リィンが寝静まった。まさか朝起きるとは思ってなかったけどプレゼントを直接渡せれたサボは満足気にフェヒ爺の元へ向かった。
「サボ!」
「エース!ルフィ!待たせたな…」
途中の脇道で声をかけられ振り返ると2人が手を振っていた。
「いーって、リーに昨日のやつやって来たんだろ?」
「途中まで忘れてたとか本人に言えないけどな…」
「サボはバカだな〜」
「「お前に/ルフィに言われたくない」」
熱を出してる妹が気になり後ろ髪を引かれつつもフェヒ爺との約束の為に森の中を駆け出した。
今ではルフィも自分たちの速度についてきている。
「今日こそは絶対覇気使える様になってやる!」
「よく考えたらフェヒ爺が教えてくれるようになったのってリーのおかげだよな…」
「おれ、あんなに強いとは思わなかった!」
「ポルシェーミをこてんぱんにした時避けてたのって見聞色の覇気だったんだな」
「サボ、見聞色使えてずるいぞ」
「お前らは覇王色の素質持ちじゃないか……僻むなよ…」
いつも通り覇気についての話をしながら走る。
ただ、今日はこれだけじゃなかった。
もっと、気付けば良かったんだ。
あの時すれ違ったサボの父親の事を。
サボの価値を。
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「サボ!逃げろ!俺たちは大丈夫だから!お前だって分かってるんだろ!?」
「……っ、あぁ!」
フェヒ爺との訓練は海岸。そこに行く途中の
情けない。けど、フェヒ爺に鍛えてもらってるんだ。まだ逃げ出せるチャンスはある。…自己暗示する様に頭で繰り返す。しかし相手は一枚上手だった。
「おおっと…いいのかい?」
「……………何がだ」
ニヤニヤと、下衆な表情という表現が似合う似合う笑顔で聞いてくるサボの父親を睨みつける。エースはエースで嫌悪感に吐き気を催して居たが、サボに比べると楽に決まっている、と歯を食いばる。
「……熱で寝込んでる彼女に傷がついても」
「「「っ!?」」」
リィンの存在がバレている所か、アジトまで特定されていることに焦った。これではサボを連れて逃げたとしても何度だって変わらない。
「どこまで腐ってるんだ…テメェ。人質にでもするつもりなのか…っ!?」
「交渉材料、と言ってもらいたいな?」
エースはギリギリお歯を鳴らす。覇気を意図して使えたことなど無いが、今はそれに縋りたかった。
「返せ!サボを返せ!」
「返す?元々キミ達の物じゃ無いだろ!?それに家に帰る方がサボの為になるんだ」
「うるせぇ!サボは俺たちの兄妹だ!渡してたまるか!もちろんリーにも手を出させない!」
「っ、もういい!エース、ルフィ!もういいんだ」
苦しいと叫んでいる様だった。サボにとって自分の確定された将来よりも…──兄妹の方が大切だから。何よりも捨て難い宝だから。
「やめろ!言うな!」
その先を言うなと懇願する。何となく読めていた。長年の付き合いだ、分からない筈が無い。
「と、うさん……」
──そんな苦しそうな顔をするくらいなら言うな。お願いだから諦めんな。皆で生きて、皆で海へ出るんだ。
「なんでも言う事聞きます。だから手を出さないでください……」
そんな泣きそうな顔をする位なら力を振り絞って逃げてほしい。
「サボォォ!!」
「大切な…兄妹なんだ……」
絞り出した言葉に、アウトルック3世は笑みを深めた。
「それでいいんだ…後は任せたぞ。海賊」
「へぇ、おまかせ下さい。大事な坊ちゃんに関わらないように始末を付けておきます」
「離せぇ!離せよ!っく、サボ!振り切ってこっちに来いよ!」
エースは考える。こんな時頼りになるフェヒターや、賢いリィンならどうするか。
「──サボ!」
「邪魔だよ!どけよ!」
ルフィも必死にサボを引き止めようとする。
「どけブルージャム海賊団!!」
覇王色は結局出来ない。肝心な時に使えない。
「サボおおおお!!」
なんで遠ざかる背に手を伸ばすことすら出来ないんだ、と叫びながらゴミ山の向こうを睨み続けていた。
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「で、仕事ってのは……」
エースがブルージャムと対峙してルフィを背にかばう。
「何、簡単な話さ。この地図のバツ印の所にこの箱を持っていく、なんとも簡単な仕事……だろう?」
ニヤリと笑うブルージャムにルフィは寒気を覚えた。この仕事は決して受けてはならないと、本能と理性の両方が告げる。
「分かった」
「エース……?」
エースは悩むまもなく簡単に答えた。
その回答に満足したブルージャムは仕事以外の話をし始めようとする。しかしそれはエース自身によって止められた。
「仕事早く始めよう。無駄なおしゃべりは無しだ。興味無い」
「可愛げの無い糞ガキだな…だが、いいだろう……。どうだ?ポルシェーミの事はお互い水に流そうじゃないか…お前ら俺の船に乗」
「──無駄なおしゃべりは無しだと言っただろう」
「…ふん。仕事だお前ら!」
縄を解かれてその代わりに箱を渡される。旗のついた重い箱だ。ルフィはその重さに首を傾げるながら持ち上げた。
「エースぅ、どうするんだ?」
「さっさとリーの元に帰る。ただそれだけだ」
ルフィはブルージャムのアジトを先に出たエースに付いていく。
早く仕事を終わらせるって事かと思っていた。
「ほら、こっちだ」
一緒に付いてくる海賊に挟まれながら歩いて一つ目の場所に付くとエースの顔にグッと力が入ったのが分かる。幼いながら必死に下の子を守ろうとする兄の顔だ。不謹慎だがルフィにはそれが嬉しくてたまらなかった
「お前はこっちでお前はあっちだ」
「ああ…」
「うん」
指定された場所に箱を置くとエースが素早くルフィの元へ向かって手を繋いだ。
「ルフィ……ヅラかるぞ!」
「…!っおう!」
箱を置く作業をしていた海賊達を尻目にコルボ山に向かって一直線に走る。
「お、おい待て!」
「知るかバーカ!」
「バーカ!」
エースに続いて暴言を吐くとエースのスピードがグンと上がった。
「今フェヒ爺の海岸に行くのはマズイ…ここは俺たちだけで何とかするぞ……」
「何でだ?」
「あいつらは本物の海賊だぞ!?海岸に船を止めているだろ」
「あ、そっか」
弟扱いも好き。だけど自分は兄なんだ。情けない兄だけどそれを誇りに思っている。尊敬するエースとサボという兄の背中を見ながら妹に背中を見せる真ん中が愛しくて堪らない。
それが一番望む現実。ルフィは今の現実に不満を抱いて、足の回転を早めた。
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あんなに来たくなかった実家の広いベットに、サボは身を投げ出すようにごろりと寝転んだ。高いベットはとても柔らかく寝心地は良さそうだ。
「また此処に……」
だけど。硬い木で出来たアジトの床に薄っぺらいボロボロの布を敷いて、4人並んで寝る方がずっと眠れそうだった。朝になると誰も彼もが寝相で変な方向を向いたり蹴っていたりする暖かい場所の方が。
──コンコン
「?」
「おいお兄様」
開かれた扉を律儀にノックする辺りは教養が見える。そこに現れたのはサボの義弟のステリー。アウトルック3世がサボの代わりにと養子にした子供だった。
──ルフィの方が絶対可愛いな。うん、贔屓目無しにしてもなしに絶対可愛いにきまってる。
「お前、あのゴミ山に住んでたんだってな」
「……それがどうした」
「天竜人が来るのを知ってるか?」
「あの世界貴族が?」
「お前、あのままあそこにいたら燃やされる所だったぞ」
「……………どういう事だ」
考えたくないが嫌な予感が思い浮かぶ。ステリーは子供とは思えない臭った笑顔で笑いかけた。
「今夜、夜中に燃えるんだよ……あのゴミ山が」
それはあまりにも衝撃的な勢いでサボの中を掻き乱した。
「そ、れ…本当、なのかよ…」
「ホントだよ。高町の人間全員が知ってる。この国の汚点は全て焼き尽くす………」
ゾクリとした。狂ってる。
そんなのおかしい。
自分の兄妹に伝えなければいけない。
──バリンっ
「おいお兄様!?ここ何階だと思ってるんだ!?お兄様!?…───しーらねぇ」
サボはいつの間にか窓を突き破って飛び出していた。
ステリー目を背けて部屋に戻る。別名現実逃避だ。
「貴族なんて………っ!」
悔しい。悔しい!なんで俺は貴族なんかに生まれたんだ!何が東の海一番綺麗な国だ!汚れる!俺には全然綺麗に見えねぇ!
「エース、ルフィ、リー……っ!」
酷い程綺麗な夜空がサボを見下ろしていた。
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「もう1度、説明お願い致した」
「だから、サボが貴族に連れていかれた!」
「…………何故貴族に?」
「サボが貴族だからだ!」
「………私知らぬなり」
「教えるの忘れてた!」
何真顔でとんでもないことをぬかしてるんだこのバカは。
「サボの為…?ハッ、
「あの…リー……ィン?さん?」
青白い顔で冷や汗を流しながら突如雰囲気の変わった私に声をかけるエース。
「………何事ぞ?」
「いや、殺気が、な。それに表情筋機能してるか…?」
つまり表情死んでると言うことか。
「…………納得、いかない」
貴族がなんだ。こっちは立場もクソもない糞ガキだ。十二分に立ち回りできる。
迎えに行く。
「誘拐ぞして参る」
「……は?」
説得してサボを取り返す。アジトの場所がバレたとしてもこちらにはフェヒ爺がいるんだ。
それと、盃を交わした兄妹舐めるなよ。