―――
「私が勝ったら、君の眷族、シオン・クラネルとベル・クラネル。更にはそこの君の協力者を頂きたい」
「無理だって! やておくれよアポロン! そんなことしたら……!」
「いいじゃないですか、ヘスティア様。受けましょうよ、この
「っ……だめだだめだ! 特にセア君とシオン君――同じだけど……もぅ兎に角! ダ・メ・な・ん・だ!」
少しひやっとしたが、潜められた声だったので前後にかき消され聞かれることはなかっただろう。自棄になっているのはある種思いやりとも言え、優しさともいえるだろうが、さてどう承諾させようか。
「返答はそうなるのか」
「あぁそうだ! 何が何でもボクは受けないぞ! これ以上シオン君を目立たせてやるもんか……」
ベルの手を握り、こちらへ向かって私の手を握ろうとしたが、避けて空振りに終わる。ギィッと
ついて来るだろうと踏んだのか、そのまま背を向けて歩き出す。
「後悔は、」
「するもんか! 君たちこそ、ボクたちに手を出して……特にシオン君に手を出したら後悔するんだぞ! これは助言だからな! せいぜい胸に刻んどけ!」
「あらま、後悔で終われるといいですけどね」
会場に残り静観を続けていた関りある者に『何もするな』と視線を送る。一触即発の雰囲気を醸し出していたアイズには特に強く、念押しして。
案外と長かった夜、あっけなく終わりは告げられる。
一歩、玄関から出た。感じた視線は変わりないのに、寒気がするほど心地が良い。
予想している先のこと、それを思ったからかもしれなかった。
先を危惧し、ホームへ帰った後は迅速な行動を起こした。
単純な話、貴重品の大移動である。地下室にあった金庫内の物全ての。
既に帰還していたティアにもかいつまんで説明しながら手伝ってもらった。面白そうなのでまだ私と『私』が同一人物であることは隠したのだが。
『アイギス』へのものの大移動を終え、ティアにより『多重拘束連帯用結界』なるものを張ってもらい、とりあえずはそれで防犯は問題ないらしい。
ティアとヘスティア様、私とベルの二組に班分けして、私たちは『ホーム』で、ヘスティア様たちは最寄りの宿屋で床へと着く。ベルとヘスティア様は何かと疑問を浮かべながらも協力してくれた。恐らく、これが一番安全だろう。
被害も、少なくて済む―――
―――かもしれない、という話なのだが。用心だ用心。やりかねないからこうするだけで。
その夜私は珍しく、ベットで睡眠ととることとなる。
異様なまでに、よく盛り上がった夜であった。
誰かに聞かれたことは、ないだろう。流石にそれは、恥ずかしい。
まさかあんなに『鳴く』ことになるとは、思わなかったから。
* * *
「……来たか。案外早いな」
のそっと起き上がる。少し身震いがしたのは、春に
昨日の内にドレスから着替えておいたため、ベットの横に脱ぎ捨てられていたのはピシッとした
新しい下着を着て、シャツを一枚着ると上に羽織る。気分的に髪は纏めず流しておいた。それでも十分、いや、だからこそ生えているかもしれないが、自身にこれ以上酔う訳にはいかない。
「ベル、起きてください」
「ぅ……ま、だ……」
「起きろっ」
「いでっ…………ぁ」
目を掠めながら開けて、私を捉えた瞬間何を思い出したか、途端に真っ赤になり出す。
シーツを思い切り被り直して、
「さっさと準備しろ。いっつまでも呆けてるな」
「なにさ、昨日はあんな……」
「は・や・く・し・ろ」
「は、はい……」
ぱぱっと着替えて、装備も着ける。その間に体を軽くほぐして、私は戦闘準備完了だ。背には一刀、大太刀が。ずっしり重みを伝えるそれに、仄かに笑みを浮かべる。
今からコレの試し切りをできるとなると、胸が躍るのは仕方のないことだ。
「んじゃ、行きますか」
「うん……でも、本当にこんな時間に来てるの?」
「えぇ、確かに周辺で待ち構えていますね。一点突破で問題ないでしょうが、最悪ここは壊れてしまうでしょう」
「えぇ!?」
今私がどれ程力を持っているか、自分でも定かにはできない。相手が壊すか私が壊すか違いはあれど、結局は同じことだ。名残惜しくベルは思うだろうが、私はそこまででもない。気にせず壊せる。流石に意図的に壊す気は無いのだが。
階段に一歩、足を踏み出した時、ふと場違いな音が聞こえた。ぐぅという。
いや、本来それはここにあるべき音だろう。
「……朝ごはんとってからじゃ、ダメ?」
「……ま、仕方ない、か」
欲には抗えない、か。うん、そうだよな。昨日のこともあり、より納得できる。
まぁ、あちらさんも適当に攻撃したりはしないはずだ。ならば少しくらい猶予はあるだろう、その間にティアには悪いが、朝食くらいは摂れるはずだ。
「んじゃ、物々しいですけど、そのまま待っててくださいな」
「うん。でも、さ……なんかセアが作ると、夫婦、みたいだよね」
「幻想は頭の中にだけで終わらせとけ。昨日のは特別だ」
「うぅぅ」
旦那が料理を作る家庭だってあるだろうに。それに夫婦とは、ふざけたことを。我が弟ながら夢を見過ぎだ。解っていたことだがな。
これは重症か……まぁいずれ、治ってくれるだろう。自然と。
さてとりあえず、今日はどんなご飯にしようかね。