「へぇ……感慨だなぁ…センゴク直々に連れてきてもらえるとはさぁ」
今より約三年前の話
「カナエ…なんでお主はそうお気楽なんだ……」
「んー…秘密、かな」
海賊王ゴール・D・ロジャーの海賊船で〝戦神〟と呼ばれ恐れられてきた存在だ。
〝戦の神に愛された女〟だとか〝戦場に舞い降りた女神〟だとか色々言われているが彼女をよく知る人間の評価としては〝戦場を引っ掻き回す神〟として印象付けられてきた。
「(黙っておれば貴族に嫁げる顔つきをしておるのに……)」
その容姿は絶世の美女とまではいかないが整った顔つきをしている。
「未練はそりゃあるけどさぁ…ロジャー死んでからなんか心にポッカリ穴開いちゃって……何もする気が起きなかったんだよね」
この女が海賊王の事をロジャーと言う時は相手が信用に足りる実物の目の前でないと言わない。嬉しくもあるが不安でもあった。
「(これでも敵だぞ………)」
そんなセンゴクの考えを知らずに、それに、とカナエは言葉を付け加えトンと胸を指した。
「びょーき……かかっちゃったし♡」
「待て…今物凄いカミングアウトをしなんだか!?病気!?」
「あ、うん。私の能力知ってるでしょ?夜這い紛れに使ってたらロジャーのかかっちゃった…えへっ」
「…………歳を考えろ。お前さん幾つだ」
「えーっとぉ…20…かなぁっ!」
「嘘つくな年齢詐欺師」
珍しいその能力で若さを保っている事は旧い付き合いの人間全員が知っている。
「えーっと、入った当時18で………まぁ、細かい事は気にしないの!センゴクったらハゲるよ?」
「ハゲる要因はガープのみで充分だ!」
「じゃあ生え際後退するよ?」
「変わらんわ!」
昔から、お調子者の所は変わらない。周りを明るく照らす笑顔も変わらない。
この先はただ退屈が持て余す地獄だと言うのに……。
いや、カナエならば退屈な監獄も面白く愉快に過ごすのだろうか。
「そう簡単にくたばるでないぞ……」
「あらっ、センゴクちゃん素直じゃん。…───まぁ、努力はさせてもらうわ」
「………そうか」
「あ、そうだ。インペルダウンには秘密の洞穴が合ったっけ。退屈しなさそ〜」
「待てぇい!!カナエお前と言う奴は何を一体どういった経路でそのおかしな情報を手に入れた!」
「私情報通だもん……諦めな!私に関わったのが運の尽きってね!」
ケラケラと笑う姿は先ほどまで力を使い疲弊した姿とは雲泥の差。
「何故、ガープに預けた」
「……リィンの事?」
「リィンというのか……」
「簡単だよ。ガープのじっちゃんだから無下にしないと思った」
その言葉を聞いて思わずセンゴクは己の立場を忘れ怒鳴りあげた。
「おれとておるだろう!それに剣帝だってカナエの傍に……!」
「センゴクうるさい。……フェヒターは居ないよ。今どこでやってるのか全く情報が掴めない」
仲間大好きなツンデレ男がカナエの傍に居ない。それはセンゴクを冷静にさせるには充分だった。
「……」
「それに…こういうのは、決まってんだ。ずっと昔から決めてた」
「昔から……?」
無言でコクリと頷けばセンゴクはため息をつく。
「お前は昔からよく分からん」
「言われる言われる」
「言われるなら少しは変わらんか」
「変わらないのが私の長所」
「…短所だろ」
しばらく会話が途切れる。タイムリミットがだんだんと近づく事に気付いているが触れたくなかった。
「…………………変わったね、センゴクは」
「歳は取る。カナエと違ってな」
「……………老けたね」
「カナエには言われたくない言葉だな」
「頑張ってね、海兵さん」
「言われんでもやるわ、元海賊」
「元じゃない!現役海賊!」
「嘘吐くでない!引退して実力が落ちておるクセに!─────」
「───……いいの!センゴク、ありがとう。私はまだ現役でいたいだけだから…あんたの気遣いくらい分からないと思った?」
「普段は鈍い癖にどうしてこういう所で鋭い…………」
カナエは気付いていた。現役ではなく元という事で罪を少しでも軽くしてくれようとした気遣いに。
「ねぇセンゴク。友達になってくれない?」
「……」
「ダメ?」
センゴクはこの言葉を聞く度に毎度苦虫を潰したような顔になる。
それを見てカナエは素直じゃないと思いながら海楼石の錠を持ち上げた。
「もう、着くよね」
「……あぁ」
「じゃあ、行くね」
「……うむ」
「風邪、引かないでよ」
「……カナエもな」
「怠けてていいからね」
「……アホか」
「囚人〝戦神〟の叶夢。到着致しました〜!うむ!お務めご苦労様!
あ、熱いの嫌だから熱湯は入りたくないなぁ〜」
そんなことを迎えにはいった海兵にボヤきながらカナエはセンゴク一人を船室に残し巨大な門を見上げた。
「(インペルダウン…脱走不可能と言われる監獄……。さて、どう過ごそうかな…手始めに囚人の皆さんと仲良くしなければ……)」
level6にまた、1人の囚人が増えた。
その事実は海軍上層部と護送海兵とインペルダウン勤務の者しか知らない───