そのガキはある日突然やって来た。
「ガープさん勘弁してくれよ…ただでさえエースに手を焼いているのにその上あんたの孫だって?無茶に決まってるだろ」
「なんじゃ、一生ブタ箱で過ごしてもいいんじゃぞ?」
「それだけは…!でも、まぁ、そりゃ、時々ブタ箱の方がいいんじゃないかって思うけどさ……」
「とにかく儂は決めたんじゃ!」
「とにかく無理は無理だっていってんだ!!」
「なんじゃと!!」
ダダンの家に帰ると叫び声が聞こえてガッカリした。ジジイが来てるということと、新しく居候が増えるのかということだ。
山道往復修行を初めて数ヶ月。もう山道に慣れたからいっそサボと森で暮らそうかと思いながら扉を開け、思わず目を見開いた。
「……」
そいつはガキだった。俺もガキだと思うけど俺よりずっとずっと小さくて首をこてんと傾げるだけで何の変哲もない、ただのガキだ。
「だからガープぅ!…───」
2人の言い争いがヒートアップしてこのままじゃあのガキは踏み潰されてしまうんじゃ無いかと思ってしまい思わず連れ出そうとして声をかける。
「おいお前」
言ってはみてもガキだ。きっとただのガキが返事なんか何もしないと思っていた。
「にっ」
でも不思議な事にそのガキは返事をした。反射的なものかもしれないがくりくりした目をこっちに向けた。
「こっちに来い、巻き添えくらうぞ」
可愛い。
そうとしか思えなかった。
ガキの扱いなんか全然知らないし何をすればいいのか全く分かんねぇから不安だけど、ここに来たからには俺の妹分だ。
外に出てふと考えてみる。
──あのジジイも本気かよ…こんなちびっこい奴を普通山賊に預けるかぁ?
──めんどくせぇことしやがるぜ、海兵に仕立てあげたいんならテメェで何とかすればいいものを。
「ほぎゃん!?」
不思議な声がして声の主を見るとあのガキだ。目を思いっきり開けてこっちをじーっと見た後、首を傾げると何か考える様に唸っている。
「どうした?」
なんというか、その様子を見るだけでおかしくて。サボ以外には滅多に見せない笑顔を無意識に浮かべていた。
ガシガシと頭を撫でると目を細めて可愛い。
撫でる毎に身体が左右に動いて、それもまた面白い。
サボ以外にこんなに興味を引かれる奴は初めてで、一緒にいたいと思ったのも初めてだった。
サボに見せると可愛いなって言った。俺もそう思うけど、何だか素直に言うのも照れくさくて誤魔化したけどサボの表情を見る限りバレてると思う。
厄介な親友だな。
そう思ったけど不快感は全く無くて。これからこのガキ、リーと過ごす日々に期待と楽しみが湧いてた。
==========
「んだぁぁぁぁぁぁあぁあ!!」
虎に追われて、リーが示す方向に逃げて数分後、体力も限界が近付いてサボも息が上がってこのままじゃやられてしまうと思ったその時、リーが叫んだ。
凄い声で思わず後ろを向くとカクンと眠りに落ちたみたいで思わず心配になるけど今現在隙を見せるのはやばいと思って虎に向き直す。すると……。
「ガルルルル!?」
──ドコォ!
岩を砕いた虎の腕力にも負けないほどの力が虎に降りかかって、そのまま崖の下の川に落ちていった。
「え………」
何が起こったのか分からなくてサボを向くけど多分俺と同じ顔をしてたんだと思う。
「どういう…」
「サボ、お前何かしたのか?」
「いや、俺は逃げるのに精一杯で何も……エースは?」
「してねぇ……」
「だよな…」
逃げる、という行動の大変さ。敵に気を配りながら逃げ道を探して攻撃を避けていく大変さをサボは知っている。だからこそ俺たち〝2人〟じゃないってすぐに分かった。
だから必然的に残るのはただ1人。
「リーか……?」
「でも…リーみたいなちっさいガキが出来るのか?」
「分かんねぇ、分かんねぇけど!それ以外考えられないんだよ!」
叫んでみてもなにも分かんねぇ。けどサボがふと何か思いついた顔をして口を開いた。
「──悪魔の実」
「え?」
悪魔の実って、なんだったか……。
記憶を探って見るけど喉で引っかかっていつまでたっても出てこない。
「食べたら特別な能力と引き換えに海に嫌われるっていう悪魔の実だよ。売れば大金が手に入るとか」
「能力?」
「リーは何かしらの実を食べたんじゃないかな。
いや、そうとしか考えられない。だって普通に考えて身体縛られてる歩けもしない子供が虎を崖の下まで落とせると思う?」
「………無理だ…」
じゃあリーに守られた?
俺たちが?
本当は俺たちが守らないといけないのに?
俺よりずっと小さいガキに?
情けない。自分が情けなさすぎる。何が守るだ、守らないといけないだ。なんで俺は守られてんだ。妹分に!?俺が?兄貴が!?
「サボ…俺は自分が情ねぇ…」
「エース……」
「サボ、俺は強くなる。ちゃんとリーを守れるくらいに…守られるのは嫌だ…っ!」
「俺も、俺もだエース!考えてたんだ。リーを守らないといけないなって…でも俺守られた……俺よりずっと年下の子に…」
思わず口を開いた。サボも同じこと考えてたんだって、悔しいのに嬉しい。
「俺はリーに感謝しなくちゃならねぇ…俺が強くなる為の後押しをしてくれた。絶対強くなるっ!」
「絶対負けない…俺も、強くなりたい…!こんなんじゃ俺は海賊になんかなれない!目の前のこんなちっぽけな子供を守れなくて、守られて……」
俺たちは新たに強くなる決心をした。もっともっと力を付ける為に。
「あ……、そうだ。思い出した。
悪魔の実を食べた人間はカナヅチになるって聞いたことがある」
「カナヅチ?」
「うん、海とか水に浸かると力が抜けて溺れちゃうんだって」
「っ!ほ、本当か!?」
「うん…それとさエース。一つ提案があるんだけど…──」
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「俺、サボって言うんだ!よろしくなダダン!」
「ちょっと待ちなエース!この子どこの子供だ!」
「いーじゃねぇか、ガキの1匹や2匹や3匹…別に変わんねぇだろ」
「変わるさ!このクソガキ!」
『俺もリーの傍にいたいからお前の所に居候してもいいか?』
『はぁ?俺達がそっち行ったらいいんじゃねぇのか?』
『リーはまだちっさいだろ、ある程度経つまでちゃんとした所にいるのがいいと思うよ』
『果たしてちゃんとした所なのかな…』
『それは……』
山賊の家に、サボの居候が決定したのだった。
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