2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第2章開始


海軍編上
第33話 上が駄目だと下は優秀


 

「ガープ中将! あんた、勝手に動くなら少しは自分の行動結果を考えて…──!」

 

 軍艦(ぐんかん)の中、堕天使の住む時空の狭間に落ちて一般とは違う経験をした転生者リィンこと私は結ぶには少々短めの金髪を青いリボンで結び毛先を揺らしながら自分の義理の祖父である海軍中将ガープにぶら下げられていた。片手で。

 ひとつ言わせろ、私は猫か。

 

「聞いておられるんですか!?」

「聞いてはおらん!」

「……………」

 

 誰だか分からないけど部下の人。こんなジジを相手にしてて大変ですね…ご愁傷様(しゅうしょうさま)です。あと貴方、フェヒ爺が時々放つ背中がぞくりとする空気…別名殺気が放出されてますよ。

 

 パチリと目が合ったジジの部下の大佐らしい人に思わず同情の目を向けると自然と眉が下がった。ご苦労様です。本当に。

 

 部下の人は自分の上司にぶら下げられて大人しくしている私の眉が下がったので泣きそうになっているのかと勘違いしたのかギョッとしてしまった。

 

「ガープ中将! とにかくこの子をどうするつもりなんですか!」

「どう、って海兵じゃ! 海兵にすると決めたんじゃ!」

「あんたのその言い分で、いきなり少年を風船に括りつけてジャングルに飛ばし! 泣きながら別の隊の兵に保護されたその少年を私が村に届けた後、元帥にしこたま怒られた経験をもう忘れてるんですか!」

 

 絶対十中八九ルフィの事だよな。何やってんだ海軍の英雄。いや、海軍さん、この人が英雄でいいの?

 

「あ、の。少しながらドドンパさん望み宜しいでごぞりでしょうか?」

「あ、はい?え、私ですか?私はドーパンです」

 

「肯定、ドードンさん」

「ドーパンです」

 

 私の不思議語に大佐さんが首を傾げると意を決して口を開く。

 

「背中の傷……限界お迎え致した……」

「背中の、傷?」

 

 さっきっから服が擦れてじんじんしてすっごい痛いんですけど…。

 

──ポタッ

 

 何か雫らしきものが地面に落ちた音がした。そこはかとなく嫌な予感がする。

 

「「「「「血?」」」」」

 

 周囲でジジと大佐さんと私を遠巻きに見ていた海兵さんたちが同時に呟いた。

 

 圧倒的やっちまった感……。

 

「───っ中将!さっさとその子を渡して下さい!!」

 

 大佐さんの声が甲板に響いた。

 別に私悪くなかったわ。

 

 

 ==========

 

 

 

「背中に大きな切り傷、おまけに高熱──」

「──色々ござりますたです!」 

 

 医療室で船医さんがため息を吐く。

 

「眠気は?」

「杉の木の高さよりの恐怖のおかげで皆無ぞ!」

 

 未だにあの高さを思い出すだけで足がガクガクします。やばい、トラウマを作ってしまった気がする。

 高いところ率はそんな無いと思うんだけど。あ、石壁の天辺(てっぺん)から落ちたのも原因なのかな。うーん、でもやっぱりそこでは怖くなかったなぁ。

 

「えーっと、お嬢さん…」

「……はい?」

「ベッドに居るのなら本を読んでもいいから、ゆっくりしてなさい」

 

 ポンと私の頭に手を置いて船医さんは甲板に向かった。

 

「ありがとうごじゃります……」

 

 本か。そういえば新聞を読むだけで本はなかなか読む機会無かったな……。チラリと本棚らしい所を見てみる。

 

『医学書〜人体の構造〜』

『薬学調合』

『治療 上級編』

『免疫生物学』

『外傷専門診療ガイド』

 

 完璧読む気失せた。

 

 

 

「はぁ……」

 

 眠くは無いんだよな、じんじんして眠気が削り取られる。熱は可燃ごみの日よりずっと楽だから比較的平気かな。

 

 ゴロンと寝転がってみると面白そうなタイトルが目に入った。

 

『悪魔の実大百科』

 

 へぇ…こんなのも置いてあるんだ。私の悪魔の実(仮)は一体何なのか調べるのもいいかもしれない。

 

 座り直して本を手に取ってみる。厚みのある本は辞書サイズ。流石は図鑑だ。鈍器としても使えそうなサイズだ。

 

 超人系(パラミシア)を中心に調べていくのが妥当か。

 

 ペラペラとページを捲りながら目を通していく。ゴムゴムの実しか知らないから案外勉強になる。

 

 

 えーっと私の能力の特徴は今のところ

 

 ・風を操れる

 ・火の発生と操作

 ・氷の発生

 ・真水の発生と操作

 ・大地の隆起(りゅうき)沈降(ちんこう)

 ・無機物の操作

 

 ・アイテムボックス

 

 これくらいだっけ?

 

ㅤ相変わらず馬鹿でしょと言いたいくらいの集中力が必要になってくるけど、やろうと思えばそれなりに使える、と信じている。集中する事に気を使いすぎて怪我をしたり、背中の傷の様に間に合わないと変な受け止め方をしてしまう。リスクとリターンが合わない場合は完璧邪魔。

 

 落ち着ける環境で試してみないと分からないこと沢山だ。

 

 比較的使い易いアイテムボックスの中身は劣化するし。……時が止まるのは定石(セオリー)じゃなかったんですか。

 

 そして魔法(仮)は人に向けて使える時と使えない時がある。

 

 ブルージャム海賊達相手には使えなかった、集中はしてたはず。でもあの刺青の人には無意識で使ってしまっていた。

 

「分からぬ……」

 

 海賊には使えませんとか? もしかしたら熱がある時は使えますとか? 毒がかかったから使えるように? それとも大怪我したから? それとも狭間に飛ばされたから?

 

「うん……」 

 

 考えても意味がない。やはり実験するべきか。

 いざと言う時使えないと困る。

 

「あれ?」

 

 ページが終わった…。火単体だとか氷単体だとかそんな能力はあったけど元素の違う物を同じ人間が使える事例が殆ど無い。

 

 超人系(パラミシア)だけじゃなくて自然系(ロギア)動物系(ゾオン)も全部調べた。でも、無い。

 

 もしかしてまだ発見されてない悪魔の実?

 

「まさか……」

 

 そもそも悪魔の実の能力者じゃない?

 

 

 いやいや流石にそれは無い………と、言いきれないのが怪しいんだよね。

 生まれてきた時から自我はあるし記憶もあるから分かるけど、ルフィの言っていた『すんげェマジィ果物(悪魔の実の特徴)』を食べた経験が無い。

 

「特徴………」

 

 悪魔の実の能力者は海に浸かると力が抜けて動けなくなる。真水もほぼ同様。

 

 この特徴を試せばいいんだ。川に入る機会はあったけど意識を刈り取られた状態で浸かっちゃったから意味が無い。

 でも、もしも、いや、ほぼ確実に悪魔の実の能力者だった場合は力が抜ける、つまり死んじゃうという事でございますよね…?

 

 そんな危険な賭けをやってたまるか。

 

「埒があかぬ……」

「何がじゃ?」

「あ、ジジ」

 

 項垂れて呟いた声に反応があった。扉を開けて入ってきたのは先ほどまでドーパンさんと言い争いをしていたジジだった。

 

「悪魔の実について調べておるのか……?」

 

 私の持ってる本を見て不機嫌そうに眉をひそめる。

 

「こ、肯定! 海賊には能力者多いと聞くので対処法を考えておったのでごぞりんす!」

「ほぉ! 偉いのリィンは!」

 

 不機嫌な表情から一変、嬉しそうに笑うとガシガシ頭を撫でた。痛いんですけど。

 どうやら悪魔の実の能力者や海賊に対していいイメージ無いらしい。まぁ海軍中将なら仕方ないか。

 

「悪魔の実の能力者には拳じゃ!」

 

 いや、悪魔の実の能力者じゃなくても死ぬから、絶対死ぬから。岩を砕けるおじいさんの拳。そもそも普通の人間にそんなこと出来ませんから。

 

「それでは駄目でしょう…」

「えっと…ドダードさん……?」

「ボガードだ。──まず悪魔の実の能力者は海に浸かると力が抜けて無力化出来る。それ以外だと武装色の覇気で攻撃出来たりなどだ。ただこちらは能力の無力化は出来ないので注意しろ」

 

 覇気は知ってるんだ。覇気じゃなくて能力者かどうか判断したいだけであって…説明しづらい。

 

「後は海楼石くらいか……」

「かい、ろー、せき……」

「あぁ、海の成分で出来た石。海と同様の効力を持つので無力化出来る、というわけだ」

 

 海楼石…なんだか名前から物騒だし、高そう。触れることの出来る機会が来るだろうか。

 

「ちなみにこれが海楼石の錠だ」

 

 ボガードさんが懐から取り出した青みがかった石の手錠を取り出した。

 すぐそこに機会がありました!!

 

「お触り、許可願い……」

「ん?構わん。ほら」

 

 海楼石の錠を手のひらに乗せてくれるので持ってみる。

 ひんやりしてて、固くて……────普通の石と変わらない。

 

 

「……」

 

 嘘だろう。私は非能力者なのか?

 

 いやいやいやいやこれが偽物だって事は…。無いか。優秀そうだもんボガードさん。

 

 え、待って、ただでさえイレギュラー(能力者)がいる世界なのにまたその上のイレギュラー(非能力者)なのか? ちょっと、いや少しだけ待とう?

 人体改造だとか解剖だとかそんな事無い? 断定は出来無いけど多分あるよね?

 

「娘…?どうした…?」

 

「…………は、い」

 

「まさかとは思うが……能力者なのか!?」

「え!? まさ────」

 

 〝まさか〟と言おうとした言葉を飲み込んだ。

 よく考えてみようリィン。ここで有効な選択肢はなんだ。

 

 悪魔の実の能力者という異能性(あふ)れる海賊と対峙する可能性がある海軍。

 

 

 悪魔の実の能力者じゃないと言って一般的な力を手に入れるだけで出世と自分の命の無事の確率を下げるか、

 

 悪魔の実の能力者だと言ってイレギュラー要素の力を使い出世と命の無事の確率を上げるか。

 

 

 

 答えは決まった。

 

「──にその通りでございですます!」

 

 この間0.2秒。

 私は悪魔の実の能力者として生活する。

 

 

「「「「「「ええええ!?」」」」」」

 

 医務室の扉の前辺りから男の人の仰天した声が沢山聞こえた。わぁ綺麗なハミング……。嘘吐きました、全然綺麗じゃない。

 

「お主ら邪魔じゃ! どかんか!」

 

「ガープ中将の孫が能力者!?」

「一体何の!?」

「可愛い! お嫁にしたい!」

「どうなっているんだその家族は!」

 

 背中がぞくりとするような怪しい気がするけど多分気の所為だろうと信じてる。

 

「何の実か、は不明…ぞり……」

 

「一体どんな能力を!?」

「能力者の出世はほぼ確実だ! 大物になるぞ!」

「喋り方可愛い! 愛でたい!」

「この子が次の世代を背負っていく子なのか……」

 

 やっぱり気の所為じゃない気がしてきた。

 

「貴様らいい加減にしないか! この娘はまだ体調不良者だぞ!」

 

 ボガードさんが怒鳴ると蜘蛛の子を散らす様に海兵さん達は避けて行った。

 

「流石ボガード少将です」

 

「本当ならば中将がすべきなのだがな……ドーパン大佐…これからも本当によろしく頼む」

「いえ、こちらこそ本当によろしくお願いします少将」

 

 上がちゃらんぽらんだと下がしっかりするってどこに行っても同じなんだな…。ほら、エースやルフィがダメダメだから私がしっかりしているみたいに。

 全くもー仕方の無い兄どもだなー!

 

「ところで娘、なんの能力だ?」

「え…と、風」

 

 能力は隠す。だって私は海賊側の海兵になりたいんだから隠すよ。勿論(もちろん)

 もしも敵になった時不意をつけるからね。

 

「風か………」

「ぶわっはっはっ!細かい事を気にするで無いわ!リィンが海軍に入ってくれると言うんじゃからな!」

 

 能力者だと聞いて眉間に(しわ)をよせていたが能天気に大笑いしたジジ。

 

「いいですかリィンちゃん。君はあの人の様になってはいけませんからね!?」

 

 ドーパンさんが真剣な目でこっちを見てくる。なりたくともなれないよ、あんなの。

 というかあの性格で海軍やっていけるのかどうか不安。ついでに私の口調も不安。

 

「治療する故が最良か……」

「治療?」

「口調の治療ます……」

 

「リィンちゃん…君は先に背中の傷と風邪を治すべきだよ」

 

 ドーパンさんが優しすぎて辛い。

 

 




ここまで読んでくださってありがとうございます。2度目の人生、ここから始まる感じが強いです!

ツッコミが出来る将校が欲しかったのでドーパン大佐を作りました。名前被っていたら教えてください、被ってないことを祈ります……。ボガードさんは本編で何も地位を書かれていなかったので勝手に少将にしました。英雄の右腕(とまではいかなくても直属の部下でガープを理解してる人間)が大佐だとちょっと格好がつかないでしょう…。

あくまで私の解釈であるのでよろしくお願いします(?)

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