第216話 ルフィ、アレに出会う
「どこだ、ここ」
ルフィはパチリと目を覚ました。知らない天井だ。
天幕のかかった見るからに高そうなベッドの上に、ルフィは傷の手当をされた状態で寝ていたのだ。キョロキョロと辺りを見回すと、どこかで見ていたかのようなタイミングで女性が現れた。
「起きたのか」
「おう!で、えっと、誰だ?」
「……妾を知らぬとは嘆かわしい」
「なんかごめんなー」
友人のように語りかけるルフィに女性は誰もを虜にするような笑みを零す。
長く美しい真っ黒な髪が背中いっぱいに広がる。ルフィの鼻腔を上品な花の香りがくすぐった。
「妾の名はボア・ハンコック。妾の同僚が何やら迷惑をかけたようじゃな」
ハンコックは水桶を手にルフィの座るベッドに腰掛けた。
「怪我は痛むか?」
「いや、大丈夫だ。手当てありがとな」
「気にするでない」
「でもなんでハンモックの所にいるんだ、俺」
「ハンコックじゃ」
ハンコックはルフィを見つけた経緯という物を思い返しながら口を開いた。
突如、ハンコックの根城に男が降ってきた。それがルフィだ。女ヶ島と呼ばれるハンコックの国は男児禁制、即刻捉えようとしたハンコックだったが、男の下に肉球の形で地面が抉れていたのに気づく。
七武海会議に直接参加はせずとも電伝虫で定期的に連絡を取り合う仲だ。ハンコックはくまの能力も知っていた。主にドフラミンゴが旅行で遊んだという話の経由から。
「あの男がわざわざ妾の所にお主を飛ばすのを選んだ。これがなんの目的か分からぬが、ひとまず丁重な扱いをということにしたのじゃ。──麦わらのルフィ」
「んー、確かくまの奴と海軍の偉いおっちゃんは俺を、えーっと、海底に飛ばす??って言ってたけど?」
「……なるほど、海兵の指示に従うフリをして妾の元に避難させた、という説が高そうじゃな」
偉いおっちゃんというのが元帥だと知らないハンコックは顎に手を当てて考える。それが元帥だろうと結論は変わらないだろう。
「そういやなんで俺の事知ってんだ?」
「麦わらの一味の事は妾達は着目しておる」
そうしてハンコックはルフィを見た。何度も話題に出された名前だ。
七武海共通の話題、リィン。彼女が雑用を抜け、所属した海賊の船長の名前だ。
しかもクロコダイルを倒したと聞くではないか。これ程愉快な人物、興味を抱く人物は中々居ない。
「妾は七武海じゃ」
「……あー、七武海かぁ」
「他の奴らと一緒にするでない」
ハンコックは澄まし顔でそう言うがお前に言われたくない案件なのである。そんなことを知らないルフィはふーんと興味なさげに返事をした。
「折角じゃ。女ヶ島を案内しよう」
何度でも言うが女ヶ島は女人しか居ない。男児禁制だ。
ハンコックはルフィが彼女にデレデレしない様子を見て、平気な部類だろうと判断をする。例えハンコックに対し骨抜きになったとしても目的があるので殺しはしない。ハンコックは声を裏返しながらも自分の中での本題を口に出した。
「ソッ、その代わり、麦わらの一味の話、リィンの話をしてくれぬか?」
「いいぞ!」
「ホントか!」
そして話を振った自分が言えるものじゃないが楽しそうに嬉しそうに話すルフィの姿に『あ、ただのリィン好き』と確信したのもある。なんだ、麦わらのルフィは七武海と同類か。
女ヶ島の様々な場所を案内する。ハンコックの部屋は肉球型にえぐれており、ルフィはここに飛ばされてきたことを改めて認識した。
お礼の代わりと言ってはなんだが、ルフィは麦わらの一味の話を沢山した。旅のこと、仲間のこと、リィンのこと。女ヶ島という国にひきこもっているハンコックがそれはそれは楽しそうに聞く。ルフィの口も自然と軽くなっていった。
そしてハンコックも女ヶ島の様々なことを説明した。ここは闘技場、ここは加工場、船着場、など。
互いに警戒心は無く、仲睦まじく話を続けた。
ルフィは麦わらの一味を語るにあたってシャボンディ諸島での話を掻い摘んで話す。
「……そうか、それで皆、くまに飛ばされたのじゃな」
「うん、くまの奴には感謝してる。殺すんじゃなくてハンコックの所に飛ばしてくれたから、俺はまだ生きてる」
キツく拳を握りしめてルフィは悔しそうに表情を歪めた。
「ONLYALIVEが海軍本部という事はまず殺されることはない。じゃが、くまが行き先をコントロールしたのなら、海軍の手にあるのはリィンのみじゃ」
「そうなのか」
「あのセンゴクじゃ、話術巧みに逃げ出すことなどさせんじゃろう」
ハンコックは爪を噛み忌々しいとばかりに視線を細めた。
「海軍本部か、インペルダウンにおるじゃろう」
「助けに行く」
「まて、無策で突っ込もうとするでない」
だから足を貸してくれ、とルフィがハンコックに頼みこもうとするとハンコックはそれを止めた。
「妾は今海軍本部に招集されておる。これから戦争が起こるのじゃ」
「戦争……?」
ハンコックは今回招集に応じるつもりである。
普段呼び出されている聖地マリージョアではなく本部マリンフォードだ。他の七武海と
どのような意図でくまがルフィを飛ばしてきたのか分からないが、ハンコックは麦わらの一味を気に入っている。
それは新聞や七武海内の電伝虫を通してだが。
そして戦争が起こるということは海軍本部に捕えられているわけじゃない。それほど規模の大きな戦争だ。
護送先が海軍本部がインペルダウンという選択肢であれば、余計なことに巻き込まぬように、騒ぎに紛れ脱走などしないように、インペルダウンに閉じ込めているだろう。
「3日前、いや、招集自体は1週間以上も前に発令されておった」
3日前というのは戦争の原因を世間に発表したタイミングだ。発表から1週間後。
問題の人物が処刑される。それが同時に戦争の開幕だ。
発表から1週間で処刑とは、確実に喧嘩を売っているが準備をさせる暇などは持たせない微妙な時間の猶予だった。
「火拳のエースの処刑に合わせ、海軍本部と白ひげ海賊団が戦争を起こ」
「エースッ!?」
ルフィはハンコックの肩を掴んで詰め寄った。どういう事だと焦りを顔に出し、ハンコックは訝しげに顔を歪めた。
知り合いか、と聞けばルフィは泣きそうな顔をして答えた。
「エースは俺の、俺とリーの兄ちゃんだ」
「……お主、リィンと兄妹分じゃったか」
驚く場所は多分そこじゃない。
「……はァ……はァ」
大監獄インペルダウン。
ハンコックの協力を経て、ルフィはそこに潜入していた。
ただし、残念ながら脳みそは無いので暴動を起こす事、や手札を増やす、などの案は微塵も浮かばず、ただ1人でスタミナを消費しながらエースのビブルカードを片手に下へと向かっていた。
ちなみにリィンの収容場所の選択肢がインペルダウンが海軍本部と予想してあるので居場所(ビブルカード)が分かるエースを優先的に迎えに来た次第だ。リィンは一切個人情報たるビブルカードをルフィに渡していなかったのだから。
level1紅蓮地獄。
剣樹や針々草といった刃物の様に鋭い植物が生える刃の森にて、囚人達が獄卒と追いかけっこをするフロアだ。植物は囚人を傷付けその身を紅蓮に染め上げる。
また、level1にはその拷問フロア以外の独房通路が存在する。ただその傍には大型海王類を一撃で仕留めることが出来るブルーゴリラがいるのでlevel1クラスの囚人の脱走など以ての外だろう。
そんな中、ルフィは拷問フロアで逃げ回る囚人の体を借りて頭の上を飛び回り、時に伸び、下へ向かった。
森の中に唯一開いている穴、そこは逃げ道と呼ばれる場所だがlevel2に進むだけの地獄の道だ。
ルフィはそれに向かって躊躇いなく飛び込んだ。
level2猛獣地獄。
闊歩するは突然変異種や希少種など一筋縄ではいかない猛獣。ルフィは牢番であるマンティコラという人の骨格を持ったライオンが「フンドシ」や「イチゴパンティ」など変な言葉を覚えていると知った瞬間速攻でフロアを抜けようと決めた。level1でさ迷いまくり時間のないルフィはそうせざるを得なかったのだが、決して変な存在から逃げたかった訳では無い。無いったら無い。
元々level2は毒を吐く複数系のサソリだったり強靭な肉体を持つ人面ライオンだったりとバラエティ豊かなフロアだ。
攻撃や防御手段が少ないルフィにとって厄介だろう。
少しルフィは方法を考える。最近頭を使うようになってきたがクオリティとしてはお粗末だ。リィンが知って喜ぶか泣くかはその時々だろう。
よし、と小さく呟いたルフィはガジリと親指を噛んで骨に、いや、筋肉に空気を送り込み始めた。
骨と筋肉、両方が膨らみ筋力は何倍にも膨れ上がった。
ギア3に近いようで、ギア2に近い。肌が若干赤みがかった。
そしてルフィは巨大化させた腕を地面に向けて思いっきり振り下ろした。それなりの厚みがあるlevel2の床だったが、ルフィの一撃を前に呆気なく崩れ去ってしまった。
level3飢餓地獄。
アラバスタの砂漠を思い出すようなカラカラと乾いた、フロア自体が拷問のフロアだ。アーアーとルフィは唸りながら辺りを探索する。
1人だと時間がかかりすぎる。
ナバロンにて成功した目的地が分からなければ人に聞けばいいという信念の元、副看守長のハンニャバルに普通に聞いてみればあっさりとlevel4への行き方を教えて貰った。
level4焦熱地獄。
真下に火の海が置かれ煮えたぎる超高熱フロア。level3が熱いのはここが原因なのか、とルフィの足りない頭でも理解出来た。汗が遠慮なく流れるエリアだ、早めに抜けなければ生命活動に直結する。
しかし、そのエリアはとある男が最も能力を発揮出来るエリアでもあった。
「海賊、麦わらのルフィ」
声をかけられてルフィはハッとその場から飛び去る。ルフィの目の前に居た男は青雉やテゾーロ、そして元帥と同じような部類に入る。
つまり、自分より圧倒的に強い相手、だ。まともに戦えば負ける。
「お前が、マゼランって奴か」
「仲間でも取り返しにでも来たか」
デュルンと腕が毒に変化したマゼランは否定も肯定もせずにそう口に出した。
「え?」
「は?」
ただしルフィはただ首を傾げたが。
仲間が目的でないなら何故わざわざ、という疑問が芽生えたがルフィはあーーーっ、と声に出した。
「そうだ、リーの事忘れてた。危ねぇ、ありがとな、おっさん」
「仲間が目的ではないのか」
「いや、目的だった!目的だったけどエースの事で頭いっぱいでリーなら別に大丈夫かなーって思ってた!わりぃ!」
危険性、というか心配度が妹より兄の方が上回っていたのだろう。ルフィは知られたら怒られそうなどと場違いな事を考えながら。そしてリィンがここにいるという真実が透けた。棚ぼたである。
対してマゼランは火拳エースとの関係性について謎が生まれた。
「そーだオッサン!エースと、後そのリーってどこにいるかな!?ここら辺かなって思ってんだけどよォ、全然気配しねーから困ってんだ」
「その2人ならlevel……って答えるか。何故聞いた」
「逆に答えてくれるかなって」
そんなことを言いながらも2人は攻防を続けていた。
ただしルフィは逃げるくらいしか出来ない。
ルフィは勘でしか無いがリィンがこのフロアに居ないことに気付いている。それは本当にただの勘。1000万にも満たない懸賞金だが、それ抜きにここまでのエリアには居ないと。
「チッ、ちょこまかと……!」
ルフィが逃げる先は卑怯なことに看守、つまりマゼランが攻撃しにくい場所であった。
もちろんマゼランとてひとつの組織のトップ。多少の犠牲など己の能力と長く付き合っていく上でとうに覚悟はついている。彼は味方ごとルフィを葬ろうとしていた。
ルフィはあてが外れたかと思いながら空中へと逃げ出す。
灼熱のこの空間では息を吸い込むだけで肺が焼けただれそうだった。
ここでリィンが存在すれば『ルフィが相手の嫌なことを考えてる!』と踊り狂う程に喜ぶのだろうが、残念ながらこれがルフィクオリティ。1番喜ぶ者が居ないところでソレの望む成長を見せる。
ただ、ルフィが考えると言っても所詮そこまでだ。餅は餅屋、刀は刀屋、蛇の道は蛇、悪事はリィン。
ルフィはあっという間に毒に呑まれてしまったのだった。
level5極寒地獄。
「イナズマくーん、麦わらのルフィ、やっぱり居たよー!」
「……ほんとにいるとは。いやすまない、疑ってたわけじゃないんだが」
「そう信じられるもんじゃないよ」
私刑に処されたルフィを引きずり出した男が舌なめずりをしてルフィの心臓付近に手を当てた。
「……止めてもか」
「この子のスタミナを無駄に消費させるにはいかない。それじゃあ足りない。ここで毒耐性付けないと苦労はするだろうけどね」
男は一言呟いた。彼の先の運命なんて知ったこっちゃないのだ。
「この瞬間が、今後より大事でしょ。彼も、そして私も」
手に光が灯る。
ルフィはボヤけた視界でその男の顔を確かに見た。
「──〝
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「どこだ、ここ」
ルフィはパチリと目を覚ました。知らない天井だ。
何故か数日前にも同じ感想を抱いた気がするがまぁ良いだろう。
体をムクリと起こして
「……??」
「あ?起きた?」
その部屋だと思われた場所はただの洞窟だったらしい。扉の外には愉快な空間が広がっていた。
「──何だこの変態集団。おっっっもしれぇ!」
オカマがパーリナイトを繰り広げている。
ステージに立つ男女。一際顔のでかい人間がいた。人なのかすらちょっと考えたが。
あの人がこの空間の覇者だという事は……。
「ちげぇな」
そう考えかけてルフィは首をブンブンと横に振った。
「ンーフフ、おはよう麦わらボーイ。ヴァナータの行動はここに入った時からずっと見てたわ」
「誰だ?」
「ヴァタシはエンポリオ・イワンコフ!このニューカマーランドの女王ッチャブル!ヒーハー!」
独特なポーズをしたイワンコフ。周囲はそれに同調する様にテンションをアゲアゲにした。ルフィも楽しくなってきたのか両手を掲げてヒーハーと繰り返す。
「でぇもぉ?ヴァナータがお礼を言うべきなのはそ、こ、の、ボーイっチャブル」
イワンコフが指をさした先にいたのは目覚めた自分に真っ先に声をかけてくれた男だった。癖のないサラサラとした綺麗な黒髪をポニーテールにした細身の、ただし確実に男だと分かる体格。ルフィの記憶で似た体型と言えばサンジや参謀総長であろう。
「やァ、
「無いぞ、でも俺あのオッサンの毒にやられたと思ったんだけどなんでだ?」
「そりゃ私の能力。間違えても毒に強くなった、と思わない事だね」
「そっか!ありがとう!」
ルフィの屈託の無い笑みに男は笑い返した。困ったように眉を下げて、それでいてほっとした様な笑みを。
「っと、こうしてる暇無かったんだ!エース助けに行かなきゃ……!イワちゃん達も来るか?それと逃げ出すついでにエースとリーの場所教えて欲しい!」
「ごめんなさいね麦わらボーイ。ヴァタシ達はまだ脱獄する時じゃないの」
「えー!イワちゃん行こうよぉ!私脱獄する気満々だったんだけど」
男がブーイングを垂れるとイワンコフの表情か鬼の形相へと変わった。
「黙りな!ヴァナータ、なんの為に体変えてると思ってるっチャブル!」
「痛みに、耐えれるようにだけど」
「ヴァナータは!瀕死なの!お分かり!?」
それでも納得出来ないという表情にイワンコフは深く深くため息を吐いた。ルフィはやり取りの真意が分からず、ただビブルカードを握りしめて首を傾げていた。
「けどさァ、イワンコフ」
キラリと男の瞳が光る。「あっ」とルフィはその既視感に口を開いた。
「ドラゴンの息子の手助け、しなくて何が革命軍よ」
そこからは仰天の連続だった、と後々イワンコフは語る。男が語る内容はルフィ自身なんでそんなに知ってるんだろうと首を傾げるばかりだったが、イワンコフはそれを信じた。
もちろん真実であるが。
「でも何故ドラゴンの息子が火拳のエースを助けにここに来たっチャブル。仲間ならまだ分かるけれど」
「……?兄ちゃんだから?」
下を向いたビブルカードはエースがまだインペルダウンにいる事を知らせてくれていた。
「イナズマ!エースボーイの出航時刻をお調べ!ヴァターシはこれから麦わらボーイとlevel6へ向かうわよ!」
イワンコフはエースもドラゴンの息子であるという勘違いを起こしていた。一気に協力的になったイワンコフにルフィは素直に喜んだ。
level5.5内はバタバタと慌ただしくなる。
「そこの瀕死!ヴァナータはここで待機!」
「えええーー!?なんでよ!」
「死にかけをlevel6に連れてける程余裕は無いっチャブル。どうせここには戻って来るから連れていくならそこからよ!」
「……まぁ脱獄について行けるなら文句は言わない」
文句タラタラな顔で渋々納得した男だったが、ルフィの視線が自分に向いてることに気付いて嬉しそうに近寄った。
「会えて嬉しいよルフィ君。握手してもらってもいい?」
「いいぞ!」
男の差し出した手にルフィが少し見上げながら握る。握手をした瞬間、男はルフィを引き寄せた。
「……ところでさ、リィンはルフィ君にとって何?」
周囲に聞こえないように小声だ。
ルフィは首を傾げていたがとりあえず合わせるように声のボリュームを下げて関係を答える。
「俺の妹」
男はやはりといった顔で嬉しそうに笑った。
……仲間と言わなかったルフィの無意識下の認識に気が付かないまま。
「それ、内緒にしといた方がいいよ」
「なんでだ?」
「イワちゃんがさ、エース君の事をドラゴンの息子だと勘違いしてるから、下手にリィンが妹だと告げる必要ない。髪色も違うしね」
「……?良く、わかんねぇけど。内緒だな!」
「よぉし偉い!」
男はルフィをワシワシと撫でた。
リィンの男親は冥王で、女親は戦神だ。髪色は父親譲りで外見は母親譲り。黒髪で男であるドラゴンが男親であると言われると、色々面倒な事が起こるのだ。
──金色の髪はどこから来たのだ、と。
イワンコフはリィンの親を知らないのだが、まぁぶっちゃけると勘違いさせておいた方が士気的にも説明的にも楽なので下手にややこしくさせたくない。
「さぁ、て。
別名他力本願。
男は、間違いなくあの血筋だった。
ルフィは男を近距離で見上げながら思った。その距離感は一味の残念王女が見ると大興奮するがまぁそこは置いておこう。
先程から既視感が、初めて出会ったはずなのにどこかで1度見たことがある様な気がしてならない。
否、どこかでは無い。そこは特定している。
ルフィの大切な家族で強敵だ。
「名前……」
「私の?あー、そういやどうしよう。まァバレてない事を祈るけど本名使わない方がいいのかな?」
恩人に対して『あんた』や『お前』というのも何だか違って、何より他人な気がしなくて、でも『おっさん』や『兄ちゃん』というのも何だか違う気がする。その葛藤の末に漏らした言葉だったが答えてくれるようで少しほっとした。
男はしばらく考え込んだ後、納得したのか頷いて口を開いた。
「そもそも私名前考えるの禁止されてた。ルフィ君付けて!」
「えーー。じゃあ、やっさん」
「お、なんかすごい予想外な感じで来た。その心は?」
「何となく」
バタバタと慌ただしく準備をする周囲から切り取られたような感覚。やっさんと呼ばれたルフィの恩人はフルリと肩を揺らしルフィを見下ろした。
この感覚。
時間が一瞬止まったような気がした。
帽子で出来た影がルフィの目元を隠していたが、その目に視線が触れると男は嬉しそうに笑った。
あァ、船長みたいだ、と。血の繋がりなんて無いのに、この子は間違いなく。海の王となる主人公だと。そう信じて止まない。
「やっさんはリィンのきょうだいなのか?」
虚をつかれた男は思わず目を見開いた。
その質問を飲み込むとおかしいと言いたげに肩を震わせている。
なんだか馬鹿にされてる気分になってルフィはムッと頬に空気をためた。
「惜しいねルフィ君。答えは秘密だ」
エンポリオ・イワンコフ。
カマバッカ王国の永久欠番女王であり、革命軍のグランドライン軍軍隊長だ。この場には居ないがMr.2の憧れでもある。
そして彼(彼女)はホルホルの実の能力で
女の姿をしているが元男。男の姿をしているが元女。
「エース、助けるよ。私はこの日のために生き延びてきた」
イレギュラーの投下で『予知』よりどうかいい方向に変化したことを願って。リィンに似た黒の瞳が、光彩を放っていた。
「結局やっさん誰なんだよ」
カッコつけた男はその言葉でずっこけた。
七武海との交流で男嫌いは和らいでるアレと語ルフィ
頑張って頭を使って(使えたとは言わない)頑張ルフィ
異端児に助けられルフィ