2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第85話 シールドもとい大剣豪

 

 

 弱々しい海賊を視界に入れても眉一つ動かさないミホさんとゾロさんを見てやっぱりいくら優しくても海賊なんだなってしみじみと思いました。

 

 今の内にオーナーゼフさんが用意した食料回収しておこう。餓死状態から復活させてたまるか雑魚共よ。

 

 

「ふー、頑張れマリモヘッドゾロさん!」

「余計な茶々入れんな!」

 

 応援したら本人に怒られた。

 

 両者共に睨み合うとゾロさんは愛刀を、ミホさんはナイフを取り出した。

 

 

 曰く「兎程度の獲物を狩るのに全力は出さないだろう」

 

 自分の仲間をコケにされたと分かったルフィは割り込みはしないものの拳を固めた。

 

 

 ……言い方が悪いんだよなー、ミホさんって。

 

 彼はその気は無くても平気で敵を作っていく無自覚コミュ症。良くいえば『素直』悪く言えば『愚直』敵意に対しては鋭く敏感であるからこそ無自覚に作った敵には距離を置くし会話も成立しない。

 ミホさん本人は結構おしゃべりなタイプだし天然だし巫山戯たり笑ったりするのに。あの性格も悩みどころだよな。

 

 

 そう言えばミホさんはドフィさんが七武海に加入した辺りで随分印象が変わった。『寡黙な仕事人』から『コミュ症のお茶目さん』に。

 

 ……沈黙は金って言ったりするけど寡黙も過ぎれば普通にコミュ症だ。

 ちなみにこの認識は七武海定例会議に応じる方全員知ってます。つーかあいつらが言い出した。私は悪くない。

 

「嘘だろ…!ゾロの剣が全てあんなちっさいナイフで躱されてる…!」

 

 驚愕の表情を浮かべながら呟くウソップさん。実況とツッコミ忙しそうね。ごめん。

 

「あれはどちらかと言うなれば()()()ですよ」

「いーナス?」

「いなす。…相手の力と勢いを利用して方向を変えるするという方法です。ミホさん曰く『柔の剣』らしきです」

 

 柔な技とか意味わからんから私は剣を普通に諦めました。

 

「ゾロ…ッ!!」

 

 ザク、とナイフがゾロさんの胸に突き刺さった。じわじわと深紅の染みが増えていく。

 洗濯するの大変なんだぞコノヤロー!

 

「何故、引かない」

「引いたらそこで全部終わる気が、するからだ…!」

「………。命より誇りを取る、と」

「あァ…!」

 

 私には無理だわ、と言うか勝負になった瞬間目くらましなり隙を付いたりして敵前逃亡図るな。

 

「ゾロ!逃げなさいよ!死んだらそこで終わりなのよ!?」

 

 ナミさんが慌てて声を上げる。

 

「ナミ!ッ絶対手を出すなよ…!」

「出したくとも出せれないわよあんな奴に」

 

 超わかる。

 多分ゾロさんは私と違う人種なんだろうな、私は『何が何でも生き延びる』タイプだけどゾロさんは『誇りを失うくらいなら死ぬ』タイプなんだろう。

 

「名を名乗れ、強き者よ」

「俺の名は…ロロノア・ゾロ…!」

 

 ミホさんが愛剣の黒い剣(名前は知らん)を抜くとゾロさんは向かっていった。

 

「イケイケゾロさん!ぶち殺せ!」

「物騒な事言うな!」

 

 殺し合いしてる方々に言う言葉には最適じゃないッスかウソップさん?

 

 結果は残念、ゾロさんは斬られて海に落ちた。最後斬られる時何か呟きながら正面を向いたけど何言ったんだろう。

 

「意味が分からねェ…、何でそんなモンに命懸けるんだ…。死んだら、死んだら誇りもクソもねェだろ!?」

 

 サンジ様が海から上がってきたゾロさんを見て小さく声を上げた。とりあえずウソップさんご苦労。

 

「分からぬわぁ…」

 

 サンジ様は私と同じ思想の様で少し安心しました。そりゃ虐待まがいの扱いで命の危機感じて無事逃げれた方だもん、命大事よな。

 ん?

 

 危機管理能力は平凡。

 料理の腕は最高。

 賞金無し。

 女性には優しい。

 

 最高の嫁なんじゃね?

 

「サンジさんけ──」

 

 ダメだ、彼は亡命したと言えど王族。一介の兵士とは身分の釣り合いが取れないし何より〝国〟の名のつく物の最高値。

 

「……ごめんぞ…私達には壁がありすぎです…、価値観が違うです…」

「待ってくれ、どうして俺はフラれた感じになってるんだ?」

 

 私の中での自己完結。

 彼には冗談でも結婚しようとは言うまい。あー!結婚相手欲しー!『優しく』て『常識人』で『高収入』で『一般人』な結婚相手!

 多分一番最後が簡単そうで難しいと思う!私の周囲に一般人居たか?

 

「申し訳ございませんです」

「この謝られた筈なのに謝られた気がしないのは何でだろう」

 

「サンジ…お前はこっち側の人間だな」

 

 ウソップさんよ、何サンジ様と肩に手を置き遠い目をしてる。私の何が悪い。

 

「リィン、来い」

「やだ」

 

 剣を収めた奴に呼ばれるけどガン無視です。

 

「というかテメェら1人くらいは斬られた俺の心配をしろよ!!」

 

「「「…あ」」」

 

「あ、じゃねェだろ!」

 

 血をダラダラ流しながらも叫ぶ元気があるのなら良し。

 

「と、とりあえず俺が適当に治療しとくけど外傷は齧った程度だからな?期待するなよ?」

「よろしくウソップさん、私達からっきしですので」

 

 私は自分が第1だから身を守る術を持っていても他人を癒す術は持ってない。特に瀕死の重症ならね。私がその状態になった時点で他人の手を借りないとどうしようもならないじゃないか。

 まぁカヤお嬢様の部屋に医療関係の本があったのは確認してるから口頭だけでも齧ったって事だろう。

 

「くそ…次は絶対負けねェ…!俺は絶対負けねェ!」

「向上心があって良き事、ルフィも良く耐えるしたですな」

「ん…!」

 

 するとルフィはゴキゴキと手を鳴らして呆然と様子を見ていたクリークを睨みつけた。

 

「俺さ、この船に気に入った奴がいるんだ。バカみてぇな夢を見てるコックがよ」

「…ッ」

 

 諭すようなルフィの声に私のすぐ後ろにいるサンジ様が息を呑む。

 

「とりあえずさ…お前らぶっ潰す」

「お前らみたいなガキに負けるか!」

「ガキがなんだ!俺は海賊王になるバカな男だぞ!」

 

 自分でバカ言ってるんじゃ世話ないわ。

 

「交渉ですバラティエの皆さん!」

 

 ルフィの言葉に続けてゼフさん含む傍観してるコック達に声をかける。

 

「あなた方の代わりにこいつらを倒すです!その代わり、コックを私達麦わらの一味という海賊に下さい!」

「………この船にいるコック共は俺の子供も同然…、そう易易やる訳にはいかん」

「もちろん、本人の意思が最優先です!そのための交渉の許可をいただきたく思うです」

 

 ルフィが狙うのは多分サンジ様。でもサンジ様はゼフさんに大恩があるらしいから自らは望まない…多分誰かの後押しがない限り。

 ならさっさと別のコック手に入れた方が楽だ。

 

「…………良いだろう、交渉成立だ」

 

 バラティエの最高権力、親と言う言質は取ったのだ。異論を唱えるやつは居ないだろう。

 

「ねェリィン」

 

 ナミさんが耳に口を寄せてボソッと呟く。

 

「あの船の中…まともに戦える人間いると思う?」

「……否定」

 

 あの船、というのは恐らくクリーク海賊団の船だろう。お宝史上主義の彼女が獲物を逃すとも思えん。存分に漁れ。

 

「さァ!クリーク海賊団?我らが船長率いる麦わらの一味と遊びましょう?」

 

 逃がしゃしねェぞ、私には今回確実に報告の義務があるんだ。

 

 フルボディというアホのことを何とかしなければならないしここに『政府の狗』と呼ばれる七武海の1角がいる限りはな!

 しかも今回は麦わらの一味に非は無いから私が叱られることもないだろう!

 

 

 最善策として海賊団の鎮圧を務めるべきでしょうよ!

 

「……お前いつになく強気だな」

「やだウソップさんったら! ………この場に最強のシール…──もとい剣士がいる限り私の安全は保証されるですよ」

「お前ほんっっっと狡いな!」

 

 彼は私と同じで自己中心的思考をお持ちなのだよ!

 だから満足すればその場を去るだろう、だが未だに棺桶みたいな厨二チックな船に乗ってる限りそれなりにここに居るという利点があるんだろう。

 

 多分十中八九私関連だ。

 

「んじゃちょっと行ってくる」

「はーい!」

 

 気を利かせてか、ゼフさんが船の1部を展開させた。即席の床が出来たんだ、能力者であるルフィに少し有利に傾いた。

 

 敵は首領クリークと下っ端のギン。アーロン単独を蹴散らしたルフィにとって敗北は無いだろう。

 

「ぐぇ」

 

 ルフィを見送ると服が引っ張られた。待て、首が締まる。

 

「来い、と言っていただろ」

「や、やァミホさん……」

 

 少し不機嫌そうに顔を歪めるミホさんと目が合った。

 

「俺を動かすなどお前くらいしか出来ん」

 

 呆れ声と共に呟いた言葉に首をかしげた。

 

「甘味は?」

「俺を動かすなどお前と甘味くらいしか出来ん」

 

 丁 寧 に 直 し や が っ た !

 

「何用ですか?」

「少々ネタが欲しいだけだ」

 

 ネタ?

 

「…『わけが分からない』という顔をしてるな」

 

 分かりません。

 

「これから赤髪の所へ行こうと思ってる」

「なるほど、それで話のネタが必要と」

 

 そうだ、この人何の用もないのに人に会えない人だった。

 ……だからと言って私と会う口実に『鍛錬』とか付けないで欲しい。

 

 

 ルフィがクリークと口喧嘩の状態になって争ってるのを尻目にミホさんは私を抱え込む。

 

「………脱走禁止ですか」

「ここで離すと空へ逃げるだろう」

 

 副音声で『聞きたいこともあるんだが?』と言ってるようにしか思えない。つーか話のネタとかはついででこっちが本音のような気がする。

 

「はいはい…それで?」

「まず一つ、曖昧なままで終わった『海軍脱退』についてだ」

「……ミホさんそんなに頭良きでしたっけ?」

「そんなに回らん」

 

 ルフィはクリークに近づきたくとも様々な武器に翻弄されているせいか苦戦を強いられてる。

 

「自負するですか」

「だがお前達を知っていれば簡単だぞ?」

 

 私()

 

 サンジ様が興味深げに両方の様子見ている状態で話を聞くのは拙いけどミホさんは頑固だから正直『待て』が出来ん。

 

「あの2人と、少なからず渡り合えるお前が。生まれと育ちが犯罪者だらけの状態に危機感を持ってるお前が」

 

 あの2人は多分クロさんとドフィさんだろう。仲良くはないが良く絡まれる。特に鳥、鬱陶しい。

 

「わざわざ自分の守りを緩めるとも思えん」

 

 ……多分この結論は七武海の彼だからこそ辿り着けたんだろう。私の性格を知っていて、実力もそれなりに知っている。

 愚直なバカが気付いているのならミホさんより賢いクロさんとドフィさんとくまさんが気付かないわけがない。

 

 くまさんは青い鳥(ブルーバード)としても革命軍関連で情報交渉が出来るくらいだから、尚更な。

 革命軍には疑われてるだろう。

 

「はー………。嫌になる」

 

 謎は分かっても意図は分からない、と言った事だろうか。

 私が雑用だと思ってるから重要な役割の『潜入』が繋がらないんだろう。多分ドフィさんは確実に気付く、女狐が消えたという噂が流れない限り。

 

「『生まれ』はどうしようも無いです。問題はそれにどう『立ち向かう』か」

「…?」

「より『自分の望む最高の結果』に繋ぐ事が何より大事なのですよ」

 

 サンジ様が聞いているならこの言い方で良い。

 

 私は海賊討伐という形で『立ち向かい』海軍に敵は海賊という印象をこの10年で築いた。殺しは、出来なかったからサカズキさんに良く怒られたがね。ノープロブレムキミは私の上官じゃない。

 

 とにかく私は『信頼と実績と立場という望む結果』に繋ぎあげた。

 

 

 女狐という名前は私を知らない人間に。

 私という存在は女狐の皮を知る人間に。

 

 要約すると『よっしゃこれで処刑フラグはある程度免れたぜ!』って事ですわ。

 貢献の実績持ちの大将、又はみんなの天使(笑)を簡単に処刑出来るか、抑止の声普通にかかるわ!って感じ。

 

 もっとも恐れるは命令と称し政府の影でこっそり消される事だけど五老星が大将に推してくれた事も潜入して呼び寄せれないという事もプラス要因として働くだろ。

 

「……話すつもりは無い、と」

「ご名答」

 

 シリアスに悩むミホさんだがすまん、ぶっちゃけるとルフィのストッパーが主な役割だ。ストッパーが役割を果たして無いことは気にすんな、どうせ細かい事だ。

 

「なァプリンセス」

「……?」

 

 サンジ様が視線を合わせて屈んだ。

 

「あいつは何の為にあんなに戦うんだ?」

「何のため?」

 

 ……多分考えてないと思う。

 

「沢山の武器を持った賞金首に何度も向かって行くのは正気とは思えない」

「…それを何故私に聞くのですか?」

「キミが理解者であると思ったからだ。見た目の割に聡明な事も踏まえて」

「……まァ、何となくは分かりますた。答えは簡単です『馬鹿だから』」

 

 あやつの馬鹿さ加減を舐めるなよ、己の進む道に障害が有ったら全力で物理破壊していく馬鹿だぞ。正直無邪気さも含め一番自己中心的思考の人だと思う。

 

「馬鹿?」

「そうです。己の利を考えず、感情論のみで行動する馬鹿」

 

「…それなのにキミ達は付いて行くのか?」

 

「はい、ルフィだからこそ」

 

 主に暴走関連でなァ!

 ホントにいい加減大人しくしてほしいモンキー三世代!

 マジで!被害被るの私じゃねーかよ!

 

「馬鹿、か……」

 

「あいつはホントに馬鹿だけどよ、その分人の内側に入り込むのが得意なんだよ」

 

 応急処置を終えたウソップさんが会話に参加してくる。ミホさん見てビクッてなったのはスルーしてやる。気持ちは分かるから。

 

「裏表が無いからな、それに勝手だから信じざるを得ないんだよ。俺が船に乗る時あいつなんて言ったと思う?『俺たちもう仲間だろ?』だってよ!ハハッ…勝手に内側に入り込むどころかあいつの内側に入り込まざるを得なかったんだ」

 

 クリーク相手に善戦しているルフィを思わず遠い目で見る。自己中を好印象として見るなら最適だな。

 後で胃薬飲んどこ。

 

「ゾロとリィンがどういった経緯で入ったか知らねェけどナミだって所属してた魚人海賊団ぶっ壊して仲間に引き入れたんだぜ?」

 

 あれは腹減ってたのもあったから利用させてもらった。8割ほど本気だけど。

 

「だから腹くくれよ、サンジ」

 

 ……なんで?

 

「物事諦める方が楽だぜ〜?」

 

「俺の生きざま…、どう『立ち向かう』か」

 

 ポツリと呟いた言葉に嫌な予感を感じた。

 

 あれか?『王族』という物の正反対である『海賊』にでもなるとか言い出したりしないよ、ね?嘘だよね?

 私のせいか?私のせいなのか?私は素直に自分を案じただけだしそれを選択するなら『コック』だろ?なんで少し希望を込めたような瞳でルフィを見るのかな?

 

「胃が痛い………」

 

「あァそうだ、ホントに恐ろしいのはこいつだからな」

「は?」

「実力もきちんと備わってるし何より相手の嫌がる事を道徳と捉えて逃げ道を塞いでいくコイツは誰がどう見てもただの鬼畜だ」

「誰が鬼畜ぞ」

「状況によっては敵に同情するから」

 

 例えば魚人を頭突きで倒すとか…、と言葉を続ける。

 あれは悪かった、歴戦の兵士相手には侮辱もいい所よ。

 

「おいおいコイツは戦いにすらならない、と相手に精神的な屈辱を与えるのかってな」

「ほぉ、面白い勝敗のつき方がしたものだなやはりお前は強き者だと納得する」

 

 外堀を埋めるな!私は強き者とか要らない!出来れば弱くて守ってもらえるか弱い乙女ヒロインポジションがいい!

 と主張すればサンジ様とウソップさんから驚愕の表情をいただきました。

 

 ……なんだその『お前がか弱いヒロイン?無理だろ?』みたいな顔は。

 ほーほーそうですか第3者の目線が入るとそんな評価になるんですかサンジ様。プリンセス扱いどこいった。

 

「あ、あの…たたた、鷹の目…さん」

「………なんだ」

「ッ、貴方の言う強き者ってなんでございましょうか……」

 

 ウソップさんが恐る恐る聞いた。

 

「………。生きてるだろう?それが強き者の証拠だ」

 

 おや?シャンクスさんの所でエースと聞いた時と少し違うな。

 生きてる?

 

 

「M・H・5!」

 

 突如毒の霧が発生した。

 

「っ!?」

 

 もちろん毒の耐性なんて付いてる奴も居ず、下っ端ギンはガスマスクを付けている。

 

「しゃらくせぇえええ!消え去れド畜生!」

 

 霧を散らすと毒で血を吐いているルフィと何が起こったのか分からない敵さんが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───生きているだろう? (大剣豪)の全力を受けてもなお。




心の中でサンジ様呼び確定。
サンジの意識がクリーク海賊団じゃなくてどっちかと言うとミホークたの方に向いているのでギン裏切らず!
心の中と周囲の温度差。

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