2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第241話 山椒は小粒でもぴりりと辛い

 

 こんにちは★私リィン!(裏声)

 赤封筒任務っていう危ない任務についた14歳のか弱い可愛い女の子!(裏声)

 

 そもそも赤封筒任務っていうのは世界に混乱を招く様な大きな災いになりうる機密任務ってことなんだけど、ランクで言うなら海賊王という大悪党中心の任務ってことになるね!(裏声)

 ちなみに私が関わったことあるのは3つ。1つ目、海賊王の息子エースの出生確認。2つ目、金獅子シキの東の海襲撃計画。3つ目、頂上戦争。(輝かしい裏声)

 

 

 ……やばさのレベルが桁違いなんだよなぁ。(ど低音)

 

 

 残念ながら関わったことある3つは結果的に赤封筒任務になったものばかり。ナバロンで貰っていた赤封筒はシキの件で使うという超スピーディ利用。

 今回の任務は予め赤封筒任務だと告げられているものだから緊張の度合いが違う。

 

「お〜〜〜〜いち〜〜〜〜〜♡」

 

 センゴクさんに連れられやってきたパンクハザードで遭遇した機械。

 転移系の能力なのは確定なのだが、ちょっとした疑惑(かん)がある。これはまた後で推理しよう。

 

 とにかく、私は転移で飛ばされ、海に落っこち、そして漂流した。

 流れ着いた場所はエルバフ。閉鎖的な巨人の島。

 羊の家という孤児院にも似た施設で目を覚ましたというわけだ。

 

 ──髪色を変える夢見る幻くんを海に落っことしたまま。

 

 目を覚ました瞬間はとにかく『リィン』とバレないようにしたくて、羊の家では『リン』と咄嗟に名乗った。偽名を名乗り慣れてるのはまぁ言うな。幸か不幸かおかげで巨人の女の子に名前が似てるからと懐かれたけど。

 

 羊の家はマザーが1人で切り盛りしていた。

 悪ガキ、悪ガキ、一歩飛んで悪ガキ。ただし才能はピカイチ。親から見離される様な悪ガキでも、その能力は半端じゃない。そこで私は思ったのだ。

 

 ……これ、私の伝手にならないか?

 

 と。ええ、魚人も、巨人も、多種多様な種族を女狐隊は募集しております。というか本気で我の強い奴じゃないと女狐隊で仕事回せないから。

 今まで歳上ばかり見てきたが、よくよく考えれば私が最も人材を必要とする時期は今よりも後。私自身が実働可能な今よりも、ね。まだ考えるには早いが30歳を超え、全盛期よりも実力が下がってしまったら、体を壊してしまったら。長く使える駒は己より歳下。

 

 というわけで! 年上相手は妹キャラなら、年下相手にはお姉ちゃんでしょ! って安易な考えを持った私は孤児院の新入りよりも目立つポジション。──シスターとして生活している。

 

 名目はマザーのお手伝い。本音は陥落させる。

 手っ取り早いのは『初恋』を奪うことだけど、あまりやる気は起きない。

 

 あと、『新入りだけど慣れない環境でお姉ちゃんを頑張る少女』という付加価値が着くので島の巨人にはそりゃもう受けがいい。

 

「おいしいおいしい! 甘ぁ〜〜い♡」

「まてまてリンリンお前のはこっちじゃない、そっち!」

「なんて速度で食うんだ! お前専用のは沢山あるから落ち着いて食べろ!」

 

 この1ヶ月、巨人の記憶に確かに刻みつけた私という名の少女の存在。

 

 巨人族の伝手はかなり重要だ。大きさはそのまま強さになる。私が欲っしても絶対に手に入れられない強さ。

 それにエルバフとあれば、海軍で使えなくても海賊として使える伝手になる。私は全力で媚び売るし愛想を振り撒くよ。

 

 だけどまぁ、無駄になりそうな気がするんだよね。この伝手。

 

「リンが作ったやつは全部お前のだから! 俺たちには食べられないからそっち優先して食べろ! むしろ食いきれ!」

「リンお姉ちゃんのセムラおいちいよ〜〜〜〜〜〜〜♡」

 

「……肉体が強い俺でさえリンの飯には昏倒したからな……。リンリンが食べれる体質で良かった」

 

 私は隣に座る巨人の腕を無言のままナイフで刺した。

 

「おっ、どうしたリン。拗ねてるのか」

「拗ねてないわスタンセンさん!」

「しかしよく作れたな、小人には難しかろうに」

 

 巨人の奥様達と一緒に小人小人言われながらも頑張ってマジパンを作った。作業の効率化のためにも私ひとりで大量に作る必要があったので能力使いましたとも。

 

 『私』は重たいものを持ち上げられる悪魔の実を食べた能力者。だから両親に捨てられ、エルバフに流れ着いたという設定なのだ。とりあえず巨人の島では全てが重いので物質浮遊に特化させた能力の説明をしている。非能力者にしようかと思ったけど親から見離される子供の集まりで見離される様な設定がないと浮く。

 

「お姉ちゃん口汚れた」

「ハイルディン……私あなたの口拭くの大変なんだけど」

 

 巨人用のハンカチを操作して巨人の子の口を拭う。

 羊の家には基本人間の子供しか居ないが、保育施設も兼ねているので巨人の子供達もやってくる。リンリンは別の島からやってきたみたいだから羊の家の唯一の例外。

 

「そうだわヨルル様! この前鹿の家で兜が彫られた大きなコインを見つけたのだけど」

「お? ザバババ! それはコインではなく硬貨じゃリン」

「硬貨、お金なの? 使える?」

「ワッハッハ、リンおめーそれじゃ小人で言う10ベリーだば! 飴ひと粒も買えやしないば!」

 

 ──やっぱりか。

 

 ここで手に入れた伝手が無駄になりそうな気配の正体。

 

 それはここが過去なのではないか、という疑惑だ。

 兜の彫られた硬貨。それは具体的に言うと全て銅で出来ている。人間と巨人のサイズ感から交易が難しいとされるため、確か30年ほど前に硬貨の金銀銅含有量が統一化されたはず。

 

 つまり私の知識では巨人族の兜の硬貨は遺物。記念コインみたいなもんだ。溶かし直せば人間にとって飴玉ひと粒以上の価値に錬成出来るけど。

 

 

 ただ確信に至らないのが人間と巨人族との交流にバラツキがあるということ。エルバフなんてもってのほか。

 海軍で働いている巨人族の人達は、結構外交的な人達。閉鎖的なエルバフなら遺物を使っていてもおかしくは無い。

 

「……どうしたものかな」

 

 おいしいおいしいとポイズンセムラを絶賛する声を聞きながら、雪が降りそうな空を見上げて思わずため息を吐いた。

 

 

 

 ==========

 

 

 

 断食1日目

 

「マザー、お姉ちゃん……お腹すいて死にそう……」

「冬至祭は太陽の死と復活のお祭りよ。苦しい冬を越えて太陽もまた私たちを暖かく照らしてくれるの」

「ほらリンリン座って。温かいお水だよ」

「お姉ちゃん初めてだよね、平気なの……?」

「うん、まだ大丈夫!(だって保存食食ってるし)」 

 

 

 断食2日目

 

「ブハッ、今日も見つからないな」

「断食中なのにありがとう」

「オラは慣れてるから」

「リンお姉ちゃん〜〜! リンリンが駄々こねてるの〜!」

「あぁ……。ありがとうゲルズ、すぐ行くね」

 

 

 断食3日目

 

「──めでたしめでたし」

「あら、皆寝てしまったの?」

「好きな絵本の内容、ずっと覚えてたの。そしたら皆寝ちゃった」

「毛布をかけてあげましょうか」

 

 

 断食4日目──

 

「はぁ〜〜〜〜見つかんないな〜〜〜」

「お姉ちゃん何してるの?」

 

 魚人の子と一緒にため息を吐いていつもの日課である夢見る幻くん探しをしていると、岩陰からニョキッと巨人の子が顔を出した。

 

「あ、リンリン。今オラがお姉ちゃんの指輪探してるんだな!」

「お姉ちゃんの指輪?」

「私のね、ママが唯一私にくれた指輪なの。ここに流れ着いた時落としちゃったみたいで」

「……じゃあおれも探す!」

 

──バキィッ

 

「あ、」

「あっ」

 

 海岸の岩は脆い。巨人族の子供といえどその巨体がのしかかれば簡単に崩れてしまう。

 

──ドボーンッッッッッ!

 

 大きな水しぶきを上げて彼女が海に落っこちた。

 海水がびちゃびちゃと全身にかかる。巨体は落っこちただけでも水しぶきで人を殺せるのかと思ったよね。

 

「おぼっ、おぼれ、おれ溺れるぅぅぅぅ」

 

 バチャバチャと両手を動かすとその分海水かかるのでほんとに勘弁してくれ私が溺れる。

 

「リンリン、そこ、リンリンなら足つくんだな」

「えっ?」

 

 魚人の子が白けた顔でそう告げると、巨人の子はキョトンとした顔で私たちを見た。そして海を見たあと、地面の感覚を確かめるようにじゃぶじゃぶ上下し、えへへと笑った。

 

 

「ゲホッゲホゲホ!うえっ、ゲボッ」

 

 余波で溺れかけた私に気付かずに。

 

 えへへじゃねーーんだわこのスットコドッコイ。

 その体が及ぶ影響を考えてから笑えやクソガキ。

 

 素直すぎて善悪の区別がつかない悪魔みたいな子供を具現化させて集合させたような存在だけど、この子は絶対将来使えるんだよね。倫理観や常識さえ学べれば将来巨人族を統べる程の実力者になる!

 

 最悪海軍じゃなくても海賊としての伝手で使えないかな……。

 

「お姉ちゃん大丈夫?」

「う、うん……。大丈夫」

 

 全然大丈夫じゃないけど優しいシスターは笑顔で平気なフリをしなければ。

 

「リンリン上がっておいで。冬の海は体が冷えちゃう」

「うん!」

 

 そうして巨人の子は、大きな大きな動きで。

 勢いよく海から上がった。

 

 

──ザッパーンッッッッッ

 

 

「うぇ、おえっ、ゲホゲホ」

「お姉ちゃん絶対オラから手を離さないでな!? 海に引き込まれちゃうからな!?」

「ありがとう……ほんとにありがとう……」

 

 引きずり込まれそうな波の勢いに魚人の子に捕まりながら耐えた。

 

「……ニンゲン、アマリニモモロイ」

「お前が言うなー!」

 

 私の代わりに怒ってくれる少年。

 あぁー。びちゃびちゃだ。太陽が照らないから服乾かないって言うのに。

 

「んあ、あれ? お姉ちゃんー、足痛いぃ」

「……ゲホッ、ああ、何か刺さってるのかもね。ほら、足を見せてごらん」

 

 素足で海の中に入ったら、特にこの辺りは岩礁ばかりだしそりゃ痛いわ。

 ケツを着いた様子を確認して、足裏を観察する。

 

「あちゃー。刺さってる刺さってる」

「手伝ってくれる?」

「うん!」

 

 イラつく感情を抑えてニコニコと笑みを浮かべる。

 

「お姉ちゃん今マザーみたいな笑顔してる〜!」

 

 …………え?

 

「お、おおおおねえちゃんお姉ちゃん!!! お姉ちゃんあったな!」

「今度はどうしたの!?」

「あった! あった!」

 

 魚人の子がキラキラした瞳でバッと両手を差し出した。

 手のひらの上に置いてあるのは……。

 

「あーーーーーーーッッッッッ!?」

「あったーーーーーーー!」

 

 正直望みはかなり薄かったからしゃぼんに入って海水操りながら探そうかと思ってたけど! そんな危険を犯そうと思ってたけど!

 

「お姉ちゃんの指輪! あった!」

「どっ、どこに…!」

「リンリンの足に刺さった岩の、隙間に!チェーンがくっついてたんだな!」

 

 大興奮を全身で表現する少年は勢いよく私に抱き着いた。

 

「お姉ちゃんの指輪見つけたんだなーーーーーー!」

「えっ、わ、ちょっ」

 

 

──ドッボーンッッ!

 

 しこたま濡れた。

 ……ルフィが絶対同じことやる気配を察知したので足腰鍛えようと思いました。

 

 

 

 断食5日目

 

 

 さて、ついに目的の夢見る幻くんを探し出せたわけだし。

 私はそろそろ羊の家を去ろうと思う。

 

 ただしそれは自ら去るのではなく、偶然去らねばならない。このまま好印象でいるならね。

 

 ここが過去であるという仮定が正しかったとしても、巨人の寿命はそりゃもう長い。覚えている、という可能性はなくならないのだ。

 この仮定を気付くのがもう少し初期の段階なら印象薄くさせ……ることは無理だな。リンリンがいる。似てる名前というだけで懐いたリンリンが。

 

 新聞で日時を確認しない事には確信が持てないが。

 

 去り方の理想を言うなら里親探し、だろう。

 例えば──海軍とか。

 

 

 

「あったぁ♡」

 

 夜中コソコソとマザーの机を漁れば出てきた書類。

 というか海軍言語(あんごう)で書かれてあるじゃない。人身売買の証拠。

 

 

3jlimslvgt@ht@qtrg@.

j5svthiuoue

zg@kzgt@na.sgezmkf@d9w@

6a364

lylyse4bs@mkfudmggqe

uit3;f@;yoh=

 

 記憶を探り答え合わせをしていく。

 

あまりにもとりひきか゛くか゛たかすき゛る

まえとひかくにならない

つき゛のつきか゛みちるときいつものは゛しよて゛

おちあおう

りんりんということ゛ものはなしもききたい

なにかあれは゛れんらくを

 

 目の付け所が流石だな。今いる羊の家の子供たちの中でリンリンを選ぶとは。まあ良くて大将、悪くて大佐。上手く行けば元帥になれる戦闘能力の素質がある。将として、組織の人間としての素質は兎も角。

 

 次の月が満ちる時。──来月の満月か。

 流石にいつもの場所というのは分からないけれど、これで確信した。羊の家は定期的に子供を売っている。

 

 多分、エルバフの巨人は知らないだろう。

 

 

 私はこの事実を……──見なかったことにした!

 金額の指定は分からないけど優秀な人材が裏取引であろうと流れてくるのはいい事! それが巨人の子なら尚更!

 

「…………あれ?」

 

 じゃあここは過去じゃない?

 リンリンなんて名前の巨人族、少なくとも海軍本部に居なかったような。

 

 ──! 足音!

 

 首を傾げているとギシギシ軋む床の音と共に、マザーの足音が聞こえてきた。

 箒をアイテムボックスから取り出し部屋の中で大きく上昇。小屋の梁の上に忍んだ。

 

「……お前たち」

「ハァイママ!」

 

 マザーが虚空に向かって話しかけると暖炉の炎が返事をした。

 いやなんで????

 

「何か変わったことはなかったね?」

「女の子が来たよーーーママー!」

「……なんだって?ここには入っちゃいけないと教えたはずなんだけどね」

 

 やっ……ばい。

 冷や汗が流れるのを確かに感じる。

 

 まさか、この部屋の火が人格を持っていると誰が思うか!

 これは確実に能力者……! ぬかった、諜報可能な能力者相手だと情報戦は分が悪い! 戦闘なら優位に立てれるのに!

 

「その子は誰だい?」

「今そこにいる子ー!」

「……可愛い私の子、降りておいで」

 

 イラつきを抑える様ないつもの貼り付けた笑顔でマザーが手招きした。

 

「……チッ」

 

 私は箒を仕舞い、靴を動かすことで、ゆっくりと降りて行った。

 

「マザー……ごめんなさい……」

「まあリン……。貴女、どうして」

「……ママがね、私を海に投げる前に何かを書いてたの。見た目覚えているから、もしかしたらマザーも私を捨てるんじゃないかって。だって私は子供じゃなくてシスターだから……」

 

 苦しい言い訳を重ねる。顔を下げて、スカートの裾をぎゅっと握り締めればマザーカルメルは貼り付けた笑顔で私を抱き締めた。

 

「そうだったのね」

 

 彼女の思ってることを今から当ててあげよう!

 

 

「──嘘くさい」

 

 そう呟いて私は首元にナイフを這わせた。

 

「そう思っているでしょう。マザー」

「なっ…!」

 

「私も同じこと思ってる! おそろいだね! でもね、私マザーより笑顔上手なんだよ!」

 

 頬を染めて天真爛漫の笑顔を見せた。

 

「……マザー、取引をしよう────!」

「なんだって…?」

 

 

 断食6日目

 

「お姉ちゃん嬉しそうだね」

「うん、とってもいいことがあったの」

「あーーーーーお腹すいたァーーーーーー!」

「シス。マザーは?」

「新しいママとパパを探すためのお手紙を書いているのよ」

 

 

 

 断食7日目

 

「シスター、おいで」

「はぁいマザー」

 

 部屋の片付けをしているとマザーに呼ばれた。

 

「言ってたやつさ」

「おっと」

 

 マザーと机を挟んだ対角に座る。

 乱雑に渡された過去の取引内容。人、値段、全てが控えとして残ってあった。

 

「へぇ、こんなにも残っていたのですね」

「当たり前だよ。こう言う商売だからこそ証拠は大事さ。あんたもこの仕事する気でいるなら覚えとくんだね」

「うーん……私はどっちかと言うと売るより買いたい派かな……」

 

 取引の日付けを見て確信したことがある。

 

 ──ここは過去だ。

 

 大体60年前って言ったところかな。

 過去への転移。時間も場所も全てを移動する、か。

 

 しかし……60年。思っていたより長い。

 ということは羊の家の子供たちは私より年下ではなく歳上ということになる。というかそれを気にするより先に私の身を何とかする方法を考えろって話だ。

 

 遡行。

 長すぎる時の流れをどうやって元の時代に戻るべきやら。

 

 

 とりあえず裏取引した海兵の名前は覚えておこう。普通に偽名だと思うけど偽名だけでも特定しておかねば。

 

「悪魔め」

「ママとパパにそうやって言われて捨てられました。悪魔の実を食べる前に言われていたから♡」

 

 にんまりと笑みを深めて。

 ……戦神と冥王を思い返して、浮かべていた笑みは自然と消えた。

 

「貴女はすごいです、マザー」

「煽てたって何も出てこないよ」

「……いいえ本当にすごい。ジョン・ジャイアントの名前がある。そう、彼が1番最初。彼は恩師の教えを大切にし、そして巨人の海兵となった。それは結構有名な話」

 

 貴女はマザー(おや)として、優秀な人だ。

 

「例え子供の存在意義が『金』だとしても。『己の欲望』だとしても、貴女は愛されていると見事錯覚させて見せた。中途半端な善意で『売られた』だなんて真実を告げず、常に笑顔を貼り付けて悪意を貫き通した」

 

 

 例えそれが偽りでも、売られた子供はそれが事実。

 

 

「羊の家は優しい地獄だ」

 

 愛されることを知らなかった子供に偽物の愛を与え。偽りだと知らずにそれを抱きながら利用されていく。子供相手でも手を抜かず、偽りを真実だと思い込ませて来た。

 それは利用される子供にとってどれだけの救いになったのだろうか。美談として記憶の隅に住み着くカルメルはどれだけ聖母だったのだろうか。

 

 偽りだからこそ、子供達が抱く感情が簡単にわかる。

 

「……マザーは私にとっての仏ですよね」

 

 もしもセンゴクさんの愛が偽りでも、私はそれを真実だと信じ続ける。

 

 

「大変! マザー! シスター! 助けて!」

「どうしたの!? ゲルズ!」

 

 扉をばんと開けて入って来た巨人の女の子が焦りを顔に滲ませ、血の気を失った顔で話題の名前を叫んだ。

 

 

 

 

「セ〜〜〜〜!! ム〜〜〜〜!! ラ〜〜〜〜!!」

 

 轟々と燃え上がる炎。

 頂上戦争を彷彿させるその血の焦げる臭い。

 

 私より大きな巨人族の戦士達は名誉と共に地に伏せていた。

 立ち上がれないほどの重症。

 ぱっと見ただけでも命に関わる様な怪我。

 

 周囲に点在しているはずの動物の家は炎に包まれ、息をするだけで気道を火傷しそうだ。

 

「セムラを……もってこい……」

 

 飢えに飢え、天まで届くような叫び声を上げる。リンリン。

 あぁ、改めて認識した。

 

 ……これだから子供は嫌いなんだよ。この癇癪めちゃくちゃめんどくさい。

 

「リンリン……! なんてことを……!」

「──とうとうやったなリンリン…。太陽に感謝する資格もない」

 

 滝ひげのヨルルと恐れられる巨人族の長とも言える男がリンリンの癇癪の前に立ち塞がった。

 

「マザー、確認したい。エルバフとリンリン、どっちを取る?」

「どういう」

「いいから早く答えて!」

 

「──金になる方(リンリン)!」

 

 こうなったら絶対リンリンの身柄海軍に送れよくそばばあ!

 

 私は名前を聞いた瞬間走り出した。

 

「お姉ちゃん!?」

「シスター危ないよっ!」

 

 アイテムボックスから準備期間に大量に作り貯め廃棄方法を失った失敗作のセムラを取り出した。

 

「ヨルル爺邪魔です、そこを退け!」

「むっ!? じゃ、邪魔!?」

 

 思ってもみなかった言葉だったのか滝ひげがギョッとして構えた刃を止め私を見た。

 おえっ、熱気が喉を焼きそう。

 

「リンリン! 新しいセムラよ!」

 

 顔面を物理的に作り替える猟奇的な感じの掛け声になってしまったがリンリンはセムラという言葉に反応した。

 

「だから落ち着いてぇっ!」

 

 よく見ろ。巨人とはいえ子供。

 動きも単調。

 

 私なら確実にやれるはずでしょ!

 

 滝ひげを庇うように両手を広げて癇癪中のリンリンを待つ。これなら私の行動は傍から見ると子供特有の無茶無謀だと思うじゃん。

 

「うああああ!!!! セムラーーーーーーッッッ!!」

 

 リンリンは大興奮した様子で、セムラの前にいる私を邪魔に思ったのか。

 大きな手を振りあげ、私をぶった。

 

 熊でさえ、巨人でさえ一撃で殺せそうな平手打ち。私の体は簡単に吹き飛ぶ。

 

「シスターッッ!」

「リン!」

 

 悲鳴とも思える私を呼ぶ声を後目に私は思いっきり吹き飛ばされる。

 1回、2回、3回、焼けた地面をバウンドする。ゴロゴロと地面を転がって地に伏せた。

 

 よろよろと力を振り絞って上半身を起こす。残った力を全て込めて、叫び声を上げる。

 

「──いただきますしなさいッ!」

 

 ごおっ、と風が吹き荒れてリンリンの耳に届いたのか、キョトンとした顔をして。

 

「いただきま〜〜〜〜〜〜〜す♡」

 

 大きな声で元気よく食べ始めた。

 

「シスター無事かの!」

 

 どしんと大きな揺れを鳴らしながら滝ひげが駆けよって来る。

 

「……ヨルル様、無事でよかっ、た、」

 

 近くで燃え上がっていた炎が私の体を包み隠した。

 

 

 

 

 

 

「無傷とは行かぬけど無事死ねますたかな」

 

 黒い服に身を包み込んで、髪色も黒に変えて、私は遥か上空でエルバフを見下ろしていた。

 

 リンリンの手の動きに合わせて吹き飛ぶの、難しかったけど想像してたより自然に出来た。炎に呑まれたから死体が残ってなくても死んだと思うだろうし。

 ただ、唯一能力の欠片を知ってるカルメルは私が生きてると思うだろうね。

 

「あ痛たた、火傷」

 

 転がったりバウンドしたりとした時に出来た擦り傷。歴戦の巨人を前にした死んだフリだから受身を取らないようにした。否応がナシに怪我は出来るし最期に炎を目隠しに使った上炎の中を走り抜くという荒業。

 ここまでして死んだフリをしたのもエルバフ、しかも過去の島に興味はもう無いから。結局堕天使であろうと女狐であろうと使えない伝手ではあるから。想像より早く離脱する機会が出来たけど。

 

 さぁて、どこ行こうかな。ゴロンゴロン回転したせいか気持ち悪い。

 

 

 ひとまず先に怪我の手当と変装を急ぐためにも適当な無人小島で羽を休める。飛んだのは羽じゃなくて箒だけど。

 

 マザーの能力、便利だったな。上空から最後に見た炎に魂を吹き込む様子。

 辺りを包んでいた炎が食べられるように1箇所に固まった。

 

 私は巻いていた包帯をピタッと止めて顔を上げた。

 

「あ、あれ、あの能力、細かくは分からぬけど無機物に命を吹き込むって」

 

 ベガパンクの無機物に物を食べさせる技術を可能にさせるんじゃ──

 

 

 

 グンと引っ張られる感覚に、私の視界は青く染った。

 

 

「────うそでしょまた!?」

 

 見渡す限りの青に飲み込まれ、空中に転移した私は愛しい母なる海に落っこちた。海難の相でもあるんだろうか。能力者なら死んでた。




本気を出した災厄。
さて問おう。

こ れ で お わ る と お も う て か !

NEXTリィンズヒーント!
『エース』

それではまた来年お会いしましょう

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