2度目の人生はワンピースで   作:恋音

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第206話 胃痛は誰かに乗り移れ

 

 

 狂気の沙汰ほど面白い。

 

 

 私に演技を教えてくれた人はそう言った。もちろん他にも教えてくれた人はいるけど、長期ではなく短期間で演技をする時はとにかく目立つ様に濃く、と。

 

 不信感があってもいい。

 とにかく目的に合ったキャラ作りを。

 

 濃いキャラは濃すぎる周囲を参考にしたり、物語を参考にしたり、様々だ。

 

 

 例えば、誰かと数分だけ会話して情報を引き出す時は『無邪気で無知な知りたがりの少女』を演じた。引き出す内容は道を聞いたりだとか些細なことも多かったけど。

 実年齢より幼く、笑顔で、光しか知らない、恐れなど知らない、そんな子を。

 

 逆に相手に取り入る時は『執着する物が分かりやすい未熟な少女』を演じる。重たい狂気が向く相手が自分ではなかったら、他人事ならば、読者を惹き込む物語の様に目を向けさせる事が出来る。

 

 

 これが長期間ならば確実にボロが出る。

 短期、短時間限定の話だ。

 

 

 長期間の場合、好感を抱かせるのが一番重要。会話だって本当に近い事しか言わない。嘘の割合は1割。

 自分の弱い所、二面性を見せれば、それがもとより完璧で実力もあるキャラだと親近感が一気に湧く。つまりギャップ。ギャップを隠したがったら、それが『真実』だと信じてくれる、と。

 

 『素の私』が被る『隠したい私』を隠す『演技の私』

 

 隠したい私を見た時、演技の私はあっという間に信じられなくなるけど、その分隠したい私が信じられる。

 素の私に気付かずそこでストップをする。

 

 ニコ・ロビンの様に目敏く疑り深い人は素の私までたどり着こうとするけど。

 

 

 

 とにかく、短期間の演技は、ボロが出やすい長期間と違って得意なのだ。

 

「えへへ」

「リィンが可愛すぎて息が出来ない……」

 

 ナミさんの腕を左手で、シキの腕を右手で抱き締めながらニコニコと上機嫌に笑ってみせる。シキにくっ付いたままなので私とナミさんは自然と上座に鎮座する事になった。

 

 シキは金糸をふんだんに使った見るからに豪華な羽織袴姿。私は襲撃の時の黒いドレスコード。ナミさんはシンプルなワンピース姿だ。

 正直吹雪いている中この格好はキツいので暖を取る意味でもシキにくっ付く。笑顔を忘れない、キープ。

 

 大広間に鎮座する海賊は不思議そうな顔で私を見る。

 

 今の『私』は上機嫌なので営業スマイルを無料でそこらに振り撒いた。くっ、皆が惚れちゃう……!

 

 事実少女にデレデレする海賊が生まれたわけだけど。

 

「よく集まったな、野郎ども。これより俺の配下に収まってもらう為の契り盃を交わしてもらう。なお、裏切り者には容赦しねェので、そのつもりで」

 

 後半を言うに辺りシキの殺気が飛んでくる。皆が皆、顔を青くしたりびくつく中……。

 

 うん、まぁ。『脅しの殺気』には慣れてるんだよなあ。

 

「ジッハハハ、クレイジーちゃん慣れてやがんな」

「裏切らねば良いだけの話では?私の望みは叶えるしてくれますたしっ!」

 

 そんな脅し上機嫌で可愛い私には効きません。なぜなら子は親に従う物だから。

 

 シキの海賊としての方針は『支配』。海賊王と方向性の違いでエッド・ウォー海戦開いたくらいなんだから忠義大事。

 

 親でいてくれる限り狂った私は裏切りなんて微塵も考えませんから。

 

 

 そう言った心積りでさらに抱き着く。

 

「盃を」

 

 シキがそう言うとお酒が並々注がれた盃が現れる。私やナミさんの前にも小さい物が出てきた。

 懐かしいな、盃。ルフィと、エースと、サボと。3人と交わした盃。

 

 じいっと眺める。

 

 小さな頃のコルボ山での出来事を思い返すと涙が出てきた。

 

「ジハハハ!そんなに嬉しいか!」

 

 また、3人と一緒に盃を交わさなければ。私はそれを目標としていたんだから。バラバラの3人を、集めなければ。

 だから絶対にルフィも殺させやしない。

 

「感慨深き、です」

 

 

 ……まぁ半分演技なんだけど!

 ここでマイナス要素ではなくプラスの感情で盃を眺めて、歓喜あまって泣いてしまったら油断されやすいだろうと思って。

 

 嘘は言ってない嘘は。

 感慨深いよ?ただもう盃を交わしているだけで。

 

 

 私は別に海賊ってわけじゃないから海賊のルールに馬鹿正直に付き合わなくったっていい。

 この酒飲もうが飲むまいが、なぁ……?

 

「知っての通り、東の海(イーストブルー)偉大なる航路(グランドライン)を含めた5つの海で最弱の海だ。死んで惜しまれる偉人も居やしねぇ。思う存分暴れるがいい!」

 

 シキは杯を掲げる。それに反発したのはナミさんだった。

 

「待ってください、そんな、東の海(イーストブルー)には手を出さないって……!」

「ナミさん大丈夫。大丈夫ですよ。ナミさんの故郷、特にお姉さんの事はシキさんにお願いしますた。()()()()()()()()()そうです」

 

 眉を下げて幸せそうに笑ってみせた。くっ付いているシキは喉の奥でクツクツと笑みを零している。

 

 どうにかしてくれる=『私』の望み通り排除してくれる。

 

 ナミさんは知らない事だ。

 

 

 それでも流石古参というか私の言葉に訝しげに眉をひそめた。何か企んでいることは、というか違和感があることは感じ取ったらしい。うん。これで納得して大人しくしてくれていると有難いかな。

 

 

 するとその時だ。

 シキが大杯に口を付ける寸前のこのタイミングで、シキの部下が慌ただしく駆け込んできた。

 

「……てめぇ、なんだこんな時に」

「大変申し訳ありません。至急お耳に入れたいことが」

 

 あ、まずい。侵入者の報告か。

 私は急いで口を開いた。

 

「その人、嘘の匂いがするです」

「……嘘の匂い、だ?」

 

 ちょっとでもいい、直ぐにバレてもいい。

 ルフィ達がここに辿り着くまでの数分数秒を稼げれば。

 

「大人の、腐るした匂い。いやな匂い。不快。いや、私この人嫌。人を、売る匂い。人を食い物にぞする匂い」

「なんだと?」

「えっ、そんな。私はシキ様に忠誠を誓っています!決してその様な事はありません!」

 

 シキがどちらが本当か、何を優先すべきか考え始めた一秒後。白刃がきらめき広間の大襖が一刀両断にされた。

 そしてもう一方の大襖も烈風を纏う蹴りで吹き飛ばされる。

 

 逆光の元、麦わらの一味が正面から堂々と現れたのだ。

 

──ドゴォンッ

 

 背後の金屏風が大砲の音で吹き飛ばされる。新たな襲撃者だ。光を正面から浴びたのは黒ひげ海賊団。

 見聞色の覇気使いってなんでこうもタイミングバッチリなんだろう。

 

「なっ!?」

 

 シキが驚き、意識が前後に奪われた。……今が1番だな。

 

「ナミさん下がる!」

 

 ナミさんが私の指示で後ろに飛び去ると、シキはくっ付いていた私を素早い動きではじき飛ばした。

 そうだね。麦わらの一味と黒ひげ海賊団がタイミングよく入り込んできたのだ。私やナミさんを疑うよね。

 

 疑わしきは罰せよ。

 

 疑り深く慎重なシキならごく普通の判断だ。

 

「リィン大丈夫!?」

 

 畳の上をゴロゴロ転がって右の襖に当たる。

 予想通り威力は半減以下だった。

 

「あ?」

 

 シキは先程まで私がくっ付いていた左手を見る。

 そこには、海楼石の錠があった。

 

 前後に侵入者が現れた瞬間海楼石の錠を取り付けました、対クザンさん捕縛術でーす! ……最近は学んだのか逃げ出そうとする時は徹底的に距離を取ろうとするけど。

 

「ふははははは! 残念ながらそれは牢獄でパクって来たやつ故に鍵はないのですよ!」

「おいおいリィン。こいつはつまらねぇじゃねぇか。伝説の海賊に海楼石付けちゃ形無しだろ」

「おいリー! お前これ企んでたな! なぁにが『分かりました』だよ! ナミの! そばッ!」

 

 2人の船長に怒られる。

 

「やかましいです! 確実性を考えたら溜め込んだ海楼石使うが最良でしょう!? 戦闘無理なのでここから先はお願いします! お膳立て、おーぜーんーだーてー!」

「お前、堕天使能力者じゃねェのかよ」

「とある方の教えでコツを掴むしますた。能力者でも海楼石に触れる位は可能ですぅ!」

 

 そもそも海楼石に繋がれた状態、触れた状態でも動けることは動けますから。ルフィはよっぽど海楼石と相性が悪いのかすぐにヘニョヘニョになるけど、普通能力者って海楼石の錠付けて護送されるんだよ? 多少なりとも動けないと運ばないといけなくなるじゃん。

 

 

──ゴゴゴゴゴゴ……!

 

 

 まぁ悪魔の実の能力は使えなくなるんですけど。

 

「クソ、能力が解除されたか」

 

 シキがイラッと呟く。

 地響きを上げながら浮遊島が墜落していってるのだろう。空島と違って1人の能力によって浮かんでいる島だ。

 

 もちろん想定内。でも落ちる島のデメリットよりシキの能力を封じて確実性を高めるメリットの方が魅力に感じた。

 

「リィン! 今すぐ研究室か何かからIQって花探してきてくれ! あれ、ダフトグリーンの解毒剤なんだ!」

「IQ? って? そんな花ぞここに?」

「IQからSIQって薬品になるんだ。多分だけど、その薬を打ち込まれた動物が戦闘的な進化をするようになったみたいで」

 

 私は概要が分からなさすぎてキャラ被り野郎インディゴに目を向けた。

 

「SIQって、何?」

「この島の動物を凶暴化させる薬だ。追加で投与を繰り返すことで、より狂暴に、より頑丈に、より凶悪に、強く進化させる事が出来る」

 

 ただし答えたのはシキだったが。

 

「ジハハハ、クレイジーちゃん……。随分クレイジーな事をやってくれたな」

「ごめんなさいねぇ、でも、パパはもう充分故に」

 

 

 シキが脱獄したのは20年前。

 

 私は有り得る可能性に1つ口を開いた。

 

 

「そのSIQ……──北の海(ノースブルー)の国に流したとか言うしませんよね」

 

 シキは笑った。それだけで質問の答えは充分だった。

 

──ドゴォンッ!

 

 摩擦熱で赤くなった足を振るう彼がシキを吹き飛ばす。

 

「テメェが!いなけりゃッ!」

 

 流石と言うかなんと言うか。シキは弱体化しているのにも関わらず余裕そうな顔付きで起き上がった。

 

「ハー、仕方ねぇな……」

「──口を慎めよクソ野郎。そして今すぐ俺と母さんに償え。俺とお前にゃ、どうやらクソみてェな因縁があるみてェだ」

 

 うーん、言わない方が良かったかも。サンジ様がブチ切れてる。

 

「あっ、リィン! 俺もそっち行く! この化け物共と一緒に居たくねェ」

「俺も、俺もやっぱり連れてってくれ!」

「クエー!」

「リィン私も連れてって……!」

 

 するとビビり四人衆が私に引っ付いてきた。それがシキに対してなのか怒る仲間に対してなのか分からない。

 でも私は言った。

 

「カルー以外ならいいですよ」

 

 ガンッとショックを受けた所悪いけどカルー、貴方はビビ様の護衛だからね。

 

 

 

 ==========

 

 

 

「さて、と……」

 

 トントン、とブーツを履き直す。いつまでもヒールじゃ逃げにくい。

 

「ナミさんそろそろ仕掛けますか?」

「そうね、いいかも。皆はきっと大丈夫よね?」

 

 薬品庫で薬を袋に詰めながらナミさんに確認を取るとOKサインが出る。するとおいおいおいおい、とウソップさんが割り込んできた。

 

「吐け、何するつもりだ」

「そんな海兵みたいな事ぞ言うしないで下さい」

「とにかく吐け」

 

 ぶぅー、やれやれ。

 

 私はポケットからスイッチを取り出してウソップさんに手渡した。揺れる大地、酔いそうな中、ウソップさんは未だに訝しげ。

 

「大したことでは無いですよ?ポチッと」

「ホントに大丈夫か?」

「見れば分かる程度の仕掛けです」

「それ逆に見れるほど分かるって言うんじゃ……まぁ押せばいいんだな」

 

 躊躇いがちだったがウソップさんはポチリとそのスイッチを押した。その瞬間だ。

 

──ボンッボンッボンッッ、ドォォォオンッ!

 

 連鎖的に鳴り響く爆破の音。

 

「リ、リィーーーーーーーンッッッ!?」

「……火薬多過ぎますたね」

 

 ナミさんと2人でプールのそばで爆弾を作って、アイテムボックスにしまって、散歩と称して監視のゴリラと一緒に周辺……具体的に言うと毒の木を中心に散歩した。

 

 ある程度離れててもアイテムボックス使えるからね!死角に入った瞬間出せば完全犯罪の実行完了!

 

「お前っ、お前なぁ! ほら見ろ俺の足! 壁壊れた瓦礫で鼻掠めてガクブルじゃねェか!」

 

 わぁ! 生まれたての子鹿みたい!

 

「ちなみにこれ、恐らく怪物ぞやってくるのでお気を付けて」

「道理でお前がビビと行動しねぇわけだ!!」

「研究資料を全て潰す故に、ここもどうにか爆発させる事にしますね。あ、居てもいいですよ?」

「言い草が全体的に酷いなおい!」

 

 ツッコミ王・ウソップさんは私の肩を揺さぶった。

 

「今回は私もぶっ飛び切れぬと気絶可。アイアムクレイジーちゃん。いつもとちょっと違うですから!」

「ただのやけくそかよ!」

「だって海賊王と並ぶした人ですよ?挙句エース達が追う黒ひげですよ?」

「……胃がはち切れそう」

「吐血済み!」

 

 可愛くウインクしてみせるとウソップさんは哀れみの目で私を眺めた。正直今からでも倒れたいし気絶したい。

 

「たった半日だけどリィンがベッタリで幸せだったわ……シキに感謝しなくちゃ……」

 

 うん、気絶したい。

 気絶しようと思ったんだけどウソップさんに思い切り肩を掴まれて意識が戻った。私だけを楽させてたまるかという力強い意志を感じる。物理的にも。

 

「でも、ルフィってやっぱりリィンの兄貴なんだな」

「へ?」

「『リーの事だから絶対なんかやる』って負の自信たっぷりで宣言してた」

「負の自信って……」

 

 ふと、違和感を覚えた。

 普通過ぎるのだ。

 

 私はキョロリと周囲を見回し、視界の悪い空を見上げる。

 

「どうした?」

 

 ……嘘でしょ。

 

「なにゆ、え、なんで、なんで島が落ちるしてない……!?」

 

 

 さっきまで落ちてたはずの浮遊島が、能力によって浮かんでいた島が、落ちる気配もなく空を漂っていた。

 




胃痛をコントロール出来る様になりたいな(Byリィン)

今回、リィンが手を掴んで居た状態で能力を無効化させる海楼石を使わないわけがないな、って。思ったんですよ。特に格上との戦いで。デバフ効果盛らないわけが無いって。まぁ勝手に脳内でリィンが動いたんで後付設定ですけど。

それと今回予想外の方向にシキが動いてくれました。それは次回にて。

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