タグに主人公チートを加えようかな……
では、どうぞ
外へ出ると、太陽がもう沈みかけていた。怠さがある程度抜けた体を動かしホームへと向かう。
魔石の換金はバベルで済ませて来た。今回も運良くすんなりと済ませて。
帰宅途中、じゃが丸くんのお店がまだ開いていたため五個ほど買った。勿論塩味。
アツアツのじゃが丸くんを抱えたままホームに戻ると、階段の中途で鉢合わせたヘスティア様とベル。二人はとても深刻そうな顔をしていた。
「二人ともどうなされたのですか? 深刻そうな顔をして」
気になり、聞いてみる。すると答えは言葉では無く、
「シオ~ン!」
「シオンく~ん!」
泣きそうな顔になりながら飛びついてくると言う非常に面倒なスキンシップだった。後ろに下がり、避ける。すると二人とも階段に頭をぶつけて転げ落ちて行った。
溜め息一つに下りて行くと、奥の壁に二人が張り付いていた。
「どうして避けるんだい! いつもより帰りが遅いから心配してたのに!」
「心配? 何に対してですか?」
「もちろん、シオン君の無事をだよ!」
私が下りてきたことが分かると体勢を整え、ぷんすかと叫びかかってきた。
頬の膨れ方が異常なのは彼女の特性だ。怒る時に頬を膨らませることも。
「無事? 上層程度で私は死にませんよ。それよりもベル、あなたの方が心配です。ミノタウロスに襲われたでしょう。血まみれでしたが、大丈夫ですか?」
ヘスティア様の心配性は筋金入り、それはもはやされる側が溜め息を吐きたくなるほどだ。今も、首を傾げる程度しかその心配を理解してない。理解が及ばないほどの情とは、恐るべしヘスティア様。
「うん!あれ、ミノタウロスの血だから。僕は怪我してないよ」
変わらず元気がいいベルが、しょうもない思考に陥る私を現実世界へ引き戻す。ふるふると小さく頭を振るって正気を取り戻し、無駄な憂いを溜め息と共に吐き出した。
「そうでしたか、よかったです。それと、夕飯は食べましたか? じゃが丸くんがありますよ、塩味で」
「お! さすがシオン君。でも、今日はね……ボクもじゃが丸くんをもらってきたんだよ! バイト先の店長がくれたんだ~」
「なら、今日はじゃが丸くんパーティーですね」
「そうだね! シオン君、今夜は君を寝かさないぜ……!」
そう言いヘスティア様は決め顔をしている。ベルが苦笑いを浮かべていたが気にすることなくテーブルにじゃが丸くんを置き、ちゃっちゃと手を洗い終えるとソファに三人が座り、
「「「いただきます」」」
ぎゅうぎゅう詰めに並んで、楽しくじゃが丸くんを味わった。
因みに言うとヘスティア様が調達したじゃが丸くんも塩味だった。
――――――――
幼女食事中……少年食事中……
――――――――
「「「ごちそうさまでした」」」
「さあ、【ステイタス】を更新しよう! シオン君は初めてだね!」
やけに調子が上がっている幼女が唐突に手を上げて叫ぶ。煩く思える甲高い声を我慢して、今日は素直に従うことにした。正直なところ、更新自体は案外楽しみにしていたりする。
「そうですね、半月でどれほど【
「そうかい。じゃあ本命は後、と言うことでベル君から!」
「はい!」
ベルは早速上着を脱ぎ、ソファアに横たわる。その上にヘスティア様が乗った。
もう見慣れた光景で、ベルも動揺しなくなっている。始めは酷い有様だったが、もうそんな馬鹿らしい姿は曝さないようだ。
「そういえばシオン。どうして今まで【ステイタス】の更新をしなかったの?」
「それはですね、私の元々高い【ステイタス】だと、上昇しにくいと思ったので、【経験値】をため込めばちゃんとした変化が出るかと思いまして」
「ふ~んそうなんだ」
あ、その反応、どうでもいいと思っているな。なら聞くなよ本当に。
――――――――
只今更新中……只今会話中…
――――――――
「じゃ、じゃあ次はシオン君!」
――――――――
更新中……更新中…
――――――――
「お、終わったよ……」
「どうしたんですかヘスティア様、浮かない顔して」
「いや気にしないでおくれ、はいこれ、【ステイタス】。シオン君は
「はい」
羊皮紙に写された複雑怪奇な象形文字、規則を理解していれば実は誰でも簡単に読めてしまう
だが読み進めるうちに、段々と頭が痛くなってくる。何も、文字が難しいからではない。
シオン・クラネル
Lv.1
力:I 82→G257
耐久:I 39→H103
器用:A873→S913
敏捷:B746→A860
魔力:D587→C629
《魔法》
【エアリエル】
・付与魔法エンチャント
・風属性
・詠唱式【
《スキル》
【
・剣、刀を持つことで発動
・敏捷と器用に高補正
【
・早熟する
・憧憬との繋がりがある限り効果持続
・
……絶対おかしい。自分が
「ベル、少し【ステイタス】をみせていただけますか」
「う、うん。はい」
ベル・クラネル
Lv.1
力:I 77→I 82
耐久:I 13→
器用:I 93→I 96
敏捷:H148→H172
魔力:I 0→
《魔法》
【 】
《スキル》
【————】
私が貯めた【経験値】は初日から更新してない。つまりベルの上昇を初日の【ステイタス】から考えると、
『力が79,耐久が11器用が91敏捷が164魔力が0』→『トータル345』
それに対し私はトータル435
……意外と普通だった。今、心底安心している自分が居る。何故だろうか。
それにしてもベルに敏捷や器用の上昇が抜かれるとは……負けていられないな。
魔法やスキルは相変わらず発現――スキルの欄に消されたような跡があるな、もしかしなくても……
「ありがとうございました、ベル」
「気にしないで。それで、シオンは自信あったみたいだけど、どうだった?」
「丁度いいくらいですよ。普通です。それとヘスティア様」
「なっ、なんだい!?」
「おはなしがありますいますぐそとへでてください」
「シ、シオン君!? こ、ここじゃダメなのかぃ」
「イイカラハヤクデテクダサイ」
「わ、わかった…」
「では、ベル。盗み聞きはしないでくださいね」
「は、はいぃぃ!」
若干怯えているような気がしたのは気のせいだろう。私は足早に出て行ったヘスティアを
階段を上りきるとそこには、極東発祥の座り方、正座をしたヘスティア様がいた。
どうやら自覚があるらしい。
「さて、ヘスティア様。私の言いたいこと、わかりますか?」
あくまで聞いているだけだ、決して他の感情など込めていない。決して。大事なことなので二回言おう。
「さ、さぁ、なんのことかな~」
白を切るつもりのようなので、少し、怒りを込めた目で、ヘスティア様を見る。少し、だ。流石にこれで――とは思ったが、コレでも尚しらばっくれる。
このままだと永遠に続くだけで、もう率直に聞くことにした。
「どうしてスキルを隠したんですか。手元が狂ったとほざいた時点で確定したことだが、主神がやる事じゃないだろ」
「あはは、やっぱりシオン君には気づかれたか……」
「あたりまえです。さあ、理由を答えてください。あるのでしょう、私が納得するくらいの理由が」
苦い顔をして詰まったように見えたが……気にし過ぎか、神経質になっているのだろう。少しは許容できる寛容なニンゲンにならないと。
「あ、あるさ。理由は二つ、一つ目は、レアスキルだったということ。名前は【
「それを言うなら私のスキルも両方レアスキルですが」
「それは理由の二つ目の理由にある。シオン君、ベル君が嘘が下手なのは知っているだろう」
「そうですね。昔から下手でした。根っからの善人ですから、嘘に罪悪感などを感じてしまうのでしょう」
お菓子をつまみ食いしたときも、大人に黙って森へ遊びに行った時も、いつだってその証言はベルからとれていた。まぁ、皆ベルの性格を理解していたから、どうこう責め立てることも無かったけれど。
「そうだね。だから、ベル君がスキルについて言い寄られたら、多分ばれてしまう。そうすると娯楽に飢えた神々が絶対ちょっかいをかけてくる。でも、ベル君がスキルについて知らなければ、言い寄られてもばれることは無い。その点シオン君はしっかり嘘が付けるからね、隠す必要が無いんだ」
納得はできるが、その言い方だと私がまるで人を騙すことになれている、とでも言いたいような気がするぞ。
「そういうことですか。因みに【憧憬一途】の効果は」
「……早熟する。
「そうですか。私の【
「はぁ~ベル君もだけど、君もほどほどだよ。Lv.1の時点でスキルが、しかもレアスキルが二つあるなんて、かなりどころか激レアなんだから」
「よかったですね、ヘスティア様はその激レアの主神ですよ。いずれ有名になりそうですね」
「それはいいことだけど、無理はしないでおくれよ」
「お断りします。無理をしないと剣技が磨けないので」
「うぅ~じゃあ、ほどほどにね」
「わかりました」
譲れないことというのは必ずある。今の私にとって、剣を磨くこと、その道を進むことは生死にかかわるほど重要なことだ。
「では、戻りましょう。ベルも待ってます」
「うん。それと、なんであんなに怒ってたんだい?」
「それは、冒険者にとって、己の把握は大切なことだからです。知らずに死なれたら困りますので」
「それもそうだね。君の意見はもっともだ」
こちらの言い分もしっかり理解してくれたらしい。
のんきな会話をしながら、ベルの待つ地下室へと戻っていった。