2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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リクエスト番外編


番外編7〜イルくん〜

 1人の厄介な海兵に出会った。

 

 このままじゃマズイ…、拠点にも帰れねェし海兵に見つかるのも海賊に見つかるのもどちらもマズイ。

 

 腹をくくって俺は1人の女の所へ向かった。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「ひま…」

 

 海軍本部の窓拭き掃除をしてる今暇では無いのだが、エースが指名手配されても待機って何か動いてないと不安でたまらない。あ、エースがじゃない。わたしの身の安全が、不安。

 

 何か気分転換でも出来ればいいんだがなァ……。

 

「おい」

「…へ?」

「お前雑用のリィンだろ、上に目ェ掛けられてるっつー生意気な糞ガキ」

「気の所為です」

 

 こんな気分転換は欲しく無かった。

 

「いやいやいやいや気の所為じゃねェだろ!?」

「私をこれ以上悲しき気分にするな、です!……マジで…ッ!」

「お、おう…なんかすまんかった……」

 

 私の必死の訴えに大人しく引き下がってくれた。良識のある人で良かった。

 

──サァ…

 

「ぐぇっ」

 

 腰に何かが巻きついたかと思えばそのまま引っ張られる。腹がしまる!

 

「す、砂…ッ!?」

 

 砂と言えばただ1人七武海のクロコダイル先輩としか思えな…待って!待ってこの砂私をどこに連れていくつもりなんですかぁぁぁぁ!

 

「こけるこけるこけるぅぅ!」

 

 

 そのままどこかの部屋に連れていかれるとその部屋は真っ暗。

 なんで真っ暗なんだよ。

 

「ク、クロさん?いるです?」

「あァ………少し、助けろ」

 

 いつもより高い声が聞こえる。

 え…あの自己中でプライドの高い推定クロさんが頼み事!?しかも〝助けろ〟とはっきり明確にした!?お、おいおい一体何があった。

 とりあえず明かりを付けないと明かりを。暗くて見えない。

 躓いて転けたら痛いもんね。

 

「助けるしろ?」

 

 炎を発生させるのも良いけどクロさんにはまだバレてないからこのまま隠し通したい。

 

「あ、点いた……。クロさん御用(ごよう)け──」

 

 明かりが点いた事を確認して振り返ると思わず言葉を失った。

 私は人の見分けがつかない。慣れれば分かるけれど大体同じ様な顔に見えてしまうから。でも今回は顔の判別だとかそんな程度のレベルじゃない。

 

 クロさんは確かに目の前に居た。

 ただ、服だけ。

 

 

「………なんだよ」

 

 クロコダイルという人間はそこにいなくて代わりに6歳くらい男の子が1人居た。

 本部に男の子が紛れ込んでいる?え、ここの警備大丈夫なの?

 

「………………………」

「おい止まんな」

「…………ま、まさかとは思うぞですがそちらなる口の悪き物言いは七武海のロリコダイル先輩ではごじょりませぬか」

「口調!それとなんだロリコダイルって!ふざけるな」

 

 ふざけてるのはあなたの格好だと思います。

 

 

 それにしてもこの子供がクロさんね、なんでちっさくなってるのか…、ちっさく、これが七武海…、これが…──。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「バ、バカうるせェ…!」

 

 衝撃の事実に驚き大声を出すとチビクロさん(仮)は慌てて私の口を(ふさ)いだ。

 

「黙らねェとテメェの体が無くなると思え…」

 

 あ、この人クロさんだ。

 

 無言で何度も頷くと納得してくれた様で距離をとった。

 

「何故そのような事に…?」

「あ゛ァ?そんな事分かってりゃテメェに頼りゃしねェよ」

「確かにですぞ〜!さて…ドフィさんの所へ…」

「悪魔の実の能力は健在だが?」

「ごめんなさい」

 

 弱点を握ったと思ったのに暴力には勝てなかった。くすん。

 

「青髪の女海兵に触られた。多分奴だ」

 

 チビクロさんがため息を吐きながら呟く。触れて体を若くする…確実に悪魔の実の能力だよな。

 トシトシの実かモドモドの実が最有力候補だけど…。海兵にそんな能力者居たかな、全員把握してるわけじゃないから確定じゃないし戻すには本人の意思が必要。

 

「面倒…」

 

 思わず本音がポロッと零れるとチビクロさんは舌打ちをした。

 

「頼れるのがテメェしかいねェんだ……、不服な事に」

「何故…?クロさんになれば部下も存在し──あァ…情けない、と」

「事実でもはっきり言うんじゃねェよ」

 

 クロコダイルという人間は七武海の古株であり海賊団の船長。いや、彼の場合会社として成り立ったトップ。

 

「油断して能力食らって子供になるなど愚の骨……あ」

「…ほォー、随分殺されたい様だな」

「ご、ごめんなさいぃぃぃぃい!」

 

 彼の右手が砂に変わったのを見ると誠心誠意土下座する。

 思ってた事が口から飛び出た!私の口にチャックは付いてないのかな!?

 

「まず服が欲しいな…」

「用意はするですが文句は、その…」

「流石に言わねェよ、俺の服じゃこの通り歩くことすりゃままならねェ」

 

 ブカブカな服からちまっと手を出すチビクロさん。確かに過ごしにくい。

 だが、言ったな?文句は言わないと言ったな?言質とったぞ?普段ストーカーとタッグ組んでる自分を恨めよ?

 

「じゃあ私の古着で」

 

 は?と素っ頓狂な声を出すチビクロさん。

 

「とりあえず能力の解き方ぞ判明するまで私が面倒見るです……。私しか居ないですよね?」

「いや、そうだが、古着って事は、なんだ、お前の使った後を着るって事だよな…?」

「はいです。保存するしてるです故」

「……お前の性別はなんだ」

「ゴア王国フーシャ村の市民登録上は女です」

 

 市民登録というのは前世でいう戸籍。村長又は海軍支部があればそこで住民の数などを紙に記して結婚の有無や子供の有無などを保存している。

 私はフーシャ村出身じゃ無いけどルフィと揃えられてフーシャ村に市民登録があるらしい。

 

 海軍に入ったりする時住民登録してあると働きやすいんだよね、素性だとか調べるの便利だから。

 

 ちなみに海賊になると住民登録は意味をなさなくなる。無戸籍無戸籍、前世だと大問題だね。

 まァ今は治安が悪いせいで住民登録して無い人がいるから日本みたいに必須事項じゃないからそんな大問題じゃないけど。

 

「男の俺に女のガキの服を着ろと」

「私ご存知と思うですが女らしさの服より機能性を重視するた服が多きです……まぁ雑用服が主ですが」

「他にねェのかよ ほ か に !」

「んーーー…数着、着るが嫌で新品が存在するですが…」

 

 ホッとした表情に変わるチビクロさんに爽やかな笑みを向ける。

 

「お前の笑い方気味悪いぞ…?」

 

 酷い。どこからどう見ても爽やかな笑顔じゃないか。

 

「で、その服は?」

「蛇姫と言う方がお揃いで贈りつけ…──」

「古着寄越せ」

 

 即答だった。

 

 

 

 フッフッフッ……。某鳥さんみたいな笑い方になっちゃったけど「新しく服を買ってこい」なんて言われないで良かった。

 いいかい皆の衆、自分にとって最善案を相手に選ばせるには『自分と相手が嫌な事』をもう一つの選択肢に入れて最善案を無理やりもぎ取れ!逃げ道?そうならないように言質は取っておけよ?

 

 ……私の誰に話してるんだろう。

 

「変な顔してねェでさっさと服よこせ」

 

 幼女の着た服を欲しがるだなんてやはりクロさんはロリコ…───木箱が枯れた模様なので大人しく従いましょう。うん。

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 ぽてぽてと付いてくるチビクロさんに少し萌えながらとりあえず本部から場所を移そうという事になりお散歩中。

 一応私の荷物を置いてこないといけないから雑用部屋に向かってるけど、この人どうしようかな。

 

「クロさんこれからどうするですか?」

「仕留める」

「いや、能力を解く方法ぞ訳では無きですてね…」

 

 と言うか仕留めるってと言葉が出た時点で異常だわ。誰とも知らぬ海兵さん逃げて。

 

「それをなんとかする為にテメェに助けを()()()()()()借りたんだろうが」

「不本意強調禁止………」

 

 この人は他人にこうなった事をバレたくないんだよね、どうしようかな…。私個人じゃ捜索も限られるし誰かに協力を押し付…頼むのも難しそう。

 

「拠点にはまず戻れ無いだろうな……」

「ひとまずの寝床確保が最優先ですか?」

「1人でも野宿くらい出来るがマリンフォードだと難しいそうだな」

 

 マリンフォードは海軍本部がある分治安が良い。だから孤児だとかホームレスだとかの人間は他の島に比べて圧倒的に少ないから浮いているのは火を見るより明らかだろう。

 

「雑用部屋ならこっそり寝泊まりは可能と………」

 

 宿に行くとお金がかかるしきっと私持ちになるだろうしいざ戻ってしまった時に対処出来ないし何より嫌そうな顔してるクロさんの為になら雑用の皆に頼み込める気がする。

 まァ大人の時用の服は私がリュックに入れると見せかけてアイテムボックスにしまいこんでるから離れるのは本人にとってもきつい、折角若返ったんだから屈辱…じゃなくて男の人に可愛がられるハーレムを楽しませてやろう。

 

「クロさん呼ぶだとバレるですね」

「は?バレないだろ?」

「バレるです」

 

 リックさんは情報に関してめざといから私が七武海のお茶くみしてるのも知ってるしバレる可能性がある。

 バレても面白いけどギリギリまでスリルを楽しみた…楽しんでもらいたいです。決して私の娯楽じゃありません。

 

「チッ」

 

 クロさんの舌打ちは『不服だけど従う』という無言の表れだと言う事くらい知ってる。

 呼び方を変えるのとバレる可能性を上げるの、どちらが良いか考えた結果だろう。一体何年の付き合いだと思ってるんだよクロさんは……、キミをからかう為の努力は惜しまない。やだ私ったら努力家♡

 

「ロコ、クロコ、ダイ、クロノダイル、ノ?コーダ、コーダはどうぞ?」

「ネズミだろ。却下」

「は…!イルくんは!?」

「なんで〝君〟付けだ!却下に決まってるだろ!」

「あれぞ嫌これぞ嫌…キミに、そんな、権利が。頼るする、私に、文句を言う、権利は、存在可能───です?」

「……」

 

 突かれたくない所をつかれて押し黙ってしまった。

 

「とりあえず雑用部屋にこっそり匿う記憶喪失の少年イルくん」

「記憶喪失居るかァ?」

「細かき質問を今から打ち合わせ可能と?第1雑用部屋の面子に少しなる説明が必要故に面倒。説明の逃亡が可能。ほら、アレです。〝逃亡は勝利〟と」

「〝逃げるが勝ち〟」

「それですた」

 

 落ち込んでるのか呆れているのか分からん。でも私の言葉を一々直してくるのは微妙に腹が立つ!

 

「もう日暮れ故に雑用部屋戻るが最良と………」

「……。」

 

 見るからに嫌そうな顔をするイルくん。

 仕方ないじゃないですかお金使わずにクロさんの要望を通したらそれ以外嫌がらせに有効な手段は思い浮かばなかったんですから。

 

「イルくんイルくん」

「………なんだ」

「女の子みたくに可愛い」

「消すぞ」

 

 冗談抜きで可愛いんだけどなァ。

 

「おいリィンそのガキどうした?」

 

 背後から嫌な声が聞こえた。

 チビクロさんと目を合わせるとすっごい顔が語ってる。

 

『 に げ ろ 』

 

 ははーん。嫌がる顔を見るのは至福だが……同意する。

 

「ど、どうしたぞ───」

 

 振り返りチビクロさんを背中にかばうように声をかけた人間の名前を呼んだ。

 

「──ドフィさん」

 

「質問してるのはこっちだが?」

 

 三メートルというもはや人間の成長期の根源を覆すピンクのモフモフ野郎が気味悪い笑いを浮かべて見下ろしている。

 

「イルくん…保護対象です。よって関わる事禁止」

「つれねェなァ……」

 

 そう言うと私の頭に手を置いて空いてる手を背中に回した。

 おい待て!

 

「フフフ……捕まえた、イルくん?」

「は、離せ!」

「おーおーこりゃ威勢のいいガキだな」

 

 自分の顔に近付けて猫を摘むように観察する。

 

「おい鳥野郎!離せ!」

「鳥野郎ね…フッフッフ……!鰐みたいに生意気じゃねェか。どーだ、俺が保護してやろうか?」

「却下、写真撮影終了故にイルくん離せです」

「お、お前!写真撮ってたのかよ!」

「………。」

「顔背けるな!」

 

 キミ達七武海の面白写真は何度もこっそり撮り溜めてますが?初任給の3分の2くらいのお金使いましたが?

 

「はいはいイルくん帰るぞね〜……さようなら天夜叉殿!そして死ね!」

 

 地面に下ろされたチビクロさんの手を引っ張って一刻も早く変態から離れる。

 

「おまえ…なんであいつそんなに嫌ってんだよ」

「外見と内面以外に判断不可能」

「……なら俺のところに来りゃいいじゃねェか。それならあいつも手は出さないと思うが?」

「うん、口説き文句は体が戻るしてから言うしなければ笑うぞ」

「枯らす…ッ!」

 

 私より背の低いクロさんが勧誘してる姿はなんとも笑える。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

「は、初めまして…イルだ」

 

 ピクピクと怒りを堪えながら挨拶をするクロさんもといイルくん。

 

「おー、暫くよろしくな〜」

「うわっ、わっわ…!」

 

 大人の人の腕力に敵う筈もなくもみくちゃにされる姿をニヤニヤしながら観察する私。

 

「お、おいリィン!助けろ!」

 

 普段の威厳もクソもない様子で叫んでる七武海もとい記憶喪失のイルくん。

 

「そう言えば今日は七武海居るって聞いたけどなんかあったかい?」

 

 それを無視して他の雑用の人と話をし始める私。

 

「……服を脱がせて服を手に入れるした!」

「テメェに恥じらいというモンはねェのかぁぁぁぁ!」

 

 顔を真っ赤にしながら叫ぶクロさんを無視してピースをすると質問してきた海兵は首を傾げた。

 

「クロコダイルさんか?」

「なんで分かんだよぉぉぉぉーー!」

「イルくん黙る」

 

 そのセリフだけでイルくん=クロさんの方程式と、分かる=否定出来ない=事実という方程式になるのが分からないのか?あれか、焦ると思考回路がタイムスリップするのか?

 

「おい………もうそろそろ寝かせろよ…」

「悪ぃなジャイアン!」

「…………俺はグレンだと何度言ったら理解すんだよ…ッ!」

 

 名前間違いしてるって事はリックさんか。人のこと言えないけど。

 

「常識人グレイさん!」

「リィン、リックと同類になりたいのか」

「ぐ、れ…い」

「グ レ ン」

「ク……イルくんはどこで寝るするです?」

「は?………あー……リィンの布団でいいんじゃねェか?」

「あ……」

 

 そう言われて気付いた。

 第一雑用部屋は寝相が悪いんだったか。

 

「イルくんおいで」

「………………………………。」

 

 ムスッとした表情でぽてぽて近寄るクロさん。可愛いなぁー。ちっさいのは無条件で可愛い。

 

「いだ」

「フンッ」

 

 無言で蹴られた。

 この扱いは解せぬものがあるぞこんちくしょう。

 

「おーおーごめんぞ。撫で撫でする?」

「いるかクソが」

「酷い」

 

 雑用のみんなにもみくちゃにされて跳ねた髪。クシどこやったかな……。

 クロさんオールバックで固めてるから普段わからないけどすっごい綺麗な髪してるんだよな。私より。

 

 もう性別入れ替えてもいいと思う。

 

 腕を引っ張って背中から抱きしめる様な体制にして髪にクシを通す。はー、サラサラ。羨ましいからぶち抜いてやろうかな、数束。

 

「お、おい。抱くな」

「うわっ、そのセリフエロき。マセガキ」

「……元に戻ったら覚えてろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しこたま脳天に拳が降り注いだのは後日の話。

 恩を仇で返すとはこの事だ。

 




ネタ提供ありがとうございました!
初登場(笑)イルくんです!この後数日して自然に戻りましたよ!
もちろん数日間はからかい放題です。

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