姫様を落としてしまわないかという胃痛に悩まされながら1週間。
今度は別の胃痛に悩まされていた。
「………」
「……で、箒に乗せてここまで連れてきたと」
「は、はい………」
お説教タイムである。
「何故王族をお前の箒に乗せる…っ!」
「お、王命ぞ……」
「ぞを使うな。…王命だからといって従うな」
「!?」
え、従わなくていいの!?王命だよ!?
目の前の仏は仏じゃなくなった。
「……………お前は今何歳だ」
「8さ……、あ」
「そういう事だ。お前はまだ子供、で、その扱いが可能な国はアラバスタ王国なのだからな」
確かにアラバスタ国王のコブラ様は私の事子供扱いしてくれたし甘い王様なのかな。
そう考えてみれば断っても良かったわけか。「規則」だとか「能力に重さの制限がある」とか使えば良かったのか。
いや、コブラ様が無礼だとかそういった事に関して甘ちゃん王様だとしてもそれを言っちゃうって大丈夫なのか海軍元帥。
「……まぁ何にせよ無事に送り届けた事は褒めよう」
「…ありがとうございます」
褒められて浮かれた気分になっていると爆弾が投下された。
「今から会議の前に挨拶に向かうからな」
「え、私も出るとダメです?」
「出ないとだめですか?だ。
答えはもちろんだめだ」
ちょっと、いやかなり胃が痛くなってきた。
「ほら早く来ないか」
「練習は無しです!?」
挨拶なにも考えて無いですよ!?
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「─………───」
「…────…………─」
目の前で行われる会話に脳みそがついて行かない。
一瞬にして大勢の人間の前に立ってるんですもん。怖いに決まってるじゃないですか。しかも王族ばかりですよ!?
とん、と背中が押される。犯人は横に立ってるセンゴクさんという名前の鬼上司。雰囲気が語ってる。『さっさと挨拶せんか』って。
「──さ、先ほど紹介お預かりしました。大将女狐リィンです。就任してまだ年月はほかの方に比べ短きですが、私の持つ力最大限で任を果たすつもりでありますです」
兵士の礼を取ると沢山の視線が注がれる。うん、私頑張った。だからもう倒れていい?
周りに向かってニコリと営業スマイルを貼り付ける。
驚いてる各国王。
納得した表情の者、不満げな表情の者、興味無さげな表情の者、驚いた顔の人魚。
ぎょぎょぉおお!
いや、ホントごめんなさいネプチューン王様。黙っててごめんなさい。
「フフフフ……」
聞き覚えのある声を聞いて視線を向けると足を机に置くドフィさんの姿。
とりあえず足下ろせ。
しかし王様もそれぞれ特徴がある人間が多いな。覚えやすくてありがたいがなんでこんなに特徴的なんだろう…。
ブリキの玩具みたいな王様とかお髭のすごい王様とか魚とか巨体とか。
「まだ務めて短いこともありこの子には外で待機してもらう事にしております…」
すると1人の巨体王様が立ち上がり私の目の前にやって来た。
そして間髪入れずにその拳を振り下ろした。
え?
「……」
ピタッと目の前でその拳は止まる。
「なるほど、決して避ける事はしないのか。噂通り、守りの大将なだけある」
「……お褒めお預かり光栄、です」
「少しも動かないのを考えると度胸もそれなりにある様だ……期待しているぞ」
そう言うとその人は席に戻って行った。
一つ、訂正をしておこう。
動かなくて度胸がある、じゃない。
動けない程ビビった、が正解だ。
怖いよもー!好印象になった事は嬉しいけど怖いですよもー!帰りたいー!やだやだ帰してー!
「それでは私はこれで失礼致します」
スカートの端をつまんでお辞儀をすると何か質問されない内に外に出た。
正直これ以上あの空気を味わいたく無かったからだ。
「これが4年に1回か……オリンピック?」
あれ?オリンピックって何年に1回だったっけ……。
「よし、こっそり会議を覗いてみよう!」
「却下ぁ!」
会議の間一緒に行動しているビビ様が特大爆弾をぶん投げて来た。
「ダメ?」
「ダメです!一応世界の重大なる会議…私たちの如き子供が気軽に覗き見する様な会議では無しです!」
そう言うとブーブーと頬を膨らませた。おい、この子本当に王族か?いやいや、仕方ない仕方ないだってまだ10歳だとかそこら辺だったはずだから…。うん、仕方ないんだよ……大丈夫キレるな私。大概お姫様って言うのは我が儘が多いんだから(前世の本調べ) この子はまだ聞いてくれるだけ素晴らしい、素晴らしいんですよ。
「あ、パパだ」
「のぉぉぉお!」
私が考え事してる間に窓から覗き込んでる。
あぁもう!行動的なお姫様だこと!
「ねぇリィンちゃん。人じゃない方がいるよ…?」
「人じゃない…────見た目人で無い方は沢山いるですがどれです」
「え、一方しかいないよ?」
「え……?」
だってほら、コブラ様の前にいる王様なんてオモチャの王様だよ?なんか
「あのオレンジ色の…ほら、今立った!」
「あ…リュウグウ王国のネプチューン王族です。えーと…何かの人魚だと記憶しているです」
「リュウグウ王国?」
「はい、海底1万mに存在する国で、魚人や人魚が沢山いるです……とても綺麗な国ですよ」
外はちらっと通ったくらいだけど竜宮城は綺麗だったよ。魚人料理美味しかったし。あそこのお菓子は超絶品でキラキラしてて綺麗で美味しかった。地上に取り寄せたい。
『……───…─我ら魚人島の住民は地上への移住を希望する…──……─』
この前聞いた話だと移住の希望の署名が燃えたとか。珍しい人間の署名は保管してたから無事だが、今回の
あんなに集まってたのに紙代が勿体ないよね。
わりと冗談抜きで。
元々魚人島は他の国に比べて国土が少ない。どうしても地上からの輸入に頼って生活必需品を補給してるのだがなんせ
水に濡れるとアウトな紙類は自然と高くなってくる。
「行ってみたいなァ……」
「ビビ様が大きくなれば行けると思うです」
何かしらの機会があるかもしれない。本当に機会があれば。
お姫様を生存確率の低い所に国が行かせるわけないと思うが。
「……戻るです。私達が居る必要無いですから」
私が手を引くとビビ様は大人しく付いてきてくれる。素直で宜しい。
「………………国って大変なんだね…」
「そうですぞね……、国土や産業や、繋がりや企み、そういった事が渦巻くが国という物です…、もちろんそれ以外にも存在するですが」
「私、もっとちゃんと世界をみたいな…、リィンちゃんみたいにきちんと世界を見れるように…。アラバスタ国の王女として。1人の人間として」
外に出るとビビ様はストンと座り立派な事を言った、言ったよ。言ったけど、私もちゃんと見てないよ?現実逃避も多くて前世の常識に囚われてぜんぜん見れてない。
「頑張ってくださいです」
「………。ねぇ、リィンちゃんはどうしてそんなに強いの?」
ちょっと理解の追いつかない質問が飛んできた。私が強い?いやいやないない、だって現実からすっごい逃げるしヘタレだしビビりだし。
そりゃ一般の子供よりは動けると思うけど…、一応常識外人間が指南役をしてくれているから。でもエースやサボの方がずっと強いしルフィの方が厄介な強みを持ってる。
「………信念?」
でも、私が思う理由としてはこれかな。
死んでたまるか!っていう信念。
「…あと、出会い」
非常に強い人と権力者と大物との出会いと。
「……………守りたいと思う物、です」
私にとって1番守りたいのは自分の命。だからこそ前七武海のグラッジさんに勝てたといっても過言じゃない。
「…守りたい…物………」
ボソリとビビ様が何か呟けば何故かスッキリした顔をしていた。
「頑張ってくださいです……?」
二度目となる言葉をかけた。
数日後の世界会議最終日、その日の井戸端会議子供バージョンはある人物の登場によって終了した。
「……女狐殿」
「は、はい!何事です?」
出会い頭ぶん殴ろうとした王様だった。
「そう緊張しなくとも良い…我が国
今ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「え、あ、えっとです…。これよりアラバスタ国の方々の護衛を務める任が存在するです、故に少なくとも1週間がかかると思われるですが…」
「ああ、それで構わない。我が国の科学力を是非ご覧にいれよう…私の息子達も強い者と出会える。こちらとしては時間がかかっても来て欲しいものだ」
「あ、ありがとうございますです…」
ジェルマ王国で科学力?
よく分からないが船で調べておく必要があるかもしれない。
「それと」
「…はい?」
「ドラム王国のワポルがアラバスタ王国にちょっかいをかける可能性があるから気をつけてくれ。この様な所で国際問題は
「それは同意です…貴重なる情報ありがとうございますですた」
「では」
ジェルマ王国の王様は意外にカッコイイ人の様だ。気を付けておこう。
きっと会議で何かしらの問題があったんだなと思いつつ私はビビ様と共にコブラ様を出迎えて船に乗った。
とりあえず思わぬ事件とかトラブルとかあったけど何とかなってよかったと思ってる。天竜人の方も何も問題起こさなかった様だし。
リュウグウ王国への謝罪とジェルマ国への訪問が残ってるのが頭の痛い所だが。
薄い内容です。とても。
結局ワポルとのグダグダは大将が張り付いているということで起こりませんでした。やったね。
ジェルマへの訪問イベントという負けイベをこなさないとならないリィン。