2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第27話 フェヒ爺の覇気講座

 

 分からない。傷が治らない。

 盃を交わして兄妹になって酒に酔って早2ヶ月。あまりにも遅すぎる傷の治りに嫌気がさしていた。

 

 まあ前世では経験することの無い傷だから仕方ないし毒もかかってたからそれもまた仕方ないとは思うんだ。

 けどさ、傷が痛んで仕方ないんだ。この際痛みに顔を顰めた途端ルフィの顔がサッと青くなるのはいいんだ。きっと罪悪感が疼くんだろうがいいんだ。私の事じゃないから。

 

 でもダダンのアジトから出させてくれないってどうよ。

 傷の治りが遅いから安静にしてろって。確かに正直動くと痛いしフェヒ爺の修行はサボれるし危険な猛獣相手にすることもないしで万々歳だよ。

 

「聞いてるのか小娘」

「皆無!」

「………ほぉ」

「ひ、否定ぞ!聞きて無きが否定ぞ!」

「誰が騙されるか!」

 

 フェヒ爺のトーンが一段階低くなったので自己防衛。

 最近厄介な事にフェヒ爺は私の根城まで来て下さるので感謝感激。

 

 く、こうなれば背中の痛みなど気にせずに窓から脱走を…。

 

「窓には裏から棒立てて開かない様にしてるから無駄足だぞ」

 

 な ん で 読 め た 。

 

「さっさと海軍上層部のメンツ暗記せんか」

「鬼畜ー!!鬼ー!!」

「なんとでも言ってろ小娘が」

 

 渡された紙を渋々見る。

 

 コング総帥。後ろに部下がいる場合気配をそちらに配る為隙が出来る、タイマンは避けるように…──。

 

 センゴク元帥。海賊嫌い。キレると遠慮なく能力を使ってくる。ウザイ。ヒトヒトの実モデル大仏くそ人間ハゲろ…──。

 

 サカズキ大将。海賊を倒す>市民の安全なイカレポンチ野郎。マグマ人間。部下は武闘派が多いが本人は後方で策をねるのも得意…──。

 

 ガープ中将。ロジャーと何度も戦ったただの阿呆。煎餅好き。適当な奴。巫山戯ているから逃げるのは意外と簡単。買収もある程度…──。

 つる中将。参謀で頭いいので舐めてかかると痛い目を見る。洗濯人間。悪行を改心した人間多数。女子供に弱い…──。

 

 

 

 

 って、なんだよこれ。総帥元帥大将中将クラスほぼ全員掴んでるんじゃないのか?え、なに、フェヒ爺何者?怖いんだけど。あと地味に細かい。なんの恨みがあるの?特にセンゴク元帥。

 

 海賊時代に何があった。

 

「使えるだろ…?」

 

 ニヤリと笑い目線を向けてくるフェヒ爺に呆れながらも私は同じような笑みを浮かべた。

 

「………とても」

 

 海軍に用がある時なんてこの山で過ごしてる限り無いとは思うが備えあれば憂いなし。情報はあればあるだけ安心出来る。

 

「(こういう所はカナエに似てねぇんだよな……)」

「…?フェヒ爺死んだ?」

「誰が死ぬか糞ガキ」

「いだだだだだだ!フェヒ爺!怪我人!一の応怪我人だぞりんちょぉおーー!!」

 

 反応無くぼーっとしてたから声をかけたというのに顔面掴まれた。パキュッと割れたらどうするんだ、こんちくしょう。

 

 

 

「時にエースら3人は如何していると?」

 

 顔面崩壊の危機から脱した私は今は居ない兄達の様子が気になり聞いた。

 ここ2ヶ月やけに張り切って──特にルフィが──フェヒ爺の所に行くから私は嬉しい様な悲しい様な。

 

「覇気の訓練」

「はき?吐き気所有済みと?トイレゆく?」

嘔吐(おうと)しねェよ阿呆。

 覇気っつーのはな、武装色見聞色覇王色の三つの種類があって、普通全員が持っている力なんだが大方の人間は気付かずに一生を終えるもんなんだ。

 簡単に言えば……覚えると戦闘にすこぶる役に立つ」

 

 すっごい簡単にまとめたな。

 

「戦闘する気はさらさら無いのでごじゃりますがとりあえず置いておいて、まずながらぶしょうしょくと仰られるのは?」

「武装な、武装色。んー…そうだな、見えない鎧を着てる感じで攻撃力も防御力も上がるし…何より───ルフィを殴る事が出来る」

「何それ多大に欲する」

「欲しいか?」

「欲しい。ん?ルフィにぞ打撃が効くという事なればそれすなわち悪魔の実の能力を持ちうる人物に対抗しえるという事では無きか?」

 

「ほぉ……」

 

 フェヒ爺が感嘆の声をあげる。どうやら正解したみたいだ。やったね。この調子でドンドン感心してくれたまえ。私の被害数が減るから。

 

「悪魔の実の種類は教えてたよな?」

「肯定ぞ。ルフィなど超人(パラミシア)系、人形獣型人獣型の3つに別れる動物(ゾオン)系、それとチートな自然(ロギア)系。の3つであった筈ぞり」

「そうだ。そのチートな自然(ロギア)系に対抗出来るのが武装色。色々と便利だから海軍上層部はほぼ全員身につけていると思え」

 

 思え、と言われても私一生ダダンの家で暮らすからな……。この知識を使わない事を祈るよ。

 

「では、けんびんしょくとやらは?」

「見聞色、な。こいつは簡単に言えば〝心の声が聞こえる〟って事だ」

「ほほうエスパーか」

「違ェ」

 

 正直さっき正解したからと調子乗った。

 

「行動を先回りして読んだりこの色が強い奴は人の思いを理解する事が出来るんだ」

「………つまりなれば攻撃を受けること無く回避行動会得する事可能という事か」

「ま、そういう事だ」

 

 便利!便利だわ!これがマスター出来ればフェヒ爺から逃げたい放題!

 

「…………………無断な抵抗は止せ」

「チィィッツ!」

 

 なるほど心を読むとはこういうことに使っていたのか。

 

「ちなみに言っておくが俺は見聞色使ってないぞ。小娘がわかり易すぎるだけだからな」

 

 理不尽!

 

「…で、はおるしょくとは?」

「覇王色、だからな。………これは数百万人に一人しかその素質をもたない〝王の素質〟を持つ者が使える覇気だ。相手を威圧したりする事が出来る」

「フェヒ爺は使用可能?」

 

「……いや、素質が無かった。小娘の知ってる人間でそれを使える素質があるのは…───」

 

 数百万人に一人ならそんな身近にいてたまるか。

 

 

 

「──シャンクスにエースにルフィ」

「ぽぎゃん!?」

 

 高確率過ぎやしないか?

 

「あと、お前」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ぱ ー ど ぅ ん ?」

 

「お前も覇王色の覇気の素質がある」

「……ぱ ー ど ぅ ん ?」

 

 何故私がそんなめんどくさい覇気の持ち主だと?それとなぜ持っていると分かる?それ本当?希少価値の高い人間は狙われやすいって知ってます!?

 

「(強い覇王色持ちのカナエと奴の娘…小娘が持ってない筈が無い。開花はまだ先か…?)」

 

「聞きてなき事にぞ参ろう」

「おい」

 

「しかしながら…覇気たるものは如何様に会得致すぞ?大方の人間ぞ気付かぬという事は何か無ければならぬのでござりまぞりん?」

「…普通の人間は気付かないということは習得するのに何かあるんじゃないか、と言いたいのか?」

「肯定ぞ」

「……………」

 

 そんな出来損ないを見る目でこちらを見ないでいただきたい。

 

「疑わない事」

「?」

「それが覇気を引き出す上で最も重要な事、だ」

 

 疑わない事?自分は出来るって信じ込むってこと?自己暗示?それとも──

 

「〝思い込み〟」

 

「ん?あー…まァそうとも言うな」

 

 集中力と想像力と思い込み。

 堕天使の癖に良くもまァ的確なアドバイスをしてくれる…。感謝はしないが口だけのお礼なら言ってあげよう。ありがとう。

 

 口も何も心の中だけど。

 

「私にも………会得可能ぞり?」

「努力次第だな」

「不可能」

「諦めるの早すぎんだよ小娘ェ!」

 

 努力という言葉は私一番苦手何です。使えるって分かってから私不思議能力の訓練とかしたっけ?箒にきちんと乗れる様になる訓練は今もしてるけど。

 

 やらないといけないのかな…。念のためとか思ってたら足元すくわれる?

 

 やりたくないし努力なんて嫌いなのにジリジリと胸を焼き尽くす様に嫌な予感がしてならない。なんで。私は海に出たくない。ずっとここで暮らしていたい。

 危険も無くて平和に。

 

「…っは…は…」

 

 〝何か〟が胸を締め付ける。

 

「……傷、熱持ってる。今日はここまで、休め」

「………へ?あ、はいぞ」

 

 フェヒ爺はスクっと立ち上がり扉に向かった。

 

「……………小娘。お前は今目標が無くて自分を見失ってる、何か見つけろ。

 ───自分の本心からの目標を」

 

──バタン

 

 扉が閉まる。部屋に残されたのは私だけ。

 

「本心からの目標………?」

 

 私の目標は〝自分が無事生きること〟

 

 それ以外に何があるの?

 

「……寝よ」

 

 布団に潜り込んだ。背中の痛みより胸を締め付ける何かが傷んで仕方ないけど。

 とりあえず目標も何も今を生きることに精一杯です。主にフェヒ爺のせいでなぁ!

 

 

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 

『───……─っ!』

『ま…───!』

 

 また、夢?

 

『言う…───ぃっ!』

 

 背中を向けているのは誰?

 何か懐かしい。大事なもの。

 

『───…さ、…い!』

 

 必死に声をかけるのは誰?

 遠くから見ているだけで分からない。なのに何故。胸が苦しい。やめて

 

『………ぉ!』

 

 「っ!」

 

 あたりが火の海に変わる。

 夜なのに明るい。嫌だ。見たくない。

 

 

 

 帰ってきて。

 

 戻ってきて。

 

 連れていかないで。

 

 泣かないで。

 

 

 

 

 

 何故私は叫んだの?

 

 何を叫んだ?

 

 

 

 「行くな……」

 

 彼らを置いていく君はどうしてそんなにも苦しそうな顔をするの?

 「行ったらダメ……」

 

──コポッ

 

 水?いや、青?海?

 

 綺麗な青じゃない。黒く冷たい青。

 

 暗く苦しい青。

 

 

 

 

 

 

 

 ねぇ、何を伝えたいの?

 こんな夢見たくない。

 

 夢なんでしょ?現実じゃないんでしょ?

 

 こんな悪夢見たくない。

 

 

 『たす……けて…………』

 

 

 誰でも良いから。〝彼〟を助けて。

 

 ───────大事な……キョウダイなんです。

 

 キョウダイ

 

 キョウダイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁぁああ!!!」

 

──ゴツンッ

 

 痛っ!何、頭に凄まじい衝撃!

 

「あ!リーやっと起きた!」

「大丈夫か!?(うな)されてたぞ!?」

「酷い汗だ…何か夢を見てたのか?」

 

「…はぁっ…はぁっ…にぃ、に…」

 

 あ、なんだこれなんだこれ。手が震える。何か怖い。

 

「俺たちはいるから安心しろ」

「っ、ん」

 

 いつの間に私は孤独が嫌いになったんだろう。

 失ってしまうのが怖い私の中の何かが。

 

「死ぬ…な……」

 

 

 

 私の手を握る体温はほどよくて気持ちよかった。けど子供に有るまじき豆の硬さは異常だわ。平穏でよろしく。








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