2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第233話 古参七武海は新時代の光を見守る

 

 シャボンディ諸島のとあるGR(グローブ)にて、王下七武海の称号を得ている〝海賊女帝〟ボア・ハンコックは聞こえてきた会話に割り込んで告げる。

 

「──ならば妾のところに来てはどうじゃ」

 

 突然の声に警戒したが、ルフィはその顔が恩人であると分かり笑みを深めた。

 

「あー! ハンコック!」

「先程ぶりじゃなルフィ。フェヒターとレイリーも元気そうで何よ……なんじゃ貴様もおったかクロコダイル」

「よぉ蛇姫、ジンベエ。元と現役揃い踏みでお熱いこった」

 

 ハンコックはその場でルフィとフェヒターとレイリーが話し合っていることを耳にしたのだ。そしてクロコダイルの言葉によってハンコックの後ろにいるジンベエに気づいたルフィは嬉しそうに飛び跳ねながらジンベエの元に向かった。

 

「ジンベエ、無事だったか!」

「ルフィ君、お主こそ無事で何よりだ。怪我はどんな感じじゃ?」

「えーっと、とらとら!」

「トラファルガー。……馬鹿なことやったお陰で火傷が酷いが、比較的軽傷だ。体力の消耗も少ないから数日でケロッとするだろう」

「昔死にかけたもんなー、また死にかけるのは勘弁だ!」

 

 体力と聞いてぴくり、とレイリーが眉をひそめた。

 

「で、お前らどうしたんだ」

 

 クロコダイルは即座に口を開く。違和感のあるその様子に気付いてなのか知らないがハンコックは先程の話を再開した。

 

「修行出来るような過酷な環境を探しておるのじゃろう。妾の国のすぐ側に中々愉快な島があるが」

「あァあそこか……確かにルフィくんの修行にはうってつけだな……」

「……レイリー、どうしたのじゃ?様子がおかしいが」

「娘に暴言吐いた」

「……吐いてない」

「八つ当たりしてんだよ」

「……当たってない」

 

 子供のようにブスッと顔を歪ませている姿から察するに図星なのだろう。ハンコックとついでにジンベエはフェヒターにある程度事情を聞いて、困り顔をした。

 

「……ま、分からんでもない。妾なら愛する者が死んだとなれば正気を保てんじゃろうな」

 

 ぐ、と顔を顰めてハンコックは呟く。お前ならどうする、と言わんばかりにクロコダイルに目を向けた。

 

「もう既に国に当たって終わらせた。未遂だったけどな」

「それは未遂でも実行した時点でアウトじゃ」

 

 馬鹿者、と覇気のこもった手刀を繰り広げた。

 

 ──同じ穴の狢(かいぞく)しか居らんな。

 

 ハンコックはうん、と頷いた。

 

「ルフィを育てると決めたのならしゃんとせねばな」

 

 子供の年齢でもおかしくないハンコックにそうズバリと言われてレイリーはニッコリ笑う。

 

「任されよう、フェヒターが」

「俺かよ! てめーだよ!」

 

 余裕な表情が取り繕われた。

 ハンコックはやれやれとため息を吐き出す。

 

 表面上まともになっただけまだマシか、と長い付き合いのフェヒターは空を見上げた。

 

 

 この後めちゃくちゃ16点鐘した。

 

 

 ==========

 

 

 ミホークはかなりマイペースであると自覚している。戦争が終わってすぐ思い返したようにリィンに女狐確認の連絡を入れ、適当な島でブラブラ暇を潰しながら暇しかない自分の根城に戻った。

 

「あ」

「あ!」

 

「……ロロノア・ゾロと、誰だ」

 

 新聞を手に持つフリフリしたピンク髪の娘と、頭を悩ませている麦わらの一味の剣士が家に居た。

 

「お、お前モリア様と同じ七武海じゃねーか!何の用だ!かーえーれ!かーえーれ!」

「ここがおれの家だ」

 

 シッケアール王国の薄暗くジメジメした空気の中で色付いた様な感覚だった。

 

「お前のとこの七武海に飛ばされたんだ。邪魔してる。あとついでに仲間の誰かと連絡が取れないか?」

「あー……リィンでもいいか?」

「あいつならより一層万々歳だな」

 

 ゾロは肩を竦めながらも話の通じるやつと合流出来たことに心底安心した。船で出ようとしても方向も何もかも分からないのだから、特に単独行動が出来るリィンの伝手はありがたい。

 

「リィンか」

『…しもし、ミホさん?何事で、あるです?』

「お前声が死にかけだが」

『思い出させぬでください………』

 

 疲れ果てたリィンの声が聞こえてきてゾロはようやくため息を吐き出した。

 

「リィン! 3D2Yの意味って分かるか!?」

『うぉあ!? ゾロさん!? なんでゾロさん!? …──あ、くまさんに飛ばすされた先もしかしてミホさんのとこ!?』

「全くもってその通りだ」

 

 驚く声が電伝虫から聞こえてくる。

 ゾロは久しぶりの仲間の声に自然と笑みを深めた。

 

『いいですかゾロさん、私たちは3日後合流予定で、すた』

「そうだな」

『"3D"aysがバツ印で、次の集合は』

 

「「「──"2Y"ears!」」」

 

 現地の3人が声を揃えた。

 

『若干怪しい人は何人かいるですけど、私たちは強くなるために立ち止まる必要があるです。私は解読不能なアホども優先に探すする為にちょっと色々すてるので、所在地分かってるゾロさんとこには行かないです、別にいいですよね』

「あァ大丈夫だ。なんとかする。非人間的存在優先で頼むわ」

『丁度ミホさんもそこにいるようですし修行でもつけてもらうしたらいかがです?』

「あー……どうだ?」

「…………外に、マントヒヒが居る。人を真似をして学習する猿だ。そいつらに勝てるくらいならつけてやるが」

「傷口に唾塗りたくる猿なら切り倒したけど。アイツら学習するんだったら手当して正解だったな」

 

 殺してない、ときたか。

 ミホークはこっそり笑みを深める。そもそも麦わらの一味というのは面白い存在だと常々思っていた。

 

 

『じゃあそういうことで』

「リィンはどこで力付けるつもりだ?来るよな?」

『私戦闘面での修行はちょっと……。まァ私はグランテゾーロを拠点に飛び回るしてるので伝言あったらそっちのシーナにお願いです』

「あァ酔っ払いピエロか」

 

『ミホさん余計な口開いたら私は貴方をガン無視するのでよろしく』

 

 

 がちゃり。

 

 

 そう牽制をされたミホークはアーーと天を見上げた。ゾロとペローナという少女がミホークを見上げる。

 

「(女狐だったと漏らすな、って事か)」

 

 リィンにとっても予想外の出来事であったのだ。ミホークが女狐の正体を知らないと思っていたからこそゾロの旅行指定先を彼にした。ミホークは懐に入れた相手には口が軽い。

 

 知っていた、絶対ゾロを懐に入れるという事を。

 

 ペローナはわけがわからなくて首を捻る。

 

「どういう事だ?」

「……まァ、昔から色々あったんだ。俺は仮にもリィンの師範をしていたからな」

 

 

 ゾロはペローナの耳元でこっそり情報を正した。

 

「1桁の少女が刀持って追いかけ回されてたらしい」

「うげ、頭イカれてんのかよ」

 

 暇だらけの島から暇が消えた。

 

 

 ==========

 

 

「クエーーーーッ!」

「…………どういうこと?」

「若様おかえりー!」

 

 子供たちがドフラミンゴの足に引っ付き、止まった思考が再び動き出す。

 

「え、いや、これビビ王女のとこのカルガモじゃん。どういうこと」

「私たちにもよく分からないの」

 

 カルーは新聞をドフラミンゴに渡してみせた。

 

「は?麦わら?」

「クエッ、クエ!」

 

 右翼でズバッと写真の右肩を示したカルーにドフラミンゴは困惑する。こいつ思ってる以上にコミュニケーション取れやがるな、と。

 

「3…なんだこれ」

「クエーーー、クエーーーー!」

「分かんねぇって分かんねぇって! 流石に無理だろこんなの! わかったわかったリィンに連絡取ってやるから!」

 

 その発言にカルーは顔を横にブンブンと振った。

 

「……? 麦わらの一味抜けてきたのか?」

「(ブンブン)」

「確か完全崩壊って新聞にあったな……。くまが、あぁなるほどここに飛ばされてきたんだな」

「(こくん)」

 

 若様すごいと子供達に喜ばれるが、俺これ知ってるウミガメスープだ、イエスノークイズ苦手なんだよな。そう思いながらカルガモ相手にやり取りを交わす。

 

「戻りたくねぇのか」

「(ブンブン)」

「戻りたい」

「(こくん)」

「……戻るタイミングは今じゃない」

「(こくこくこくこく)」

 

 高速で頷かれて、ここまで来てドフラミンゴは推理を始める。手元にあるのは海軍本部に乗り込んで行ったバカの話だ。そばにいるのはリィンではなく冥王と剣帝とジンベエ。ほかはともかく冥王は中々の頭脳派。リィンが居ないが、真偽はともかく一応海軍本部センゴクと揉めた後だ。現れないのに不思議はない。

 

 そもそもリィンが海軍側で、麦わらの一味にスパイとして居たら海賊行為を助長させるようなことをするだろうか。例え海軍から離れたとして、生存ラインがそこにしかない海賊の一味を悪目立ちさせるだろうか。

 

 いや、否だ。

 

「それにこれはリィンが好まないな」

 

 元々リィンは戦略に新聞を利用する事をあまりしない。新聞は時が過ぎれば消え去るし、裏で操らなければ文字を改ざんすることも難しい。

 

 やはりこれみよがしに書かれてある文字だ。

 

「(冥王の思考回路をトレースしろ、あいつなら何をやらかすか。奴らが戦場から去る時クロちゃんも麦わら兄弟と共に去った、ということは、戦神の死亡も当事者だから隠さず把握している……)」

 

「若様?」

 

「(リィン大好きなあのクロコダイルが実父にする牽制、によって、何を動かされた、か)」

 

 ドフラミンゴは情報が不足する中、口を開く。

 

「力不足、だな」

「(こくん)」

 

 くまのやりそうなこと、クロコダイルのやりそうなこと。

 麦わらの一味に関わる七武海から整理して、そして答えを見つけた。

 

「……雲隠れして修行期間でも設けるのか?」

「クエ!クエ!(こくん!)」

 

 当たりだ!とその反応にドフラミンゴはおかしくてたまらなくて顔を手で覆った。

 

「フッフッフッ…!くま公め、この俺を利用しやがったな…!」

「ク、クェ……」

「なるほどなるほど、この写真に集合のメッセージが隠されてあると」

「(こくん)」

「それは時期か?……いや、時間だな。DとY。『2年後』か」

 

 ドフラミンゴは見事に自分の力で見事推理して見せた。

 カルーは喜びうかれているのかバサバサと羽根を広げた。

 

「簡単に連絡を取れる俺の元にいながら連絡を取らずテメェでやろうとしたのか、甘えず鍛えあげようと」

 

 ドフラミンゴから笑い声が零れる。

 あァ愉快だ!愉快でたまらない!

 

「お前かなり"漢"だな…!気に入ったぜ、()()()

 

 純粋に面白い。

 使えるものを使わない単純馬鹿は、自分達と正反対で観察が楽しいのだ。…──最も、仲間に単純馬鹿はいらないのだが。

 

 

 ==========

 

 

 

 クロコダイルはリィンの持っていた指輪から取り出したビブルカードがずりずりと動く様を眺めていた。

 

 その方向はリィン。──では無い。

 

「はっ、俺がただガキ1人の方向把握するためだけに仕込むかよ」

 

 このビブルカードは『保険』だ。

 もしも全てを失った時の。

 

 ただそのもしもが現実として起こった為、回収したのだった。

 

 ビブルカードの持ち主はクロコダイルだ。自分の爪から作られたこの保険は隠れ家に置いている。磁力も何も生み出されない裸の島に置いてる隠れ拠点に指針(ポース)は利用できない。

 

 方向把握?

 そんなのは嘘っぱちだ。むしろ仕込んでいた事を半分忘れるくらいには保険だった。

 

 クロコダイルの視界には小島があった。

 ネズミ返しの草木も何も無い小島は人が生きるのに不向きだ。

 

 砂人間であるクロコダイルを除いて。

 

 古びた、見るからに使われてない屋敷に入る。……おかしい。確かに数年は来なかったが明らかに違う所がいくつかある。

 その中で決定的なあとは隠し部屋への扉が開かれていることだ。埃のつもり具合から約1週間〜2週間。

 

「……。はァ、マジかよ」

 

 自らの能力でくり抜いたその隠し部屋の中で、スヤスヤと眠りにつく見覚えしかない少女が居た。

 クロコダイルは現実逃避も兼ねて小屋を出、島を眺める。

 

 そこには肉球型にえぐれた土地を利用して空気中の水を溜める様にカバーがかけられてあった。

 

 頭が痛いと言わんばかりに額に手を当ててクロコダイルはクソデカため息を吐いた。

 BWと合流もしなければならないのに。

 

 

──バサバサ!

 

 

 その羽音にクロコダイルは更に眉をひそめた。

 

「海軍の伝書バット?」

 

 あぁ嫌な予感がする。

 ──だが、ある意味目的にはちょうどいいかもしれない。

 

「王下七武海の称号、なァ。クハハ、剥奪しておきながら何を企んでるのやら」

 

 あぁ頭が痛い。

 

 

 ==========

 

 

「なージンベエ」

「ん?どうしたんじゃエースさん」

 

 ハンコックにシャボンディ諸島まで送ってもらったジンベエは、ルフィに着いて海軍にお礼参りをした後、そのままシャボンディにて自分の船をまち、エースを白ひげ海賊団へと送り届けた。

 

 無事の合流で白ひげ海賊団全体が湧き上がった。

 その様子を嬉しそうに見ていた。

 

 すると輪の中から出てきた主役でもあるエースがジンベエに寄ってきて声を掛けたのだ。

 

「リーとレイリーってさ」

「うん?」

「似てるよな!」

 

 にかっと笑うその顔にエドワードが似てるな、と。誰とは言わないがそう思った。思ってしまった。親として少し悔しい気持ちがある。嘘だかなり悔しい。

 

「お前だって親と似てるよい」

 

 マルコが口を開き白ひげ海賊団は口々に似てるところを上げていく。

 

「まず顔が似てる」

「わかる、目が鋭いところな。間抜けた時の表情も似てる」

「あとすぐ寝るとこ」

「あー、わかる。飯食ってる時に寝るのはそっくりだ」

「……知らなかった。皆海賊王詳しいんだな」

 

 そりゃ三日三晩戦うことなんてざらにあったから。

 皆が皆同じことを考え苦笑いを浮かべた。

 

「逃げるのが嫌いだから、よくレイリーに引きづられてたな」

「尻に敷かれてるというか」

「あー、それ俺とリーも同じかも」

「レイリーは寝起きがくそ機嫌悪いから朝方に戦うのは嫌だった」

「リーも寝起き最悪だな、すぐに目は覚めてくれるんだけど無理矢理起こされるとダメだ」

 

 共通点が掘り出されてくる。

 

「だが」

 

 白ひげはエースの頭を撫でた。

 

「お前は生き返った」

「うん」

「リィンは海軍で息をしていた」

「うん」

「似てるけど、ちゃんと違うんだよ。お前らは親のコピーじゃなくて、それぞれの存在だ」

 

 だから親がどうとかで裁かれる必要は全く無いのだと。

 

「……俺、皆に助けて貰えて嬉しかった」

 

 真剣な顔でエースは言った。

 

「白ひげ海賊団を抜けさせて欲しい」

 

 衝撃が走り、どよめきが生まれる。質問されるよりも早く、エースががばりと頭を下げる。

 

「この恩は、絶対忘れない! 絶対忘れられない! 一生かけて返しても足りないくらいの大恩だ! ッ、だからこそ、だからこそ俺、やりたい事が見つかったんだ」

「…………そうかァ」

 

 海賊王の玉座の前で次の王を待っていた白ひげ海賊団の船長はこれから発せられる言葉が予想出来てしまい、ほろりと涙を流した。

 

 

 

 

 

「────海賊王になるよ。助けられた命で、白ひげや海賊王を越えて、皆が誇れるくらいの海賊に」

 

 

 歴史の(スタート)が切って落とされた。

 


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