2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第232話 時経てば鐘が鳴るなりデストピア

 

 

 私をぷぎゃろう議会の翌日。

 

 

 ──の、深夜。もうすぐ日付けが変わろうとしている闇の中だ。まァ海軍本部は復旧作業の光で明るいけど。

 

 私は任務から帰還してすぐ女狐部屋に飛び込んだ。

 中のメンツを確認してコートを脱ぎ捨て仮面も脱ぎ捨て、シャツと長ズボンになるとバランスの取りづらい厚底のブーツを脱いだ。

 上から海軍支給のジャージを来て、スカーフを巻く。

 

 あァ疲れた。

 めちゃくちゃ疲れた。

 

「た、たい、しょー?」

 

 そのまま地面に倒れた。

 

「は、え、ちょ!?」

「初めましてションです女狐隊の雑用です」

「あっ、大将が言ってた新しい雑用ってあんたか」

 

 ぐぅー、とお腹が鳴る。

 

「オカン、なんか軽食ない?あっ、間違えた。……先輩、なんか軽食ちょーだいよ」

「そういうキャラ付けかい」

 

 ション、というのは戦争後私が過ごす雑用姿の名前であり、真女狐の中身の名前でもある。

 

「忙しい……忙しい……まだ考えなきゃ……今日は徹夜だ……」

「「一徹なら余裕でいける!」」

「成長期になんて酷な事を」

 

 レモンとオカンが同時に声を揃えた。

 いやでも今日はほんとに忙しかった。死ぬかと思った。まだ調節しないといけない書類もあるし育成メニューも考えないといけないし、七武海の書類も作成して、七武海候補の現在地も探さなきゃ……。

 

「えっと、さ、大将に聞きたいんだけど今日何があったんだい」

 

 昨日はまだ楽だった。

 海賊相手にお話するだけで終わったからまだ良かった。

 

 オカンに聞かれ、私は辛く苦しい今日一日を思い返すのだった。

 

 

 ==========

 

 

 人払いを済ませた元帥室にて。

 

「センゴクさん、真女狐って雑用として表立っていいのですよね?」

「そちらの方が動きやすいだろう?何か決まったのか?」

「いや、髪の毛染めてみようと思うまして。どうですか?黒髪」

 

 仮面とフードを外して、黒く染めた格好を見せればセンゴクさんは数秒ピタリと固まればため息を吐いた。

 

「やっぱ、似てるです?」

「……あァ、予感は確信に変わった」

 

 よく分からない反応をしながら私を上から下までジロジロ見る。

 冥王の遺伝子が色と性格にしかでてないと言われるほど見た目は戦神寄りな私がだ。その色を黒に変えれば戦神そっくりになると思っていた。うーん、顔隠すようにしとこうかな。フードとかで。

 

「この女狐の名前はション」

「お前にしてはいい名付けだな」

 

 リィンカーネーションから取ったので。

 言ったらキレられそうだけど。

 

「それで『女狐』の形態なんですけど3種類に分けようと思うして」

「3種類……あァなるほどうちに入ってるネズミ対策か」

「そうです。『旧女狐は裏切られた堕天使リィン』と『ションという演技をしている女狐リィン』が海賊と海軍に潜り込むしたスパイに見せる顔です」

「最後のひとつは真女狐か」

「はい、堕天使リィンをギタギタにした方の女狐です」

 

 右手で指を2本立てる。

 

「その2つの顔は海賊側です。『海軍を敵視する裏切られ者』と『再び取り込まれたお馬鹿のフリをするダブルスパイ』です。そのふたつが海賊側だと知ることは時間の問題でしょう。でもセンゴクさん達上はリィンがダブルスパイしてることを気付くしないでください」

 

 だってもう1つの顔が使えなくなるから。

 

「最後の1つが真女狐です。『リィンを影武者として利用するションという男』が女狐です」

 

 わたしことリィンはションという男の真似をさせられている、って感じ。リィンは海軍に裏切られた顔と海軍の情報を集めるためにスパイをしている顔とふたつを持つことになる。裏切られて向ける憎悪は本音。でも海軍から見たら演技。

 ま、海賊側にいる頭のいい人対策だな。

 

 

 ルフィ達お馬鹿組や距離の遠い親しくない海賊相手は海軍に捨てられた姿を見せる。頭のいい人は「自分から海軍を抜けたのにどうして捨てられた?」ということに気付くだろう。そこで元女狐だと言うことを言おう。

 そしてニコ・ロビンとかマルコさんとか海軍に潜む海賊スパイ相手とか頭が働く相手には、『海軍に潜り込んでいるから触れてくれるな』とダブルスパイだと発言しよう。

 

 

 つまり、リィンと名前がつく者は全ての顔において海賊側だ。

 リィンは真女狐がいることには、気づいてないけど。

 

「──って感じでどうです?センゴクさんと女狐がリィンを利用しているクズ野郎って評価になるですけど」

「……お前、海賊側で生命の保険を掛けてるな……?」

「いぐざくとりー!」

 

 私は堂々と裏切り発言をした。

 

「親は変えられないですから、だから大丈夫。私の命の保険はできた。センゴクさんにとって冥王と戦神の子が悪だとなったら遠慮なく切り捨ててください」

 

 海賊側はもちろんだけど最終生命線の青い鳥(ブルバード)もある。ココはセンゴクさんに伝えてないけど。

 

「舐めるなよリィン。子を捨てなければ成せぬ程度の低俗な策を私が講じると思うな」

「……!」

 

「いいか、リィン。私相手に上手く渡り合う必要なんてない。言いくるめる必要も、勝つ必要もない。……もっと肩の力抜いて、変な策略に頭使うの止めて、無防備な状態でぶつかってこい。もっと素直に自分の願いを口にしろ。私たちは家族だ」

 

 ──それはそうとして全力で力をつけてもらうので死ぬかもしれんが。

 

 

 そう告げられて感動はスンと消え去った。楽するための努力ならまだしも、普通に努力は嫌でござる。

 

 

 

 ==========

 

 

「情報屋、今すぐ麦わらの一味の所在地探すして」

『えぇ……マジで?』

「情報入手経路が欲しい。把握する程度でいい。目撃情報合ったら集めといて」

『ハイハイかしこまり』

 

 依頼という体を保ちながら青い鳥(ブルーバード)に連絡をつける。戦争のそれぞれの情報を集めていたりするからめちゃくちゃ忙しいだろうな。

 

 麦わらの一味は現在バラバラだ。

 ルフィとフェヒ爺と話し合いをした結果しばらく身を隠さなければならないだろうという結論に至った。というか誘導した。

 その隙に私は麦わらの一味の皆を探すという表向きの理由をつけてルフィと別行動をしている。

 

 このまま修行とかして力を付けさせたいんだけど。まァ上手く持って行けるだろう。

 私は麦わらの一味を合流させないようにしなければ!

 

 キョロキョロと周囲を確認して人がいないことを把握する。

 

「あとそろそろドフィさん潰す予定です用意よろしく」

『……!テゾーロ!てーぞー!作戦突入する!俺ちょっと例の噂流す下準備してくるわ!』

『は、おいちょっとまてピエロ!』

『タナカさん俺出てくるヌケさせて!』

『……くっ、遅れをとってたまるか!実弟便利だな…!オー、いやえっと、まぁいいや。どぎつい噂流したい、流したいから考えてくれ!』

 

「ウチってホントドフィさん嫌いだよな……」

 

 これは勝つ自信しかない。

 

「あと長期任務予定なのでしばらく連絡つかぬと思うしてください」

『分かった。何かあったら連絡をしてください』

 

 長期任務……。

 心配にしかならない。そもそも今のレベルで実力が足りないってどんな過酷な任務なんだろう。

 

「考えてる暇はないけど考えないと」

 

 つまり体と口を動かしながら考える。これに限るな。

 修行期間に長期任務終わらせなければならないんだから時間は少ないぞ。

 

 

 ==========

 

 

「……もしもし」

『どーーーしたんじゃ!裏切られた女狐さん!』

 

 CP9に連絡を取ると、嬉しそうな、心の底からハッピーな声色をしたカクが出てきた。

 

 ふっ。

 

 私は鼻で笑う。

 

「残念でしたねぇ?海軍へのご案内でございますぅ!」

『………………はァ゛?』

 

 ざまぁみやがれと嘲笑うとさっきとは一転して気分の悪そうな低い声が漏れた。

 

「他のCP9」

『もうCP9ではないのだが貴女の1番の部下がこちらに』

「チェンジ」

『変わった。ウチの頭が残念なヤツらがすまない』

 

 ルッチとカクは個人的に話が通じないのでブルーノが出てくれるのは本当に助かる。でも最初から出てきて欲しかった。

 

 

「……その頭の残念なヤツらが私の部下になることに頭が痛い。それでブルーノ、とりあえず必要書類とか用意するので数日中に海軍本部に来る事。事務の方で女狐隊に確認の連絡を入れさせてください。案内はカクに。女狐隊の場所は元帥室のすぐそばですので扉の前で部下か雑用を配置させておきます。赤い何かを身に付けているので」

『我々は資金が心許ない。そのままそちらで雇ってもらえるのだろうか』

「ある種面接は終了してる段階なので大丈夫です。というか設備が戦争でやられてる故に、人手が不足中なのでさっさと頼む。経費から落とすので私物もこちらに着いてから揃えるのと、宿舎貸し出しも枠開けてます。まァ宿舎は四人部屋ですけど」

 

 必要事項をサッと伝える。

 すると歩きながら電伝虫を使っていたせいか人と鉢合わせた。まぁ聞かれても問題ない相手だったから移動中に使ってたんだけど。移動時間が勿体ない。

 

「あァなんだお前か」

「ん、青雉………大将」

「わりぃな電話中。兵站部と兵備部から連絡、輸送部に物資配達とか借り出してた武器の返却とかまとめ終わったから指揮取っといて」

「…………把握」

 

 女狐隊というより女狐である私が輸送部の長をしている。重要な部分を任されているけど、情報として重たい責任がのしかかるわけじゃないし兵站と兵備の指揮ありきな部分があるから不在気味の私にとってありがたい部隊だ。

 

 ちなみに兵站部はおつるさん、兵備部はクザンさんが指揮を取っている。

 

「というわけでお前らには殺し以外にも仕事がわんさかある。期待してるよ」

『……は、い』

 

 ガチャりと電伝虫を切りため息を吐く。

 電伝虫が終わるのを待ってくれていたクザンさんから書類の束を受け取った。

 

「物騒な指示してんね」

「……そっちにサイリーン回す。仕事しろ」

「お、雲の手助かる。兵備部、建物の修繕まで仕事に入ってんだよ。あの雲凍らせたら高い所まで手ぇ届くし俺にくれない?」

「…………。あれ優良物件と見せかけた事故物件ですけど良いのです? 個性の闇鍋の女狐隊に入ったってところで察して欲しい」

「OK、素に戻るくらい本気で事故物件なわけね、借ります」

「もらってくれてもいいですよ。里親募集中」

「か! り! ま! す!」

 

 兵備部の仕事はクザンさんが怠ける度にウチが請け負っているけど仕事に殴り殺されそうな量あるよね。同情する。

 まァうちに飛び火するから同情の余地なく縛り殺すんだけど。クザンさんを。

 

「どうしてクザンさんの脱走に対する行動力が何故仕事に発揮されぬのか拷問したい……」

「尋問すっ飛ばさないで欲しい。大体、サカズキとか女狐とか働き者って言われてるけど、皆が皆働いたら働き者には成れねぇから。俺みたいなのがいるからアンタは働き者になれる、勝手に1人で立派になったような顔をするなよ」

「……法の穴を突く犯罪者みたいなこと言うするなです」

 

 バラバラ、と書類を眺め終わったのでいくつかの分類に分ける。こっちがコビメッポ、こっちがナイン、こっちがベンサム。それでこっちがジャン。こっちがラッド。

 

「…………何してんの?」

「ジャンル分けですね。ある程度頭に入れて把握出来たら書き仕事と指揮は部下に任せるです」

「こっわ! え、今の会話中に書類把握と指示出しの整理終わってんの!?」

「雑用こなしながら輸送部やってる私の書類捌き舐めぬでください。これから七武海の会議の方があるんで追加仕事はさっさと片付けるに限る。それじゃあまた後で」

 

 七武海の会議は女狐が責任の一端を担っているから強制参加だ。今回の会議にはクザン大将がいたはずだから。

 

「──鬼畜は社畜……」

 

 岩塩投げた。

 

 

 ==========

 

 

「これ、人手毎に書類分けてるから輸送の手配と指揮をよろしく頼む」

「大将会議じゃなかったっけ?」

「これからすぐ行く。あ、それとこの後新しく女狐隊に1人雑用が入るから」

「ほんとか!?よっしゃ人手が増える!」

「いや人手は増えない」

 

 だって私だから。

 

 

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 七武海会議。

 これ七武海とする会議ではなく、七武海を議題とした会議だ。私の数少ない堂々と参加出来る会議でもある。

 

 ──話題がない時は普通に愚痴大会になる。

 

「今の七武海の枠は4枠。残りを決めなければならない訳だが女狐の言うバギーからまず話し合おうか」

 

 議長は毎回大将が取り仕切る。この大将っていうのは正規の3人なんだけどね。私は遠征入ってなかったらほぼ毎回参加だし。

 

「──女狐です。手元の書類、4ページ目」

 

 ない時間の間にサッと作ってきた書類だから過不足も多いけどそれは皆分かってくれているので黙って目を通してくれている。

 

 ここでは多くの階級のものがいる。昔は雑用として参加してたけど、女狐として参加しだしてから意見は通りやすくなった。まァ口調の問題でプレゼンはしにくいけど。

 

「──以上、千両道化の来歴は名前だけは派手、……ロジャー海賊団出身がでかい」

 

 勘で『利用出来る!』と思ったところを理論的に詰めていった。私は結構勘を信じている。勘って過去の経験に基づく瞬間的判断だから、私自身を信じることと同意なんだよね。

 私自分が1番信じられるし自分の意見が1番大事。

 

「……脱獄した囚人を引き連れて戦場から逃げ出すという悪運高い所もある。実際あの悪運は月、失礼、白猟の部隊が苦渋を飲まされたと報告が」

「だがなぁ女狐……さすがに運なんて不確定な要素は判断に掛けるぞ」

 

 バギー、絶対使えるから推しておきたい。

 私は手札を1枚切った。

 

「……ちぎれ耳の火傷を負った大男」

「「「「……ッ!?」」」」

「インペルダウンの報告(と誤魔化した私の記憶)によると、奴はそのちぎれ耳の牢屋で唯一生き残っていた。世渡り上手……いや、どちらかと言うと特異的な素質がある」

 

 まぁ! なんて私とそっくりなんでしょう! 私が生まれた頃から海賊であった道を進んでいる姿を見ているようですわ!

 

 動揺を見せた古い海兵に私はやっぱりな、と反応を示す。マルコさんとクロさんが両方とも嫌な顔をするちぎれ耳は絶対に厄介な存在なんだろう。

 その男ですら抑えられる場合、これはとんでもなく強いカードになるぞ。

 

 まァ、そのちぎれ耳を七武海に取り込めれば戦力的にはかなり力強い。制御が難しいけれど。

 

「女狐、カード出し切った? 終わり?」

「…………ふぅ、終わり」

「了解。反対意見賛成意見は後にしよう。まァ前代未聞の空席の多さだ。次の推薦……。じゃあブランニュー少佐」

 

 今までの数倍は時間がかかった。

 

 

 

 ==========

 

 

 女狐の仕事として海賊側の戦力やらの把握も地味に入っている。まぁ潜入捜査官として海賊になってから始まった仕事だけど。

 白ひげ海賊団への連絡を取ろうとするも繋がらないのだ。

 

 会話が入らない様、完全防音の密室の中で電伝虫をかけている。

 密室だが扉の窓に分厚いガラスが嵌め込まれているので中は覗かれるんだけど、特に潜入だったりと私みたいな特殊な任務についてる人がよく使う。

 

「あーーーもう繋がんないな」

 

 船1隻潰れてたし電伝虫の番号知ってる個体、海に沈んだかな。

 他に知ってそうな人は、エースだけどエースこそ白ひげ海賊団と合流を願っている人だし。ボンド役である私が取れないとどうしようもないか…。

 

──ぷるぷるぷるぷる……がちゃ

 

『誰だ?』

「シャンクスさんいますか!」

『……あ、リィンか! こちら赤髪海賊団。久しぶりだな、ヤソップだよ。うちの息子がそっちいるんだってなぁ?』

「ウソップさんのことですぞね、いつもお世話になってるです」

 

 主にツッコミで。

 あの人いなかったら麦わらの一味はボケが飽和して私の胃が大変な事になる。麦わらの一味の生命線だよ。

 

『そんで頭に何か用かい?』

「白ひげ海賊団と連絡取れぬで、連絡先知ってるかなって」

『一応俺達もアイツらも四皇ってライバルなんだけど……。悪いけど頭は今1人で上陸してるんだよ。俺達も電伝虫は知らないし力にはなれないな……』

「そう、ですか。じゃあ伝言頼めますか?」

『おう!』

 

「──今となっては意味ぞ皆無ですけど私の情報をミホさんに漏らした点は絶対に許さない、と」

 

 驚いたんだ、私。私が女狐だと知らないはずのミホさんが知ってたことに。

 戦争後すぐだよ。『あの女狐は結局誰だったんだ?』って確認が飛んできたの。絶対殺す。

 

『…………お頭は火葬と水葬と土葬どれが好きだと思う?』

「水葬じゃないですかね。ほら、海の男(笑)ですし」

 

 葬儀の準備はお願いします。

 

 

 ==========

 

 

「いた、女狐!」

 

 リノさんが駆け寄る。随分探されたみたいだ。

 

「何事」

「とっ捕まえた囚人をインペルダウンに送る準備が出来たから、優先的にちょいと頼むよ」

「待って、輸送……いや護送は手が回らぬと私とリノさん両方結論を出したでは無きですか」

 

 囚人の護送は護衛部の隊長リノさんと輸送部で手分けしながらやっている。今回は送り込む先のインペルダウンが修復作業に追われてるからマリンフォードの牢屋にぶち込んでいる。脱獄囚全員ではないが気絶した囚人は回収し切ったので、過去見ない量の囚人は牢屋のスペース的にきついだろうけど。

 

「それが経理の方で牢屋の維持と食料計算したらあそこ邪魔だって圧力がねぇ……」

「水でもぶち込んどけば」

「何よりシキがあんたに会わせろってうるさい」

「…………それが本音ですね。まさかその護送船の指揮官って」

「キミだよ」

 

 この、忙しい時に限って……!

 

 でも経理には逆らえない! ぐぅううう、立て込んだスケジュールが!

 

「女狐隊、やっぱ人手足りな過ぎるんじゃないのかねェ〜?」

「……厄介者の詰め合わせですし気軽に募集すると内部は動けなくなるですし新人を潰すが事になるのが容易ですので派閥なら兎も角最低月組並の精神と我の強さぞなければ難しいかと」

 

 なんせ元犯罪者はもちろん、犯罪助長者達や亡命者がいるもんで! 女狐隊や海軍に縛り付ける理由がなければ入れられないんですわ!

 スカウトばっかだよもう!

 

「あー、まぁ、ウチにも仕事回すんだよ。あっしらのところは人手が多いから」

「ありがとう……ございましゅ……! あと速攻行くして帰る故に航海士はいらないです最低限……。大佐、少佐、雑用ワンチームくらいで準備お願いするです!」

 

 永遠と話しかけてくるシキを微妙に相手し、私は海流を操りながらインペルダウンに護送した。これやると航海士にキレられるという現象が起こるから……。いや、ナミさんだけなんだけどね今のところ。

 

 ちなみにマゼラン署長は女狐になんの反応も示さなかった。そういえば女狐だったことは言ってなかったな、って今更思い返すのだった。

 

 

 ==========

 

 

 

 

「死ぬかと思った」

 

 1日を思い返してバン! と机を叩いた。

 

 そうだよ! 忙しかったんだよめちゃくちゃ! ちなみにこれから考えなきゃならないのは部下の育成メニュー考案だよ! 私教育とかやった事ないから海兵育成学校の方に教えて貰うために連絡してきたんだよ! 参考書類! 貰っできたんだよ!

 これから組み合わせなきゃ!

 

 明日から早速育成(私含め)に入るからこの真夜中の間に私が背負ってる仕事をほぼほぼ片付けておかないと。

 

「……くぅ、女狐大将の机借るぜ」

「キャラブレッブレだよ」

「うるへー。明日から本気出すです……」

 

 とりあえず片付けて起きたいのは麦わらの一味の処遇の件というか修行までの操作だけどこれはまだ大丈夫だろう。ルフィはフェヒ爺に任せているし。

 んで次にCP9、これも呼び寄せている段階だから到着したら完了。

 輸送部の仕事はある程度仕分けしときたいな。いやどんどん増えるだろうから最適化させるべきだね。

 

 赤封筒の長期任務。脅される様に実力が足りないと口を酸っぱくしてセンゴクさんに言われている。

 このままじゃ普通に死ぬ、とも。

 

 じゃあなんでその任務私にさせるんだって話。他に適役いるでしょ絶対。いやわかってる、それくらい重たくないと裏切りと釣り合いが取れないのは。でもさぁ。

 

 ドスンと上座にある椅子に座る。多分ここが大将席。

 ここの反対側の部屋はあったけど、この部屋というより私自身女狐隊の部屋に入ることはなかった。

 

 ここは私が潜入中にできた新たな部屋だったりするし。

 

「は? この椅子なんぼすんの? 座り心地すごっ」

「そりゃ大将の椅子だから良い奴使ってるに決まってんじゃないか」

「そーそー、ホコリ被らない様に保たなきゃなんないからション君が使ってよ」

 

「俺、女狐大将の名代として書類仕事と指示出来る様に雇われた雑用だから戦闘は期待すんなよ。……ってことで」

 

 ドスドスとアイテムボックスから書類と参考資料をいくつか取り出す。

 

 まずは戦争の片付けより個人の仕事の片付けを優先、そして女狐隊の課題である新規女狐隊(元BW)の能力を把握することから始めないと。体力テストを。それで育成の方針は……うーん……どうしようか。

 センゴクさんが考えてくれてもいいのに、こういう私兵にも近い部下くらいは自分で育てろって言われちゃったし。まァ確かに育成経験無いと今後効率的に強化出来ないけどさ。

 

 方針は生き抜いて命を守り抜くことでいいか。矛盾してるけど。

 

 女狐隊は王族と関わる仕事が割合的に多いから王族にビビらない心臓とそれを抱えてでも逃げる筋力とかは必要だな。

 王族の基準は世界会議(レヴェリー)の王族でいいかな。情報集めないと。護衛艦の船長と月組に聞けばある程度情報集まるだろうか。

 

 サッと書類元作るべきだな。報告書。

 

「そういえばボムパイセンってやつは?」

「ボムなら仮眠取ってるよ」

「パレットパイセンは?」

「軽食作りに行った」

「反対の部屋は?」

「指揮取ってるの以外はもう上がった」

「把握」

 

 潜入中に溜まりきったどうしても私じゃ無いと許可を出せない書類に名前を書、こうとしてとまった。

 あー、名前変更手続き忘れてた。

 

 この書類リィンじゃなくてションって書かなきゃいけないんだ。

 

 まァ元々女狐って正体隠していたし、最近は潜入とかしてたから本名で女狐の書類書くの嫌だったんだよね。その点ションなら両方応用が出来る。『裏切られた者』『ダブルスパイ・海軍雑用大将』『真女狐』って名前で表すと『リィン』『リィン・ション』『ション』だから。

 

 面倒だけどさっさと変えていた方がいいな。

 

 よし、速読終了。書類は目を通せた。

 

「ただいま……」

「帰ったわよーーーう!」

 

「ナインとベンサム、おかえり」

 

「ベンサム……両手が塞がって扉が開けられないの、開けてちょうだい」

「了解!」

 

「ふぁー……おはょ、仮眠交代」

「まだ仮眠取れるほど書類片付いてないからパス」

「あちし忘れる前に報告書まとめるわねい」

 

 続々と元BWが集合した。

 

「ん?そいつ誰だ?」

「あー、タイショーが昼間言ってた雑用。名前はションくん」

「女狐名代のくらいを頂いたスカウト雑用のエリート、ションだよろしく。オラ、さっさと書類寄越せ。言っとくがやっかみ受けるのめんどくせぇから女狐名代って漏らすなよ」

 

 どこの部署も今は死んでる。

 ヘルプも頼めない忙しさだ。海軍が後手に回らないようにさっさと事後処理を終わらせて世界情勢調査と白ひげ海賊団のナワバリ確認をしないとならない。

 

「……俺、そいつの声聞いたことある。悪態ついてガラの悪い声。あとなんか殴らなきゃならない様な声」

 

 無事正体を察してくれたようだ。

 今は演技指導とかそういうのやってる暇ないので私は先に書類全てにションと名前を書いていった。

 

「ボムパイセン、この最終書類を先に他の部署に回しといてくれ。んで帰りに名前変更手続き届けを事務から貰って来い」

「雑用のくせに命令口調かよちくしょう!いってきます!」

 

 届け先が多いから大変だろうけど。

 あと普通に書類の順番が逆だろって話は聞かない事にしてる。

 

 ──ゴンゴンゴン

 

「女狐隊ーッ!ヘルプ来たぞーー!」

「「「「月組様ーッ!」」」」

 

 女狐隊がわっと輝かしい顔をして声を揃えた。

 

「今戻りました。月組さんも一緒だったので」

「月組は雑用の作業全部把握してるからありがてぇよな」

 

 コビメッポも戻った様で一緒に入ってくる。コビーは怪我をしてるのか包帯を巻いてたりするが、それ以前に顔色が悪い。精神的にやられてるな。

 そんなコビメッポに続く顔触れは顔判別つかないけど動きから見て月組だ。

 

 へぇ、いつの間に月組と女狐隊仲良くなったんだろう。

 

「他の部署も雑用配置されてるから普通は女狐隊も配置されてしかるべきなんだろうなぁ……」

 

 雑用時代は結構色々な部署で雑用仕事をしていた。

 雑用が出来る範囲って地味に多い。そりゃ判断とかは出来ないけど作業環境を整えるのも雑用の仕事だ。

 

「ん? 新顔……? 見たことある様な」

「あ、リィン。海賊の方はいいのか?」

「んん!?」

「は!?」

「あ? なんだよお前らその反応」

 

 月組がごく普通に(リィン)だと気付いたグレンさんを注目した。

 

「何を驚くこ……。──なるほど姿が違う」

「むしろ何で判断してんだ怖いわ馬鹿!」

 

 変装にミスがあったのかと思った。けど他の月組も時間かかったし。だって黒髪だよ。顔立ちも似てるらしいから「リィン」が出てくる前に「カナエ」が頭に過ぎると思ってたんだけど。

 

「……まァいいや。名前はション、新米雑用。よろしく」

「おう! よろしく!」

「丁度よかった。特に月組は書類仕事しながら聞いてくれ。──墓を、作ろうと思う」

「タイショーキャラブレッブレなんだけど」

「なんで墓?」

 

 

 そうしてごちゃごちゃしながら書類仕事を回していく。私と月組の息のあいっぷりは気持ちよくて書類仕事がドンドン片付いていく。コビメッポが2時くらいに上がり、3時にはテンションが出来上がっていた。

 

 夜食を作りに出る元BWと月組に調理場のコックに電伝虫で頼めば作って届けてくれるのにと漏らすと全員が苦い顔をしてピシリと止まった。なんでだ。

 

 

 そして時は早朝。

 

 

 

 ──鐘が鳴った。

 

「ん?」

 

 久しぶりの徹夜に眠気もMAXに達し、幻聴かと思ったがカラーンカラーンと鳴っている。何か鳴らす予定ってあったっけ……?

 

「後ろの扉は、一体何があるですか?」

「書類置きと武器置きが暗室の方、で、更に奥に行くと窓がある。青雉大将捕獲用に飛び出すとこ」

「つまり使用用途は無き、と」

 

 未だにカラーンカラーンとなり続ける鐘の音が気になり探索も兼ねて窓のある奥部屋へと向かった。

 

「んー?」

 

 取材の記者が戦場でざわめく中、西端にあるオックスが鳴っていた。

 あれは去りゆく年と迎える年に感謝で鳴らす鐘なんじゃ……? 時期外れもいいとこで……。

 

「は?」

 

 目が覚めた。

 

「誰か来い!」

 

 私は窓から顔を出さないように体を伏せて室内にいる人に叫んだ。防音も何もしてない扉は簡単に声が届く。

 

 ……12……13……の鐘の音。

 

「どうしたんだ大将!」

 

 ボムが代表してなのか入り込んだ。

 

「……ションだ。いいか、俺は見れねェ。窓の外を確認して俺に教えろ」

「、わかった。──なんでこんなとこに。……麦わらのルフィが鐘を鳴らしている。そばにいるのは剣帝と冥王、それと元七武海のジンベエ」

 

 じ、ジンさんーーーーッ!

 あんたも居たのか! これ取材陣の前だから世界政府と完全敵対奪取出来ないよ!? 何トドメ刺してるの!?

 

「あ、こっち向いた。……黙祷かあれ。海軍本部に向けて黙祷してる」

 

 あほーーーーーーーーーーーーッッッッ!

 

 私抜きでなんてことを仕出かしてんだお前は! 何も聞いてない! 何も聞いてないよ私! 妹兼! ある意味副船長ポジの私に! 報告と連絡と相談をしてくれ! ホウレンソウ!

 

 

 うわ、うわぁ、これ戦争で亡くなった人に黙祷とかならまだ安心安全だったんだけど。

 オックス・ベルが16回鳴ったって事を考えるに。

 

 海軍本部に喧嘩売ってる。

 

「あ、暴れ始めた。脱出するみたいだ」

「うわあ…………」

 

 雲隠れとかそういう脳みそは無いんですかそうですか。

 あ、どうしようお腹痛い。

 

「ん?」

 

 ボムが何かに気付いたのか目を凝らしている。その姿を見上げるとボムが口を開いた。

 

「3D、に×。その下に2Y」

「……何が?」

「麦わらってタトゥーとかするやつじゃないだろ?そう腕に書いてある」

 

 3Dは消えて2Yが残る……。

 

「なるほどな。クソ、やってくれたな」

「え、今のでタトゥーの意味分かるのか?」

「入れ知恵は冥王の方か……。剣帝は馬鹿だもんな」

「ションー?」

「元帥部屋に行く。お前らは顔見知りだから逆に顔出さない方がいい」

 

 コートを着てフードを被り仮面をつける。ブーツを履いて高さを作れば私は窓から海賊を確認せずさっさと元帥室に向かった。

 

 

 

 

 

「──センゴクさん! ベストオブ胃薬プリーズ!」

「先に報告だ馬鹿!」

 

 込み上げる胃液が喉をやる。

 




女狐の大変な1日(多忙)
リィンはエニエスロビーの爆走で学べば良かったと思う。
やったね!政府に喧嘩売って、インペルダウンと喧嘩して、ついに海軍に喧嘩売っちゃった!あと何が残ってるだろう。

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