2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第62話 トラファルガー・D・ワーテル・ロー

 

 北の海(ノースブルー)のフレバンス王国…通称白い町

 

 珀鉛という鉛の生産地でその国はまるで童話に出てくる雪国の様だと言われていた。

 

 珀鉛は一大産業として国を潤して来たがそれも終わりを迎えた…。

 

 

 『珀鉛病』

 

 100年以上も前に国の地質調査でその事実を知りながらも利益に目がくらみ見て見ぬふりをしていたツケが回ってきた。

 珀鉛に含まれる毒素は身体に溜まり、生まれる子供へも悪影響を及ぼした。

 

 体に含まれる毒素の量で体が白く石化するような症状が現れるタイミングが三世代同じだった為、珀鉛病は伝染病だと思い込まれ…国と政府は、フレバンスの民を見捨て、他国へ通じる通路を八方から封鎖し隔離処置(かくりしょち)を取った。

 

 国民は憤怒(ふんど)した。

 皮肉(ひにく)にも鉛玉ならば沢山ある。

 

 彼らは攻撃に転じたのだ。

 

 なんの抵抗も無い人間相手、流石に手を出せれなかった世界政府も珀鉛病の患者に手を出せれる口実が出来た。

 悲劇は、再び起こる。

 

 そうしてフレバンスという国は滅んだのだった。

 

 

 

 

 

「……よく調べてるな」

「ドフィさんの部下に聞いたです」

 

 私はサボと共に白い町に来ていた。

 

 と言っても周囲は策やバリケードに覆われ、政府が立ち入り禁止の札を立てている為に人影も全く無い。ただ白の世界が広がっているだけだった。

 

「どうして、サボはここに用が?」

「……この国、革命軍が救えなかった国だろ?だから政府や人の闇をこうやって見て……やる気を作るんだ」

 

 下を向いて雪を踏むと地面から焦げた木の素材が見え隠れする。

 

「時々、酷く不安になるから…俺のしてる事が正しいのかどうか……」

 

 サボが空を見上げる。吐息が白く染まる。

 

「……俺、記憶喪失でさ。ドラゴンさんに拾われて流れるまま革命軍に入ったけど──本当はもっと別のやり方があるんじゃ無いかって、な」

 

 そっと目を閉じて雪を浴びるサボを見て思った。

 

 

 寒い。

 

 

 シリアス展開は分かりますよ!?でもそれで寒さを感じるか感じないかと言われたらすっごい感じるわけでして。

 

「だからといってお前ら政府のやり方には納得いかねェけど」

 

 目が開いて視線が注がれる。

 そうだよね。今ここにいる私はサボの妹の私じゃなくて世界政府の手先の私だから、その言い方は仕方ない。

 

──ズキンッ…

 

 私だってこのやり方が合ってるのか分からないけど…。私はサボと敵対する為に海軍に入ったわけじゃない。

 海賊の娘である自分を守れる力が無くて、兄を助ける力が無くて、弱っちい私は権力やツテに頼る他無かったのが現実だ。けど、本当にそれで合ってた?

 

 ルフィみたいにただ自分の夢に向かって真っ直ぐ進んでいけば、何か真実に辿り着いたかもしれない。どこかでサボと再会したかもしれないし、私じゃ呼び戻せない記憶の蓋をエースかルフィがこじ開けてくれるかもしれない。

 

 

「私は…海軍に入った事、後悔してないです」

 

 自分が1番で不平等主義者だけど、あのままコルボ山でメソメソしていたってなんの情報も掴めなかった。

 

 船の操作も人との対話の仕方も、言葉も、体の動かし方も、人の動かし方も、脅しの方法も、守り方も、人の目論見も、変態のしつこさも、全部海に出て知った事だ。

 

「自分さえ守れればいいと思うしてた──でも、今は違う。せめて、目の前の人の笑顔くらいは見ていたい……。大切な人を失う悲しみはもう味わいたくないから…、と思うです」

「…それ、結局自分の為になってないか?」

「………そうですね」

 

 私の目標は守ること──それはずっと変わらない。

 ただ、自分だけじゃなくなってしまったのは……海のせいかな。

 と言うか自分の心の安心安全第1なのは変わらない。

 

「大将女狐は変わりモンだよ…」

「そのような大将とお話する革命軍も変わり者と思うです」

「違いねェなァ…」

 

 薄らと口角を上げる姿は──月。

 

 夜の暗さ照らす月の様だった。

 

「……! 女狐、気を付けておけ。この島に俺たち以外の誰かがいる…」

 

 ピリリと空気が変わり、張り詰めた空気が肌につきささる。

 

「1人、か…?俺より弱いと思うが警戒するに越した事はねェか……」

「わ、私も付いて行くです…」

「弱い癖に。自分の身くらい自分で守れよ、俺は敵を助ける気は無い」

「………分かってるぞ」

 

 怖さからなのか敵と言われる事になのか分からないが泣きそうになる自分を励ましながらサボの後ろにくっついて行く。目の前の人の笑顔くらい守りたいとか言ったやつは誰だって?私だよ。でも盾にするくらいの躊躇(ちゅうちょ)は要らないぜ、だって私の中では。

 

 私>>>(越えられない壁)>>>他人

 

 に変わってしまったんですから。成長?もはや自分の為になら知人を盾にするなんて事どうでもない。どんな犠牲も悲しくない程度には成長したいな!

 

 

 

 

 ギュッと雪を踏みしめる音が止まると1人、男が見えた。

 

「お前は誰だ…? 何の為にこの島に来た?」

 

 白い帽子に黒い服、耳にはピアスが付けられていて不良みたいだ。

 サボが声をかけると男は町を見る視線をそのままに立ち止まった。

 

「人に物を聞く時は自分から…って知らねぇか?」

「……………………俺、達は革命軍だ」

 

 

 少し悩んだ後に正直に答えれば男はやっとこちらを見た。いや、私は革命軍じゃないんですけどね……一々言ったって拗らせるだけか。

 

「俺はただの墓参りだ」

 

 花束をそこに放り投げながら答えた。

 

「墓参り…?」

 

 サボが違和感に気付いたのか考え込む。

 少し遅れて私も違和感を感じた。

 

 世界政府が住民を一人残らず殺したこの町の知り合いか?いや、この町はお金持ちだからとても珍しい人でないとこの町から出ない。

 伝染病として言われていたけれど政府は中毒だと知っていたからきっと一族郎党滅ぼされたと言っても過言じゃない。

 生き残りは無し、ただし、ドフィさんの所に居たフレバンスの生き残りの少年以外は……。

 

「俺の名前はトラファルガー・ロー」

 

「とら、たいがー・ロー?」

「トラファルガーだ!」

 

 また間違えたかと息を吐くとトラファルガーさんと目が合った。

 

「お前ら兄妹か…?」

 

「………あァそうだが」

 

 サボが平然と言い放つ。

 少し間が空いたのは悩んだんだろう…私は敵だから。

 

「船に来い…なんかの縁だ、茶くらい出す」

 

 サボと顔を見合わせれば先々行くトラファルガーさんの後ろをついて行った。

 

 個人的には願っても無い提案だ。敵が味方か分からないが船に乗るという恐怖はあるけど。

 

「サボさん…トラフルガーさんのスタイルに殺意が生まれるです」

「トラブルダー、だろ。め…──リィン」

「そうですたか…」

 

「お前ら兄妹何なんだ!名前を間違えるな!俺はトラファルガーだ!」

 

 

 トラファルガーさん、誤解だ。私はちゃんと理解してる!口が言うことを聞かないだけなんだ!

 

 

 ==========

 

 

 

「革命軍はドレスローザの事についてどれくらい知っている?」

 

 船に詳しくは無いけどトラファルガーさんの船であろう小型帆船に案内された私達は船長室に招かれ、お茶を出された。

 そして、コレだ。

 

 ドフィさんと関わりがあるだろうから国と関連強い革命軍にこの手の話が来るのは予想してたけど。

 

「……何故、お前に話さないといけない」

 

「………それは関係無いだろう、とりあえずドレスローザの情報が欲しいんだ」

 

「っ、年下だからって舐めるなよ…?」

 

 見た目トラファルガーさんが歳食ってるよね。背もサボより高いし…目の下のクマは気になる所だけど。

 

「まーまー…落ち着くしてです」

 

 私ってよく仲介役に入るよね、しかも結構強制的に。いつまでたってもお互い平行線のままでいそうだから寒いしさっさと話を進めたかった。

 

「おいお前!止めるな!」

「うるさい、です!喧嘩腰は聞くも出来ないです!」

「大体お前が口を挟むなよ!」

「挟むしなければいつまで続くです!」

 

 サボの怒りの矛先がトラファルガーさんから私に向かって来た。なんで!?サボって怒りっぽくない!?こんな短気だったっけ!?

 

「……顔は全然似てないのに他は似てるんだな」

 

「根本的に違うと思うですトラタイガーさん!」

「絶対似てないからなとらのすけ!」

 

「似てないのは俺の名前だ!」

 

 トラタイガーだかトラのルガーだかよく分からなくなった…。どれが正解だよ。

 

「とにかく、ドレスローバーですたら至って平和です!」

「………ドレスローザ」

「……………………意味が通じるならばそれで良しです」

 

 ダメだ、言い間違えで話が進まない。

 

「トラフルガーさんは七武海を倒すしたいです?」

「ドフラミンゴの事か」

 

 ドレスローザ=ドフラミンゴという方程式は普通の人でも分かるからそんな大した反応は得られない。

 さて、どうするかな。

 

「殺したい」

 

 わーお………思ったより過激。

 

「と言うか情報なら青い鳥(ブルーバード)に言えよ」

「そういうのが居るってのは知ってるが尻尾どころか羽すら不明だ、どこから手をつけていいのかも分からない」

「ぶ、ぶるーばーど?」

 

 サボの言葉に反応して繰り返すと二人の視線が注がれた。

 

「知らないか?」

「知ってるです」

 

 海軍や世界政府の情報をとあるルートで安価──大体300万ベリー──流している革命軍や海賊に便利な組織、情報屋青い鳥(ブルーバード)。トップレベルまで機密を知っているが渡す情報は人や時期によって選り好みする謎過ぎる組織、と言われている。

 

 情報屋は他にもいるけれどなかなか予約の取れないレストランみたいな情報屋だ。

 

 

「構成人数も不明、連絡手段も不明、連絡がついても気に入らなければ依頼は受けない………。ったく、本当に面倒臭い情報屋だよな」

「革命軍も関わりないのか?」

「まぁ…1人だけ繋がりがあるんだが最近なかなか連絡が取れない……」

 

「まァ青い鳥(ブルーバード)に頼るしなくとも情報なら私が渡すです………と言っても、元ドンキホーテファミリーさんには敵わないかも知らないですが」

「………なるほど、テメェは知ってんのか」

 

 トラファルガーさんの口角が上がる。サボは隣で首を傾げた。

 

「Dの人」

「チッ……ベビー5か」

「ちょろいですね〜、彼女。あァ、私が渡す情報は一つです」

 

 人差し指を立てるとトラファルガーさんの前に持っていった。

 

「ドンキホーテ家は元天竜人です」

「なっ……!?──その情報確かだろうな」

「本人と海軍元帥が口にしたを目撃したです」

 

 サボは私の地位とドフィさん本人との関係を知っているから納得したような顔をした。

 

「じゃあ革命軍との交流はいい。だが妹の方、お前は個人でドフラミンゴと関わりがあるのなら俺と同盟を組まないか?」

「ど、どうめい……」

 

 嫌な事に巻き込まれる気しかしないので断りたいけれども、実際革命軍に革命して欲しいと願った以上同じような目的のトラファルガーさんの行動は掴んでおいた方がいいのかも知れない…。断りたい。

 

「流石にガキ相手に囮にしようだとかは考えちゃいねェ」

「でも……」

「ドフラミンゴに恨みは?」

「多大に」

 

 形もへったくれもないけど同盟は結ぶ事になった。

 私達が同盟を結ぼうが結ぶまいが良くも悪くも自分の道を行くサボは興味無さげに口を開いた。

 

「大方理解した。とりあえずドレスローザの革命は予定に入ってるんだ。ドフラミンゴも自然と失脚する、殺すならその時勝手に殺せ」

 

 サボは残ったお茶を飲みほせば席を立って扉に向かう。

 

「お前の兄っていつもこうなのか?」

「さ、さぁ……」

 

──ガチャ…

 

「「「うわぁぁぁあ!」」」

 

 サボが扉を開くとなんか人間とクマがなだれ込んできた。

 

「………シャチ、イッカク。バラされる覚悟は出来てるんだろうな」

 

 トラファルガーさんは刀をスラリと抜くと男の人と女の人が怯えて抱き合ってる方に切っ先を向けた。

 

「船長一応言っときますけど俺は止めようとした側の人間ですからね、ベポも」

「あァ……、だろうと思った」

「ペンギンテメェ裏切るのかァァァ!」

「裏切るも何もお前はバラされる側の人間だろ」

「〝ROOM(ルーム)〟」

「ご、ごめんなさいいいいい!」

「ちょ、シャチ!あたしを置いて逃げるな!」

「ベポ。捕まえておけ」

「アイアイキャプテン」

 

 コントみたいな出来事がたった10秒くらいの間に起こった気がする。

 多分気のせいじゃない。

 

「リィン帰るぞ」

 

 コントを気にせずそう言えるサボは凄いと思う。自分の興味の無い事は無視する人ですか。

 

「はーい…お兄さまーー!」

「やめろアホ」

「酷いです」

 

「ラミ…ッ!」

 

 ふざけていたら体がグイッと引っ張られ、気が付けば目の前にトラファルガーさんの顔があった。

 ラミ………?一体誰の事だ?

 

「……」

「トラフルガーさん?」

「…………」

「おーい、もしもしー?」

 

「…! あ、悪ィな革命屋……」

「うん、流石にその呼ばれる仕方は初耳です」

 

 なんだ革命屋って。え、さてはトラファルガーさんセンス可哀想な人?

 

「引き止めて悪かった…兄貴に睨まれない内に帰れ……」

「トラタイガーさん」

「………あのな、何度間違えれば気が済む。俺はトラファルガーだ。トラファルガー・ロー」

「と、トラ…トラブルダー…と、トラフルガー…──ローさん」

「諦めただろ」

 

 諦めました。

 

 

 ==========

 

 

 故郷であるフレバンスに寄った。

 自分はあと数年で偉大なる航路(グランドライン)に入り、コラさんの仇であるドフラミンゴを討つ。

 

 

 そこで出会ったのは金髪の革命軍だと言う兄妹。

 

 

 どうしても……ここがフレバンスという事もありどうしてもラミに…──死んでしまった妹と自分に当てはめてしまった。

 

「船に来い…なんかの縁だ、茶くらい出す」

 

 なんの予定も無い、革命軍に用もない、ただ少しだけラミの面影を感じたかった。

 

 全く似てないのに。

 

 

 

 船での会話は主にドレスローザの事、元天竜人という有益な情報を手に入れたが妹の方を知れば知るほどラミへの面影が薄れた。ラミの様に騒ぐ姿はとても微笑ましいがこいつの様に聡くは無い。

 正直ホッとした、あァこいつはラミの生き写しじゃないんだと。

 

 ただラミと同じように兄がいるだけだと。

 

 

「(俺の場合、構ってもやれない情けない兄貴だったがな………)」

 

 

 自分の事を知っている事に驚きはしたが不思議と嫌悪感は無かった。

 

「リィン帰るぞ」

「はーいお兄さまー!」

 

 どくんと心臓が跳ねた。

 仕草が、声が、嬉しそうなその顔が、ラミとシンクロする。

 

 

 ──ラミ帰るぞ

 ──はーい、お兄さまッ!

 

 

 自分の父親も母親も妹も生きていたあの頃と。

 背を向けて去ろうとする革命屋達を見て、どろりと──まるでメスでくり抜かれた心臓の跡から気持ち悪い()()が溢れてくる。

 

「(やめろ、俺の前から居なくなるな…!俺は、情けない兄だけど……ッ、父様!母様!───)…ラミ…ッ!」

 

 咄嗟に手を伸ばした。

 

 革命屋は驚いた顔をしているのが分かるが会話よりもまず先に気持ちを落ち着かせたかった。

 

「(消えろ…消えろ……!消えろ……!!)」

 

「……引き止めて悪かった…兄貴に睨まれない内に帰れ………」

「トラタイガーさん」

「………あのな、何度間違えれば気が済む。俺はトラファルガーだ。トラファルガー・ロー」

「と、トラ…トラブルダー…と、トラフルガー…──ローさん」

「諦めただろ」

 

 どうでもいい話を口先だけで生む。とにかく、落ち着きたかった。

 

「お兄様と呼んでくれても……──ッ!」

 

 考えずに喋っていたせいでおかしな言葉が口から出た。革命屋は案の定ポカンとした顔で見上げる。

 

「おにーさまー…?」

「っ!」

「じょ、冗談です……睨むしないでです…」

 

 背中がゾクリとした。

 

「うん、そう呼べ」

「え…嫌です」

 

 この世に神がいるなら言いたい、「昔散々な目にあったんだから少し我が儘を言っても良いだろう?」と。

 




サブタイトルでほぼネタバレッスよね。

青い鳥は捏造です。
海軍本部世界政府の情報を流す気まぐれ情報屋、安価300万ベリーは賞金首1人とっ捕まえりゃ払えるので比較的安価かなと思いました。下手したら1億超える情報屋いそうですし…。

ちなみに名前の由来は皆さんほとんど知ってるであろうTwitterのアイコンです。安直ですね!!

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