「ううううううううう」
唸り声。
呻き声。
ガン、という大きな音を出しながらカクは額で机を割った。備品がどんどん無意味に壊されていくサマを咎めるリィンは現在居ない。
3個目の机だったものを片付けているカクに一部がゲラゲラと笑いからかった。
「少しはぁ〜〜! 落ち着いて、あっ。ンもらっ! ンもらァ〜〜〜お〜〜〜か〜〜〜っ! よよォい!」
「出来るわけがなかろうが!」
クマドリが誰よりも髪を自在に操る『生命帰還』で誰よりも早く書類を片付けながら誰よりもうるさくカクをあやす。
「カクはもちろんだけどクマドリもうるさ……」
ツッコミは別に任せたボムが机に顔を伏せても喧騒のせいで眠れないと彼らを睨む。当然だが元CP9にそんな子猫の威嚇は通用しない。
「まさかルッチに続きカクも惚れたとはな」
「あァ!? ンなわけないじゃろが! 目ん玉ついとんのかお前!」
ブルーノが落胆するように息を吐き出す様子にその評価はちょっと待てと言わんばかりにカクが憤慨する。
海兵殺しの事件が解決した翌日の午後。未だに己に生まれ堕ちてしまった感情の名前に思考回路が追いつけないでいた。
「全くだ……。ブルーノ」
揶揄うか同情するか慰める周囲だったが、その中で意外にもブルーノの意見に反対したのはルッチだった。
ルッチはやれやれと肩を竦め、カクはウゲッと嫌そうな顔をする。絶対ろくなことにならない。そんな気しかしないのだ。海軍のナミさんとは伊達では無い。
「俺と一緒にするな。俺は上司として好んでいるし尊敬しているし、言うなら俺の感情はシンプルで綺麗で洗練潔白で」
「お前にそれ以上似合わない言葉があってたまるかめんどくさ男め」
「つまり俺がリィンさんに向ける感情はカクの様にチャラついた感情では無い」
はっきり口に出したルッチ。
手っ取り早く簡潔に言葉の内容を意訳するとするならば。
同 担 拒 否 。
というシンプルで綺麗で洗練潔白な四文字で表す事ができた。
「あ゛?」
「はァ?」
その様子は一触即発。殴り合い蹴り合いになれば書類はたまったもんじゃない。もう終わりかけなんだ。
全員が慌てて仲裁に入ろうとするが残念ながらルッチとカクは夜の間の戦闘能力TOP2。少なくとも犠牲は出るだろう。星組はそっと書類を守る方に入った。諦めとも言う。なんでこんな爆弾抱えてるんだろうと思わんでもないのだった。
「それに! わしは!」
カクが心の底からの気持ちを吠える。
「リィンが大大大大大大──大っ嫌いじゃッ!!!」
どの口が、と空組が冷ややかな目を向けるが、どこをどう足掻いても冷静ではないカクの目には入らない。
「まぁ言うけどさ、カク」
扉を開けながら入ってきたのはグレンだった。どうやら廊下にまで声が漏れていた様子だ。人の通りはあれど元帥室の前という立地上、基本的に高いくらいを持つ将校しか通りかからないので問題は無い。
「リィンとションは別物だぞ」
「そんっっっなこと知っとるわ! 知っとるからこんなにわしは怒り狂っとるんじゃろーがグレンさん!」
4個目の机は今この時死をむかえた。短い生命だった。
月、星、空。その三組にはリィンとションの認識に少々差があった。
月組はリィンの理解者である。リィンが別人に成っているということを理解しているので、混同させはしない。あくまでも仕事仲間としてションと接する。
星組は月組の次に長い付き合いだ。だがどの組よりも振り回されている自信があるので、上司だったり崇拝だったりなどの感情ではなく『リィン(またはション)に振り回される』という現象事態を受け止めている。別人だと理解はしているが、ある意味一緒ごっちゃにして見ている。
その二組とは対照的に、全く理解出来ていないのが空組だ。『結局ションはリィンだろ?』という意見の元に居る。
カクという存在にとって、理解という意味での本質は
「所詮ションってやつは幻だし、その根本にあるのはリィンだしなぁ」
『リィンとション』という関係性は複雑である。
女狐には『
まぁもちろん真女狐はリィンが名前も出生も全てを捨てた姿なのではあるのだが。
グレンの指摘に、カクは
「チャパパッ、でもおれはあの人好きーー! だー!」
フクロウが口元に手を当て口ずさむとルッチとカクが同時に睨みつける。もちろん彼もCP9、そんな動物の威嚇など気にすることも無くぷぷぷと笑いを零していた。
この状況が楽しくてたまらないジャブラはニマニマと笑みを浮かべ、愉快話を肴に真昼間から酒を呑んでいた。
「あの人、昨日おれをアレしたチャパパー。あれ、あっ、壁ドン」
「「「「「壁ドン」」」」」
予想もしなかった状況に部屋の中の人間ほとんどが復唱してしまった。
「な、なん、なんて言うたんじゃ」
「チャパパ……!」
含み笑いなのか思い出し笑いなのか。
フクロウは笑うだけで答えはしない。
「おれだけの秘密だーー!」
その瞬間空組は言葉に言い表せない程の衝撃を受けてしまった。
あの、口に重さが欠片もないフクロウが、秘密、だと……!?
と言った感じに。
そして彼らは同時に戦慄した。あのフクロウの口を物理ではなく精神的に封じる事が出来たという事に!
「その後なるほどなって納得したっきりまだ帰ってないんだよー!」
「それってどっち? ション? リィン?」
「男の格好だったぞー!」
よよいよよいとクマドリが激しく驚く声をBGMにフクロウが鳥のように唇をすぼませる。
日課となりつつある早朝の戦闘訓練以外では顔を見せていない。
避けてるのか純粋に忙しいのか。
情報が不足しているため判断は出来ない。
リィンが返した反応である「なるほどな」とはどういう流れでそうなったのか誰もが聞き出そうとしたが、続けられた言葉に硬直する羽目になった。
「おれ、女の子になるかと思ったチャパ〜〜っ!」
フクロウ照れ照れと頬を染めくねくねと体を捩る。
1秒。
10秒。
1分の空白ができる。
震える指先でジャブラがカクを指さした。
「カク……ぉま…お前……」
喉が震え全身が震え、もしかしたら白ひげが何かしているのではないかと思うほどバイブ状態である。バイブオブバイブレーション。もう何を言っているのか分からない。
「──お、女の子になっちゃうのかーーーーッ!!!???」
「なるかドアホーーーーーッッッ!!!」
ぎゃはははは!と大口開けて笑い出したらもう止まらない。部屋の隅で我関せず仕事を纏めていたカリファでさえ顔を背け吹き出していた。
憤怒と羞恥で顔を真っ赤に染めたカクが机を再び割った。
「そもそもどこにどう動揺してるのよ」
呆れたと言わんばかりにカリファが冷ややかな視線を向ける。カクはグッと唇を噛んだ。
「かっ」
「か?」
「庇われ、た、とき」
憤怒の炎をボッボッと揺らがせながら口を開いたり閉じたりと忙しい。5年間共にいた月組と幼少期から共にいた空組は面白すぎて頬の筋肉を酷使する羽目になっていた。
「腹がたった、じゃが、リィンじゃ、無いと認識してしまっ、わからん、苦しい…………」
庇われるなんて初めてだからこそ、よくわかってない。
カリファはあながち『女の子になっちゃう』が外れでもないんじゃないかとすら思った。(カクにとっては)残念ながらその推理は当たっている。
──バンッ
扉が激しく開かれた。
「\ジャン!/ カン次郎です!」
また濃いのが来た。
Mr.ツッコミナインがツッコミを放置して頭を抱えた。
収集のつかなくなった空間に新しい混沌が混入されたとしてもそこに待ち構えているのは闇だということがなぜわからないのか。
扉をバンと開きポーズを決めながら寝入ったパレットを片手に入ってきたのはジャンという昼の間に普段いる1人だった。
「ほらほら、そろそろ片付け切るぞお前ら。星、だったか。彼らを見習え。手は止まってないぞ」
「プロじゃな」
「安心しなさいよーう空組ちゃん。──どうせこの後追加が入るわ」
ベンサムが真剣な表情でブルーノに告げる。流石のブルーノも無言で渋顔を作った。
「ジャンジャン、パレットありがとね」
ジャンの抱えていたパレットを受け取りレモンが仮眠室に届けに行こうと踵を返す。
「カカカ! なんのこれしき! あ、そうそうお初にお目にかかる拙者の名前はジャン。いーすとぶる、のとある田舎町の確か漁師の息子でござるよ!」
個性でグングニル振り回してそうな勢いある挨拶に面をくらってしまった元CP9。
「いやお前絶対ワノ国の侍じゃろ」
「なななななななにを言うか! 拙者はジャン。いーすとぶるのとある田舎町の漁師の息子でござるよ!」
ワノ国だ……。
政府所属であった空組は心の声を揃えた。
「微妙にちぐはぐなんだよね……」
「……ぬぬ、拙者。実はとある国から海難事故で亡命扱いとなってしまい」
ワノ国だ。
これ絶対ワノ国だ!
「しかも祖国は政府非加盟国でござる、故に出身も身分も隠しているのでござる」
ワノ国だ。
非加盟国とか絶対ワノ国だ!
「偽名は元々ジョンであったが、どうにもこうにも名乗りを直せぬ。その時我が主が出現場面の擬音語に変えるよう指示してくれたのでござるよ」
どうにか隠そうと頑張ったんだという努力の証が見なくてもわかる。結局無駄であったのだが。
「女狐のところには口調が不自由なやつしかおらんのか」
「お前が言うな」
耐えきれなかったMr.ツッコミがカクの特大ブーメランにツッコミを飛ばした。
「ここも人手が一気に増えたものよ!」
「2日に1回睡眠時間が取れそうな位にはな」
とんだブラックである。
「そういえば」
書類の山から顔を上げたツキが疑問を漏らした。
「大将長期任務入るらしいけど」
「俺が共に就く」
「ダウト。単独任務だって聞いてます。全く困った子だね、ルッチは」
オカンというあだ名がつく彼女らしい評価にルッチはむっと拗ねたような表情を見せた。
「それで──女狐代理のションがこの部屋で缶詰状態になるらしいよ」
さっ、と何人かの顔色が青く染った。
女狐とションは建前は別人だ。女狐不在中は代理で雇われたションが仕事を取り仕切る。……という設定だ。
例えションに『合わせてくれ』という何かが来たとしても断るだけの
まぁその書類の山を片付けるのは夜の間の人員ということになるが。
「……──あんなクソ最低なヤツに惚れる馬鹿が居るんか?」
「残念ながら、例えカクがそうじゃなくても居るには居るんだよな。サー・クロコダイルとか」
「麦わらは大将がモテると信じて疑ってないぞ。……ってはァ!?? ボ、クロコダイル!?」
「あー。多分俺らしか知らない」
「センシティブな事だしな!」
「それもあながち間違いじゃないけど意味が違うだろ」
月組と星組の経験に基づく発言でカクは頭を抱えた。
今この時、心がひとつになった。実に感動的な瞬間だ。
──殺意でも執着向けてる分手遅れだろう、と。
==========
「ぶえっくしゅん!」
世界最大のエンターテインメントシティ。グラン・テゾーロ。
カジノホテル「THE REORO」から黄金塔の内部に入り込み、休憩所のような場所で作業をしていると盛大なくしゃみが出てきてしまった。
どの顔でウワサされてるんだろ……。
ここはTOP3(実質TOP4)の能力でしか入れない休憩所だ。
表向きはテゾーロ、シーナ、タナカさんのTOP3。
実際は私、テゾーロ、シーナのTOP3だ。まぁタナカさんも入れるんだけど。
「それで、麦わらの一味の情報集まってる?」
ギルド・テゾーロ。
ここグラン・テゾーロの
「ええ色々」
「オーナー服いるー?」
「あ、シーナついでにマント系も頂戴」
元ドンキホーテ・ロシナンテ。現在は名無しのピエロ。
跳ねっ返りの長い金髪を尻尾のように動かしながら、ピエロの装いを解除したシーナは私のサイズ専用のドレッサーからいくつか服を取り出して放り投げた。
「まず確認も兼ねてルフィだけど、女ヶ島のそばの無人島で冥王と剣帝、時々エースとサボと修行中。期間は2年間。集合はシャボンディ諸島」
赤封筒案件の長期任務の準備と情報共有の為休暇として
とりあえず非常食と武器と現金と換金出来そうな物、それと先程補充した衣服とか変装用の小道具とか生活に必要な必需品はアイテムボックスの中に入れる。
「堕天使の現在地はここグランテゾーロ。海賊狩りは鷹の目の根城」
私はこれくらいしか把握してない。王族の足取りが掴めてないのはめちゃくちゃ怖いけど、くまさんとセンゴクさんの判断に任せている。
「それでは俺たちが集めた麦わらの一味の足取りだが。シーナ」
「泥棒猫がウェザリア、狙撃王がボーイン列島、七変化がトリノ王国、鉄人がバルジモア」
テゾーロが黄金を手足のように使い紅茶を沸かす。にょろにょろと器用に黄金がコップを掴みトポトポと紅茶が注がれた。鼻腔を擽る上質な紅茶の香り。
「4人、か。ウェザリアは聞いたことない」
「ウェザリアは空島だよ。天候研究所の」
「むしろ空島なのによく情報入手したね」
「下に降りてくるから情報は得やすい。取引先でもあるしな」
天候を買い取ってるのか。
うちの取り柄って資金だからな、金を使う研究所とはいい関係になれる。
「それと、革命軍関連から探れば、悪魔の子が革命軍に、黒足がカマバッカ王国にいることがわかった。悪魔の子の方はオーナーの管轄ってことで。細かくは探れなかったな、」
「ふぅん……。ニコ・ロビンが革命軍って事は、移動してるのか。まぁそこら辺は直接交渉する方が早いし、何かあればサボが教えてくれるだろうからいいや」
カマバッカ王国って事はイワンコフさんの国だし、サンジ様とニコ・ロビン含め7人はほっといて大丈夫そうだね。
「鼻唄は少々厄介でな。ナマクラ島という閉鎖的な島に飛ばされたようだが、手長族に攫われてしまって」
「放置!!!!!!!!!」
部屋を彩る黄金が紅茶を照らすせいか、心做しか輝いて見える紅茶を私は受け取りハッキリ告げた。
「ブルックさんの場合あの見た目ですから否応がナシに情報は集まるし、これ以上は積極的に調べなくてもいいかな」
「ではその様に」
「クラバウターマンはガスパーデの所で雑用してる」
聞き覚えのある名前に疑問が浮かぶ中紅茶に口をつける。悔しいくらい腕がいいので紅茶はめちゃくちゃ美味しかった。
「あっ、海軍最大の汚点」
「時期的には俺の同期。流石に知ってたか」
「海賊に転じたのは私が入るより前だけど一応」
汚点と言われる位には語られているからよく海軍のおじたま♡たちに聞かされていた。もちろん私が女狐と知らないおじたま♡なんだけど。知ってる人はイコール実力者ってことでもあるから、入手は雑用のリィンちゃんを可愛がってくれるファンクラブ会員辺りだよな。
「んで、オーナーが気にしてた砂姫とついでにカルガモだけどォ……」
シーナが気まずそうに視線をあちらこちらへと向ける。テゾーロは目を開けてすらない。胡散臭いニッコニコ笑顔だ。
「……まさか見つかってないとかは」
「それは無い!!!それは、ないんだけど……あの主従すこぶる厄介というか……」
トマトを噛み潰したような表情でシーナが居場所を告げた。
「砂姫がクロコダイルで、カルガモがドフィの所……」
「厄介極まりなきだしむしろビビ様大丈夫ぞ!!!??」
そこら辺因縁しかないと思うんだけど!?
「まぁでも本来はどうやら革命軍に預けるっぽかった。革命軍の武器関係の調達ルートの付近に飛ばされたと思われる島があったから」
「…………それより先にクロさんが見つけてしまった?」
「まぁそうだけど飛ばされた先はクロコダイルの隠れ家だな。本部やマリージョアに行き来してた時代の仮拠点でもある」
その瞬間私の顔が歪んだのがわかった。その顔を見たテゾーロが吹き出す。
……監獄から出すんじゃなかった。
「あとビリーだっけ?それは悪いけどまっったく足取り掴めてない」
「野生に返ったかな」
一通りの情報を入手して軽く頭が痛くなってきた。
私はソファに体を沈みこませて深い息を吐く。
「CP9はどうなったんだ?」
よっこいしょ、とジジくさい言葉を漏らしながらファイルを片手に座ったシーナが首をかしげる。
「とりあえずルッチとフクロウを押さえてるからまだ何とか。1番信用ならないのはブルーノで次点にカリファだけど」
「へぇ、フクロウってあの口の軽いやつだろ」
「口が軽いなら噂流しに使えばいいんだよ。幸い、ホントのことが多いからね」
フクロウには色々と情報を入れてある。
というか漏らす様な情報しか入れてない。
「昨日実験も兼ねて壁ドンしてみた」
「へぇ、なんの実験?」
「CP9はもしかしたら上司運が無さすぎてカッコイイ上司に慣れてないんじゃないかと思って。センゴクさんみたいな」
スパンダムを見ればよく分かる。あれは人を動かすタイプじゃないのに。
「それでどうなった?」
「──手が届かなかった」
「「ブホッ」」
2人が同時に吹き出した。
いやだって、そうじゃん。私より体格のある人間を腕と壁の間に入れられると思う?
無理でしょ。もしも壁ドンするならブルーノまでだよ。
「だからこう、あっ届かないって思った瞬間体を押して壁にドンッてぶつけて」
「そういう壁ドン!?」
「スカーフ引き寄せて『口の軽さなんか気にすんな。フォローするのが上の仕事だ。お前は自分の実力を充分に発揮してろ』って」
「わー!かっこいー!俺のフォローも頼むぜー!」
「どんくさピエロめ、テメェのケツはテメェで拭け。ねっ、オーナー。俺はフォローしてくれますよね」
両方とも嫌に決まってるだろ。いい歳したおっさんが喚くな。
「ドンキホーテ・ロシナンテ(37)、ギルド・テゾーロ(39)」
「誰のことかな!」
「知りませんね」
アラフォー2人はお手本のような笑顔の面を被った。
まぁ素敵な笑顔だ事!くたばりやがれですわおっさん!
「まぁ、予想は当たるしたかも。CP9は可愛い少女じゃ攻略出来ないみたい」
グイッと紅茶を飲み干して空になったコップを机に置いた。
「じゃあ私行くねー」
「オーナー長期任務?」
「うん。決して死ぬなお前の伝手は使えないと思え、準備を念入りにしろ。そう脅すされたんだけど任務の概要は欠片も教えてくれなくて何ぞ準備すればいいのか皆目検討も付かないけどとりあえずやれるだけはやったから」
今までの箒と違って移動するのに時間がかかるから背伸びをして体を解す。寝たら怠さは消えるから本部に戻ったら仮眠を取ろう。
「あ、そうだ」
テゾーロがふと何かを思い出したのか黄金を操りつつあそこじゃないここじゃないと何かを探していた。
島規模で探せるって途方も無さすぎて……。便利なんだけどさ。
「あったあった」
壁の黄金を突き破ってスポンッと出てきたのは──。
「えっ、は、箒だ!?」
「そこまで驚かなくても別に箒なんてこの世に掃いて捨てるほどあるでしょ……」
その通り掃いて捨てる道具だけど!掃く方の道具だけど!
「スカした顔してこうは言ってるけど、コイツめちゃくちゃこだわって箒発注してんだぜ」
「シーナッッ!」
放り投げだされた箒を受け取る。
The魔女って感じの、本来の使用用途を考えれば実用的とは言い難い箒。重さもそこそこ。
みょん、と伸びた黄金の柱。それを目視すれば勢いよく箒を叩きつけた。
「……ッ!」
乱雑に扱っても手に反動が来るだけで箒は原型を保っていた。
木材というより鉄みたいな感覚だ。
「イタカイゴスって品種の木材です。良かったらオーナー使ってください」
うん。気に入った。ダニエルと名付けよう。よろしく3代目箒。
箒にしては重いけど武器にしては軽いからいざってとき振り回しやすいし。
「それじゃ、行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
==========
休憩室で、だったがリィンを見送った名無しのピエロとテゾーロは気配を感じなくなった瞬間深い息を吐いた。
「……バレたかと思った」
「……いや、もしかしたらバレてる可能性もある。気を付けとけ」
「言われずとも」
予定外の帰還に冷や汗が止まらなかったが、上手く普通を纏えていただろうか。
「あーくそ、やっぱ生き返りは卑怯だよなーっ!ローの姿が見れたのは良かったけどさ」
キリキリと痛んだ胃を押さえつける。
「……1度は殺せたんだ。あれ以上のチャンスが回ってくるとは思わないがきっと殺せるさ」
──頂上戦争にて、火拳のエースは死亡する。
それは
黒ひげマーシャル・D・ティーチにエースとマルコの2人をぶつけるのも、そこから処刑されることも。
1度は処刑台から逃がしてしまったが、赤犬であるサカズキの手により殺せたはずだったのだ。
……足の空気をナギナギの実の能力で凪の状態にして。
直接的に殺してはないが、確実に死因になった。
なのに、なのに!
エースは蘇ってしまった!死の淵から!
「あの子が火拳死亡を阻止しないように動きも止めたんだけどな」
「戦争に関しては反省するだけ無駄だ。切り替えろ」
エースの命が消えるあの瞬間。リィンは足が動かなかった。声も出なかった。精神の錯乱による判断能力が欠如した状態を狙ったシーナ渾身の阻止だ。
リィンはシーナが自分の周囲にしか能力の展開が無理だと思っている節がある。
残念ながら遠距離発動も可能だ。
「足がつかないのはお前だ。これからも頼むぞ」
「勿論」
全てはリィンの兄を殺すために。
==========
赤封筒案件の長期任務。
センゴクさん、何を思って可愛い娘をこんな所に連れてきたんですか。
それでは問題です。
私は今、どこにいるでしょーか!
「──あのッックソ野郎ーーーーーーーーーーッ!!!」
かつてないほどセンゴクさんへの恨みを吐き出した。
────今、過去にいます。未来で待ってろ。
カクリィではなくションカク(概念)です。
そしてエースが不自然に死んだ理由はシーナの手によるものでした。感想欄、見事に正解を弾き出してて怖い。
これにてマリンフォード編終了。次回から赤封筒案件の長期任務編に参ります。
バランス計算をしつつ書き連ねていこうと思うのでちょっと時間開けます。(こういう違いが守られた試しがない)