2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第219話 踏んだり蹴ったり殴ったり

 

 インペルダウンlevel5.5。

 10年くらい前には知らなかったけど、最近になって知った存在だ。というのも、クロッカスさん経由でカナエさんの話を聞いた時出てきたワードだ。

 

 未だに状況を掴めきってない私たちlevel6組の為に、イワンコフさんが説明と装備の時間をくれた。情報共有も兼ねてマルコさんという当事者からも説明を聞いて、それで私なりに流れをまとめてみた。

 

 level5.5はニューカマーランドという一つの国であった。オカマしか居ない。

 その空間自体は過去の囚人が作り出した物で、情報や物資などは看守室など、インペルダウンの各場所から借りぐらしをしたり協力者の看守を作って物資を送って貰ったりとしている。

 

 うん、level5.5の謎が解けた。

 

 ニューカマーランドの服装は独特だけど、囚人服組に配られた服装が比較的まともで助かった。囚人服の私達は配られたその服に着替え、私はアイテムボックスの中から暗器をどっさり隠せるマントだけを取り出して着た。貰えるものは貰っとけ。

 

 

 そしてエースの処刑に関して。

 これはもうそのままだ。ただ、戦争に反対した七武海のジンさんと、どう考えても反発する私を、『麦わらの一味完全崩壊の為の私の作戦』を利用しインペルダウンに封じ込めた。

 センゴクさんにとって予想外だったのはルフィのとんでも行動力と言った所か。

 

 

 おおまかな流れが予知夢と同じように進みそうだな。戦争を回避する事を優先したかったけど、もうそれは不可能な段階にまで進められている。私の気付かない内に海軍内でセンゴクさんが。

 

 回避するためには情報が必須だし早めに情報欲しかったけど、この件に関しては1番情報を得れる位置にいる青い鳥(ブルーバード)が私なのでテゾーロやシーナを責められない。そこまで堕ちちゃいない。

 

 そもそもマルコさんとエースが捕らえられた経緯も経緯だ。

 黒ひげマーシャル・D・ティーチ……。あの2人を相手して勝てる実力だったのか、アイツ。

 

 ……──いや、()()()()、か

 

 面倒臭いと思いながらも状況を確認し終えた。

 

 予知夢程簡単じゃないな、現状。むしろ組織間や思惑が複雑化している。そもそもシキなんて存在自体が予知夢に現れなかった。マルコさんも、囚人としてこの場にいるのが予知夢通りじゃない事の証明。

 少しずつ違っている。

 

 絶対エースは殺させない。

 それだけは絶対変えてみせる。

 

 だから私のやるべき事はインペルダウンを確実に脱獄し、この戦力を戦争にぶつけて海軍に勝つこと。

 ただし海軍大将の私からすれば海軍は負けてはならない。

 

 考えろ。考えて考えて、戦力を均等にさせるんだ。

 脱獄組がインペルダウンに勝り、白ひげ海賊団と脱獄組の目的を共にさせ、七武海と海軍本部を打ち破る。でも脱獄組が白ひげ海賊団より勝ってはいけない。海軍本部が海賊に劣ってはならない。

 

 

 

「ぎゃああんッッ!無理ぞりッ!む〜り〜ぞ〜!」

 

 

 そんなことは今どうでもいいです。私は寒いです。

 

 

 

 インペルダウンlevel5。

 あの電伝虫ですら生息できない極寒の地。ここに投獄されれば凍死は免れない。指先からポロポロ崩れ落ちていくんだろう。

 

 そんなことは今どうでもいいです(2回目)

 

「寒いってより痛い!痛い痛い痛い痛い!」

 

 おいここ監獄だろ!気候を発生させるな!建物の中なら気候を!発生!させるな!温度を上げるのはまだ分かるけど温度を下げるな!そう簡単に出来るものじゃないぞ!寒い痛い!死ぬ!

 

「弱っちいなお前」

「黙るして周辺知らない顔や油断ならない顔ばっかりで話す相手が居ないから無駄に私にだる絡みするマルコさん!」

「……今俺はここで強姦だなんだ言われてもいいからこいつの服全部引っペがしてここに放置したい」

「最低ぞ!?」

「テメェが相手してんのは海賊だ、理解しろよい」

 

 今でさえ!こんなにも寒いのに!

 

「ちょっ、俺の服を奪おうとするなよい!」

「アイアム海賊ーーーッ!欲しい物は奪うが正解!」

 

 追い剥ぎじゃーーーーーー!

 グイグイマルコさんの上着を奪おうと引っ張ってたら革命軍にため息つかれた。

 

「遊ぶのはいいけどゴア王国ガール」

「私ゴア嫌い故に呼び方変えて」

「堕天使ガール」

「私堕天使クソほど嫌悪故に呼び方変えて」

「……わがままガール、騒ぐのもいい加減になさい。作戦は本当に理解出来たかしら」

 

 イワンコフさんが失敬な呼び方をして止めた。あれ、もしかして私見た目より子供だと思われてる?

 まぁ世間から離れて新聞でしか情報を得られない中、だから仕方ないし怒る気もないし不服感はないけど。

 

「くそうドラゴンさんにチクッてやる……!」

「ヴァナタドラゴンとも伝手があるの!?わけがわからナッシブル!」

 

 呼び名で地雷をとことん踏んだことは許さない。

 

 

 脱獄組はlevel5から1までの囚人を解放し、人海戦術として可能性を上げつつ脱獄することに決めた。level5.5で着替え、装備を整えた後すぐさま脱獄だ。

 

 脱獄は大まかに3つのチームに分別された。前方組は簡単に言えば敵を蹴散らす係。後は解放組、ここに大多数の人数。そして後方組は殿だ。背後からの敵に備える。

 

 私は脱獄前方組に選ばれた。万能型の能力の私はそれぞれの弱点をカバー出来て、相手の弱点を突く事が出来る。そしてこれは伝えてないけど、インペルダウン最強の監獄署長、唯一の天敵だろう。前方組満場一致での推薦ですありがとうちくしょう。

 

 まず後方組は革命軍の2人。イワンコフさんとイナズマさん。

 後方に主戦力を攻め込まれたら戦線は一気に崩れるけど、インペルダウンは『脱獄させないこと』を重視せざるを得ないから間違いなく主戦力を前方組に向けてくる。

 

 解放組。先程も確認し終えた通り大多数がここにいる。知ってる名前だとバギーがここだ。あの人はバラバラの実という斬撃無効系の能力者だから今回の脱獄で前方組には組み込めない。打撃や銃などが多いインペルダウンでは相性が悪い。バギーには生き残って貰わなきゃならない理由がある。まあしぶといから大丈夫だろうけど。

 

 

 そして前方組。ここには少数精鋭を入れ込んでいる。

 メンツは私。そしてルフィ、マルコさん、七武海、シキ。

 

 それと…──。

 

「ごめんねシキ運んで貰ってさ」

「無駄な体力消耗すんじゃねェよ」

 

 シキに乗っている男。

 名前すら知らないけど、ルフィがマゼラン署長の毒で瀕死の時、助けてくれた恩人らしい。

 

「やっさんやっさん!」

「んー?なんだいルフィ君」

 

 あと結構ルフィが懐いてる。

 あの人やっさんって言うらしいけど正式名称知らないし情報ゼロだからあまり関わらないようにって私の勘が囁いてる。

 馬鹿にならないしな、自分の勘。他人より自分信じますよ。根拠は後で作り出す。

 

「ひぃん……寒い……」

 

 暖を取るためにマルコさんにひっつき虫する。ぴーぴー鳴き喚いていると仕方ないな、と言いたげな表情でマルコさんが私を抱え上げ、羽織るだけだった上着の前を閉める。気分はカンガルーや猫。人肌、暖かい。同じ炎ならエースが良かったけど。

 

「で、なんでここにいるんだよい雑用サン?」

「ぴぇーー!寒い!マルコさんまだ寒い!……簡潔に言うと」

 

 寒がりな私を包んであっためるフリをしたマルコさんが耳元で問いかける。いや、気持ちあったかくなったのには違いないけどね。ぴーぴー喧しい私を静かにさせるためにとかじゃないのは知っていた。

 level5.5でタイミングを図っていたのに気付いたから私はあえてマルコさんに絡んでいるのだ。

 

「「──海軍に裏切られた」」

 

 私の『返答』とマルコさんの『予想』の呟きが重なり合う。

 

「……はぁ。あのな、リィン。人様の服の中入り込んでまだ文句を言うかよい。適当にかまくらでも作ってろ」

 

 互いに口調は巫山戯ている様にしか聞こえないだろうが、互いに顔付きは参謀としての表情だ。

 ま、ごく簡単な予想だろうね。海兵が囚人服を着て監獄に入れられてる理由なんて。

 

 煮え湯を飲まされたリィンちゃん。あと情報共有した覚えはないけど多分マルコさん辺りは私の両親察してるはず。シキでさえ私の両親を当てたんだ。白ひげさんが分からないわけが無い。

 

「ううー、寒い、寒い無理」

「麦わらに泣きつけ」

「ルフィ、やっさんなる人に取られるしてる。運ぶして親鳥」

 

 子泣き爺とかスネかじり小僧とかカンガルーの子供とかそういうレベルで張り付いてる。

 もう女狐とかどうでもいいのでこのフロアだけはさっさと抜け出したいです。

 

「初めましての時はあんなに優しかったのにこのパイナップル頭は会う度会う度コミュ障拗らせて私に当たりが強くな」

「誰がパイナップルだよい」

「い゛ッッだァ!?」

 

 しがみついて両手に自由が無い私の脳天に思いっきり拳が落とされた!痛い!え、待ってめちゃくちゃ痛いんだけどこれ頭から血が出てない!?絶対出てるよね!?

 痛みによって出てきた涙を目に溜めてマルコさんを睨みつけると、マルコさんの背後からにゅっと大きな手が伸びてきた。

 

「は…!?」

「ぬぁ!?」

 

 スッポーン、と効果音が付きそうな程気持ちよく私がマルコさんの懐から取り出された。

 

 私は猫か。

 

「あ゛ーーーッ!待っでぇさむい!痛い痛い痛いッッ!は!?キレそう!」

 

 外気の極寒の風と言う名前の凶器が私に襲いかかる!ちょっとだけでいいから時が止まって欲しい!

 

「これでも巻いてろ」

 

 服掴まれて宙ぶらりんになっていた私に緑色の布が手渡された。体格に合うサイズの、私にとって大きいそれは布の足りない私には有難い物だけど。

 

「ぐぅ……クロさんから受け取りたくない……」

「文句言うんじゃねェ」

 

 マルコさんから私を取り出したのはクロさんだった。ひぃ待って寒い。無理。

 ストール?ネクタイ?これなんて部位なのか分からないけどクロさんがよく首元に巻くストールをマフラーの様に首にグルグル巻きながら、誰が1番布重装備だろうと思って寒さに震えながら周辺を見渡す。

 

 ルフィ、普段通り。論外。ジンさん、そもそも魚人だから体温が低い。論外。シキ、存在から論外。恩人さん、論外。革命軍、所属から論外。……は!バギー!

 

「バギーさん!マイフレンド!寒き故に服」

「派手馬鹿野郎近づくな!」

「酷い!」

「白ひげん所の隊長と同じ様な暖取るつもりだろ馬鹿野郎!俺が殺されるわ!お前の親に!」

 

 くそう脅しが空回りしてる……!レイさんの調教用鞭を貸してもらって見せた過去の私を憎むからな……っ!

 

 私一人じゃ絶対このフロア抜けきる前に凍え死ぬ。なんなら死ななかったとしてもぶっちゃけ我慢するとか大嫌い。寒さを和らげる方法があるのに使わない手はないじゃん。でもある意味恩になるから死ぬほど他人に頼りたくないじゃん。

 マルコさんの所に入れてもらおうかな。情報という正当な対価を払ったんだし。いやでも、あの人能力なのか露出が趣味なのか分からないけど前全開だし。選んだ布薄いし。むしろあるだけ無駄なレベルの紙装甲というか。

 

 でも、でもぉ。

 全く知らない人は頼りたくないし。予想してたより寒いし痛いし。アイテムボックスから取り出そうとでも思ったけど、布巻くだけじゃ体温的にマイナスが多すぎて。

 

 

「…………………………………クロさんマントの下入れて」

「随分葛藤したな」

 

 苦肉の策だ。目の前でどうせそうなるだろうなと言いたげな顔してる元七武海に頼む羽目になるだなんて。

 

 マントの下から潜り込んで背中に負ぶさる。直接当たる外気が減っただけで楽になったけど、露出する顔が寒い。

 

「うう……帽子欲しい……耳あて欲しい……顔外すしたい……寒い……」

 

 電伝虫の生息不可能階層、舐めてましたごめんなさい。

 ぬるま湯地獄は耐えれたのに!ちょっと温度下げる裏技使って!

 

「あーーー!クロコダイル!またリー取りやがった!リー、俺があっためるぞ!」

「ルフィはちょっと、図体差が少なくて肉壁にならぬ」

「肉壁」

「……肉壁か」

 

 すると天然産魚人がハッとなにかに気付いた。

 

「しまった、ルフィ君はクロコダイルと敵対しとったんじゃったか!リ、リィン!」

「寒い無理気ぞ回らぬパスです……」

「ワシが間に立たねばならんのか……?ル、ルフィ君。確かにクロコダイルは短気で意地も性格も悪くて地獄に落ちても納得じゃが、そう悪い男でもないんじゃよ。なんせ渋くて流石に飲めなかった茶をこっそり枯らして痕跡を消し──」

「おうそこの鮫。ちょっと一旦枯れてみるか?」

「まてクロコダイル落ち着け、わしの顔を掴むな、ほら、わしがプレゼントしたバナナワニをとても喜んどった事は言ってなああああワシの顔が枯れる!!!」

 

 予想通り、因縁があるだろう白ひげ海賊団のマルコさんは七武海の姿を見てドン引きの表情を浮かべた。

 

「アレ、何」

「結構通常運転の王下七武海」

「……嘘だろい」

 

 ボソリと呟いた言葉は軽く絶望してる感じのアレだった。

 

「いいよジンベエ。確かにビビの国めちゃくちゃにしたしとことん気に食わねェけど、可哀想だから嫌わねェ──逆にむしろウチのリーがごめんなさい」

 

 盛大に視線を逸らした。

 するとクロさんが目にも止まらぬ速さで私の顔面を掴んだ。

 

「……テメェ一体何をした?」

「ちょっとノーランドっただけです」

「なんだその動詞は」

 

 嘘は吐いてないけど真実を知るものから見ると嘘になって絵本になっただけです。

 

「でもリー取ったのは許さねェからな鰐!」

「取ってねぇよ、取りたくとも手強いだろ」

 

 もうどうでもいいのでlevel5から抜けてくれませんかね。

 私たち前方組なんだからさっさと行かないと。

 

 願いが通じたのか分からないけどゾロゾロ駆け足になっていく。寒い。寒い無理。寒い。暑いのはまだ耐えられるけど寒いと殺意湧いてくる。

 

「アレ、クロコダイル。一々指輪付けたり外したりどうしたの」

「あー…?」

「あれ?キミ、ピアスって左に付けてたっけ?右じゃなかった?」

「ピアスは付け替えたし薬指は海楼石だ、んなことテメェに関係……ねェ話だ」

「はァ????こんな脱獄時に海楼石着けてるとか正気!!!????」

「うっせぇ、能力使う時はしまってる」

 

 クロさんが恩人さんに絡まれた。ということは足にしてるシキもいると言うことなんだけど。

 

 走り始めたからか顔に当たる風量が強くなってきたのでモゾモゾとマフラーの中に顔を埋めようとして、ふと、そう、ふと心の中の何か。それこそ第六感や直感とも言えるアレが顔を覗かせた。

 

「んー?」

 

 自分の感情に整理がつかない。情報不足と言うのもあるが、多分私は恩人さんが誰かわかってる。所属海賊団だとか組織とか。

 でもそれがちゃんと言葉に出ないというか、気付かないようにしているというか。そもそも恩人さんの存在に違和感というか。これ以上考えたら多分胃が死ぬというか。

 

「オイ、リィン」

「ぴゃいッ!?」

 

 極寒のlevel5では水分という意味で能力を上手く使えないのか、私を背に乗せて走るクロさんが低い声で名を呼んだ。

 

 すっごい、怒られてる気分。

 

 返事の悲鳴が思ったより大きな声だったのか周囲からの視線を感じた。

 

「俺をシャバに出したのはテメェだ」

「……?はい?そうですね?」

 

 まぁ具体的に言うと脱獄して無いからシャバに出したとは言えないけど、周囲の反対押し切って枷を外したのは私だ。

 

「言質は取ったからな」

 

 ……。

 

 えっ、待って、よくわからなすぎる。

 言質って何が。

 私が恩を売りましたよ、って意味で言質?意図が読めなくて逆に怖いんだけど。

 

 言葉遊び系に強い私が意味どころか意図すら、会話の文脈すら理解出来ない。理解の範疇外、って言うのがめちゃくちゃ怖い。

 

 

 そっと背中から降りた。寒かった。

 

「あ?なんで降りた?」

 

 あんまりにも寒過ぎるけどこいつにくっついたまま仲良くおしゃべりするくらいなら寒さに凍えて衰弱してやる。

 

「リィン?」

 

 スウーーーーーーー、と大きく息を吸う。クソ寒い空気が器官を通って肺に溜まる。

 クロさんは不思議そうな顔をして私を見ていたが、何かを察した様で愉快そうな顔になった。

 

「……へぇ、お前でも動揺とかするんだな」

 

「──ちょっと今からlevel6戻ってあのちぎれ耳脱獄させてくる」

「おい待てそれはシャレにならねェ」

「シャレじゃねーーんだよクソ野郎!私はクロさんが嫌がることなら全力でしたい!」

「巫山戯んなクソガキ!」

 

 腕を掴まれて戻るのを阻止される。バタバタ足を動かしてたらルフィが助けに来てくれた。

 あぁ私の愛しき兄様よ!

 

「リー、また鰐虐めてるのか」

 

 私は顔を覆った。

 

「…………」

「おい、なんか言えリィン」

「…………これは詳細を省きますが、結論だけ言うとお前は死ぬ」

「あ゛ァ?」

 

 今はまだ不快に思っても殺さない。

 必ず生きたまま地獄へ連れていく。

 

 でも1時間だけでいいので呼吸止めてもらってもいいかな。

 

「マルコさん乗せてー!」

「…………………………大人しくしてろよい」

「よーい!」

「返事みたいに使うんじゃねェ!」

 

 『種族:ストレス』から解放されたい。ぐすん。

 

 

 

 

 ==========

 

 

 

 

 オニグモ中将が火拳ポートガス・D・エースを乗せた軍艦を率い、マリンフォードに到着した。エース処刑まで5時間強、いつ白ひげ海賊団が乗り込んでくるか分からない危険な時間帯。

 本来であれば目下の戦争に全力で注意を向けなければならないだろう。

 

「…………くっっっっそ海賊共め」

 

 センゴクが引き出しに入った数多の箱からベストオブ胃薬を取り出して胃に流し込む。胃が空っぽだが仕方ない。

 

 センゴクのエクストリーム胃痛案件は複数ある。それはもちろん戦争の事もなのだが、それよりもなによりもインペルダウンで起こった暴動についてだ。

 

 バタバタと足音を立てて一等兵が駆け込んできた。

 

「報告します!」

「……ダメです」

「元帥、聞き届けてください」

「巡回中の軍艦と連絡が取れなくなりました!」

 

 センゴクは堂々と報告を続けた一等兵に嫌な予感がしてじろりと睨みつける。キャップから除く顔はニヤリと歯を見せて笑っていた。

 

 ぎゅるんと胃が悲鳴をあげる。

 

 またリィン(おまえ)か。

 一等兵は月組で間違いないだろう。元帥や中将に囲まれての度胸はいっそ拍手したい気分だ。

 

「それと別件ですがインペルダウンに許可の無い軍艦が1隻着港した、と連絡が」

「…………どこのどいつだ」

「その情報はありません」

 

 センゴクは深く深くため息を吐き出した。

 

 

 

 余談だが、王下七武海はクロコダイルの抜けた席は未だ空席だ。本来であれば黒ひげマーシャル・D・ティーチが座り、『黒ひげ』という男の情報が共有されたであろう。

 未だ『身元不明の賊』でしかない。

 

 人は分からなければ分からない程恐怖を抱くのだ。

 

「(モンキー・D・ルフィの起こした暴動。マゼランが抑えてくれればそれで終わるのだが、2代目海賊王に死なれては困る。だがここで介入は難しい)」

 

 センゴクの計画は、正義が通用しない闇を悪で制する事だ。そう考えると極悪性も無く話題性や血筋や性格として麦わらのルフィは大変に都合が良い存在。リィン(せいぎ)が操れるという意味でも。

 

「(……いや、あの男は恐らく死なない。そこの心配はするだけ損だろう。問題のインペルダウン、嫌な予感がする。むしろこのまま死んでくれた方が良い様な)」

 

 何度目かのため息。大監獄インペルダウン、よっぽどのことがない限り落ちない。

 

 そこまで考えてセンゴクはスンと表情を無にした。

 

 麦わらに関しては考えるだけ無駄だ、と。祖父を思い出して現実逃避をした。

 

「……インペルダウンには苦労をかけるだろうが、マリンフォードの戦力を削ぐわけにはいかん」

「……あー、センゴク元帥。我らが大将はどこにいるかご存知でしょうか」

 

 突かれるとは思っていた点だ。センゴクは無難な返事をする。

 あとお前たち月組は女狐隊のスモーカーの部下であって直接的な部下ではない。なんだ我らが大将って。

 

「彼女は極秘任務に当てている。今回の戦争は不参加だ」

「分かりました」

 

 エクストリーム胃痛案件には女狐の件も含まれている。曖昧な女狐という姿、それをハッキリしなければならない。旧女狐は切り捨てたのだ。

 情報共有の範囲、諸々と必要だ。

 

 センゴクはもう一度ため息を吐いた。

 

「災厄が大挙して襲ってくる」

「どこの小娘のセリフですかそれ」

 

 中将が即座にツッコミを入れた。センゴクは笑えばいいのか泣けばいいのかわからなかった。嘘だ、ちょっと泣いた




『愛していた』と言った男は愛を過去形にした。理由は己が罪を得、監獄に入るから。リィンはその事を知らない。だから分からない。

過去形にする理由が、張本人の手により失ったことを。言質とは、その事である。ファーーーーざまぁwwww!!

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