「あーー、どうしよう」
フラフラと不安定にも飛んでいったリィンを見て麦わらの一味は空から落ちながら精神的な疲労感を自覚する。
「シャボンディ諸島への行き方、聞いてない……」
「それと、ビリーに乗って行けば飛べるって事もな。あいつが、聞いてない」
「アハハ、カルーが陸上のカルガモだから同じだと思ったんでしょうね」
航海士のナミが先行きの不安に顔を青ざめさせ。──まァリィンという天使が居ないことも一因だろうが。
ウソップがリィンの知らないであろうことを口に出せば、ビビは苦笑いでカルーを眺めた。
遺憾の意!とカルーがポーズを決めた所でビリーがどんまいと言いたげにぽんとカルーの肩に手羽先、もとい、右翼で叩いた。
「まぁ、何とかなるんじゃねーのか?」
ルフィの能天気とも言える判断にナミが頭を痛くする。全くこのお馬鹿はと言いたそうな表情だ。
「全くこのお馬鹿は……」
口に出した。
「あのね、諸島は島じゃないんだから、磁気を記録する
「わかんねェ」
「このお馬鹿」
ナミが頭をスパンと叩く。ゴムなので効かないのは分かっているが精神衛生上無駄と分かってもしなければならないことが世の中にはある。
「
「それに航路の問題もあるな。何より目印は魚人島のみ。下だろ?とりあえずそこ目指すか?」
「そうよねぇ、気候海域の有無は重要だわ。何かあればリィンに頼むんだけど準備をしっかりしないと。それと向こうでの合流の仕方とか」
「あ、ナミさん俺が見聞色の覇気で探すよ。まぁ、範囲は狭いけど」
「そうよね、それしか無いわよね。──リィンが気配を消さない限り」
「ッッッあー……」
「俺たち魚人島への行き方も知らないだろ?海底1万mだっけか?」
「シャボンがどうとか、彼女言ってたけどさっぱりだわ」
「なー、行こうぜー?海着いたぞ!リーなら大丈夫だって」
ルフィのその声に一同は声を揃え上げた。
「──リィンの心配はしてない!」
……そんな一味の様子を見て、フランキーが引き攣り笑いを浮かべる。それに気付いたブルックが恐らく同じ感想を抱いていたのかスススと寄り添った。
「……あいつら、リィンに依存し過ぎてる、よな」
「……えぇ私もそう思います。ちょっとこれは、怖いですね」
「……リィンが死ぬか裏切りゃ一味は完全に崩壊するな」
CP9という裏切りを目にしたフランキーは海軍事情に詳しいちびっ子の裏切りを捨てきれない。
そうでなくとも、船長ではなくリィン個人に依存し過ぎている彼らの先行きに不安を抱いていたのだった。
「ところでビリーどうすんだ?このままここにいるか?」
「クオ、クオクオ」
「クエ、クエクエ」
鳥類2匹が顔を合わせて頷くとビシッとポーズを決めた。随分仲がいい。
「帰る場所も無いしビリーとカルーが兄弟盃交わすんだって」
「鳥が盃……」
チョッパーの翻訳に、非常識の塊である一味に未だ慣れないフランキーが再び引き攣り笑いを浮かべた。心配だ。この一味が。
==========
フラフラとラグで飛んで行けば崩れ落ちて行くメルヴィユに到着した。途中進化した住民が空を飛んで行っていたが病人はどうだろうか。
「そこ、そこのお兄さん!」
「え、あ!シキの所に乗り込んでいったお嬢さん!?無事だったんだね!?」
服装からして従業員、しかも無理矢理労働させられていたであろうお兄さんに声をかけたら相手も私を認識してくれていたみたいだった。
私は薬の入った袋を手渡す。
「これ、ダフト病の、薬。配る、飛べぬ方多分存在するです!」
「ええっ、と、ダフト病の薬ですね。病に倒れてる方々に配って来ます。ありがとう、本当にありがとう!」
お兄さんは空を自在に飛び回り村へと向かっていった。
そうだ、そもそも私は直接配り回るなんて労力を使うつもりは無い。責任も出てくるし。間に合わなかったらどうするつもりだ、その場合の責任は私に来るんだぞ全く。
私は優しい青年の手助けをしただけ、そこに責任は何も存在しない。
私が一味を離れてメルヴィユに戻って来たのは別の目的がある。
アイテムボックスから別の人物になるための一式を取り出し、身にまとった。
「あァ?テメェ、誰だ?」
首に取り付けた海楼石の錠を取り外すこと無く上座に堂々と座っていたシキが声を出した。
これは、驚いた。なんでこんなに余裕なんだこの人。
拘束してある幹部の縄部分を不思議色で浮かばせ、……見た目が凄く拷問じみてるけど想像しやすいだけだから仕方ない。
「海軍大将、女狐」
お決まりの自己紹介を告げればシキは首を傾げた。
「聞いた事ねェな、20年前は居なかった筈だ」
「……………どうだかな」
この前女狐の中身が男と明言してないけど男疑惑を植え付けたので、男と取れる口調にしてみる。
シキは海楼石があっても油断出来ない。なんか首に付けてもまだ脱走しそうな怖さがある。
念の為見に来て正解だったかもしれない。
「なァ、一つ聞かせてくれ」
「言ったら解放してくれんのか?フン、テメェが誰だか知らねェが」
「あァ」
ギョッと目を見開いたシキは私を見た。
「……──その錠位は外してやる」
私は余裕を持って伝えた。
「この島には会いたくねェ小娘が居る。さっさと
男口調って難しいですね。フェヒ爺の真似をさせていただいてます。
「お前海軍の裏切り者か」
「聞きたいことは一つ。ロックスだ」
「殺せ」
「ロックスはDを持っていた、そうだな」
これは確信した推測。
Dはただのミドルネームだとばかり思っていたが、この世界にミドルネームはほぼ存在しない。
存在するのがDのみだからだ。
モンキー・D・ルフィ
ポートガス・D・エース
マーシャル・D・ティーチ
トラファルガー・D・ワーテル・ロー
そしてゴールド・ロジャー。彼もDを持っている筈。昔、シャンクスさんと出会ったばかりの頃。彼はエースのことを「ゴール・D・エース」と言った。当時は聞き間違いかと思ったけど世界を見てきて聞き間違いじゃないと確信した。
世界に嵐を呼び起こすはD。
そしてロックスは人の名前だ。推測の域を出ないけど反応からしてそうだろう。
「テメェはあの時代より後に生まれた若造か」
「……………フン」
それよりもずっとずっと後です。
「少なくとも、俺ァロックスについて語るつもりは無い。関係者一同同じことを言うと思うぜ」
「……………それだけ恐れられ」
「いや、そうかもしれないが違う。黒歴史だ黒歴史。誰が言うかクソッタレ」
私はガックリ肩を落とした。
なんだ、その理由。いや、でも将来私がルフィの船に乗っていた歴史を語れるかと言えば否だからなァ。
「もういい」
「へーへーそりゃようございました」
さて、どう運ぼうかな。中将辺りに手渡ししないと不安ではあるんだよなぁ。
「なァ、この20年、下では何があった」
「……………」
「テメェの存在なんて知らねェ。ロジャーが死んでから何が変わった。海軍で、世界で何が起こってやがる」
20年って言われても私まだ15年も生きてないしなァ。
女狐の年齢を20以上に捉えているだろうから無難な所でも答えるか。
いや、でもなァ。はったり使わないと女狐はシキに敵わないし。
「……………私が目覚めた」
うん、意味深過ぎる発言になった。
でも自意識過剰とかじゃなくて私が居るからめちゃくちゃに変わってる気がする。ある意味私もDだからね。
「随分な自信だな。俺が出たらまずテメェを殺すことにするさ」
「(悪影響に関しては)自信しか無い」
腕を組んで浮かぶ。シキの様に。
何故フワフワの実の能力の様に浮かべるのか、と言いたげに訝しげな顔をしていたけど、島々の着水の音を聞いてヒクリと頬を吊り上げた。
私は浮かぶ事が出来るからシキを決して逃がしはしないという意志だ。ここで逃がせば次のチャンスはもう無いと思っていい。
今回と同じように油断はしてくれないだろう。
「海に落ち、俺は目下捜索中。なんてことは許してくれねェわけか」
「当然」
用意周到な相手には用意をさせない。
ドォンという自由落下の衝撃が島に伝わる。私はシキの海楼石の錠を浮かばせ運ぶことにした。首が締まる?知らないな!自由な右手で何とかしろ!
わーいと視界の開ける空へ向かうとガヤガヤとした声が聞こえてきた。海面に誰かがいる……?
「シキだ!シキが浮いてるぞ!」
「なんだと、それじゃあ能力は解け……て…………──何してるんだ、ですか大将」
「……………捕縛」
「締まってる締まってる」
蜘蛛のように背からいくつも腕を生やしサーベルを持ち、戦闘態勢に移行している将校と目が合った。
ナイスタイミング!
「……とりあえずシキをこっちに。貴女は中に」
軍艦から指示されて渋々下ろす。首が締まってる上に海楼石だから右手の力に余裕も無いのかバタバタともがいてたシキは恨めしそうに私を睨んだ。
まだ夜が明けてない。麦わらの一味の船には気付いて無いようなので本当に色々な意味で助かるタイミングだ。
海水でしゃぶしゃぶしながらシキを運ぼうかと思っていたけど軍艦があるなら丁度いい。
「中将、状況は」
「こっちが聞きたいんだがな全く!こちらオニグモ、ストロベリー、ヤマカジ中将3名は元帥の指示でシキを捜索中だ、でした!」
どうやら彼らがここに居たのはある意味偶然に近い様だった。多分海軍本部が通り魔にあってからすぐに出動したはず、でなければ空中を浮遊するシキに間に合わない。
私と連絡を取る前のセンゴクさんからの指示で追っていたのなら『
オニグモ中将はシキと幹部2名の捕縛などの指示やら何やらを色々飛ばして私を部屋の中に入れた。
恐らく執務室の様な部屋。そこには私とオニグモ中将しか居ない。
私はスッと流れるように正座をキメた。
悪いことしてないけどした気分になる。
「……今からストロベリー中将とヤマカジ中将連れてくるから逃げるなよ小娘」
「う、うっす」
本部務めの中将は女狐の正体知ってるから女狐の仮面を被る必要が無いのはありがたいけど本性も知ってる事になるから強く出られない。ちくしょう。親戚のおっちゃんが。
オニグモ中将はバタバタと飛び出して行った。
とりあえずセンゴクさんに報告しないといけない、と電伝虫を取り出し番号を掛け──。
「「大将!」」
「速っ」
いや、冗談じゃなく速すぎて驚いた。
「嫌な予感がする。女狐がいるという事は金獅子のシキは麦わらの一味が……」
「あー、うん。うんん?いや、私だな?」
ストロベリー中将が唸る内容に頷こうとして、一瞬止まった。トドメをさしたのは私に、なるのか?これ。特に死闘という死闘を繰り広げてないぞ麦わらの一味。
「……麦わらの一味が倒したんじゃ無いのか?」
「私です、一応は。でも海軍は中で起こるした事を知らないから客観的に見ると麦わら……」
『……なんの話しをしてるんだお前たちは』
掛けていた電伝虫がセンゴクさんに繋がったので状況説明と指示を仰ぐ意味で一連の流れを説明し始めた。
<説明中>
そこには大の大人3人が凄い形相で悩ましげな表情をしていた。
『お前のムーブに慣れてない中将相手にお前が直々の説明はまだ早かったな』
「早いも遅いも無いですこんなの」
ヤマカジ中将がボソリと呟いた。
『しかし、我々海軍がこうして現状を把握出来ていたとしても、リィンという媒体が無ければ理解出来ていなかった事だ。客観的に判断するとしよう』
「そうなると、黒ひげ海賊団はまだ不明という形で良いですね。軍艦も見つけるしてないでしょうし、女狐が見ていた、と仮定してもろくな活躍は無いです」
『そうだな。麦わらの一味の懸賞金を上げ、表沙汰にする場合は捕縛の手柄は女狐。すまないなリィン、また手柄を横取りするというレッテルを貼り付ける』
「気にしませぬよ」
クロコダイルの件、今回のシキの件。麦わらの一味の懸賞金だけ上げ、表の民衆相手では女狐の手柄とする。ただし聡い者はこれが麦わらの一味がしたことだと察するだろう。まぁ一般市民は気付かないだろうが。
実際私がシキを無力化させて捕縛したとしてもその聡い者には、まさに『昆虫食い』と評価を下すだろう。
その程度気にするものか。
「リィン、お前この後どうするつもりだ」
「あー、シャボンディ諸島でセンゴクさんと一緒に考えるした『罠』にぞ麦わらの一味を嵌める予定故、向かうですけど箒が無いので女狐の姿で飛ばして着替えですかね」
『罠』という言い方をしているが実際『麦わらの一味強化作戦』なので悟られない様にしている。
「前も言いますたけど私の親代わりがセンゴクさんとバレるしてる故によろしく」
『あー、そこは分かってる。大将1人派遣、それも分かってる。とにかく、今回の潜入で女狐の設定がブレすぎだ。無口キャラが幸いして、把握に不明瞭な部分が多いが後日しっかりまとめるからな』
「ラジャです」
私が敬礼をすると中将3人は頭を抱えた。
「何を考えてるのかさっぱりわからん」
「視点がわからん」
「わからん」
『そういうことに慣れておらんと咄嗟の判断は難しいだろう。特攻隊長と指揮官の使う頭が違うのと同じだ』
「そうですよ。そういうことを考えるが私の仕事でもあるです。女狐自体が虚像術ですから」
『……
「……センゴクさんが言うですか」
私に世界規模の宅配頼んでるのはセンゴクさんだけだからな。
そうせざるを得なかったのが私だ。
「ハー、初めて会った時はあんなにちびっ子だったってのに、嫌な方向に大きくなったな……」
「いた、痛いですオニグモ中将!禿げる!」
「「「あんな育ての親を持つから」」」
『貴様ら後で覚えておけよ』
電伝虫越しなのに殺気が伝わってきた。
『そう、リィン。お前なら今日中にシャボンディ諸島に付けるよな』
「まァ麦わらの一味より早く着くは間違い無いですね」
『シャボンディ諸島にサカズキが居るはずだ。あいつに居られると『罠』に矛盾点が生じることになってしまうから戻るように言ってくれ』
「エ゛ッ、サカズキさんが、はァ、分かるました」
とりあえずもうそろそろ酔いそうなので船出てもいいですか?
女狐の中身については1度決定しますがすぐにひっくり返るので頭の片隅に置いておく程度にしておいてください。と、予告しておきます。
シキの発言は圧倒的に伏線まみれだ。